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「……ん。ここが、<能力>の付与が出来る鍛治師が集まっている鍛治場。臭いし暑いし煩いから、吾は余り近寄らないけど、ここで色々作ってる。まぁ、一線級のは、大体ダンジョンから出た奴になるけど」



 目の前に聳える建物を見上げながら、何故か毒の混じるセリフにて説明してくるララさん。


 しかし、一応嘘は混ぜられていなかったらしく、確かに鉄を叩く音と燃料が燃やされる際に発せられる熱と匂いが辺りへと立ち込めており、必要が無ければ特に近付きたいとは思えない様な独特の雰囲気が周囲へと漂っていた。


 そんな独特の雰囲気を放つ建物を、呆気に取られた様に眺めている今回の同行者へと声を掛ける。



「取り敢えず、俺は[スキル]の類いを使ってアレコレやってみるつもりだ。向こうも【職業】と[スキル]とが一致している俺の事は邪険にはしないだろうけど、お前さん達はどうするんだ?

 自分達でも、何か造らせて貰ったりするつもりか?」



 そうやって掛けられた俺の言葉に、新規で着いてきた二人はそれぞれの言葉を返してくる。



「……そう、だな。オレも、大分特殊な[スキル]をメインで選んじまっているから、それに合わせた武器でも造ってみるつもりだよ。姫島はどうする?」


「アタイも、獅子藤と同じかな?一応[鍛治]は取ってあるし、気になってた[刻印]だとか[紋章]だとかも取ってあるけど、何に使えるのかさっぱりだから、やっぱりアタイも自分で使えるモノを取り敢えず造ってみる事にするよ」



 最初に返して来たガタイの良い厳つい大男が、加田屋の知り合いであり、一般的には『隠れオタク』と言われる分類だったらしい『獅子藤(ししどう) 智哉(ともや)』だ。

 その外見を裏切る事は無く部活はラグビー部に所属していたらしいのだが、厳しい部活の合間で漫画や小説を読むのを趣味としていたらしく、密かに加田屋経由で他の同類達と情報交換を行っていたのだとか。

 もっとも、周囲にバレていたとしても、長身で逆三角形な体型をしているこいつにどうこう言える様な奴が居たとは思えないけどね。


 そして、もう一人返事をしてきたのが、獅子藤と同じく運動系の陸上部に所属していた『姫島(ひめじま) 麗那(れいな)』と言う女生徒だ。

 彼女も、分類としては獅子藤と同じく『隠れオタク』になるのだろうが、獅子藤の様に意図的に隠していたのとは異なり、彼女は特に隠す事無く同好の士と語ったりしていたので、もう少ししていれば周囲に知れた『オープンオタク』になっていただろう、との事だ。

 まぁ、なったとしても、元々明るく社交的な性格をしていた為に、特に周囲も気にせずに居た可能性が高かっただろうけど。



「了解。じゃあ、取り敢えず行ってみますかね。加田屋と桐谷さんはどうする?一緒に来る?」


「僕は、そうだね……取ってる[錬金術]なら、ある程度の金属操作の類いも出来るみたいだから、参加してみようかな?」


「私は、役に立てそうに無いけど、興味は在るから参加したい、かな?見てるだけになるかも知れないし、多分見学だけになるだろうけど、参加しても良い?滝川君。お願い!」


「まぁ、俺の責任の範疇で、との話だったので構わないですけど、多分つまらないと思いますよ?鉄を打つだけですし」


「ありがとう!でも、大丈夫だと思うよ?だって、言ったでしょう?『興味が在る』って!だから、退屈する事は無いと思うから!」


「なら、良いですけど……。

 じゃあ、そろそろ行きますかね?」



 そう号令を掛け、臭いを厭うララさんを宥めながら建物へと進んで行く。


 そして、入り口でレティシア第二王女から渡された許可証(第二王女の名の元に施設への立入を許可する等々が書いてあり、彼女の印章が押されている)を提示し、内部へと入って行くのであった。






 ******






「おう!おめぇらが、今回召喚された連中か!ワシはここの鍛治頭を任されとるドワインっちゅうもんだ!ここに来たっちゅう事は、おめぇらは[鍛治]の類いの[スキル]を持っとるんだろうが、ここにおるのは皆【鍛治師(スミス)】系の【職業】に就いておるもんばかりだ!だから、おめぇらの立場は、ここでは一番下って事になる!こっちの指示には従って貰う!それが嫌なら、今すぐにけぇんな!!」



 入り口にて許可証を提示し、それによって案内された先にて待ち構えてのは、大鎚を肩に担いだ背丈の低くがっしりとした体つきの髭もじゃなオッサンであった。


 そのオッサンは、出会い頭に挨拶をするでもなく、その見た目を裏切らない怒鳴り声にて、俺達の事を下に見ている事を隠そうともせずにそう告げた。


 ……恐らくは、最初に上下関係を叩き込んでおき、その後アレコレをやり易くしたいのだろう。

 昔ながらの頑固な職人と言う事であれば、まぁ理解出来ない事もない。そうして教えを受けてきたのだろうし、そうした方がやり易いのだろう事も理解出来る。


 ……が、別段弟子入りしに来た訳でも、また部下になりに来た訳でも無い相手に対し、初っぱなからその態度はどうかと思うけど?

 これは、少しばかりお灸を据えても良さそうかな……?


