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「……厨房を貸して欲しい、ですか……?」


「えぇ。お忙しいのは理解していますが、お願い出来ませんでしょうか?」


「……はぁ、しかし……」



 難色を示す料理長。


 態度から察するに、恐らくは俺達の作る料理に興味は在るし、別段場所も無いと言う訳でもないのだろうが、何処か戸惑いが強い様にも見てとれる。


 異種族ではない只人のその女性は、俺と加田屋とに視線をさ迷わせている処を見ると、恐らくは男である俺達が厨房に立つ事に戸惑っているのだろう。

 既に、同じ様な反応をセレティさんから受けているので、多分間違いは無いハズだ。


 そんな反応に内心で面倒臭さから舌打ちをしながら視線を背後へと向けると、そこには厨房の入り口からこちらを窺っているララさんと桐谷さんの姿が在った。


 一応、二人が何故に入ってこないのかを説明しておくと、ララさんに関しては獣人なので体毛が多い上に抜けやすく、こう言う調理の場には立ち入りが禁止されているのだとか。

 桐谷さんに関しては、どうやら集中的に鍛えていたお菓子作りはどうにか母親から及第点は貰えたものの、ソレ以外に関してはまだ合格点を貰えていなかったらしく、料理出来ないモノは入るべからず、との決まりによって入る事が出来ないでいるらしい。


 なお、俺は言わずもがなで部隊にいた時の経験で、余程特殊な環境(燃料無し、器具無し、材料無し等々)でなければ、まぁ作れなくも無い、と言う程度には作れる自信が在るし、加田屋はああ見えて意外と料理が上手い。それこそ、自作の弁当を持参していた程度には、料理の心得が在るみたいだから大丈夫だろう。

 ……ここだけの話、加田屋の性別が男女逆なんじゃないのか?と突っ込みたくなったのは俺だけじゃないハズだ。外見も、割りと年頃の男子としては華奢な方だし、仮に声変わりさえしていなければ、服装さえ変えてしまえば恐らくは分からなくなる……ハズ。多分。きっと。恐らくは。


 なんて、我ながら末恐ろしくなる様な事を考えていると、どうやら料理長も好奇心は抑えられなかったらしく、食材を無駄に使わない事、無駄にしていると判断したら即座に摘まみ出す事、失敗作は自分達で処理する事、成功したのであればこちら側(料理長側)にも試食させる事、等の条件の元に許可を貰う事に成功した。


 なので、早速加田屋と共に服の汚れを落としてから厨房へと入り、手を綺麗に洗ってから台所の隅へと陣取る。

 そして、料理長から使っても良い、と言われている食材とセレティさんから分けて貰った食材とを並べて見比べ、何を作るのかを検討して行く。



「確か、固くて顎がイカれるから、って言うのが事の発端だったよな?なら、ある程度柔らかいモノの方が良いか?」


「うん、その方が良いと思うよ。ついでに言うなら、僕はお肉の方が食べたいかな?」


「……昼に食ったばかりだろうに……」


「滝川君、本当に成長期真っ只中の男子高校生?餓えた男子高校生が毎食求めるモノと言ったら、そこは『お肉』と決まってるでしょうに!と言う訳で、メインはお肉でお願いします!」


「……まったく、さっきまでひいこら言ってたって言うのに、復活が早いと言うか、調子が良いと言うか……。

 まぁ、ここに在る材料で合わせて考えると……ハンバーグ辺りが妥当かね?」


「異議無し!じゃあ、その方向で行こうか!」


「まぁ、付け合わせは適当にやれば良かろう。取り敢えず作るぞ」


「了解~!」



 方針を決めた俺達は、まずメインのハンバーグに使う食材を一ヶ所に集め始める。


 玉葱やナツメグ等の、必須レベルの香味野菜やスパイスは厨房の方には無かったのだが、幸いにもセレティさんから貰った成果物の中に入っていたのでそちらから流用する事にする。

 なお、ナツメグや胡椒と言ったスパイスの類いは、予め調薬に使う為に乾燥・加工してあるモノを分けて貰ったので、わざわざ厨房(ここ)でゴリゴリする必要が無いのは便利で良い。ご都合主義万歳だ。


 四人分と仮定して大きめのモノを二つ選び出し、手早く玉葱の皮を剥く。そして、頭と根の部分を包丁で切り落としてから半分に割り、中心に在る芽を含めた芯を取り除いてみじん切りにしながら、豚肉(の様なモノ)にしようか牛肉(の様なモノ)にしようか悩んでいる様子の加田屋へと声を掛ける。



「そうやって悩んでいる位なら、いっそのこと合挽にでもすれば良いんじゃないのか?」


「うん、そうだね。そうしようか。挽き肉は無いみたいだけど、やっぱり叩いて作る?」


「頼んだ。ある程度食感を残した方が楽しいだろうから、多少粘りが出る程度で良いぞ」


「了解!」



 俺からの指示に従い、二種類の肉を細かく刻みながら混ぜ合わせて行く加田屋。

 危なげない彼の手際の良さは、作り慣れている者特有のソレであり、見ていて安心感を覚える程だ。


 なんて事をとりとめも無く考えながら向けていた視線を、手元の黒パンと卸金へと向ける。

 流石に、ミンサー(挽き肉を作る道具)も無ければ食パンも無い状態なので、繋ぎに使うパン粉すらも手作りする必要が在るのだ。


 ……まぁ、厳密に言えばパン粉は『小麦』で手元の黒パンは『ライ麦』なのだが、どうせ世界が違うのだから元々『似た様な別のモノ』なのだし、多少違ってもどうにかなるだろう。多分。


