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 ララさんがダンジョンへと向かってから早くも二時間程が経過した。



 その間俺は、暇に明かせてひたすらに低級ポーションと中級ポーションを量産してそれらが詰まった箱を積み上げたり、適当なタイミングでセレティさんの手伝いに入って上級ポーションの製作を手伝ったり(彼女曰く『一人でやるよりやり易かった』との事)、貯まったポーションを消費する為に怪我人が集められていたテントへと直接持っていって、そのついでに治療に参加したり(何故か被治療者からは『貴方が聖人か……』とか言われたが何のこっちゃ???)して時間を潰していたのだが、既にやることが無くなって本当に暇になってしまっていた。


 治療しに出た時に、元クラスメイトの皆も戦線に投入された、との話を聞いたので、多少一部の連中(生産系持ちの皆)の事は心配ながらも、ならばそんなに掛からずに終わるかな?と楽観視しているので、あまり心配していると言う事も無いと言うのも暇である事の原因の一部だろう。

 まぁ、どうせダンジョンの中でララさんと合流するだろうし、ララさんには特製の装備の他に作りたてホヤホヤのポーションも沢山持たせたから、多分大丈夫だろうけどね?


 そんな訳で、一人暇を持て余した俺は、そう言えばまだこの辺りに来る事が、そもそも城の外に碌に出た事が無かったな、と思い出し、ならばこの気に散策でもしてみるか、と思い付く。



「と言う訳で、ちょっとこの辺ブラブラして来ますね?」


「…………なにが『と言う訳』なのかは知らないけど、あんた自分が何言ってるのか理解してるのかぃ?あんたみたいな重要人物、そうホイホイそこら辺を一人でほっつき歩かせられる訳無いじゃないさ……」


「そんな事言われましても、俺本人が自分を『重要人物』だと認識してませんし、そもそも重要人物指定される様な存在でも無いと思うんですけどねぇ……」


「……あんた、自分が出来る事、造れるモノを再度認識してから言っておくれよ……」



 そう言われてふむん?と考えてみる。


 しかし、俺に考え付く事は大概が加田屋を始めとしたこの手の定番(テンプレ)を熟知している連中ならば、放置していても多分辿り着くだろう。

 それに、技術的な事で言っても、俺が所持している生産系の[スキル]も、その大半を誰かしらが持っていたハズだ。


 両方持ち合わせている者がいない、ないし【職業】まで生産系の者が他にいない、と言う事であれば、俺以外の皆が協力すれば埋められる程度の穴でしかない。

 ついでに言えば、知識さえあればこちらの人間にも俺達がやった事は再現出来るのは確認出来ているので、極論を言えばもう用済みとも言えなくもない。


 それらを総合して考えると、どうにも『俺=重要人物』と言う図式は間違っているんじゃあるまいか?との思いがより一層強まる事となってしまう。


 そんな俺の結論が顔に出ていたのか、呆れた様に溜め息を吐いて額に手を当てながら、セレティさんも道具を身に付け壁に立て掛けられていた杖をその手に携える。



「……あんたにあんた自身の価値を理解させるのは不可能だと判断したよ。だから、あんたがその辺ブラブラしたい、って言うなら止めやしないさ。

 でも、あんたに何かあったら、それこそウチの首なんて軽く飛ぶ事になるからね。護衛と案内人を兼ねて、着いていかせて貰うとするよ」


「……俺としては願ったり叶ったりですけど、セレティさんが持ち場を離れて良いんですか?まだ怪我人が来る可能性は高いですよね?」


「そうは言うがねぇ、あんたが山程作ったポーションのお陰でウチも暇なのさ。そのポーションにしたって、テントの方に適当に放り込んでおけば後は怪我人の方が勝手にやるだろうさ。

 なら、あんたの事を見ている方が、余程有意義な時間って奴になるだろうさ」


「護衛とは言いますけど、セレティさん戦えるんですか?

 一応、これでもそれなりに戦え無くはないんで、下手をしなくても俺の方が強かったりするのでは……?」


「ハッ!舐めた事を言ってくれるじゃないのさ!幾ら【職業(ジョブ)】が【薬師(パーミシスト)】だからって、これでもエルフだからね?戦闘系の連中と比べられても困るけど、だからって戦えないって訳が無いじゃないのさ!

 むしろ、あんたの方こそ戦えるのかい?以前畑に来た時は、足取りも覚束なかったって言うのにかい?」


「……じゃあ、取り敢えず護衛お願いしますね。

 それと、俺の身体についてですが、『色々と事情が在る』とだけ覚えていて頂ければ有難いんですが?」


「……成る程、詮索はするな、と?

 分かったよ。詮索はしないでおいてやる。だけど、その内、ウチにも話して良い、と判断したら話しておくれよ?何かしら、手助け出来るかも知れないからね」


「………………考えておきます」



 嬉しい様な、それでいて申し訳無い様な複雑な心境になりながらも、俺は持ち込んだ装備の類いを身に付けてセレティさんに案内を頼むのであった。






 ******






 準備を整えた俺達は、テントの方に残っていた人達に軽く行き先を伝え、何処に残りのポーションが置いてあるのか、等の引き継ぎを行って行く。


 もっとも、俺とセレティさんでポーションを大量生産し、ソレを使う事で運び込まれていた傷病人は全て戦線へと復帰しており、それだけでなく更に前線に近い処に救護テントの拠点を移し始めていた事もあり、一応待機していた彼らも暇を持て余していたらしく、特に問題や情報の過不足等も起こる事なくスムーズに行われた。


 なので、俺達はその数分後には自由の身となっており、テントと商店を離れて道を進んでいた。



「んで?取り敢えずこうして出てきたけど、何処か具体的に行きたい処でも在るのかい?何かリクエストが在るのなら、早めに出しておくれよ」


「……リクエスト、ねぇ……。

 植物園だとかには行っておきたいですけど、この状況で行く様な処でも無いですしねぇ。同じ様な理由で、他の商店でこの世界特有のモノを物色、と言うのもナシでしょう?