 そう判断を下した俺は、偉そうにふんぞり返っているオッサンへと、物理的に上から目線にて見下ろしながら口を開いてこう言い放った。




「……そうですか。では、俺達は結構です。ララさん、他の工房にお邪魔しましょうか」



「「「「…………は……?」」」」


「……ん?良いの?」



 俺から放たれたまさかの拒絶の言葉に、俺達をここに案内してきた受付(?)の人とオッサン。更に、俺とは今回初めて行動を共にする二人の口から、気の抜けた様な呟きが溢れ落ちる。


 しかし、ある程度俺の行動原理を理解していた加田屋と桐谷さんは『まぁ、そうなるだろうなぁ』と言わんばかりの顔で首を振っているし、ララさんは若干驚いている様な素振りは見せているものの、やはり何処かでは予想していたのか慌てる事はせずに確認の問いを返して来た。



「えぇ、大丈夫なんじゃないですか?俺達は、ですけどね。

 何せ、この国の王から直接、この国の技術指導をしてくれ、と言われている上に、こうして第二王女殿下から直接頂いた許可証が在るにも関わらず、こうして受け入れない処か下働きとしてこき使ってやる、との宣言まで貰っていますからね。

 俺としては、この国で唯一<付与>が出来ている鍛治場の作業を見学出来れば、と思っていたのですが、どのみちこの国全体に技術的な指導をする必要が在るのですから、別にここから始めなくても良いですよね?むしろ、今は一応出来ているのだから、ここは最後でも良い訳で。

 と言う訳で、何処か適当に工房の類いを探しましょうか。最悪、鍛治場の隅でも使わせて貰えればそれで事足りますからね」


「……ん。タキガワが良いなら、それで良い。じゃあ、行こう。こっちに他の工房が在る」



 俺からの返答を聞き、納得したのか出口の方へと踵を返して他の工房へと目指そうとするララさん。

 当然の様に、その腕に抱かれている俺はそれに連動する他無いし、この状況に慣れつつ在る二人も同じ様に踵を返す。


 そして、多少戸惑いながらも俺達に習う様に、一拍遅れて出口を目指して歩き出す残りの二人の姿を見てか、それまで固まっていたオッサンが



「……ま、待て……!!」



 と声を掛けて来た。


 しかし、特にその声に従わなくてはならない理由も無かったので、そのまま無視して進もうとする。

 すると、その外見からは想像も出来ない程の俊敏さで俺達の前へと回り込み、出口を塞ぐようにして立ちはだかる。



「おめぇ、一体何言ってやがる!?『ここは最後でも良い』?『別にここからでなくても構わない』?そんな事、許される訳ねぇだろうが!?それに、他の工房でも構わねぇだと?何ふざけた事抜かしてやがる!?ここ以外、まともな武器打てる工房が在ると思ってやがるのか素人ども!まともに武器打ちたきゃ、黙ってワシの言う通りにしておきやがれ!!!」


「はい、残念でした。そのあんたの言う『まともな武器』があんたらに打てて無いから、俺の方に打てるように指導してくれ、って依頼が来てるんだよ。その意味が分からない程、耄碌している訳じゃないだろう?」


「……なん、だと……!!?」


「そう、今あんたが考えた事で正解だ。取り敢えず、この工房に生産系の【職業】と[スキル]を持った者を集め、その中でも鍛治の系統に特化した連中を集めたこの鍛治場も、オルランドゥ王が求める程の成果は出せない、と判断されたんだろうさ。

 それでも、今まで程度でも造られていたモノが造られなくなるのは困るからそのままにしていたけど、生産系に特化した召喚者である俺がこうして現れたから、あの人も大胆に舵を切る事にしたんだろうさ。

 命に従い、技術を得て腕を高めるのであれば良し。

 そうではなく、命に逆らい『救世主』に叛いたとして断罪され排除されるのも、新しく育つ職人達のポストが空くのでまた良し、って処だろう」


「……な、なら、ワシは……!」


「そちらも正解。まず間違いなく、その無駄なプライドと頑固な気質を抱いて失職する事になるだろうね。もちろん、腕を潰されるか腱を切られるかした上で。

 まぁ、国の方針に逆らうんだ。『その程度』で済むんだから良い方じゃないの?

 ……それで?まだ、何か、俺達に、用事が、在るのかな?」



 敢えて事実を多少誇張しながらも、それでいて嘘にはならない範囲にてオッサンへと告げ、最後に分かり易く俺から『既に敵意の類いを持ち始めているけどどうするの?』と問い掛けてやる。


 すると、職人としてのプライドと、鍛治場頭としての責任とに挟まれていたオッサンが、徐に担いでいた鎚を下ろすと、今にも血涙を流しそうな様子にて床へと膝を付け、もう一押し在れば即座に憤死する、と言わんばかりの様相にて言葉を絞り出す。



「……先程は、失礼した。存分に、この鍛治場は使って貰って構わないので、どうかワシらに、貴方の技術を、授けては頂けないだろうか!!!」



 その様子を目の当たりにした俺は、他の面子が俺へと向けて来ている視線から、少しばかりやり過ぎたかなぁ?と思いつつ、オッサンからの申し出を受け入れてこの鍛治場を使わせて貰う事にしたのであった。

 ……苛めすぎ?はて、なんの事やら……。

毎日ポイントが伸びるのをニヨニヨしながら眺めるのが日課となっています

応援してくれている方々に感謝です(^^)

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― 新着の感想 ―
[一言] 前置き長過ぎる。ゲームで言うとこのチュートリアルが長い。本編に移ってもらいたいね
2019/11/17 00:39 退会済み
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