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感じを掴んで貰うために、もう一話本日中に投稿します

 



 ―――不気味な暗い色合いの空と、赤黒く染まった大地―――




 それらが視界に飛び込んで来ると同時に、俺の胸中へと



『あぁ、またか……』



 と言った、諦感にも似た様な感情が広がって行く。


 しかし、そんな俺の内心とは裏腹に、視界は『何時も通りに』勝手に前へ前へと進んで行く。


 周囲からは、わざわざ聞こうとしなくても怨嗟の声や苦痛に満ちた叫び、そしてそれらを砕かんとする轟音が響き、空からは砲弾が雨の様に降り注いでいるが、既にココ(・・)でも向こう(・・・)でも嫌と言う程に聞き慣れたし見慣れたモノなので、今更特に動揺する事もせず、既に慣れきったモノだとは言え俺本人も驚く程に心は凪いだ状態に在った。


 そうこうしている内に、漸く勝手に動いていた俺の足が止まり、俺の目の前に凄惨と言っても良いであろう光景が広がって行く。





 額を一撃で撃ち抜かれ、何が起きたのか理解出来ずに死んでいる青年。


 砲弾によって半身を砕かれ、苦悶の表情を浮かべながら、こちらへと救いを求める様に手を伸ばして死んでいる中年。


 既に原型を無くして汚泥と化している仲間へと駆け寄ろうとして、運悪く流れ弾に当たって臓物をぶち撒けた少年。


 恋人だったであろう男と抱き合った状態で、辛うじて女だと解る程度に炎で炙られた一組の死体。


 前を向いたまま、口元に笑みを浮かべたまま、弾切れになった銃を手にしたままで事切れている女。





 そんな、何処かで見た覚えの在る連中が、何処かで見た覚えの在る状態にて、何度見ても覚えきれない程に在る死体の海と共に、『何時も』の様に俺の視界に飛び込んで来る。


 そして、そんな死体どもは『毎度お馴染み』であり、やっている側もそろそろ飽きて来ない?と聞きたくなる程に変わらない様子にてこちらへとギョロリと濁った瞳を向けると、口々に




『お前のせいだ』『なんでお前だけ?』『お前もこっちに来いよ』『お前こそが死ぬべきだっただろう?』『なんでまだ生きてる?』『なんで?』『なんで?』『なんで?』『なんで?』『なんで?』『なんで?』『なんで?』『なんでなんでなんで!?』




 既に濁り、本来であれば感情の読み取れないハズの死体の瞳からは、声と同じく怨嗟と怒りと哀愁とが込められた視線を向けられる。


 しかし、俺はここまでくれば時期に『醒める』と言う事を知ってたので、特に取り合う事無く、意識が薄れるまでただただその場に立ち尽くし、周囲を埋め尽くす死体の海からの言葉と視線を受け止め続けるのであった。




 ……それが、数少ない生き残り(・・・・)である俺の役目だろうと、そう思っていたから。






 ******






 ―――ピッ!ジリリリリリリリリリ!!!






 …………耳をつんざくアラームにより、ベッドの上で目を覚ます。


 未だに眠気に支配されている事もあり、少々不機嫌気味に目覚ましへと鉄槌を下して乱暴にその騒音を止めると、既に見慣れたモノであった為に魘されて飛び起きると言う事は流石に無いものの、それでも不快感を伴う程度には寝汗が酷くなるのは何時もの事であった為に、舌打ちを一つ溢してから汗を流す為に普段の癖でテレビのスイッチを入れてから浴室へと向かう。


 天気予報や各地での細々とした事件の情報を聞き流しつつ、身体全体をサッと洗って汗を流し、若干ぎこちない動作にて濡れた身体を拭きながら居間へと戻り、トーストをトースターへと放り込んでスイッチを入れる。


 すると、気付かぬ内にニュースの内容が変わっていたのか、キャスターが笑みを浮かべながら原稿を読み上げて行く。




『―――丁度後一月にて、我が国が大戦にて勝利を納めてから五年の月日が経った事になります。未だに亡くなった方々を想う遺族の方々の悲しみは癒えません。

 陛下も、『勝利を得る為とは言え多くの犠牲を出した事に変わりは無い。その事実を、必要な犠牲であった、等と言って誤魔化す事も、忘れる事もせず、重く受け止めて行きたいと思っている』とのお言葉を下されております。

 そのお言葉を受けまして犠牲になった方々への追悼式典を行うと同時に、戦勝を決定付けた記念すべき日である事は変わりは無いと言う事で、慰霊祭も兼ねて祭典を開催するとの決定が―――』





 ……その内容に冷ややかな視線を向け、焼けたトーストを齧りながら制服へと手を伸ばす。


 そして、一年前(・・・)まで戦場に居た事でボロボロになった身体に制服を纏い、焼いただけのトーストを食べ終えると、常人と比べれば非常にゆっくりとした足取りにて部屋を後にし、現在の所属である学校へと向かって行くのであった。

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