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 夕食を終え、部屋を目指して廊下を進む俺達。


 俺と加田屋お手製の野郎による野郎の為の野郎飯だった訳だが、案外と女性陣からは好評価を頂けた様だった。



「……けふぅ。タキガワの手料理、美味しかった。特にアレ。柔らかい肉。アレは良かった」


「……ねぇ~、美味しかったよねぇ~……。パッと見た限りだと普通のハンバーグだったのに、なんであんなに肉汁が口一杯に溢れて来るんだろうねぇ~……」


「……ん。肉の美味さの一つは『歯応え』だと思ってたけど、こうして実際に食べてみると、柔らかい肉も良いモノだった……!」


「……ねぇ~、本当にねぇ~……。どうやったら、あんなにフワフワな食感を出しながら、それでいてお肉を食べてる感じを強く出せるだけの歯応えを残せるんだろうねぇ~……」


「……ん。それに、あの『さらだ』も結構美味しかった。初めて野菜を生で食べたけど、意外と美味しかった。特に、掛けられてた何かが凄かった!何あれ?」


「……ねぇ~、凄かったよねぇ~……。どうやったら、市販品よりも美味しくて、最初見ただけで嫌厭していた人に『美味しかった』なんて言わせられる様なモノが作れるんだろうねぇ~……。

 ……はぁ、ここまで腕の差を見せ付けられると、女としての自信が無くなって来るなぁ……」


「……ん?良く分からないけど、元気出す。落ち込むよりは、元気な方が絶対良い」


「……あはは、そうだよねぇ。ありがと。頑張ってみるね……」



 ……若干一名が凹んでいる様子だが、あまり触れてやらない方が良さそうだ。


 そう判断した俺は、ララさんに運ばれながら先程の料理の評論を加田屋と繰り広げる。



「……まぁ、ぼちぼち、って処かねぇ……?」


「うーん、それは、ちょっと評価が辛くない?道具はともかくとして、色々と足りない中でのあの出来なんだから、それなりに評価しても良いんじゃないの?」


「そうだとしても、不満の無い会心の出来だった、と言えるか?まだここに来て二日しか経ってないんだから、特に思い出補正とかも無いだろうし、流石にそこまで甘い評価は出ないだろうよ?」


「……まぁ、もう少し味付けだとかも工夫出来たとは思うし、何かしらのソースでも用意しても良かったとは思うけど、それはそれで求めすぎでない?僕らだってプロって訳じゃないんだよ?」


「まぁ、それはそうなんだけど。それでもやり様はあったかなぁ、と思って、ね?」


「それは、言ったらきりがないと思うけどなぁ……」



 満足そうな様子を見せる女性陣とは異なり、やや不満気味なセリフを溢す俺達(と言うよりも俺)。


 結局、器具や材料が無い無い尽くしだった為に、サラダのドレッシングを用意するのに精一杯で、ハンバーグに掛ける様なソースの類いを用意する事が出来ず、元々入れていた塩味のみにて食べる羽目になってしまったのだ。

 流石に、未だ二日しか経ってない事もあり、現地人で初めて口にするララさんを除いた俺達には、それなりに不満の残る出来となったと言っても良いだろう。


 桐谷さんも、口ではああ言って評価してくれてはいるが、恐らく内心での採点は少々辛めになっているハズだ。

 家庭で作る程度のモノは出せたと自負してはいるが、まだまだ上のモノも出せた以上は、やはり満足できる結果だったとは言えないだろう。



「じゃあ、私の部屋はここだから、もう行くね?滝川君も、加田屋君も、ご飯作ってくれてありがと。美味しかったよ!お休み!」


「うん、お休みなさい、桐谷さん。じゃあ、僕も部屋はそこだけど、滝川君も部屋に戻る?それとも、僕の部屋でまだ話して行く?」


「……いや、俺も戻るよ。お休み、加田屋」


「うん、お休み、滝川君」



 そうこうしている内に、俺達へと割り振られた部屋の在る場所に差し掛かり、最初に桐谷さんが部屋へと戻る為に離脱する。


 それに合わせて加田屋が俺の意思を確認して来るが、特に俺としては渡せる情報も何も無いし、今の所通達しておかなくてはならない事項も無かったので、部屋へと戻る事を告げる。


 それにより、互いに別れの挨拶を交わしてから、相も変わらずララさんによって廊下を運ばれ、与えられている部屋へと向かう。


 幸いにも、この世界には照明の道具が既に開発されており、以前まだ生産系の【職業】が迫害されていなかった時代に作られたモノが、未だに現役で使われ続けているので、既に日が落ちているにも関わらず、足元が覚束無いと言う事態も発生せずに安全に廊下を歩いて行けていた。


 そして、暫く進んで行くと、他の部屋と同じ一角に在りながら、あからさまにその広さは他の部屋とは一線を画していると分かる程に、左右の部屋のドアとの間隔が開けられている部屋へと到着する。

 ……そう。何を隠そう、ソレこそが俺に割り振られて与えられている部屋その物だ。


 設備こそは潤沢とは言えない(水道やトイレやシャワーも無し。当然電気も通ってない)し、内装も少々古ぼけてはいるものの、その広さは下手な一軒家よりも広々としており、昨日与えられたばかりではあるものの早速持て余していると言うのが正直な話だ。


