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 二人が合流してから暫くすると、三々五々に他の面子もそれぞれに[スキル]を習得出来たらしく、こちらへと戻って来た。


 しかし、その顔付きは様々であり、中には思った様に習得出来なかったのか、あまり顔色が芳しく無い者もいる。

 もっとも、戦闘系ビルドの連中程、そう言う傾向が強い様にも見えるので、特に何をするつもりは無いのだけど。


 そうこうしている内に、別の班に別れていた知り合いや友人に声を掛け、話を聞きに行っていた加田屋と桐谷さんがこちらへと戻って来たので、近くにいた(ほぼ隣)レティシア第二王女へと目配せする。


 すると、彼女もこちらの意図を理解してくれたらしく、軽く咳払いして皆の注目を集めてから発言する。



「さて、皆さん一応は[スキル]の使い方を習得出来た様ですし、時間も良い処なので今日はここまでにしておきましょう。

 生産系の方々は早ければ明日からでも、戦闘系の方々は遅くとも来週にはそれぞれ『お仕事』を始めて頂く事になりますので、そのつもりでお過ごし下さい。正確な日時と行き先等は、追って連絡致します。

 では、解散して頂いて結構です。ごきげんよう」



 そう言い残し、最後に俺に向かって軽く会釈をしてから部屋を出る王女殿下。

 ちなみに、なんとも都合の良い事に、この世界でも一年は365日で一月は大体30日、一日は24時間で表記も表現もそのままだ。更に言うなら、時計の類いもそこら辺に……と言う程には無いが、それでも少し探せばすぐに見付かる程度の頻度で壁に掛けられていたり、棚に置かれたりしている。


 そして、それらの時計は、現時刻が12時を少し回った辺りである、と言う事を示していた。


 昼飯時か、と言う事に思い至ると同時に、そう言えば、と空腹を感じ始めたのだが、普段とは少し様子が異なっている様にも思える。


 具体的に言うと、朝食として頂いた量からすれば、ここまでの空腹感を覚えるのは少しおかしい様な?と思う程度には、胃が空腹を訴えて来ていた。


 一応、高校生と言う事にはなっているが、既に成長期真っ盛り、と言う訳でも無いし、部隊に居た時に受けた訓練によってある程度の空腹感は無視出来る様になっていたのだが、それでも今感じているのはそれらの容量をギリギリ上回らない程度の強さで俺の脳を刺激してきていた。

 具体的にこの空腹感を表すのであれば、三日程食事を採らずにいる時と同程度か、もしくは飢餓感の二歩手前、と言った感じだろうか?

 しかし、この突然の現象の原因は一体……?


 なんて事を考えていると、隣から特徴的な音が複数聞こえて来たので、そちらへと反射的に視線を向ける。


 するとソコには、恥ずかしげも無く頭を掻きながら盛大に腹を鳴らしている加田屋と、片手で真っ赤に染まった顔を隠しながら、もう片手で可愛らしく鳴る腹部を押さえて音を誤魔化そうとしている桐谷さんの姿が在った。



「いや~、はっはっはっ!なんか、時間を意識したからか、急にお腹減っちゃってさ!僕らもご飯食べに行かない?」


「……うぅ、聞かれた……絶対聞かれた……!

 お腹鳴ったの聞かれただけでも十分恥ずかしいのに、よりにもよって滝川君に聞かれた……!

 ……恥ずかし過ぎて、もう死にそう……」


「……ん?何をそんなに恥ずかしがる?[スキル]を使えば[マナ]が減る。[マナ]が減れば、ソレを補充する為に腹が減る。至極当然の事。

 一々恥ずかしがっていては、身が持たないぞ……?」


「そんなの!特定の相手に聞かれるのが恥ずかしいに決まってるでしょうが!!?」


「…………まぁ、聞く限りだと不可避の生理現象っぽいし、そこまで気にしなくても良いんじゃない?そんな事より、俺もお腹空いたからお昼頂きに行こうか。何が出るのか、個人的に楽しみなんだよね」


「……ん。なら、早く行く。この時間を過ぎると、食堂が混み出すから、それは遠慮したい……!」



 何やら不穏な空気を察した俺は、『とある事情』によって食事が楽しみになっていた事もあり、多少強引さは否めないながらも話題を転換させて移動を促す。


 この城に勤めていたララさんからの助言(?)もあり、かつ全員が空腹感を抱いていた事も多大に影響した結果、先程の事は『何も聞かなかった』と言う事にするのが雰囲気により決定し、誰も触れないままに移動を開始するのであった。


 ……でも、別段気にする様な事でも無いとおもうけどねぇ?

 沢山食べる女性の方が健康的で好いと思うのだけど、それって少数意見なのだろうか……?





 ******





 直前の取り決めに従い、今朝と同じ様にララさんによって抱き抱えられた状態にて、頭頂部をハスハスされながら運ばれて行く俺と二人は、今朝ぶりに食堂へと到着していた。


 流石に、深谷達でもあのまま長居するのは気まずかったのか、今はかつて座っていた席に目を向けても、ソコに姿を確認する事は出来ないでいた。


 もっとも、ソコに居たからと言って、特に何をするつもりでも無かったから、割りとどうでも良い事では在るのだけどね?


