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「……ふ、ふふふっ……。

 ようやく、ようやく出来た、ぜ……!」


「……おう、やっと、完成した、な……」


「……まさか、こんなに遅くまで、ぶっ通しでやると、アタイ思ってなかったんだけど……」



 俺達が長剣の試作を済ませ、その後に幾つかの実験を行ってから始めた鍛治仕事。

 ソレが完了し、一振りの傑作が完成したのは、その日の深夜になっての事だった。


 一応、ここで出来る仕事は終わっていた加田屋や、見学として参加し、思い付きで少し手伝って貰っていた桐谷さんは少し前に戻っており、ここにはソレまでの作業に夢中になるあまりに忘れていた疲労を思い出して床に倒れ込みながらも、それでいて傑作を造り上げた高揚感によってテンションが上がり気味になっている俺と獅子藤と姫島さんを除いては、護衛であるララさんがいるのみであった。


 そのララさんも、少し前までは水や軽食の差し入れをしてくれていたのだが、今は据えられていた椅子に座って目を瞑っている。

 と言っても、立てられた耳はこちらを向いているし、身体も極端にリラックスした状態にはなっていない処をみると、恐らくは眠ってはいないで休息しているか、もしくは眠ってはいるが表面だけで即座に行動を起こせる状態に在るか、だろう。


 現に、俺が身体を起こそうとして床を擦った音によって閉ざしていた瞼を上げ、素早く立ち上がって何時もの様に『ヒョイッ』と俺を抱え上げてしまったのだから、やはり眠ってはいなかったのだろう。


 そうした俺達のやり取り?(呆気なく抱え挙げられ、ソレを阻止しようと無駄にジタジタしてみただけだが)を見たからか、ほぼ精根尽き掛けていた二人もノロノロと身体を起こして立ち上がる。


 そして、忘れる事無く傑作を回収すると、皆で揃って城へと移動し、各自の部屋へと帰還すると、着替えや身繕い等をする事すら億劫になってしまい、ララさんが一緒にベッドへと潜り込んで来ていた事にも気付かないまま意識を手放し、深い深い眠りへと落ちて行くのであった。






 ******






「おう、来やがったな!さて、じゃあ早速だが手本にするモノを出して貰おうか!アレから丸一日時間が在ったんだ、まさか、出来てねぇなんて事はねぇだろうな!?そんなんで、ワシらを指導するなんて事が出来ると思っていられると、困るんだがなぁ!!?」



 瞳に写した悪意を隠そうともせず、鍛治場の入り口にて腕を組んで仁王立ちし、昨日と変わらないがなり声を上げるオッサンと、ソレに従う様にして同じく入り口付近に集まっている様々な種族のオッサン達。

 その半ば予想通りの姿と状況に呆れると同時に、寝不足にて回転が鈍って頭痛がする頭を押さえる俺達六人。


 一応、各自部屋に戻った後は直ぐに寝た為に、ある程度は睡眠時間を確保する事は出来たハズなのだが、それでもほぼ一日中ぶっ通しで鍛治をしていた事もあり、取れた時間程度では圧倒的に足りなかった、と言うのが実状だと言っても良いだろう。


 ついでに言えば、身体だって昨日の作業でかいた汗に寝汗も加わって酷い状態(ララさんは起き抜けに俺の源本に鼻先を突っ込んで暫く別世界にトリップしていたけど)だったのを軽く拭いただけだし、食事だって朝食を急いで掻き込んで来ただけなのでぶっちゃけ量が足りていない。

 なので、全員……と言う訳ではないだろうが、かなり微妙な腹具合(昼まで空腹に苦しまないで済むかどうかの瀬戸際)にて急いで来た結果、こうして待ち伏せを食らったと言う事だ。



 ……一応傑作は完成したとは言え、行程だとか加工難易度等を鑑みるとどうしてもワンオフの特注品扱いになるだろう事は分かっていたので、量産する場合は何処までなら落とせるか、を突っ込んで実験しておきたかったのだが、そうも言っていられない、かな……。

 でも、そうなったとしても、こうして向こうが仕掛けて来た結果なんだから、まぁ仕方無いよね?



