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 見事細身の刃にて鎧を叩き斬って見せた俺達は、アレから暫くの間オッサン達から揉みくちゃにされていた。



『是非とも、その業物を打ち上げた技術を教えて欲しい!』



 そう、懇願されて、だ。


 もっとも、大方の人達は予想しているだろうが、例の鍛治頭のオッサンはその範疇には入っていない。

 結果を目撃すると、現実を受け入れられなかったのか、まるで魂が口から飛び出て天に召されてしまったかの様な風体となっており、とてもでは無いがそう言う雰囲気では無いからだ。


 まぁ、もっとも、これまでの悪意マシマシのやり取りだとか、オッサンの性格だとかを鑑みれば、こうなっていなかったとしても他の人達みたいに『教えて下さい』とお願いしてくる事は無かっただろうし、そうして来ない相手に対して教えてやるつもりも無かったから丁度良かったけど。


 なので、真面目に学びたい、と言う事が伝わってきた職人達に、この刀の作り方と、どうやって意図的に強力な<能力>を付与したのかを伝授して行く。



「まず、ある程度の純度の鉄を薄く伸ばしてから叩き割って、良さそうな処を集めて一塊にするだろう?」


「「「「「ふむふむ?」」」」」


「ソレを熱して融かし合わせインゴットを造ってから、叩いて伸ばして行くだろう?」


「「「「「ほうほう?」」」」」


「ある程度伸ばしたら、今度は熱した状態のままで折り目を付けて二つ折りにしてまた炉に入れるだろう?」


「「「「「…………なるほど?」」」」」


「そうしたらまた取り出して叩いて伸ばしながら鉄を鍛えて、その後にまた折り返して炉に入れるのを二十回程繰り返すだろう?」


「「「「「………………え……?」」」」」


「で、そうやって折り返して行く時に、鏨を使って[刻印]スキルの刻印を刻んで<能力>の付与をしながら、その上から[紋章]スキルで刻印を保護する紋章を[マナ]で描いて保護する事で<能力>を定着させるだろう?」


「「「「「そんな事出来んの!?」」」」」


「おまけに、そうやって[刻印]する際についでに[鍛冶]での<能力>付与も毎回行えば、一回一回は最低ランクの付与しか出来ていなかったとしても最終的に<大>だとか<極>だとかに届くくらいにはなるハズだから頑張って?」


「「「「「そんなんで出来たの!?」」」」」


「出来たから言ってんの。そんで刀だけど、そうやって折り返しが終わったら、後は叩いて片方に若干反らす様にして形を整えつつ、高温で熱して急速に冷却させる焼き入れを何度か行ってから研いで刃を付ければ大体は完成するから、適当に試してみて下さいな。後で出来てるか確認しに来るから、その時にでも仕上がったモノを出して下され。じゃ、そう言う事で」


「「「「「いきなりやれと!!?」」」」」



 粗方教えてから適当にぶん投げると、悲鳴が返って来たが無視して昼食の為に移動するのであった。


 技術の発展と食事のどちらが大事?

 そんなの、食事と休息に決まってるだろうに。






 ******






 食堂へと移動し、何時もの様に給仕に回ってくれていた使用人さん(多分初回から同じ人。執事服を来ているけど多分女性)へと挨拶をしながら給仕もお願いする。


 了承として微笑みを浮かべて会釈した使用人さんが厨房へと向かって行く間に周囲を見回せば、案の定の光景が広がっていた。


 と、言っても、基本的には二日目の朝食時と同じ様に戦闘系ビルドの連中が周囲からの視線や空気の温度に気付かず騒いでいる、と言うだけなのだけど。

 ついでに言えば、ソレに向けて周囲で働く使用人さん達がゴミを見る様な視線を向けていたり、一応は付いている護衛の人達が彼ら彼女らへと養豚場の豚へと向ける様な視線を向けているのも、あの二日目の朝食時と変わっていない。

 その点を鑑みると、どうやらあのバカチンどもは口だけ騒ぐだけで、特に成果の類いは出していないのだろう。


 現に、あの時部屋に来て[スキル]の使い方等を学んでいた連中は、比較的向けられている視線は暖かなモノだし、何より奴らと違って使用人さん達からキチンと給仕されている。

 そこだけ見ても、やはり期待の掛けられ方が違うのだろう。


 もっとも、既に俺達の様に、彼ら彼女らと交流を始めている生産系[スキル]を所持している連中とは比べてはいけないのだろうけど。

 何をどうやったら、同じ『昼食』のハズなのに、騒いでいるバカチンどもよりも数段豪華なモノが出てくるんですかねぇ……?

