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 カーン、カーン、カカーン、カンカーン!カカーン、カンカン、カンカンカーン!!



 俺が[スキル]によって修復した道具を使って鉄を打って行く。


 幸いにも、炉の形式は古かったが、規模自体はそれなりに大きな炉だったので、俺と獅子藤と姫島さんの三人は順番待ちをする事も無く同時に道具を造って行く。


 既に開始してから数時間経ち、試作した諸々の道具類がそれなりの量溜まり始めた頃、大雑把にではあるが、<能力>の付与に関する法則の大体を把握する事にも成功していた。


 と言っても、そこまで大した事ではない。


 分かった事と言えば、基本的に【職業】[スキル]共に持っている俺が作ればほぼ何かしら、造ったモノに関連する<能力>が付与される事。

 [スキル]のみの二人では、<能力>自体は造り損じをしなければ付与されるみたいだが、数や強弱も完全にランダムであり、更に言えば関連の在る<能力>かすらも危うい、と言う事だ。


 俺の方は、付与された<能力>の強弱を無視すれば、大体二つは付与されるみたいだし、<能力>自体も刃物であれば<切れ味上昇>だとか<刃零れ防止>だとかみたいに関連の在るモノが付与されるかくりつが高い。

 逆に二人の方は、<能力>の強弱もバラバラで数も大抵が一つきり。その上、そうして付与された<能力>も全く関係の無いモノである事も珍しく無かった。例えを出せば<洗浄力強化>が金槌に付与されたり、<切れ味上昇>がフライパンに付与されたり、と言った感じだ。


 ……どうしてそうなった?そんなの、俺達の方が聞きたいよ。

 それらが出来た時は、マジで皆で首を傾げる羽目になったからね?


 ちなみに、それらの法則は、あくまでも使用する[スキル]を[鍛治]のみに限定した場合であり、俺や姫島さんが所持している他の[スキル]と併用するとまた結果は変わって来たりするが敢えて今は省いておく事にする。


 そんな訳で、取り敢えず[鍛治]にも慣れた俺達は、一度製作の手を止めて集まり話し合いを開始する。

 当然、オッサンに対して提出するのに、何を造るのか、と言う事が議題だ。



「やっぱり、武器でいいんじゃないのか?」


「アタイもそれで良いと思うけど、ソレならそれで何造るの?」


「スタンダードな長剣とか?その方が、技術やら何やらも解り易いだろう?」


「……でも、その『スタンダードな長剣』の規格って、獅子藤は知ってるのか?少なくとも、俺は知らないぞ?」


「……ヤベェ、アタイも分からないや……」


「…………なら、実物を見せて貰えば良いんじゃないのか?ほら、滝川の護衛のララさん?の腰にも下がってるし、ソレを参考にしてみるとか!」


「一応『護衛』って建前の人から武器を取り上げるのは、流石にちょっとどうかと思う……」


「……ん?見本が必要?なら、はい」


「「「…………え?」」」



 俺達の話を横から聞いていたからか、アッサリと腰に差していた長剣を鞘ごと外して渡して来るララさん。

 その軽すぎる渡し方と、一応は『護衛』と言う名目にてここに居るにも関わらず、武装を渡してしまう彼女の態度に驚愕した俺達の声が意図せずに重なってしまう。


 しかし、当の本人たるララさんは特に頓着していないらしく、俺達のリアクションに不思議そうに首を傾げて見せていた。



「……ん?どうしたの?見本が、必要なんでしょ?」


「……いや、だからって、一応とは言え護衛であるララさんが得物手放しちゃダメでしょうに……」


「……ん。そう言えば、言ってなかったっけ?吾の得物、ソレじゃないって」



 軽い調子でそう言ったララさんは、今日も惜し気無く晒していた深い胸の谷間に手を差し込んでゴソゴソと探ると、そこから掌サイズの道具を二つ取り出し、その光景に見とれていた獅子藤の目を潰していた俺の手の上に何気無く置いて来た。


 今の今までとんでもない場所にしまわれていたそれらは、人肌の温度に温められていると同時に、仄かにララさんの匂いがしてきている様な気がしたが、ここでソレを確かめる訳にも行かず、気が付いていないフリをしながらそれらを観察してみる。