 そう結論付けた俺は、布を巻いた状態にて運んで貰っていた傑作をララさんから受け取り、皆に目線で合図して了承を受けてから包んでいた布を引き剥がしてソレを衆目の元に晒す。


 ……しかし、ソレを目の当たりにしたオッサンは、まるで詰まらないモノを見た、とでも言いたげに鼻を鳴らし、予想通りだが、と言わんばかりに口を開く。



「……全く、アレほどデカイ口を叩いた割には、大したモンは出来てねぇみたいだな?取り敢えず体裁だけ整える為に、そうやって『細身の剣』にしたんだろうが、そんなモンが実際に戦場で役に立つと思ってやがるのか!?

 鞘も鍔も装飾も!どれもこれもせせこまし過ぎて嗤えて来るぞ!本当に、その程度で、ワシらに何を教えてくれるって言うつもりだ!!?」


「……まさか、見れば解る、とか抜かしておいて、その程度の感想なのか……?」



 ある意味予想通りではあったが、まさか本当に見抜けないとは思っておらず、若干の呆れが自然と声に混ぜられてしまう。


 確かに、こいつは刀身やその周辺を完成させるのに集中したあまり、鞘だとか柄の細工だとかはまだ終わっていない『未完成品』ではあるが、だからと言って武器としての機能は十全に果たせる状態には仕上げてある以上、この場に於ては完成している、と言って良いハズだ。

 なのに、外見で性能を判断し、その上で実際に見てもいないのに『その程度』と評価を下すとは、やっぱりあのオッサン鍛治頭の器じゃないね。


 内心にてそう評定を下した俺は、取り敢えず上部だけは取り繕っていたのを取り払い、見下して馬鹿にしているのを隠そうともせずに口を開く。



「御託は結構だ、三流職人。さっさと本題に入れ。どうせ、お前みたいな三流の事だ。何か、比べる為のモノが在るんだろう?用意してあるんだろうから、早く出せ。こちとら、お前らと遊んでいれば良い訳じゃないから、暇じゃないんだよ」


「……なんだと、若造が……。良いだろう。職人としての腕の格って奴を教えてやるよ。

 オイ!用意してたアレ持ってこい!この若造に、世間の厳しさって奴を教えてやるぞ!!」



 その掛け声に促される形で、奥からゴトゴトと音を立てながら運ばれて来たのは、全身甲冑の中でも騎士甲冑とも呼称される板金鎧一式だった。


 同じく鍛治場の奥から運ばれてきたマネキンにソレを着せると、オッサンは無言のままに俺達へと顎で鎧を示して見せる。


 恐らくは、こちらの用意したモノでアレを斬ってみせろ、と言う事なのだろう。


 キッチリ造られた業物で<能力>の付与もされ、更には使い手の[スキル]も合わされば普通に斬鉄位は出来る世界なのかも知れないが、ほぼ確実にあの顔はソレをさせるつもりが無いだろう。

 そうでも無ければ、あそこまでこちらの失敗を確信した顔はしないハズだ。


 そんな訳なので[探査]っと。



『<能力>:耐久性上昇・大、硬度上昇・大

 〈材質〉:劣アダマンタイト合金(鉄とアダマンタイトの合金(鉄の比重が多い為に比較的軟らかい))』



 ……ふむ。なるほど、なるほど。


 総評すれば、かなり頑丈で硬い鎧、と。

 恐らく、造るだけ造っておいた『とっておき』なのだろう。

 そうでなければ、とっくの昔に前線へと送っていても不思議ではない、むしろなんでここにまだ在るんだろう?と言う位の性能は在るみたいだ。


 ……まぁ、どうにでもなるんだけどね?


