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「……ん?植物園……?」


「そう。もしくは、それに類似する何かか、畑の類いでも良いですけど、心当たりは無いですかね?」



 俺からの問い掛けに、首を傾げるララさん。


 その仕草は大変に可愛らしく、思わず反射的にモフってしまいそうになるが、この手の異世界モノだと大変な事態(耳を触るのはプロポーズと同意等)に発展しかねないので、全理性を総動員して伸びそうになった手を無理矢理抑え込み、表面上は変わり無い様に振る舞って見せる。


 俺の背後では、先程の昼食時にてダメージを負った顎を抑えながら、その可愛らしさにやられたらしく加田屋が胸を押さえて倒れているし、桐谷さんも何か恐ろしいモノを見たかの様に、顔を劇画調にする勢いでショックを受けている様に見える。

 とは言え、元々この城で働き、そして設備の類いにも詳しい(ハズ)のララさんの協力は不可避なレベルで必要な為に、諦めて他の人に、と言う訳には行かないのだけど。



「……ん。無くはない。それに、薬師用の畑も、城の中に在る。でも、そんなモノ見てどうするの?あんまり、楽しくもないとおもうけど……?」


「まぁ、この世界のこの辺りの植生が知りたい、って言うのも理由の一つですけど、それ以外にも幾つか知りたい事が在りましてね?後で図書館の類いにも行ってみようとは思ってますが、取り敢えず実物が見れるのならばそちらを先に見ておこうかと、ね?」


「……ふーん?危ない事じゃ、ないよね……?」


「えぇ、もちろん。むしろ、『美味しい事』になるかも知れませんよ?もっとも、俺達視点での『美味しい事』ですので、ララさんみたいなこちらの人達も『美味しい』と感じるかは定かではないですけどね?」


「……それって、昼食で出た魔物肉よりも……?」


「まぁ、『俺達的には』になりますけどね?」



 そんな俺の言葉を受けて、先程食事を終えたばかりであるにも拘わらず、口元に涎を浮かべるララさん。

 その尻尾は期待感からかユルユルと揺られており、確実に興味は持って貰えたのだと思われる。



 ……これは、行けたか……?

 まぁ、どのみちこの分野に関しては、早期に手を入れる必要が在っただろうから、ここで断られたとしても他の使用人さん達に頼むか、もしくは直接オルランドゥ王に許可を貰いに行っただろうけど。



 なんて考えながら、背後の二人へと視線をチラリと向ける。


 するとソコには、顎に負ったダメージによりまともに話せなくなった加田屋がハンドサインやジェスチャー等で応援し、どうにか回復魔法にて治した顎の調子を確認しながらこちらへと期待の詰まった瞳を向けて来ている桐谷さんの姿が在った。


 ……そう、現地の皆さんには大変申し訳無く、同時に恥ずかしくて死にたくなる事なのだが、二人の顎が限界を迎えた為に、即急に食事事情を改良する必要に駆られているのだ。


 まぁ、多少歯応えの強い食事を、たったの数度した程度で何寝言いってやがるんだ?と突っ込みを入れたくなる気持ちは良く分かる。

 ぶっちゃけた話をすれば、俺もそう言ってやりたい気分で一杯だ。部隊に居た時は、ソレを口にする羽目になる長期間で安全な作戦よりも、ソレを口にしないで済む短期間で危険な作戦の方が百倍マシ、と言われたもっと固くて味のしない癖にクソみたいに不味い携帯食料を何度も食う羽目になった経験が在る。それに比べれば、多少固い程度で何音を上げているのやら。味自体は悪くないと言うのにね。


 しかし、一概に彼らを咎める事が出来ないのも事実だ。


 昨今の食べやすい食事ばかりを採って来たのであろう彼らが、ここ数回とは言え食べ辛い食事にてダメージを蓄積させ、その止めとして例の謎の肉へと囓り付いた事によりダメージが閾値を超えた、と言う事なのだろう。

 二人も、あの超固い肉を、頑張って一枚は食べきったみたいだが、流石に食べきる事は出来なくてララさんに処理をお願いしていたからね。



 ……で、そんな事情が在る為に、こうして俺が動く事を決めた、と言うと割りと大層な理由ありきで腰を上げた様にも聞こえるかも知れないが、実際の処としては『どうせ食うなら美味くて食いやすいモノの方が良い』と言う程度の、自分勝手な理由が原動に過ぎない。

 これから案内を頼んでいる植物園等へ行く事も、その一環に過ぎないのだからね。

 まぁ、建前とは言え、この辺りの植生がきになっている、と言うのも嘘ではないけどね?



