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 周囲へと響き、徐々に大きくなって行く地響き。



 それと共に聞こえてきた怒号により振り返った俺の視線の先には、開け放たれた門へと目掛けて突進してくる象に酷似した魔物の巨体が存在していた。


 当然、その突撃が門を壊す事だけに向けられているモノでないのは明らかだ。

 そして、門へと目掛けて突進してくる魔物の進路上には、門の付近にまだ居る俺とセレティさんの姿も当然在った。


 瞬時に、脳裏を幾つもの行動選択肢が駆け巡る。





『逃走……成功率『低』。そもそも、根本的な解決には至らず。予想される被害甚大』


『足留め……成功率『高』。セレティさんと協力すれば、被害を抑えつつ成し遂げられる確率高し。されど、その後の止め役に欠ける。予想される被害は最大で門の破壊程度』


『撃退……限定条件下での成功率『低』。周囲に残された戦力を巻き込めば可能性は在るが、足留めと同様に決め手に欠ける。予想される被害甚大』


『撃破……限定条件下での成功率『低』。撃退と同じく周囲を巻き込めば可能性は無くはないが、やはり決め手に欠ける。予想される被害甚大』



『撃退……非限定条件下での成功率『高』。されど、あくまでも追い払うだけでは現状は変わらず、前線を下げて人員を回させる事は非効率的。故に却下』


『撃破……非限定条件下での成功率……『確』。波及する被害によって門に損傷が出る可能性は在るが、最も効率的かつ確実性高し。被害……極軽微』





「……セレティさん。さっきの約束、したばかりですけど、守れそうに無いみたいです」


「なにバカな事言ってんだい!早く、外壁の裏に隠れるんだよ!ウチを盾にしてでもあんたは生き残らなきゃならないんだから…………って、え…………?」



 彼女の言葉を聞き終えるよりも先に、自ら門を飛び出す形で魔物へと接近する。


 すれ違い様に横目で確認した限りでは、俺の事を驚愕の面持ちにて見詰めていた。

 恐らく、それまで身体が不自由であるとの認識が強かった為に、急にこうして常人以上の速度にて駆け出している事に驚いているのだろう。


 一応、あの調合小屋として使っていた商店からここまでは普通に歩いていたので、ある程度は回復している、とでも思っていたのだろうが、流石にここまで動けるとは予想外だった、と言った感じだろうか?


 とは言え、そうして固まっている彼女に構っている暇は無い為、真偽の程は後にして魔物との距離を詰めながら、腰にぶら下げておいた()を一息に引き抜いて片手に携えておく。


 少し遠くの巨大な構造物よりも、目の前でチョロチョロと鬱陶しい羽虫(おれ)を先に潰してしまおうとして標的を変え、その巨大な四肢を振り上げた魔物へと片手を空けた状態にて急加速して急接近を仕掛け、振り下ろされた四肢の速度と範囲を見切って紙一重にて回避しながら懐へと潜り込む。

 そして、それに連動する形ですり抜け様に後ろ足の踵と思わしき部分へと携えていた刃を振るい、丸太の様な四肢の半ばまでその切っ先を届かせ、刃先にて腱ないし神経を傷付けた手応えを覚えながらながら刃を振り抜いて離脱する。


 残心の為に距離を取りながら振り返ると、案の定そこには後ろ足の腱を断たれたらしい魔物が、血潮と咆哮を周囲へと撒き散らしながら地面へと崩れ落ち、与えられた痛みによってのたうち回っている姿が在った。



 ……成る程、姿や規模、能力の類いは異なっていても、それでも生物である以上はそこまで身体的構造に差異は出ない、と……。



 のたうつ魔物を観察し、そう結論を出した俺は、残心の為に構えていた刀を血払いの為に一振りし、チラリと視線を向けて刃の状態を確認する。



 ……うん。

 あの時、技法の確認だとか、<能力>の付与の為の実験とかの為に数打った試作品の内、比較的俺でも使い易そうな長さと重心を持った良い感じに<能力>も付与出来ていた一振りを用心の為にパクって(持って)来たのだが、案外と当たりだったみたいだ。

 結構乱暴に扱ったにも関わらず、刀身に歪みは出ていないし刃も欠けていない。


 実験作にして有用な<能力>の付与も出来ていたし、こうして振るっても実戦に耐えられるだけの性能が確認出来たのだから、倉庫に戻す事はせずに手元に置いておこうかな?



 なんて事を内心で考えていると、それまで地面でのたうっていた魔物が、その瞳に激憤を浮かべながら立ち上がる。


 油断はせずに傷付けたハズの後ろ足へと視線を向けると、徐々にでありまだ完治している訳ではない様子だが、傷口が泡立つ様にして修復されているらしいのが見てとれる。

 ……どうやら、随分と面倒臭そうな相手に当たったらしい、と溜め息を一つ吐いてから得物を構え直し、再度距離を詰めるべく駆け出して行く。


 迎撃の為に振るわれた横薙ぎの鼻を跳んで回避し、またしても懐へと潜り込んで刃を振るう。


 今回は前回とは違い、手当たり次第に刃を振るい、取り敢えずそこら辺を切り裂いて相手の胴体を傷なますにして行く。


 硬い外皮や再生能力に守られていても、それらの傷の深浅はあれども、それでもやはり傷付けられるのは痛いのか、俺の事を振り払おうとして四肢を折り、その巨大な胴体にて押し潰そうと仕掛けて来る。


 ソレをまたしても紙一重にて回避し、今度は背中でも滅多斬りにしてやろうか、と企んでいたのだが、何と無く『嫌な予感』がしたのと、魔物の身体から発せられていた[マナ]の濃度が何だか濃くなった様な気がしたので急遽中止し、少し大袈裟気味に距離を取る事に決める。


 もう一斬り二斬り出来たかな?と言うタイミングにて胴体の下から脱出し、胴体が落下するのと同時に飛び退くと、それとタイミングを同じくして地面が爆発したかにも思える様な勢いにて複数の『何か』が地面からせり上がり俺を目掛けて迫って来た!