 内心での不安を意図的に無視し、堅焼きで乾燥した黒パンをゴリゴリとすりおろして行く。

 ある程度の量が卸金の下に置いておいたボウルの中に溜まったのを確認すると、用意してある卵に向けて[解析(アナライズ)]の[スキル]を発動させる。



 ……うん、傷んではいないし、サルモネラ菌の類いが付着している事も無し。ついでに言えば、有精卵で中身が出来掛けている、と言う事も無し、と。



 挽き肉の繋ぎとして使うのに、ここに牛乳を加えても良いのだけど、まだ冷蔵の概念が無いか、もしくは薄いらしいこの世界(食材は保管所にそのまま置かれてた)において、殊更足の早い牛乳を使うのは少々躊躇われる。

 まぁ、俺が個人的に使わない、と言うだけなのだけどね?水気を足すとパティが弛くなる事も在るし、何となく使わない方が風味が良い……様な気がするからだ。多分。きっと。


 他にも、分けて貰ったニンニクと生姜を同量摺り下ろし、加田屋から受け取ったミンチ状になっている合挽肉を受け取ると、用意しておいた材料やスパイス等を投入し、共に混ぜ合わせて行く。

 個人的には、ここにガラムマサラとか在ると、一気に味に締まりが出るから是非とも使いたい処だが、生憎とあの複合スパイスの調合比率や使用されているスパイスの種類を知らなかったので、泣く泣く断念して少量の唐辛子(但し色は青い)を混ぜるだけで我慢しておいた。無念。


 手の熱で肉の脂が溶け出さない様に手早く、さりとて混ざりむらが出来ない様に丁寧に混ぜて行く。

 ヘラの類いで混ぜても良いのだが、手捏ねの方が確りとした粘りがパティに出るので、焼き上げた際の食感が良くなるのだ。

 少なくとも、俺個人としてはそう思っている。


 そうやって混ぜていると、加田屋に渡していたみじん切りの玉葱が炒め終わったらしく、バターと飴色に炒め上がった玉葱の良い香りが漂って来る。


 なので、濡らした布巾を下に敷き、パティに熱を通さない様にある程度温度を下げてから、俺の混ぜていたパティへと投入して更に混ぜて行く。


 全体的に満遍なく混ざったら、使っていたボウルに湿らせた布巾を掛けて埃の混入を防いだ状態でパティを休ませ、その間に手早く付け合わせとしてサラダを作っておく。


 野菜を生のまま扱う事に驚いているのか、矢鱈と作業中の俺達へと視線が向けられて来ているのを感じるが、別段新鮮なモノであれば生のまま口にしても大丈夫だし、何より加田屋が魔法系の[スキル]を本人曰く『ちょちょいと応用』して殺菌してある(水と雷の魔法でオゾン殺菌したとの事。本当に食って大丈夫なんだろうな、ソレ?)ので、下手なスープよりも安全な状態となっている。……ハズ。


 なんて事をやっている内に、パティに味が馴染んだであろうだけの時間が過ぎた為に、作ったサラダを適当なサラダボウルに移してからハンバーグを完成させる為に楕円形に形成して行く。


 この際に、上手く両手で叩いて中の空気を抜かないと、焼いた時にはぜて割れる原因になるので、念入りに抜いて行く。


 ある程度の大きさに形成したら、バターを溶かしたフライパンへと二~三個ずつ投入して焼いて行く。


 片面が焼けたらひっくり返し、混ぜ合わせる段階でも投入していた胡椒(種の部分だけ貰って来て、加田屋の魔法で乾燥させたのを岩塩用のミルで引いた)を追加で表面にも軽く振り掛ける。


 そうして焼いて行く間に、いつの間にか集中してきた視線や、唾を飲み込む音等を無視して加田屋へと指示を出し、ついでにドレッシングも平行して作って行く。

 俺個人としてはあまり使わないし、むしろ同じく作るならマヨネーズの方が汎用性も在るのだろうが、如何せんアレは作るのが面倒だし、何より安全に使おうと思ったら半日程は置いておく必要が在る。流石に、これから使うと言うのにそんなに時間は掛けられないし、何より下手なモノを作ってマヨラー大発生(パンデミック)なんて起こった時には目も当てられない事態になるのは間違いないからね。

 マヨを求めて(マヨ)さ迷う亡者達(ラー)の相手をするのは、ちょっと遠慮したい。


 それからもう少しすると、用意しておいたパティは全て焼けた為、大皿に盛り付けて各自の取り皿を用意し、サラダや黒パン等と共に厨房へと併設されていた食堂(朝・昼と食事を採ったのとは別の食堂。主に使用人向けと思われる)へと運んで行く。


 その際に、一人分試食用に皿へと盛り付けておき、片付けを終えて料理長へと声を掛けてから厨房を後にする。


 その際に、背後から一気に気配が一ヶ所に集中する様な動きが感じられたり、何かを奪い合う様な怒号と悲鳴が聞こえて来た様な気もするが、多分気のせいだろう、と言う事にして、皆で食事を楽しむのであった。

 なお、女性陣からは大変に好評だったとだけ言っておく。

ちなみに、今回のハンバーグレシピは作者が自作する際のレシピを参考にしています

皆さんはどうやって作りますか?

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