表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/100

13

 

 食堂を後にした俺達は、予め昨日指定されていた部屋へと赴く。

 当然の様に、そこにはララさんの姿も在った。


 もっとも、別段ララさんは仕事をサボってここに居ると言う訳では無い。

 ただ単に、今の彼女の仕事が、俺の護衛兼手伝い、と言う事になっているからだ。


 昨日、他の元クラスメイト達へとオルランドゥ王が実状を説明し、召喚された中で俺こそが求めていた『救世主』だと説明した際に、未だに俺へと敵意を向ける事を止めないで居た連中や、深谷と共に暴れこそはしなかったものの、それでも俺が奴らに虐げられる事を良しとして居た連中から向けられる悪意の類いが在る事は分かっていたので、その際に護衛兼手伝いとして人を付けて欲しい、と願ったのだ。

 それを、周囲から俺へと向けられる視線の意味を読み取ったオルランドゥ王は快諾し、直後に立候補を募ろうとした瞬間に圧倒的速度にて立候補したララさんにより即決する事になった。


 そんな経緯から、今日から彼女のお仕事は、こうして俺を運んで行く事、が主な業務内容と言う事だ。今は、だけどね?


 ちなみに、その護衛兼手伝いに何故か桐谷さんも立候補していたが、まだ[スキル]の使い方すら覚えていないのだから護衛は難しい、との理由からララさんが選ばれた。決して、オルランドゥ王がララさんからのプレッシャーに負けたから、とかではないハズだ。多分。きっと。……恐らくは。


 なんて事をつらつらと考えながら、運ばれた状態にて部屋へと入る。

 すると、まだ指定されている時間よりは少し早かった為にまだ全員揃ってはいなかったが、既にいる面子はある意味予想通りな顔ぶれであった。



「じゃあ僕は、皆に挨拶してくるね。滝川君もどう?」


「いや、遠慮しておくよ。俺とは直接的に面識の無い面子だし、加田屋も何かと話したい事もあるだろう?なら、邪魔しちゃ悪いしな」


「そう?なら、僕は行くけど、皆君には感謝しているんだからね?君のアドバイスを受ける、ソレを受け入れたから今の僕達の扱いが在る。流石に、他の連中みたいに気が付いていない訳でも、気付いていて無視している訳でも、僕らは無いつもりだよ。

 だから、君の気が向いたらで良いから、何時か来てくれても良いんだからね?」


「……まぁ、その内、気が向いたら、な」



 そんなやり取りを挟んで、加田屋は馴染みの皆、俺の指摘で生産系スキルを取っていた面子の方へと歩いて行った。

 そしてその方向からは、軽く会釈をしてきたり、手を上げて挨拶してくる様な、こちらに対して親しみを抱いているらしい面々が加田屋を迎えていた。


 その一方で、その光景を苦々しい思いと共に、もしくは憎らしげに睨み付けている連中も、少数ながら既にこの部屋に入っていた。


 一応、戦闘系スキルの連中も、食堂で馬鹿騒ぎをしていた深谷達で全部、と言う事は無い。

 むしろ、深谷達クラスカースト上位だった連中よりも、数で言えば多い位だろう。


 そして、そんな戦闘系スキルの連中の中で、比較的真面目で真剣に身を守る手段として[スキル]の使い方を覚えたい、と望んでいる面子がここに居るのだろうが、そんな連中の目には、偶々生産系スキルを習得したが為に今後自分達よりも良い扱いを受けられると言うのに、その境遇を何も考える事はせず能天気に受け入れてはしゃいでいる、とでも写っているのだろう。

 まぁ、中には『自分も余った枠で拾っておけば良かった』とか思っているヤツも居るかも知れないけどね?


 なんて事を考えながら、その両方の集団から等しく離れた席へと三人で向かって座る。

 当然の様に、昨日の会談の時の様にララさんの膝に座らされる俺。


 昨日とは異なり、今日は鎧姿では無い為に、その凶悪な胸部装甲の大きさや弾力がダイレクトに背中へと襲い掛かって来るだけでなく、なんだかララさんから漂って来る様な気がする『良い匂い』だとか、座らされている太腿の柔らかでいて確りと筋肉の硬さを感じる独特の触感だとか、昨日よりもより一層激しいスキンシップ(昨日のアレらをより懐いた犬による大袈裟なソレへと昇華させた感じ)だとか、隣に座って凄い目でこちらを見ている桐谷さんの視線だとかにより、ちょっとこれから来る講習に対し、真面目に取り組めるのかが心配になってくるのであった。

 ……いや、マジでこれまともに受けられるんだろうか!?