「なに!?おわっ!!?」



 その現象自体に驚きはしたものの、それでも事前に回避行動に移ってはいたので避けられそうなモノはそのまま回避し、そうでないモノは刃を振るって弾いたり切り裂いたりして防御し、どうにか大きく負傷する事なく距離を取る事に成功する。


 取り敢えず距離を取れた為に一安心し、内心で滝の様に流した冷や汗を拭いながら視野を広げて見ると、何をされたのかが見て取れたが、何をしたのかはサッパリと理解出来ない様な光景が広がっていた。


 端的に言えば、地面に胴体を付けた魔物の周囲を、岩か何かで出来た槍の様な棘の様なモノが放射状に広がっている、と言った状態だ。


 恐らく、あれが先程俺を襲ったモノで間違いないのだろうが、一体どうやってあんなモノを発生させたのかはサッパリだ。


 直前の[マナ]の動きから察するに、恐らく[マギ]へと変換して地面に干渉した、とか言うオチなのだろうが、それがこの魔物固有の[スキル]によるモノか、それとも魔法の類いによる現象なのかはサッパリ理解出来ない。

 まぁ、元々戦闘なんて欠片もするつもりが無かった以上、その辺の情報を仕入れるのをサボっていた俺が悪いのだろうけど。


 ……でも、だからっていきなりこんなのはちょっと酷くないかね?

 俺達をこっちに送り出したアレはまず間違いなく『邪神』の類いだろうから祈りはしないけど、それでも神様ってのがいるのならちょっとこの巡り合わせは悪意が在り過ぎでないのかい?と問い詰めたい気持ちで一杯だ。


 そんな事を考えつつ、魔物の身体を観察する。

 もっとも、より正確に言えば『魔物の身体に付けられた傷とその治り具合』を、だが。


 そちらも、何らかの[スキル]によるモノか、もしくは純然たる回復能力によるモノかは不明ながらも、俺に傷付けられた部分を泡立てながら修復して行くが、やはりと言うかなんと言うか、その回復能力には限界が在る様だ。


 遠目に見ているだけなので確たる事は言えないが、比較的浅目に付けた箇所の傷は優先順位が低いのか修復が始まらず、さりとて優先されている深手を負わせた箇所も、最初に付けた後ろ足の傷の時ほどに素早く修復が成されている訳ではない様子だ。


 とは言え、かなり深目に入れたハズの傷口も、最初程ではないにしてもそれなりの速度にて修復されてしまい、今ではすっかり元の通りに治ってしまっている以上、やはり持久戦に持ち込むのはよろしく無いだろう。



「……仕方無い。やりたくは無かったけど、やるしかない、か……」



 半ば諦めの境地にてそう呟くと、今の今まで空手にしていた左手にインゴットを持ち、右手にて刀を構え直しながら、脳内の『スイッチ』を意図的にONへと切り換える。


 そして、それまでと同じ様に駆け出して距離を詰め、その後刃を振るって斬り付ける。


 ……ただ、それまでと異なっている点が二つ程。


 一つは、俺が駆け出した速度に、それまで一応は反応を返せていた魔物が、何の反応を返す事も出来ずに一方的に斬られた事。


 もう一つは、それまでよりもより深く、ほぼ刀身と同じだけの深さに達する程の傷を、ただの一撃で与える事に成功していた事、だ。


 それにより、少し前よりも更に大きな咆哮を周囲へと魔物が響き渡らせ、間近でその大音量を叩き込まれた俺の耳が一時的に音を拾えなくなるが、それに構う事なく目の前の傷口に左手のインゴットを捩じ込むと、[錬金術]の[スキル]を行使して傷口を覆う形にインゴットを変化させ、ついでに高熱を放つ様に性質も弄って傷口を完全に塞いでしまう。


 傷口に無理矢理異物で蓋をされ、その上で傷口を直接高温にて炙られる状態になってしまった魔物は、傷口を回復させる様子を見せる事も無いままに大暴れを始め、周囲へと地鳴りと地響きを轟かせながら軽く地震すら起こして見せた。


 しかし、その程度の足元の悪さや轟音には慣れっこな俺を止める事は出来ず、同じ様な手順にて四肢を始めとした全身に次々と傷を刻まれて行く。


 そして、完全に膝を折り、機動力と攻撃力を削がれ、頼みの綱であっただろう鼻まで失った魔物の首へと、都合三度に渡って同様の手順にて攻撃を加え、持ち出したインゴットを全て消費する時にはその首は地面へと転がっており、魔物を絶命させる事に成功していた。


 そうして俺は、周囲への被害を最小限に抑えつつ、この世界にて初めて命を奪う事になったのであった。

戦闘メインでは無い作品なので無理矢理一話に収めてみました

若干違和感が在ったとしても笑って流してくれると有難いですm(_ _)m

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