表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/100

31

 

 レティシア王女に案内された先は、外壁から程近い、元々住民達の憩いの広場であっただろう場所に張られた大型テントが併設された、商店の様な建物であった。


 恐らく、有事に際して招聘されたのだろうが、元々その手の商品を扱う商店だったらしく、設備や現場からの距離、怪我人を寝かせるスペース等も鑑みての選択だったのだとか。


 そんな説明を道すがら聞いていた俺達は、血と臓物の匂いと苦痛の悲鳴に満ちたテントを素通りし、様々な薬品や材料の草花の匂いに満ちた建物の中へと躊躇わずに入って行く。



「……えぇい、だから、まだ出来ていないと言っているだろう!そんなに簡単に、作れる様なモノじゃないんだよ!そうやって無駄に急かして、ウチの手を止める事で死人が増えると何故理解出来ない!!!

 ……って、なんだい、タキガワじゃないのさ!なんでまた、こんな処にあんたが?」


「どうも、セレティさん。事情は王から聞きました。どうせ、修羅場ってるだろうから、と助けに来ましたよ。これでも一応、調薬系の[スキル]も持ってますからね」


「本当かい!?そいつは助かるよ!

 じゃあ、出来れば低級ポーションの量産と、中級ポーションの確保をお願い出来るかい?」


「良いですけど、上級は良いんですか?」


「流石に、上級は今やって今作れる様な難易度じゃないし、何より使う素材が危ないからね。あんまり他人(ひと)に任せられないのさ。でも、タキガワが来てくれたお陰で、ウチも他の事に気を取られずに集中出来るから大助かりさ!

 それに、今一番使われているのは低級と中級だからね。上級は一部の重傷者に必要ってだけだから、そこまで数は要らないのさ」


「成る程、了解です。じゃあ、こっちの道具借りますね!」


「おう!任せたよ!!」



 相も変わらず、その細いプロポーションと繊細な顔立ちからは想像も出来ない程の豪快さにて物事を即断し、丸投げしてきたセレティさん。

 そんな彼女からのオーダーを、苦笑を浮かべながらも了承した俺は、早速作業台へと向かい道具と素材を引き寄せる。


 引き寄せるのは、取り敢えずはナイフにビーカーに乳鉢、それとガスバーナーに似た魔道具。

 それと、素材として、一般的に『薬草』と呼称される草を一山と魔物であるスライム(そこまで強くない……らしい)から取れる粘液、同じく低級の魔物から取れる魔石と周囲の[マナ]が濃い場所にて収穫されるリンゴに酷似した外見をした果実であるマールム。ついでに、必要とされる清らかな水を樽で。


 それらを並べ、グルリと見回してから肩を回して気合いを入れ、首と指を鳴らして意識を切り替え作業に入る。


 と、言っても、最初は『薬草』、正式名称トラヴァー草をひたすら刻む事になる。


 見た目は色の濃い大葉か、もしくは緑の強い紫蘇と言った感じの葉っぱを、兎に角微塵切りにしてから乳鉢へと投入し、ゴリゴリと磨り潰してペースト状にしてからビーカーへと入れて行く。


 そして、ある程度量が貯まった時点で、瓶詰めされているスライムの粘液をスプーン一杯分掬い取ってビーカーの中へと落とし、マールムの果汁を搾って追加してからバーナーへと掛けて熱する。


 すると、それまで葉っぱの緑と、黄色掛かった果汁に、薄い青色をした水飴状のゲルと言った混沌とした内容物が、外部から熱を加えられる事によって溶け合い、混ざり合って変化を遂げ、若干の赤みを帯びた液体へと変わって行った。


 そこに、頃合いを見て魔石を投入し、再度加熱して行く。


 数分程加熱して行くと、徐々に魔石から色が液体の方へと移って行き、最終的には爪程の大きさの透明な水晶の様に変化した魔石を取り出せば、そこに残っているのは紫色をしたポーションの原液であった。


 それを、予め山程用意されていたガラス瓶へと、規定の濃度に達する様に水で薄めてから詰め込んで行けばポーションの出来上がり、である。

 ここまで言えば既に理解しているかも知れないが、実は低級ポーションと中級ポーションは薄める割合が異なるだけで、原液自体は同じモノだったりする。


 とは言え、その効果は結構違う。


 低級ポーションがある程度までの切り傷や骨の皹程度までしか治せないのにくらべ、中級ポーションは骨が見えてしまっている程度の切り傷でも一度で治してしまうし、骨の方も単純な骨折であれば同じく一度で治しきってしまうのだ。


 もっとも、効果の違いは当然賄う際の金額にも現れており、中級ポーションはその効果相応に高値で取引される様な物品だ。

 低級ポーションより一桁は値段が高くなるのが相場、と言ってもその低級ポーションですら中々の値段がするらしいので、必然的にかなり『良いお値段』する事になる。


 まぁ、ソレだけが理由では無いけどね?

 何せ、中級ポーションから上のグレードのポーションは、その強過ぎる薬効のお陰で、回復した後の副作用的なモノが重くなっているらしいのだが、低級ポーションにはそんな事は無いので幾らでも幾つでも同時使用する事が可能となっている。

 その特性から、基本的に一番売れているのは低級ポーションになるんだとか。


 もっとも、中級の上に在る上級・特級はそもそも使う素材からして違うし、製作難度も全然違う。

 中級までなら寝てても作れる様な人が、細心の注意を払って漸く失敗しないで作れる……かな?レベルの難易度だと言えば理解して貰えるだろうか?


