35
「―――――と、言う訳です」
一通りの説明を終えて、一息吐く為に手にしていた低級ポーションを呷る俺。
説明している途中でキツくなっていた事もあり、物の試しで服用してみたら意外と効果が在ったので、量産して大量に持っていた事もあり飲み物代わりに何本か飲んでいたのだ。
意外と自然な甘味があって口当たりも柔らかく、それでいてサラサラしているので結構飲みやすかったです。
ちなみに、肝心の説明の方は、多少ぼかしたりはぐらかした部分は在るが、基本的には全部話しておいた。
まぁ、流石に軍の実験台だった事、非正規部隊だった事、寿命がそこまで残っていないだろう事、今回の戦闘でそれが更に短くなっただろう事は、流石に話してはいないけどね?
もっとも、加田屋はある程度察しているみたいだけど。
まぁ、黙ってくれているのであれば、別に良いか。性格からして、妄りに言いふらす様な事はしないだろうし。
なんて思っていると、各自で情報を咀嚼し終えたらしい面々が、口々に言葉を向けて来る。
「……つまり、向こうで身体が不自由だったのは、メンテナンスしてくれていた人がいなくなっちゃったから、ってこと?」
「まぁ、そうだね(一応は)」
「……ん。軍を抜けたのは?」
「身体が動かなくなったって事も在りましたし、戦争自体もその辺りで本当に終戦していましたから(嘘ではないよ?)」
「じゃあ、なんで黙っていたんだい?ウチらみたいに向こうにいなかったのはともかくとして、向こうにいた友人だとか知人に助けを求めれば良かったじゃないのさ!」
「そこはほら、機密事項って奴でして、その手の情報は話さない、って契約書にもサインさせられてましてね?話したらその相手も危なくなるんで、話せなかったんですよ」
「では、こちらに来る際に、戦闘系の[スキル]や【職業】を取らなかったのは……?」
「えぇ、流石に、向こうでその手の事柄はお腹一杯でしたので、こちらではそう言うのとは無縁の生活がしたかった、と言うのが本音ですね」
「なら、なんであそこで戦ったのさ?わざわざ、そんな事する必要なんて無かっただろう?少なくとも、あたしが聞いている限りではそう見えたけど?」
「……最初はそのつもりだったんですけど、あそこで俺が処理した方が、全体的な被害は出ないだろうなぁ、との判断でして……。
まぁ、その結果がこの様ですけどね?」
そこまで言葉を返した俺は、唯一黙ったままであった加田屋へと視線を向けるが、加田屋本人は他の面子を気にしてか、その口を開こうとはしていない。
あからさまに聞きたい事がある、と顔に出ているのに口を開かないので、このまま放置していると、他の面々も俺が情報を隠匿している事に気付かれる可能性が高まるかも知れない。なので、どうしようか?と思っていると、気を利かせてくれたのか、ララさんが皆を誘導して部屋から連れ出してくれた。
それに感謝を抱きつつ、視線を向けて加田屋へと質問を促す。
「……僕は、その手の事にもアンテナを張っていたから、他の人達が気付かなかっただろう事にも、気付いちゃってるんだと思う。もちろん、滝川君にも事情と都合が在るんだろうから、そこは追及するつもりは無い。それだけは約束出来る。
……でも、これだけは教えても欲しい。君が、今みたいになっているのは『少し無理をしたから』と言っていたけど、本当の処は違うんじゃないの?命を削る様な、そんな無茶をしていたから、そうなったんじゃないの?」
「……ノーコメント、とだけ答えておくよ。それだけあれば、お前さんなら解るだろう?」
「……やっぱり……!」
やはり、こいつはそこに気付いていたか。
そんな思いから、俺は否定とも肯定ともとれはしないが、しかし限りなく肯定的な返答を返して場を濁した。
実際の処、俺は身体さえ直してしまえば、ある程度は戦える。
それは、あの魔物と戦っていた最初の方の状態からして理解して貰えるだろう。
しかし、実際の処として、俺にはその『更に上』が在る。
それが、あの魔物との戦いの後半にて使用した、普段の身体がガタガタの状態でも戦闘行動を可能にする『リミッター解除』だ。
一応、この身体は、普段の行動の際には常人の動きの範疇を超えない程度のモノに制限が掛けられている。
何せ、筋繊維や骨やらは人工物だし、それらを駆動させるためのアレコレも色々と仕込まれているので、全力で動いてしまえばそれこそ超人なんて目じゃない位のパワーを発揮してしまう。
なので、普段はそれらの稼働を制限しているのだが、非常時にはその制限を意図的に外す事で、メンテナンス不足にてガタガタになっている身体であっても、一時的な戦闘行動を可能にするだけのパワーを得られる、と言う訳なのだ。
当然、それにはデメリットも在る。
身体が碌に動かない時に使えば、無理矢理動かす事による過負荷により、元よりガタガタな身体はより一層悲鳴を挙げ、絶えず激痛を発すると共に暫くは身動きが取れなくなるだろう。
まともに身体が動く、動いてしまう時に使えば、その過負荷は置換された骨格や筋繊維だけでなく生来の内臓器官迄をも蝕み、こうして全身をボロボロにすると同時に俺の寿命を確実に削り取って行く。