 ******






 俺達が部屋へと到着してから十数分程した頃。

 ようやく昨日指定された時間になり、それと同時に部屋のドアが開かれ、数人の現地人が部屋へと入って来た。


 そして、昨日見た覚えのある少女が据えられた教壇に立ち、俺達をグルリと見回してから口を開く。



「どうも、皆さん。正確には『初めまして』では無いですが、一応形式として『初めまして』と言わせて頂きます。この度、オルランドゥ王から皆さんへと[スキル]の扱い方を教授させて頂く事になりました、この国の第二王女であるレティシアと申します。以後よろしく。

 ……さて、まだ全員集まってはいない様子ですが、私達としては最低限受けて欲しい方々は既に集まってらっしゃいますし、最重要人物である『救世主』様も既にいらっしゃっておられるので、もう始めてしまいましょう。受けるのも、受けずに我流で通すのも、あくまでも個人の自由と言うヤツですからね。

 では、こちらの指示に従ってグループに別れて下さい。系統が違う者同士が同じ指導を受けたとしても、結果は伴いませんので」



 そう高飛車に言い放つと、彼女に続いて部屋へと入って来ていた人達が、それぞれ教える種類毎に集まる様に促して行く。



「直接攻撃系、分かりやすく言うと武器を使う類いの連中はこっちだ!早くしろ!」


「取り敢えず、魔法系は儂の処に集まれぃ。『~術』とか言う類いも同じくじゃ!」


「俺の処には、武器を使わない類いで魔法以外の類いを取った連中が集まる様に!身体強化だとか、タウント系の連中もだ!」



 それぞれ、鎧を着た騎士、杖を突いた老人、胴着を着た青年、と言った外見の三人が声を張り上げ、それぞれの処で受けられる教えの種類を告知しながら誘導している。


 それに従い、加田屋は主な系統が魔法系である故に老人の処に、桐谷さんは防御系が多かった為に青年の処へと移動して行った。


 そんな中、俺だけは最初に着いた席に座ったままで、他の皆の移動が落ち着くのを待っていた。

 当然、俺を膝に乗せているララさんも、俺の護衛と言う名目でこうして居る為に、同じ様に待機だ。


 暫くして、元クラスメイト達の移動が収まって来たタイミングで俺の事に気が付いたらしいレティシア王女は、軽く頭を下げてから俺に向けて口を開く。



「……お待たせ致しました、『救世主』様。昨日も顔合わせをさせて頂きました、ディスカー王国第二王女レティシア・ウラギルタン・ディスカーと申します。

 この度、『救世主』様の教育を担当させて頂く栄光を賜りまして……」



「いえ、思っても無い事は言わなくても良いですよ?」



「…………はい……?」



 しかし、その口上を、俺は途中でぶった切る。

 当然、今まで『王族』と言う貴い立場に居たであろう彼女は、自らの発言を遮られる事も、また自らの発言が『嘘である』と断言される事も無かったらしく、唖然とした表情のままに固まってしまう。


 そんな彼女の様子を、護衛として着いてきたのであろう騎士達や、俺の背後に居るララさんは呆れた様な、それでいて残念なモノを見るような目を向けるだけで、聞きようによっては不敬以外の何物でもない俺の発言に殺気立つ事も無く、そのまま待機している。


 何か反論の類いや取り繕いでもしてくるかと思って観察していたが、未だに復活して来ない為にそちらには見切りを付け、俺を抱き抱えたまま半ば椅子と化しているララさんへと振り返る。



「どうにも、彼女は俺に[スキル]の使い方を教えてくれるつもりが無いみたいです。ですが、俺としては早い処使える様になりたいので、ララさんが教えては貰えませんか?職務的には『手伝い』の名目で行けませんか?」