 とは言え、その効果もまたお墨付き。

 上級であれば、手足を喪う様な負傷でも回復出来るし、最悪死んでいなければ大概の負傷はどうにか出来る。

 特級に至っては、死にたてであれば蘇生させる事すらも可能にするし、喪った手足を再生させる事すら出来るのだとか。

 その代わりに、特級なんてモノは上級も作れる様な人が、ダメ元で挑んで偶然成功する、と言った程度にした製作出来ないので、文字の通りに瓶一つで城が建つ程の値段になるらしい。

 まぁ、元々そこまで需要は多く無いし、何よりソレよりも高い確率でダンジョンから似たような薬が手に入るみたいだけどね?


 なんて事を考えながら、ポーションの原液を濾紙に通して葉っぱの残骸や魔石等の残った固形物を取り除き、大雑把に半分程に分けておく。


 そして、片方は大体五十倍程に用意しておいた水で希釈し、手早く小瓶(大体300ml程度)へと詰めて行く。

 やや薄紫色をしたとろみの無い液体が詰められた小瓶が机に並ぶその光景は、中々に見応えがある……様な気もしたが、別段そう言う訳でもなかったので、一つ一つラベルを張り付けた後数を数えながら箱へと詰め込み、空いていたスペースに積んでおく。


 取り敢えず、百本程は作っておいたので多分足りない、と言う事は無いハズなので、取り置いておいた残りの半分を十倍程に水で希釈し、またしても同じ様なサイズの小瓶に詰めて行く。

 今度は、先程の低級ポーションとは違い、ブドウジュースよりは多少薄い位の色合いに、若干のとろみが着いたその液体の詰められた小瓶を、今度は少数ずつ小箱に納め、先程の低級ポーションと同じ様に空いていたスペースに積んでおく。


 一応、言われていた作業は一段落したのでセレティさんに声を掛けようか?とも思ったが、流石に細心の注意を必要とする上級ポーションの製作中にソレをするのは憚られたので、暇を持て余しながらも外の様子を気にしていたララさんに声を掛ける。



「……そちらが気になりますか?」


「…………ん。気にならない、と言ったら嘘になる。でも、吾の仕事はタキガワの護衛。離れる訳には行かない。それに、番を危険な場所に放置する。そんな事をするのは、番として失格」


「でも、気になるのでしょう?それに、ララさん程の人が加われば、かなり状況も好転するのでは?」


「……ん。否定はしない。タキガワから貰った得物。この凄まじいまでの業物があれば、一線級の働きは約束出来る。

 ……でも、そうなるとタキガワの側に誰も居なくなる。それは、流石に看過出来ない……!」


「流石に、そこまでの重要人物でもないと思うんですけどねぇ。

 まぁ、でも、考え方を変えれば、ここでララさんが戦闘に参加すれば、その分素早く事態が解決に向かって、ソレによって結果的に俺の安全性が高まる、とかの考え方も出来るんじゃないですかね?」


「……ん。確かに、考え方によっては、そうなるかも。それは、認める。

 でも、そうすると、タキガワの側に誰も居なくなる。それはどうする……?」


「そうですねぇ……。幸いにも、ここは外壁の中ですし、こうして怪我人達が集められている場所でもありますから、恐らくは比較的安全なポイントなのでしょう。それに、ここからは何だかんだで復帰して戦線に戻って行く人達も多いですから、戦力的な不安も少ないのでは?

 ……それに、正直な話をすれば、ララさんだって向こう側に行きたいんでしょう?ソレくらいなら、顔を見れば分かりますよ?それに、最低限自分の身くらいなら守れますから、行きたいなら行っても良いんですよ?ね?」


「…………ん。この広場から出ない。危険からは逃げる。自分の身の安全を第一優先。

 それらを約束してくれるなら、さっさと行って手早く終わらせて来る」


「えぇ、可能な限り努力します」


「………………ん。なら、少し行ってくる。だから、怪我しないように、ね……?」



 そう言い残し、建物から飛び出して行くララさん。


 最後まで俺の安全を気に掛けていた様子だが、そもそもの防衛線がまだ突破されておらず、未だ未だ外壁も健在な現時点に於いて俺の身に危険が及ぶとすれば、それこそ防衛線が突破されるか、もしくは誰かが意図的に俺の方に魔物を流して来ない限りは大丈夫なハズだ。

 そして、そう言う意味では無駄な俺の護衛をしているよりも、確実に必要とされている戦力として回す方がより効率的と言うモノだろう。



 まぁ、ララさんとしても、ダンジョンに行ってみたいとは思っていた(耳と尻尾の動きから予測。多分間違ってはいない)みたいだし、いざとなれば寿命削ってリミッター解除すれば助けが駆け付けるまでの時間稼ぎ位なら出来るでしょ。多分だけど。



 そんな内心の呟きと共に、再度ポーションの製作を開始した俺は、最終的には山の様な量のポーションを作り上げてセレティさんに呆れられる事になるのであった。

 ……解せぬ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