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セレティさんの許可も得られたので、二人と共に畑を散策する。
当然、通るのは畦道だけ。
整えられた畑を荒らす様なアホな真似なんてしませんとも。
もっとも、『城の中庭に作られた畑』と言っても、そこまで慎ましやかなモノでは無い。
これまでの描写からも察せられるとは思うが、ここは薬草?(草の類い)と思われる草木や野菜(見た目的には。成果物も確認出来る)、そして果樹(こちらも野菜と同じく成果物が確認出来た為)と思われる木々がそれぞれの区画にて固まって植えられている。
それ故に、こうして中に入ってしまえば狭い様な印象を受けるが、外から見た限りではかなりの広さを誇っている。それこそ、下手な学校のグラウンドよりも広い位だろう。
そんな立派な畑の中を、設えられた畦道や畝の隙間を縫う形で進んで行く。
すると、見た覚えの在る植物や、外見的には見た覚えは無いが説明的にはソレだと分かるモノが次々に散見された。
「おっ、あの木って、もしかして胡椒かな?」
「あん?あれかい?あれは、ペペリの木だよ。身が赤くなるまで熟させてから収穫して、果肉を素材に使うのさ。火傷とかに付ける軟膏の素材の一つさね」
「じゃあ、この唐辛子みたいなのは、どう使うんですか?なんか、僕が見た事があるのとは違って、文字の通りに『青い』ですけど」
「そいつはピミエントだね。耐寒用の飲み薬に使うんだよ。まぁ、使う量を間違えたり、飲み過ぎたりすると次の日『エラい目』に遇う羽目になるけどね。
具体的に言えば、尻が凄いことになるから、試してみるのはオススメしないね」
「なら、アレは?あの、地面から生えてる笹みたいな葉っぱのアレ。私の勘違いでなければ、多分生姜だと思うんですけど」
「あん?茎の根本が赤いヤツかい?アレはイムビーリって言うのさ。ウチの里だとたまにお菓子とかにも使ったけど、この辺じゃあ風邪薬としてしか使う処は見たこと無いねぇ。あの香りと、ピリッと来る辛味が意外と好きなんだけどねぇ」
「……ん?じゃあ、アレは……?」
「……あん?アレは……止めとけ。ありゃ毒だから。オンゴは旨いモノも多いけど、ああ言った感じの白くてブツブツの生えてるヤツはヤバいから触るなよ?まぁ、そんなのでも薬の材料に、しかも高級ポーションの材料の一つになるって言うから、育ててるんだけどねぇ」
「……おもっくそ見た目がドクツルタケなんすけど……」
「……僕、何が在っても高級ポーションを使う羽目にだけはならない様にしよう……」
「……ま、まぁ、キノコは漢方でも良く使われるから……」
「……さっきから内輪で何か会議してるけど、もう良いのかい?今ならまだ付き合ってやれるけど、もう良いならもうウチは引き上げるよ?」
「あ、じゃあ、次はアレを――――」
そんな感じで、見覚えの在るモノ無いモノ関係無く、取り敢えずソレっぽいモノを指名して教えて貰いつつ、俺が習得した[スキル]の一つである[解析](対象が何なのかを解析する[スキル])を使ったりして確認しながら、畑をグルリと一周する。
その頃には、俺達の両腕には俺達がセレティさんにおねだりした成果物が山の様に積まれていた。
それらの量は、お願いした側である俺達すら少々申し訳無く思える程である上に、直接説明してくれた彼女曰く『それなりに貴重』との話であるモノも含まれており、流石にこのまま貰って行く、と言うのは些か気が引ける様な状況となっていた。
二人と共に、分けて貰った成果物の重さでよろめく……フリをしながら、セレティさんに向けて口を開く。
「……本当に良いんですか?こんなに貰っちゃって。
確か、貴重なモノも混じっていましたよね?さっきの説明から察すると」
「そうでなくても、僕らでも抱えきれない程の量とか、貰いすぎだと思うんですけど……」
「私達こっちに来てから一日しか経ってないんで、まだお仕事も貰えて無いし、お金だって持ってないんですけど、良いんですか?」
「良いって良いって、若いモンが遠慮なんてするもんじゃないさ!」
そう、見た目の繊細さを裏切る豪快さにて言い放つセレティさん。
「最初は、ウチの畑に興味を持つなんて珍しい召喚者も居るモンだ、なんて思ってた程度だったけど、こうして話してみればウチも知らなかった様な知識がポンポン出てきたし、使い方にしても新しい着眼点が得られたからね!こっちとしても、そんだけくれてやってもまだお釣りが来る位さ!