何故それを知っているのか、と言う愚問は辞めておいた方が良い。
何せ、実際にそうやって命尽きる仲間達の姿を嫌と言う程見てきたし、何より自分の身体の事だ。かつて部隊の作戦行動にて使う度に、身体の奥に在る『大切な何か』が少しずつ溢れ落ち、削れ落ちて行くのが感じられていたのだから、間違いは無い。
それに、俺の所属していた部隊の損耗確率の内、戦死や裏切りによる粛清等を抑えて死亡原因トップに立っていたのは、リミッター解除による臓器不全が原因での死亡、だった程だから確実だろう。
と、ここまで長々と俺自身の身体について回想してみたが、今の処これを誰かに教えるつもりは無い。
どうにもならない事を教えても、要らない気を揉ませるだけだろうし、それを切欠にああしろこうしろと口煩く言われても、正直な話として鬱陶しいとしか思えないだろうしね。
まぁ、もしかすると、覚悟しておいて貰う、と言う意味合いにてララさんには教えるかも知れないが、加田屋と桐谷さんには多分教えないだろう。知らなければ悲しませなくて済むし。
別の意味で、レティシア第二王女には教えないだろうけど。国の為、世界の為って名目で、馬車馬の如く働かせられるのが目に見えてる。それは流石にお断り申し上げたい。
一応、女性陣には知らせるな、と視線で訴えてはいるので、案外と口の硬いこいつであればそうそう言いふらしはしないだろうけど、万が一の場合はどうしようか?一層の事、最初に企んでいた通りに本当にトンズラしてやろうかね?……うん。考えてみたら、意外とアリな気がして来た。
そんな事を考えていたからか、何処か諦めの色を浮かべつつも、何も諦めないと言う意思を込めた矛盾する様な視線を向けて来ていた加田屋が溜め息を一つ吐いてから、再度口を開いて言葉を向けて来る。
「……はぁ。分かった。この件は、僕の胸の内にしまっておくよ。桐谷さん達からの追及も、可能な限りはぐらかしておくよ。
……でも、これだけは覚えておいて欲しい。僕は、諦めない。君の身体を正常に戻すなり、致命的なダメージを取り除くなりの方法を、必ず見付けてみせる。何せ、この世界は異世界で、魔法すらも在る世界なんだ。そう言う方法の一つも在るのがこの手のお話のお決まりでしょう?」
「……そう言う、惚れそうなセリフは女の子相手に吐いておけよ。それともお前さん、そっちの趣味でも在ったのか?」
「そんな訳無いって!ちゃんと僕は女の子が好きだよ!
それに、惚れそう云々を言うのなら、多分明日から滝川君の方が大変な事になると思うけど?その時に、僕の助けが無くても良いのかなぁ~?」
「…………おい、ちょっと待て。なんだその不吉なワードは!?
一体、何をどうすれば『大変な事』になって、どんな『大変な事』になるって言うんだよ!?俺は何もしてないだろうに!!?」
「ははっ!何もしていない訳無いじゃないか!僕達には、見付けても死にたくなければ絶対に近付くな、って厳命されていて、もし先に発見されていたら、ララさんを含めた最精鋭の人達が総掛かりで相手にする予定だったボス魔物をたった一人で、しかも生産系の[スキル]と【職業】しか持っていない滝川君が倒しちゃったんだよ?
そんなの、噂にならない訳がないじゃない?」
「…………いや、仮に百歩譲ってそうだったとしても、それと『大変な事になる』って話になんの関係が有るよ?偶々出来たってだけで、噂として流す程の事でも無かろうよ??」
「むしろ、それ程の事があるんだなぁ~、これが。
何せ、本来なら最前線に行っていてもおかしくない様な最精鋭数人掛かりで袋叩きにする様な相手だよ?それを、副作用で倒れたとは言え、たった一人で倒しちゃったんだからね?しかも、皆が見ていて、あのままなら門は破壊され、この王都にも被害が出ていただろう事を確信させられる様な状態で、ね?
ほら、噂にならない訳が無いでしょう?」
「……いや、だとしても、それを流す様な暇で奇特な奴なんて……」
「ちなみに、もう流れているからね?君の噂話。
流しているのは、あの時門の近くにいて、滝川君が助けなければ確実に死んでいたであろう、兵士や騎士や諸々の関係者さん方」
「ガッデム!!?
なんてこった!!?
凄まじく覚えが有りやがる!?!?」
「ふははは!と言う訳で、その手の噂話に疎そうなララさんや、異性である桐谷さんとは別方向の手助けが必要なのだろう?
うん?どうなのかね?うりうり!」
「くっ、くそっ!俺は、そんな誘惑には屈しない!屈し、屈し……いかん、屈したくなってきた……」
考えれば考えるほど、このまま屈してしまった方が良いのでは?と思えて来てしまい、思わず肯定してしまいそうになったその時であった!
バン!!!
「話は聞かせて頂きました!
では、兼ねてより予定されていた『救世主』タキガワ様の歓迎会と合わせて、その辺りの調整をこの私が!このディスカー王国の第二王女たるこのレティシアが!タキガワ様に降り掛かる有象無象からお助け致しましょう!!」
と、高らかに宣言しながらレティシア第二王女が、豪快に扉を押し開けて部屋へと入って来たのであった。
……そう言えば、在りましたねそんな話も。
出されたのが昔過ぎて、ほぼ忘れてたけど。