 ……もっとも、観察、なんて大層な言い方をするほどに難解なモノではなく、割りと見た目通りの使い方しか出来ないだろうモノだったのだけど。



「……メリケンサック、ですかね……?」


「……ん。もしくは、ナックルダスター。ソレを拳に嵌めて、近付いて殴る。それが、吾の戦い方。剣も扱えなくは無いけど、そっちよりこっちの方が得意」


「……で、このタイプの上級品が無かったから、前線に行けなかった、と?」


「……ん。その通り。鎧は目処が立ってたけど、結局武器が手に入らなかったから、そっちもお流れになっちゃった。

 でも、悪い事ばかりでも無い。前線に出なかったから、今こうしてタキガワと出会えた。ある意味運命……?」


「……さ、さいですか……」



 かなり乙女チックな事を、恥ずかしげも無く言い放つララさんの姿に、逆にこちらが恥ずかしくなってしまう。

 ソレに乗じて、と言う訳でもないだろうが、男子勢は囃し立てる様に、女子勢は憧れる様な声を上げ、俺を置き去りにしてララさんを中心として勝手に盛り上がって行く。


 矛先がこちらに来ないならそれで良いか、と半ば自棄っぱちな気持ちでそちらは放置し、ララさんから預かった一組のソレと長剣を一通り調べてみる。


 長剣の方は、大体全長で60cm程、刃渡りだけならば40cm程だろうか。

 シンプルな造りの柄と鍔が取り付けられている、直刃で両刃造りの一目で量産品の鋳造品である事が見て取れた。


 刃の部分を立てる為に、最後の仕上げとして叩いて鍛えている様子だが、鍛造品特有の紋様が浮かんでいない所を見ると、まず間違いなく鋳造品だろう。

 一応、ここの工房の作品であるらしく、<威力上昇>の付与はされているが<能力>の付与はそれだけであり、総合評価では正しく三流品、と言った処だろう。


 一方、ララさんの主兵装だと言うメリケンサックの方は、<能力>こそは一つだけしか付与されていなかったものの、造りは丁寧に仕上げられた鍛造品だし、扱う彼女の手を傷付けずに相手を殴り殺せる様に工夫の凝らされた逸品と言っても良い程の出来だ。

 付与されている<能力>としては、付与されているモノが通常よりも壊れ難くなる<耐久性上昇>の上位にある<耐久性上昇・大>であり、これが付与されている事によってララさんが全力を出して相手を殴っても、武器であるメリケンサックは壊れずに済むのだそうだ。

 まぁ、ある種のデメリットとして、同じ様なサイズの普通のモノよりも重くなっているみたいだけど。


 残念ながら一つしか付与されていなかった為に二流品認定されてしまっているが、これで複数の<能力>が付与されていた場合にはまず間違いなく一級品を通り越し、その上の特級品として認定されていたかも知れない代物だ。



 ……当面の目標はコレを超えるモノを造り上げる事、だとしても、取り敢えずは目の前の課題を片付けてしまうとするか……。



 一人内心にて決意を改めた俺だったが、取り敢えずあのオッサンを黙らせる為にまずは試作してみる事にする。


 なので、適当に加田屋が造ったインゴットを炉へと放り込み、[鍛治]のアシストに従い良い感じに熱せられたモノを取り出して鎚で叩いて鍛えて行く。


 最初は均等に叩いて伸ばして行き、刀身の長さを確保する。


 そうやって叩いて鍛え、水に突っ込んで焼き入れし、再度炉へと放り込んで熱する行程を繰り返す事で、素材として使っている鉄の強度を高めて行く。


 次に、切っ先を鋭くしたり、根本の方を細くして重心を先端へと偏らせたり、と言った風な加工を施す。


 そうして形を整えたならば、本来は研いで刃を付けるのだが、今回は俺や加田屋と言った[錬金術]にて金属の形を変えられる者がいる為に、それらを活用して直接刀身の縁を変形させて刃を付けると、早くも試作一号の長剣(刀身のみ)が完成した。


 [鍛治]のスキルアシストを使って製作していた為に、殆ど自動で付与されていた<能力>は<威力上昇・大>と<切れ味持続>の二つであり、それぞれ切り付けた時の威力を大きく上昇させるモノと、物理的に刃が欠けない限りは切れ味が落ちにくくなる、と言うモノとなっていた。


 一応、ララさんが持っていた量産品よりは上等なモノが造れてしまったし、聞いていた品質の基準から考えても恐らくは一級品……の一歩手前程度の出来にはなったとは思うが、流石に習作のコレを出す訳にも行かないだろう。

 それに、あのオッサンもこの程度の品で俺達を認めるとは思えない。やるのならば、圧倒的かつ徹底的に、文句の付け様の無い程に完成したモノを叩き付けてやるのが一番効果があるハズだ。

 少なくとも、あのオッサンがまだ自分の事を『職人』だと思っているのであれば、ソレが一番効くハズだ。


 そう思った俺は、初めて本格的に造った武具に興奮している獅子藤と姫島さん、見学していた加田屋と桐谷さんへと協力を仰ぎ、そこから幾つかの実験を行ってみた。


 その結果、考えるだけは考えていたやり方が、どうやら実行は可能らしい、との結論が出た為に、とある工夫を施しながら、俺達はこの世界にて俺達しか知らず、それでいてこの手の生産系を扱っている小説ではお決まりの『アレ』を試作するべく、新たに造ったインゴットを炉へと放り込むのであった。

ちょっと長くなったので次回で鍛治編は一度終わらせる予定です

果たして何を造る気なのやら……?

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