 昨日、ここへと案内された際に、俺も抵抗と細やかな抗議を行いはしたのだ。

 俺にはこんなに広い部屋は必要ない。むしろ、桐谷さんだとかの女子の方にこそ、こう言う広い部屋は必要なんじゃないなのか?と。


 しかし、俺を案内してくれた使用人さん曰く



『ここに案内する様に命じたのはオルランドゥ王その人であり、自分にはどうする事も出来ないのです。それに、他の召喚者達ならばともかくとして、これから国を救って下さる救世主様を狭苦しい部屋に押し込む事は出来ませんし、そんな扱いをした等と他の国に知られれば、ソレだけで要らぬ争いの火種になりかねないので我慢して下さいませ』



 との事を、とても申し訳なさそうに頭を下げながら言われてしまったのだ。

 流石に、そこまでやられてしまった上で、まだ我が儘を言い募る程に人間性が腐ってはいないつもりなので、仕方無しにそのまま使わせて貰っている。


 そんな部屋の前でララさんに下ろして貰い、就寝の挨拶をしてから鍵を開けて部屋へと入り、大きく伸びをする。



 ……あぁ、しかし、こうして改めて確認してみると、やっぱり自由に動ける身体って言うのは良いね。

 動作に(つかえ)が無くて思う通りに動いてくれる、と言うのも大きいけれど、やっぱり動作に痛みを伴わないと言うだけで快適性が段違いだ。

 ……体調が思わしく無い時なんかは、軽く力を込めただけで痛みが走ったモノだし、それらが無いと言うだけでここまで晴々しい気分になるとは、本当に予想外だったね。

 何はともあれ、健康とは素晴らしい。


 ……まぁ、不自由な状態だからこそ赦されていた『何か』が在った様な気もするが、まだほんの数名を除いては知られていないし、何よりソレを知った処でレティシア第二王女は何をするでも無いだろうし……!?



 一日の殆どをララさんに運ばれ、微妙に強張っていた身体を伸ばしてリラックスしていると、部屋の中に無いハズの他の人の気配が在った事に気が付く。


 何故(なぜ)何故(なにゆえ)?いったいどうして?


 そんな疑念が脳裏を過り、気配のする方向である背後(・・)へと振り返ろうとした時、そう言えば何となく知っている気配、具体的に言えば『ほぼ一日中身近に居た気配』である事と、まだ俺の背後で扉の閉じる音(・・・・・・)聞いていない(・・・・・・)事に気が付いた。


 ……が、それと同時に背後から襲撃され、着ていた服(こちらの世界のモノ。新品らしいけどちょっとゴワゴワチクチクしている)を切り裂かれながら吹き飛ばされ、入り口から見て正面に設えられていたベッドへと強制的に着地させられてしまう。


 幸い(?)な事に、身体に直接的な負傷の類いは無く、打撲も骨折もセルフチェックの限りは無いままに、服だけが破壊されて襤褸布へと変わり果てた状態で俺の身体にまとわり付いていた。


 動作に支障は無い、と言う判断を瞬時に下した俺は、咄嗟に跳ね起きて目の前の犯人へと問い質そうとしたのだが、俺の視線の先にて扉が漸く閉まり、ソレとほぼ同時に鍵を掛けた『犯人』が決して短くは無いハズの距離を瞬時に詰めて俺の上へと覆い被さって来た為に、その機会を失ってしまった。



 荒げられた吐息。

 血走って潤んだ瞳。

 忙しなく動き回っている耳。

 勢いの余り軽く腰まで振り回されている尻尾。

 赤く染め上げられた頬。

 俺を押さえ付けながらも、自らの服に掛けられた手。



 言葉も無く、ムードなぞ欠片も考えられていないまま、情欲の迸りに任せたであろうその行動を取っていたのは、大方の予想の通りにララさんその人であった。



「……あの、ララさん……?俺、そう言う事は身体の事情で出来ない、って言っていたと思うんですけど……?」



 何となく嫌な予感をビンビンに感じながら取り敢えず弁明してみると、剥き出しにされた俺の首筋から耳までをベロリとその長い舌にて舐め上げながら、俺の耳元へとゾクゾクする様な声色にて一言



「……ウソつき……♥️」



 と一言囁いて来る。


 その、声色までもが情欲にてピンク色に染まっているかの様な囁きを聞いた瞬間、俺はそう言えばララさんにも身体が直っていた事がバレていたのを思い出す。


 それと同時に、彼女から番としての誘いを受けていた事、俺の体調を鑑みてくれていた事、それでも誘いを掛けてくる程の衝動を秘めていた事を同時に思い出し、これは逃れられないな、と覚悟を決める。


 そして、情欲に染まりながらも、その奥でそれでも俺に断られる事に怯えている彼女を抱き締め返し、無言のままでキスを交わす。


 流石に、特に障害が在る訳でもない状況で、ここまで想われて迫られているのだから否やは無いし、何よりこの状況にて断れば彼女への侮辱になると言うことが理解出来ない程に、人間関係や女性の考えに疎い訳でもない俺は、彼女を安心させる様に微笑み掛けると、彼女と一つに繋がるのであった。








 ……なお、この夜は、まるで狼の遠吠えの様な声が城の中へと響き渡り、一部では半ば都市伝説めいた噂話として長く語られる事となるのだが、ソレを俺達が知るのは大分経ってからとなるのはまた別のお話。

多少急展開で無理矢理な進行かもと作者も思いますが、生暖かく見ていて頂けると有難いです

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