 アレか?賄賂か?[スキル]に習熟したら何か造ってやる、とでも約束したのか?の割には矢鱈と親しそうだけど、もしかして『そう言う関係』なのかねぇ?俺が言うのもなんだけど、流石に早すぎない?

 ……そうでもないか?


 更に言うなら、どうやら俺達の担当として固定されているらしい彼女?(多分彼女。まだ未確認)が昼食を乗せたカートを押して来る。

 そこには、向こうの生産系[スキル]持ちよりも、更に豪華な食事が満載されていた。



 …………何かの宴か、もしくは晩餐会とかの催しかな……?



 なんて俺の抱いた感想はそこまで的外れでは無かったらしく、普段からして行動を共にしている加田屋と桐谷さんやララさんと言った面子だけでなく、ほぼ初めてである獅子藤と姫島さんの二人も、あまりの豪華さにただただそれらの皿がテーブルへと並べられて行くのを目を丸くして眺めるだけであった。


 思わず



「……あの、配膳する場所間違えてませんか……?」



 と問い掛けてしまったが、ただただ微笑みながら会釈され配膳を続けられてしまい、結局全ての皿を並べられてしまう。


 そして、間違いではない、との事ではあったが、突然こんなに豪華なモノを出されてしまった事に何かしらの意図でも在るのか?と若干警戒しながらも、空腹から来る誘惑には勝てず、皆で揃って手を伸ばすのであった。



 大変美味でした。






 ******






 凄まじく豪勢な昼食(俺と加田屋が断片的に漏らしていた調理法等を駆使したと思われるそれまでとは別次元の料理の数々)を頂き、食後のお茶を啜りながら一息吐いていると、俄に食堂の入り口が騒がしくなる。




「タキガワって奴は何処だ!!?」




 そして、少ししてから入り口の扉が凄まじい勢いと音と共に、吹き飛ばされる様にして押し開かれ、食堂の内部へとそんな声が響き渡ると同時に一つの人影が姿を顕にした。


 その人影は声から察するに女性らしいが、こちらに来てからは聞いた覚えの無い声だったし、そもそもこんな怒鳴り込む様な形にて訪ねて来られるとは思っていなかった為に、敢えて名乗り出る事はせずに流れを観察する事に徹する。


 同席していた皆にも手振りでそう指示を出して静観していると、どうやら深谷のバカチンが自分から絡みに行ったらしく、つい先程まで騒いでいた連中の方から一人歩み出ていた。


 しかし、特に何を話し掛けるまでもなく、歩み出たそいつとすれ違う様にして通り抜けたその女性?は、真っ直ぐにこちらに向けて進んで来ている様に見える。


 その姿はララさんと同じく獣人の系譜らしく、只人には無い頭頂の耳と尻尾を備えている様に見えるが、ララさんの様な狼人の系列とは異なり、耳や尻尾の形や毛並みの模様から察するに、恐らくは虎の系列の獣人なのだろう。


 こうして近付いて来た事により、ララさんよりは只人に近い顔の造りをしている事だとか、服装が作業着の類いと思われるツナギとタンクトップのみの多少危うい感じであるのだとか、そのタンクトップを盛大に押し上げる程に豊かな双丘と、うっすらと腹筋の浮かんだしなやかな腹部の括れとの高低差による艶やかな曲線美だとかを観察していると、名乗りを上げてもいないのに俺達のテーブルへと迷う様子も見せずに到着し、座っている俺の正面に回り込んで来た。


 そして、テーブルにバンッ!と手を突くと、その釣り上がり気味で勝ち気な光を宿した瞳で俺の顔を凝視しながら、興奮した様子にて口を開く。



「なぁ、タキガワって言うのは、お前だろう!?なんでも、造るだけ造って放っておいたあたしの鎧を、お前が打った剣で真っ二つにしたそうじゃないか!