「……ん。確かに、教えて教えられない事は無いけど、良いの?吾では、分野が違うから、教えきれないかも……?」


「まぁ、その時はその時で、本職の人達に習うとしましょうか。その方が、教えるつもりの無い人に付き合うよりも、余程建設的と言うモノでしょう?」


「……ん。了解。確かに、その方が合理的。その方が早く終わるし、レティのお灸としても効果的。

 じゃあ、向こうで教えようか?早く覚えて終わらせて、後は二人で良い事を、ね……♥️」


「流石に、明るい内からそれはどうかと……。

 あと、昨日も言った通りに、俺からサービスする事は出来ませんよ?物理的に身体がイカれておりますので」


「……ん!そこは、大丈夫。今朝ので、ちゃんと反応するのは確認済み。だから、動くのは吾がやるから、タキガワは好きな処を教えてくれれば良い♥️」


「…………お手柔らかにお願いしますよ……?」


「……ん♥️それは無理♥️」




「……ちょ、ちょっと待って下さい!!」




「ん?何か?」



 ララさんとの話が纏まった段階で、慌てた様子にてレティシア第二王女が口を挟んで来た。


 それを、内心にて浮かべた黒い笑みを、『食い付いた』と言う呟きと共に笑顔の下に隠しながら、さも『なんでしょうか?』と言わんばかりの表情にて振り返り問い返す。



 自ら呼び止めたのだから、用件を伝えるのは当然だろう?



 流石は王族として日夜貴族との腹の探り合いをしているだけあり(多分だけど)、俺からの無言の内に込められた切り返しを理解しているらしく、何かを言おうとして手を伸ばした状態にて口をパクパクと開閉させているが、これまで培って来た様々なモノ(プライドや矜持)が邪魔してか中々言葉として出て来ない。


 しかし、俺としてはソレを吐き出せる様になるのを待ってやるつもりは無いし、何より待っている時間が惜しい。

 何せ、俺には普通の人間よりも圧倒的に残された時間が少なく、手元にはソレを延長することが出来る……かも知れないモノが在るのだから。


 ならば、ソレの扱い方をいち早く習得し、習熟した上で試してみたいと思うのはそんなに見当違いな考えではないハズだ。

 もっとも、ソレを口に出したり態度で示したりは一切していないハズなので、誰にも知られてはいないだろうけどね?


 なんて事を考えていると、ようやく覚悟を決めたらしい第二王女様が、俺の目の前で大きく頭を下げながら口を開く。



「……この度は、無理矢理お越し願った『救世主』様に無礼な態度を取ってしまい、大変申し訳ありませんでした![スキル]の扱い方に関しましては、誠心誠意ご教授させて頂きますので、どうかご寛恕の程をお願い致したく……!」


「えぇ、良いですよ」


「………………はい……?」



 気合いを入れて許しを乞うたにも関わらず、アッサリと許されてしまい、拍子抜けした様な表情と共に顔を上げる第二王女。



「昨日聞いた話の限りでは、貴女が俺に対してそう言う態度を取りたくなるのも理解出来ます。実際に、悪い前例だけでなく、実例として存在している連中も居る上に、該当する[スキル]を所持していたと言うだけで、未だに何も成してはいないのだから当然でしょう。

 しかし、相手を良く知ろうともせず、自分達を救えるかも知れない手段を持つ相手を最初から見下す様にして接するのは、些か問題が在ると言わざるを得ないですね。先程の様に、臍を曲げられてごねられる方が、色々と面倒でしょう?そこら辺の機微を、もう少し見分けられる様になった方が、何かとやり易くなりますよ」


「……ご指摘、感謝致します……」


「では、互いにある程度の溜飲が下がった処で、指導の方をお願いします。俺としては、教えてくれるつもりの在る方であれば誰でも構わないのですが、どうされますか?」


「……『救世主』様にご不満が無いのでしたら、やはり私が務めさせて頂きたく存じます。よろしいでしょうか?」


「分かりました。では、よろしくお願いします」



 そうして俺は、父親とは違って俺の事を押さえ付けておきたかったらしい王女殿下に、[スキル]習熟の為の教師役をお願いする事になったのであった。

 ……やれやれ、漸く、か……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