……そ、それに……なんだ……び、『美人』だなんて誉められたのも、あんたが初めてだったし?ウチだって、誉められて嫌じゃ無かったし?むしろ、う、嬉しかった様な気もするし?なんなら、定期的に来てくれても良いんだからな?そう言う意味でもお礼も、なくもないんだからな?本当だぞ?」
前半は変わらず豪快に、後半は一転して顔を赤らめ呟く様に早口で一気に言い切り、こちらに言葉を挟む暇を与えずに一気呵成に捲し立てて来た。
その変わり様に、若干気圧されながらもなんとなく可愛らしい女性だなぁ、と思って見ていると、桐谷さんからは脇腹に肘打ちを、ララさんからはお決まりになりつつある谷間への拘束(後頭部バージョン)を貰ってしまう。
そんな二人の行動に困惑しながらも、セレティさんに対してまたお邪魔する事と、上手く出来たらセレティさんにも食べてもらう事を約束し、中庭に設えられた畑から退出するのであった。
******
畑を後にした俺達は、またしてもララさんの案内にて城の中を進んでいた。
一応、別れ際に『これを使いな!』と貰った麻布袋に諸々の食材を詰め込んでいるので、大分運びやすくはなっているし、丸のままの食材を持ち歩いて奇異の視線を受ける羽目にならずに済んでいるが、それでもそれなり以上の大きさになってしまっているので、全員でひいこら言いながら運んで行く。
「……はぁ、はぁ、まったく……こんな事になるんなら、誰か[収納]でも習得しておけば良かったのに……!」
「……そう思うんなら、自分で取っておけば良かったろうに」
「……そう、だよ……!そうやって、後悔する位なら、自分で、取っておけば、良かったじゃない……!」
「……悪いけど、僕は最初から、戦闘系志望だったの……!こうしているのも、滝川君がやってるからだしね!
それに、[収納]って矢鱈とコスト食うみたいだったから、取るの諦めた[スキル]の一つなんだよね……!なんで、アレだけ他のヤツの倍も食うんだよ……!」
「じゃあ、他の連中も持ってないのかね?」
「さぁ、どう、だろうね……?私は、そこまで、詳しくなかったから、天辺の【職業】と、合わせて取ったけど、狙って取った人も、居るんじゃないの……?ふぅ」
「……ぜぃ、ぜぃ……。他にも、深谷君の取ってた、【勇者】だとか、[聖剣術]だとかも、コスト激重の類いだったから、その手の強力な[スキル]って、大概がコストバカ食いする、ヤツばかりなんじゃ、無いのかな……?
……ヤバい、そろそろ、腕が……!」
「……俺が言えた事じゃないかも知れないけど、良くもまぁ、その程度の体力で戦闘志望だったな?女子の桐谷さんより先に音を挙げるとか、ちょっとモヤシ過ぎない?幾ら後衛でも、流石にそれはアカンでしょうに」
「……ふぅ、確かに、ちょっと運動不足、じゃないの?加田屋君。
私だって、特に運動している、訳じゃないけど、そこまで、息が切れてる、訳じゃないからね……?
そう言う、意味では、滝川君は全然大丈夫、そうに見えるけど、大丈夫なの?無理は、しないでね……?……ふぅ」
「……まぁ、俺は、二人みたいに自分で運んでる訳じゃないからなぁ……」
「……ん。まだまだ余裕」
端から見れば、麻布袋に押し潰されそうになっている眼鏡を掛けた少年(加田屋)と、胸の辺りに麻布袋を抱えて顔を赤らめながら運んでいる美少女(桐谷さん)。そして、麻布袋を抱えた状態にてララさんに運ばれている少年(俺)と言った感じになるだろう。
正直、不審者として衛兵さん達に捕まらないのが不思議なレベルだと思ってる。まぁ、どうにもならんのは分かってるけどね?
一応、まだ俺は『事故の後遺症で身体が不自由』って事になっているので、こうしてララさんに運ばれている(違うハズ?さて、何の事やら?)の自体は、事情を知っていれば黙認もされるだろう。多分だけど。
まぁ、その気になれば、二人が抱えている分も俺を抱えたままでも持てるらしいけど、本人が『嫌』と言っていたので現在こうなっている。形の上では俺の『護衛』となっているから、必要以上の荷物を持つのはちょっと……、と言う事らしいけど、果たして本当の処としてはどうなのやら。
もっとも、身体を直していなければ、味覚も壊れたままだったハズなので、こうして『まずは料理から』なんて非合理的な事はしなかっただろうけど。他に、もっと優先順位の高いであろう物事が、幾らでも在るだろうしね。
なんて考えながらララさんに運ばれていると、何やらザワザワとした騒がしさと多量の人の気配が忙しなく動き回っているのが感じられ始める。
俺に遅れて二人もそれらの情報を感じ取ったらしく、それまでの苦行染みた行いによって荒げつつあった息を整え、険しくなっていた表情を緩め始める。
そして俺達は、それらの気配に釣られる様に進んで行く事で、第二の目的地としていたこの城の『厨房』へと到着したのであった。
……ぶっちゃけ、目指してから到着するまでで、同行していた二人がここまで疲弊するとは思ってなかったでござる。
幾ら多目に持っていたとは言え、桐谷さんより疲弊して先に潰れるとか、流石にモヤシ過ぎないかい?加田屋君よぅ?