 どうやったら、粗悪品とは言えアダマンタイトを造った鎧を剣で斬れるのかとか、何をどうしたらソレが出来る剣を打てるのかとか、聞きたい事は他にも在るけど、一つだけ答えて貰いたい事があるんだ。良いか?」


「……構わないと言えば構わないですが、流石に名前も知らない初対面の人相手にはちょっと……」


「あん?名前……?

 ……おっと、そう言えばまだ名乗ってもいなかったな!あたしはルル。ラ・イ・ルルだ。ラの里の出身で、イの階級である職人を生業にしている。これで良いかい?」


「ふぅん、ルルさんね?じゃあ、こっちも改めて自己紹介しておくけど、滝川 響です。多分貴女がお探しの『タキガワ』って言うのは俺の事だと思いますけど、どの様なご用件で?

 こちらとしては、ルルさんみないな美人さんに探される心当たりはあんまり無いんですけど?」


「おやおや、上手いこと言ってくれるじゃないさ♪

 これは、『二つ目』も拒否される心配は無さそうかね?」


「……『二つ目』……?」


「いやいや、そこは気にしなさんな♪お前さんにとっても悪い話じゃ無いハズだから。

 で、まずは一つ目なんだけど、お前さんがそっちのに斬らせた鎧って、アレあたしが造ったヤツなんだ!」


「……ソレはさっき聞きましたけど、ソレを理由にお礼参りに来たんで殴らせろ、とでも?」


「あん?いやいや、そんな事しやしないよ。ドワインのバカ野郎ならともかく、自分の作品を、しかも出来がイマイチだったから倉庫に放り込んでいたモノを壊されたからって怒鳴り込んで行く、なんて事しやしないさ。

 むしろ、アレを壊してくれた事に感謝してる位だよ!」


「……はぁ、どうも……?」


「あぁ、そうさ!無駄に頑丈さだけは備えていたアレを壊せるだけの剣を打てるお前さんとなら、もっと凄いモノが造れる様になる気がするのさ!だから、あたしと一緒に何か造らないかい?

 きっと、お前さんとなら凄いモノが造れる気がするんだ!どうだい?」


「ふむ、まぁ、そこは構いませんよ?元々、オルランドゥ王から装備の製作自体は依頼されていましたし、そうやって自らの技術を向上させようとする姿勢も好ましいですし、断る理由は在りませんね」


「本当かい!?いや―、良かった良かった。もし断られたらどうしようかと思って心配してたんだよ!」


「それは、上手く行って良かったですね?とでも言えば良いですかね。

 それで?コレが『一つ目』で、見込みの在りそうな『二つ目』も在るとの事でしたけど、その二つ目の方は一体何ですか?」


「あぁ、そうそう!もう一つの『良い話』なんだけどね?あたしも丁度今そっちのと同じく『求愛期』なんだけどね?」


「…………はい……?」


「それで、向こうの鍛治場に残ってたお前さんの匂いを嗅いでビビッと来たのさ!お前さんがあたしの番だって、ね!だから、急な話で悪いんだけどさ」



 ルルさんはそこで一旦言葉を切り、怒濤の展開にて思考がフリーズしていた俺の目線に合わせて屈み込み、そのタンクトップを過激に押し上げていた双丘を両の二の腕にて挟み込んで谷間や質量を強調して俺の視線をソコに向け、ケモ度で言う処の『1』と『2』の中間位で大分只人よりであり、俺達の美的感覚が適応される中でも『美しい』と表現出来る顔立ちを若干上目遣いにし、それまで頭頂で纏めていた長く美しい黒と黄色の縞模様の髪を程いて靡かせながら、コテリと首を傾げつつ続きを言い放つのであった。




「いきなりで悪いんだけどさ、あたしもお前さんの『番』にしちゃ貰えないかい?これでも、結構尽くす気性だから、サービスして上げるよ?色々と、ねぇ?」




 顔立ちは美しく、仕草は可愛らしく、それでいて雰囲気は艶めかしい。

 そんな彼女の姿に、思わず俺が生唾を呑み込んだとしても、それは仕方の無い事だったと思いたいです。はい。

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