 ララさんにソレを手渡し、事前の打ち合わせの通りに使って貰う様に念押しする。


 普通に得物の扱いに心得の在るララさんは一つ頷き返してくると、何気無しに鎧へと近付いて行き、特に気負う事も無い様子にてソレを抜き放つ。



 …………キンッ…………!



 ララさんがソレを振るった軌道に鎧が在ったにも関わらず、特に何が在った訳でもない様子にて振り切ったララさんの様子に不審そうな視線を向けるオッサンだったが、鎧に傷が付いた様な音が聞こえなかった為か、余裕と傲慢さを隠そうともせずに口を開こうとする。


 が、しかし、ソレを俺が呆れと侮蔑の視線のみにて無理矢理閉じさせ、同時に抜き身になった『片刃の刀身』をキラキラとした瞳にて眺めていたララさんへと手振りにて指示を出し、鞘へと納めさせる。



 ―――スルルルルッ、キンッ……!



 …………ズルッ……!



 すると、その納刀の際の鍔鳴りに反応してか、鎧の中のマネキンごとこちらから見て左胴から右肩への逆袈裟懸けに線が入り、ソレに沿う形で鎧がズレて地面へと落ちて轟音を辺りに響かせる。


 ソレを、信じられないモノを見る様な目で凝視するオッサン達を放置し、ララさんを手招いてソレを受け取ると、そのまま流れで鯉口を切り、刀身を確認する。



 その乱れた刃紋の浮かぶ刀身は、鉄よりも遥かに硬いモノを斬ったにも関わらず、一切の歪みや刃欠けを起こしてはいなかった。


 緩やかに湾曲した細身の片刃は、見ているだけで背筋が凍る程の冷たい光を宿しながらも、それでいて見る者の心を煮え立たせる様な高揚感を同時に与えて来る。


 この、造った当人達にとっても『芸術品』と呼ぶのに躊躇いを持たせないコレは、元の世界に於いても『狂気の沙汰』とまで呼ばれる程に、鉄を熱して叩いて折り曲げて、をひたすらに延々と繰り返す事にて得られる靭性と刃に与えられる鋭利さ。


 そして、その行程全てに於いて[鍛治]による<能力>の付与と、[刻印]や[紋章]と言った一定の図柄を刻む事によって<能力>を後天的に付与する[スキル]を使い、ひたすらに性能を強化していった結果として、ララさん程の使い手が持てば斬鉄程度ならば容易く行える程の刃を産み出す事に成功したのだ。



 ……そう、我らが日ノ本の国が独自に産み出し、連綿と継承し続けていた『刀』が、この異世界に於いてもその猛威を振るう事が可能である、と言う証をここに打ち立てる事に成功したのだ!



 加田屋から提案を受け、ソレが実行可能なのかを試行錯誤し、結果的に『行けそうじゃね?』ってなったから試しにやってみたら本当に出来てしまって死にかけたのは良い思い出……でもないが、こうしてかなりの業物が、しかも鍛治を始めてから僅か一日で出来たのだから、恐らくはもっと良いモノも造るのは可能なハズだ。……多分。


 なので、次に目指すとなれば取り敢えずはそこだろう。



 そう内心にて決心した俺は、そのまま刀を鞘へと納めると、取り敢えずソレを手にした状態にてオッサン達に



「それで?結果は?」



 と、聞かずとも解りきっていた問いを投げ掛けるのであった。

一応、比較の為に刀の方のデータおば



『<能力>:耐久性上昇・極、切断力上昇・極、武器破壊性能上昇、威力上昇・極大

〈材質〉:高純度アダマンタイト合金(理想的な配分にて合成されたアダマンタイトと鉄の合金。通常のアダマンタイトよりも硬く、鉄の様に加工し易い特性を持つ)』

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― 新着の感想 ―
[一言] KA・TA・NA キタ━(゜∀゜)━! そして、流石の切れ味。
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