 なら……、取り敢えず、現在の前線の様子でも見に行きますか?」


「……いや、わざわざこうしてウチが護衛に着いているのに、なんでまた危ない処に行こうとするのさ……」


「まぁ、ぶっちゃけてしまえば好奇心ですかね?

 まだダンジョンも魔物も見た事無いですし、何より自分で戦線の様子を確認しておいた方が現状の判断がし易いんじゃないかなぁ、とね?」


「……まぁ、別段案内するのは構わないけど、これだけは約束してくれよ?


 ウチより前に出ない

 危険な事はしない

 ヤバいと思ったら逃げる


 この三つは、必ず守る様に。それが出来ないんなら、案内はナシさ。そうでなければ、ウチが国とララに殺される未来が確定するからねぇ……」


「……なんと言うか、ごめんなさいね……?取り敢えず、条件の方は了解したので、可能な限りは守らせて貰います」


「……そこは、絶対に守る、って言って欲しかったねぇ……」


「それは状況次第、と言う事で」



 そんな気の抜けるやり取りを挟んで、取り敢えず戦線に一番近い外壁の門を目指して進んで行く俺達。


 一応、予定としては外壁の上から戦場を覗いて見よう、との魂胆であるので、一番手っ取り早い手段を選ぶとそうなるのだそうな。


 なので、二人で連れ立って歩いていると、そんなにしない内に喧騒と戦場の匂いが漂って来た。


 セレティさんは眉をしかめているが、俺としては慣れたモノだったので特に表情を変える事もせず、それらが来る方向へと足を進めて行く。


 すると、案の定門前の広場と思わしき場所へと到着した。


 その門は、普段からして開けられていたのかは定かではないが、今はこちらからの攻勢を掛けている状態に在るからか大きく開け放たれており、その向こう側の戦場の様子が良く見えた。


 門から真っ直ぐ外へと延びている道を少し行った隣位に、不自然な遺跡の門の様なモノが建てられており、その中から無尽蔵に魔物達が溢れ出て来ているのが見て取れた。


 しかし、ソレの悉くをその出口のすぐ側にて、幾人かの人影が時に手にした武具の一振りで、時に放った魔法の一撃で、時に直接振るった手足の一挙動にて薙ぎ払い、吹き飛ばして蹴散らしていた。


 遠目に見る限りでは確たる事は言えないが、その数名の中には初日の玉座の間にて最初に動いた二人の騎士に見える人影が混ざっており、更に言うのであれば一際大暴れしている人影はララさんである様にも見える。


 長髪と尻尾をたなびかせながら戦場を駆け、擦れ違うだけで相手を時に両断し、時に粉砕して一時も止まる事はせずに絶えず血の雨を降らせるその姿は悪鬼羅刹の様にも見えたが、その凄絶なまでの闘志に溢れる在り方は、まるで背筋を直接撫で上げられているかの様な快感を伴った、ある種の『美』としての在り方である様にも感じられた。


 その少し後ろ側にて防衛線を築き、最前線の人影達が取り逃した魔物達を押し留めている人達の中に、元クラスメイトと思われる背中が多数見受けられ、その中には多分加田屋と思われる派手に魔法をぶっぱなしている背中と、大盾にて魔物の突撃を跳ね返し、時に先端の尖った部分を振り下ろして止めを差しながら、回復魔法を傷付いた仲間に施している桐谷さんと思わしい姿も確認出来た。


 しかし、あれだけバカ騒ぎを起こし、それでいて真面目に[スキル]の使い方を学ぼうともしていなかった深谷達の姿はそこには見られず、更に後方の予備防衛線の端の方にて縮こまっているのが確認出来る。


 ……確か、食堂等にて聞こえて来た限りでは



『俺達で魔王なんて倒してやるから、お前も俺達のハーレムに入れよ!』



 的な事を散々方々にて口にしていたハズなのに、いざ実戦となった際にはこの体たらくとは、全くもって情けないばかりだ。


 [スキル]も【職業】も共に戦闘系に特化させているハズの連中が、ただただ後方にて固まって遠巻きに眺めているだけなんて、丸っきり滑稽なだけで何の役にも立っていないと言わざるを得ない。



 ……これを機に、少しは自らの言動を改めて貰えれば、同郷の者としては有難いのだけどなぁ……。



 なんて事を考えつつ、取り敢えず見るべきモノは見たので、今度は視点を変えるべく当初の目的通りに外壁の上に行こうと踵を返したその時であった。




「し、しまった!?」


「ヤバイ!?抜かれた!!」


「こっちに突っ込んで来るぞ!!」




 そんなセリフが俺の耳へと飛び込んで来たので、視線をそちらへと巡らせると、そこには開け放たれた門へと目指して一心不乱に突っ込んで来る巨大な魔物の姿であった。

次回、主人公の戦闘シーンが入る……かも?

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