 なんて事を考えつつも、やはり襲い来る空腹には耐えきれず、そそくさと空いているテーブルへと移動し、席に着く。


 すると、すかさず使用人の人達が給仕を始め、あっと言う間に食事の準備が整って行く。


 気配で分かっていた事とは言え、その洗練された動作に思わず魅了されていると、どうやらその使用人さん達は今朝も俺達の給仕として着いていてくれた人達らしい事に気が付いた。



「……今回も、ありがとうございます。残さず、美味しく頂きますね?」



 そうやって声を掛けると、最初に驚いた様に目を見開きながらも作業を進め、最後に僅かに微笑みながら会釈をしてから壁際へと戻って行った。


 ロングスカートのメイド服の後ろ姿を見送り、女性陣二人から微妙な視線(冷たい様な、それでいて何かを学習されている様な?)向けられながら、出された昼食に手を伸ばす。


 今回のメニューは、朝と同じく硬く焼き固められた黒パンと野菜のスープ。それに加え、パッと見た限りでは何の肉なのかイマイチ判別の付けられない謎の肉に、塩を掛けて焼いたと思われるモノが二切れ程着いて来ている。


 黒パンを手に取りつつ周囲へと視線を廻らせれば、他の席に着いて食事をしている様々な人達もそれぞれで食事を取っているのが見えるが、どの席を見ても在るのは黒パンとスープだけであり、例の謎の肉は俺達だけにしか興されていないらしい事が見てとれた。

 ついでに言えば、元クラスメイト達のテーブルでも、俺達と同じ様に謎の肉が二切れ置かれている処や、一切れしか出されていない処。そもそも出されてすらおらず、この城に勤めているのであろう他の人達と同じメニューを、渋々食んでいる処もある様にも見える。



 どうやら、この謎の肉、割りと特別なメニューだと思った方が良さそうだ。

 他の一般の人達には出されていないし、何よりララさんの視線の輝きと尻尾の振りが今朝の比じゃ無い位に激しいモノになっている。

 多分、かなり手に入り難いものか、もしくは上質な食材なのだろう。多分。



 なんて予想を立てつつ、嬉しそうに肉へとかぶり付くララさんを横目に見ながら、手に取った黒パンを大きく囓る。


 すると、口の中に黒パン独特のライ麦の香り(・・・・・・)酸味(・・)が広がり、それと同時に今朝も味わった強固な歯応えが返って来る。


 それらを渾然一体として楽しみながら噛み続けていると、後から麦の旨み(・・)甘味(・・)がほんのりの浮かび上がってきて、俺の舌を楽しませる(・・・・・・・)


 次に、今朝から気になっていたスープへも手を伸ばし、スプーンにて一掬いして口への運ぶ。

 保存の為か、それとも腹持ちを良くする為かは不明だが、塩気が強い味付けとなっているが、その奥には野菜の甘味(・・・・・)肉の旨み(・・・・)が確りと隠されており、他の皆が顔をしかめる程の出来では無いし、むしろ上等な分類に在る料理だと言っても良い出来だと思われる。


 そう、ここまで言えば嫌でも理解しているだろうが、俺は今朝まで喪っていた味覚を取り戻している。


 俺としては予想外の副産物であったのだが、どうやら俺の味覚障害の原因もメンテナンス不足から来る身体の不調だったらしく、[修復]と[整備]のコンボによって原因が取り除かれた上に、味覚障害自体も効果の対象になっていたらしく、こうして以前の様に味を楽しむ事が出来ている、と言う訳だ。

 まぁ、もっとも、俺がそれに気が付けたのは、[探査]の画面の端の方に『味覚障害の解除を確認』って表示を見付けたから、と言うのが正直な処なのだけどね?


 と、そんな事は置いておくてして、俺はとうとう例の謎の肉へと手を伸ばす。


 漂って来る芳ばしい香りや、綺麗に焼き色の付けられた表面は食欲をそそって来るのだが、如何せん豚にも牛にも鶏にも見えない謎めいた外見をしている為に、加田屋も桐谷さんも最初の一歩が踏み出せないで躊躇している様にも見える。

 そんな二人の様子を横目に、俺は手にしたフォークにて二枚在る謎の肉の内の片方をブスリ!と突き刺し、口へと運んで行く。



 刺した時の感触としては、結構弾力が高そうな感じに思えたけど、実際の処としては如何なものか!?



 ………ガブッ……!!


 ……ギリッ!ギリリリリッ……ブチッ!!



 ……全力での顎の力と、腕力を駆使して肉を噛み千切る。

 そして、前歯だけでなく奥歯も総動員して、この強固な肉を噛み砕き、擂り潰して行く。


 ……いや、別段、不味くは無いのだ。

 肉その物の味としては、まるで牛モモ肉の様な、重厚かつ圧倒的な赤身の旨みと、鶏肉の様な脂身から発せられる肉汁により、複雑ながらも繊細な肉の旨みが口の中を蹂躙してくる。故に、むしろ『美味い』と表現しても良いかもしれない。


 ……しかし、それらの上向きな評価の悉くを覆さんとするかの様に、圧倒的欠点として凄まじいまでの『固さ』を誇っている。


 ぶっちゃけ、噛んでいて味がするから辛うじて『肉』だと認識出来るが、そうでなかったとしたら『革鎧の一番硬い部分だ』と言われても納得出来る自信が在る。それ位に固い。


 そして、固い事で有名な黒パンを普通に噛み砕ける俺をして、そこまで固いと言わしめるソレを普通に食べられる訳もなく、二人を始めとした元クラスメイト達は、皆悪戦苦闘している様子だ。

 俺ですら、暫く噛み続けて漸く飲み下せる程度に擂り潰せたその肉がまだまだ残されていると言う事実と、ソレを容易に噛み砕いて旨そうに飲み下し、まだ物欲しそうな視線を俺達の皿へと向けているララさんと言う存在に戦慄しながらも、まず手を付けるべき分野について思いを馳せながら、残りの食事を掻き込むのであった。


 ……味は良いんだけどなぁ。味は。

さて、矢鱈と固いが味は良い謎の肉の正体は何だ!?

主人公も何やら企んでいる様子だが……?

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