 なんて事を考えている内にララさんの天秤は傾いたらしく、俺をまたしても抱き上げると二人に合図を出してから廊下を進み始めるのであった。

 ……一応、了承はした形ではあるけれども、もう少し周囲の目と言うモノに配慮しては頂けないでしょうかね……。






 ******






「……ん。到着。ここが、この城の薬師が使う薬草の類いを育ててる、専用の畑。植物園は、城の外に在るからまた今度。それで良い……?」


「えぇ、ありがとうございます」


「……ん。じゃあ、吾は管理してる薬師を呼んでくる。見るのは構わないけど、中には毒性が在るモノもあるみたいだから、注意して、ね……?」


「ははっ、流石に子供じゃないのですか、そう迂闊に触ったりしませんよ」


「……ん。じゃあ、行ってくる」



 そう言い残し、人を呼びに行ったララさんの後ろ姿を見送る俺達。


 現在地である薬師の畑は、城の中庭的な場所にあり、四方を壁に囲まれているがあまり閉塞感は無い様に思える。

 まぁ、それだけ城の規模が大きいって事なんだろうけど。


 なんて事を考えながら視線を廻らせていると、やはりどうしても目の前の畑へと視線が引き付けられる。


 危ない物も在る、との話ではあったが、ここに来た目的が目的故に、やはり気になるし直接見ておきたいとの欲望が沸き起こって来る。


 流石に無策では危険すぎる、とも思わなくも無いのだが、今この場には制止する人はいないし、回復魔法を使える桐谷さんもいる。

 それに、改造されている俺の身体には、余程強い毒素でないと物理的には効かないからね。非物理的な毒や魔法的な毒?さぁ、知らない子達ですね……?(すっとぼけ)


 畑の畝や畔を踏まない様に足元に注意し、植えられている植物へと近付いて行く。


 そこには、細やかに手入れをされているらしく、陽光を艶やかに跳ね返す成果物や青々と繁った草花、そして、俺達にも見覚えの在る、ある意味こうしてわざわざ図書館ではなく先に現場にて確認しておこうと思っていた理由の品々が、伸び伸びとその草葉を天に向けて成長させていた。


 昨今の市場事情を鑑みるに、俺達の世代では畑で育てられている現物を直に見る事はそうそう無いだろうが、幸いにして部隊に所属していた時には様々な場所にて転戦した経験の在る俺は、実際に店頭にて見ていたり、モノによっては手ずから栽培した経験も在る為に、まず見間違いを起こす事は無いだろう。

 まぁ、異世界特有の『見た目は似てるけど全くの別物』とか言う即死級トラップが仕掛けられていないとも限らないが、その時は仕方がなかったと諦めるとしようか。

 もっとも、予め[探査]等を使って確かめない限りは、直接触るつもりは無いけどね?


 とは言え、それを差し引いたとしても見た覚えの多大に在るモノが、立派な大きさで艶々とした輝きや艶やかな曲線を晒しているので、つい隣で同じモノを見ている加田屋に対してちょっとしたおふざけをしたくなってしまう。



「……なぁ、コレを見て、どう思う……?」


「……黒光りして、凄く、大きいです……」


「おいおい、それだけかい?もっと『こいつ』を褒めてはくれないのか……?」


「……太くて、大きくて、艶々と黒光りをしながら、それでいてエラの処がガバッと開いていて、その上とてもゴツゴツしていて固そうです……!」


「……ふっ、嬉しい事言ってくれるじゃないの。そんな事言われちゃ、この二つの玉も、期待でますます大きくなっちまうじゃあないか……!」


「……あぁ、こっちも、凄く、大きくて、固そうです……!特に、表面を走っている筋の処なんて、もう辛抱堪りません!思わず、むしゃぶりつきたくなっちゃいます!」


「おいおい、そんな事言ってたら、こっちを見ただけでもイッちまうんじゃないのか……?」


「あぁ!そんなに、プリっと割れ目が入っていながら、それでいて毛まで生えているなんて……!

 僕は、僕はもう、我慢出来そうにありません……!!」


「……ふっ、良いぜ?来いよ。可愛がってやるから、さ……?」


「……う、うぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!」



「……あの~、さっきから二人は、そこに成っている野菜や果物についての話をしていたんだよね?端から聞いていると、限り無く如何わしい会話をしている様にしか聞こえなかったんだけど?

 それとも、滝川君はそっちの趣味が在るから、ララさんみたいなすんごいスタイルの人にくっつかれても平気そうにしていたりするの?ねぇ、ねぇねぇ」



「「いや、間違いなくネタ100%でしたけど、それがナニか?」」



 特に打ち合わせをした訳では無かったが、即興にて合わせて来た加田屋と共に、半ばふざけてガチホモっぽく作物の紹介をしていたら、何故か顔を赤らめた桐谷さんから突っ込みを受ける事となる。

 所々俺達の会話に反応していた事から、恐らくは最低でもソチラ方面についての知識は保有していると見た方が良いだろう。

 まぁ、それについて追及しようとしたら、何故か背筋に悪寒が走ったのでこれ以上触らない方が良いだろう。


 もっとも、そうしてふざけている間に[探査]による調査は終わらせているし、その結果として恐らくは似た様なモノなのだろうと予想を立てる事も出来た。

 これなら、ある程度はどうにかなりそう、かなぁ……?


 なんて事を考えていると、ララさんが管理人と思わしき耳の長い(・・・・)女性を引き連れこちらへと向かって来る姿が見えたので、思考を一旦打ち切って彼女を迎えるべくこちらからも歩み寄りに行くのであった。

なお、主人公達が表現していた作物は上から順番に


茄子

メロン


となっておりますが全部分かりましたか?

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― 新着の感想 ―
[一言] さっさと本編始めてほしいのだが?
2019/11/17 00:33 退会済み
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