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「まったく!早朝からいきなり何してるの!?時と場を考えてくれないかな!!?」


「……ん。残念。次は、邪魔が入らない様に気を付ける……」


「次なんて有りませし邪魔なんてしてません!滝川君を守る為に、当然の事をしただけです!

 滝川君も、滝川君だよ!?嫌なら嫌って言わなきゃダメなんだからね!?」


「……ん!タキガワは吾の番。なら、子作りするのは自然。それに、タキガワは嫌がって無かった。だから、あの時邪魔だったのはそっち。

 ……次は、ちゃんと二人で気持ち良くなれる様にするから、ね……♥️」


「……ね♥️じゃありません!!!」



 早朝から姦しくも騒がしい会話を、俺の頭上で繰り広げる桐谷さんとララさん。

 そして、昨日と同じくララさんに抱えられた状態にて運ばれる俺、と言った面子で食堂へと向かって行く。


 一応、ララさんには『もう運ばなくて良い』『自分で歩ける』と伝えては有るのだが、他の事はともかくとしてソレだけは頑として受け入れては貰えず、こうして未だに運搬されている状態に在る。

 一度、運ぼうとするララさんの手をやんわりと振り払い、自分で歩いて移動した事も有るのだが、その際にはションボリとした様子にて俺の服の裾をチョコンと摘まみ、俺の後ろをシオシオとした状態にて着いて回る、と言う状態になってしまった。

 ……流石に、そんな状態になられると、不甲斐なさよりも罪悪感が勝ってしまった為に、こちらからお願いしてまた運んで貰う事になった。

 それ以降は、こうして指示する前に捕まってしまい、半ば強制的に運搬されてしまっているのだけれど。


 ちなみに、今朝俺の部屋に忍び込んでいた事については、ララさん曰く



『……ん。ダメとは言われて、無い。だから、別に良い。ちがう?』



 との事。


 ……うん、取り敢えず止めようか?色んな意味でビックリするからね?俺が。


 なお、掛けておいたハズの鍵は、道具を使って開けたんだそうだ。

 体毛に覆われ、肉球すら在る指先にて針金の様な道具を器用に使い、俺の目の前で鍵を開けるだけでなく、外側から閉めてまで見せたのだから本物だと言って良いだろう。


 あと、例のスケスケで超セクシーな夜着は、いつか番になりたい相手が出来た時に使いなさい、とララさんの母親から贈られた私物らしい。しかも、あの格好で自分の部屋から来たのだとか。

 ……もう少しやり様が在ったんじゃないのか?と激しく突っ込みたい処だが、逆に構って貰えている、と思われても困るのでノータッチでスルーしている。まぁ、目の保養になったのは間違いないけどね?ありがたやありがたや(参拝)。

 ちなみに、服装は既に着替えて来て貰っている。言ってから僅か一分程で行って戻ってきて事にビックリだったけど、ソレでも一応はキチンと着替えて来ていたから更にビックリしたのはここだけの話。


 なんて事を誰にもバレない様に内心で溢していると、昨夜も訪れたこの城の食堂へと到着する。


 最初期にて余計な騒動を起こしていた俺達が最後だったらしく、既に席に着いている他の皆に軽く頭を下げてから、こちらに向けて手を上げてアピールしている加田屋の居る席へと向かって行く。


 その途中、どう言う手を使ったのかは不明だが、一日もしない内に牢から出て来た深谷やその取り巻きのクラスカースト上位だった連中が、口々に



「大層な登場だこと」「まだ女に運ばせてるのか」「調子に乗りやがって!」「『救世主』とか呼ばれて浮かれてるんだろう?」「まったく、あの様子を見てもまだ桐谷さんは気が付かないのか?」「あんなヤツの何処が良いんだか……!」



 等の囁きを、わざと俺に聞こえる様に呟いてくる。


 それに反応し、桐谷さんが額に青筋を立てて反論しようとし、ララさんが殺気や牙を剥き出しにして腰の得物に手を掛けようとするのを手振りで留め、俺本人は特に反応を返す様な事はせずに席へと運ぶ様に指示して進んで行く。


 そんな俺の態度に納得が行かない!と二人共にその目が語っていたが、特に文句を付ける様な事はせずに俺に倣って進んで行き、加田屋の対面に座った俺の両隣にそれぞれ腰掛ける。


 特に何も言い返しもしないで席に座った俺に対し、口々にやれ『腰抜け』だの『やはり雑魚か』だの『どうせニセモノ』だとかの罵声が追加で聞こえて来るが、特に取り合う事をせずにいると対面の加田屋が労う様にして声を掛けて来る。



「……まったく。分かってはいたけど、やっぱり大変だね?滝川君も。でも、僕は君の味方のつもりだし、あいつらへの対応は流だったと思うよ」


「あんがとさん。吠えたい馬鹿は放っておいて、早い処頂くとするか?まぁ、遅れて来た俺が言うのもなんだけどね?」


「確かに、それは言えてるね!」


「「ハッハッハッハッハ!!」」



 全くと言って良い程に、先程からの罵声を気にした様子を見せない俺と加田屋とのやり取りを目にしたからか、少し前までの射殺さんばかりの二人の視線は鳴りを潜め、問う様なモノを俺へと向けて来る。


 席に着いた事で、朝食を準備するべく待機していた給仕さんへと軽く会釈してから手を伸ばすと、二人へと視線を向けずに口を開く。



「……納得、行ってないみたいだね……?」


「……そう、ね。正直、私は納得行ってない。あそこまで人を見下してバカにした様な事を言われて、反論も反撃もしないなんて何を考えているの!?自身の尊厳の為にも言い返すべきだったでしょう!?」


「……ん!吾も、納得してない。タキガワに救われた分際で、あいつらは何を囀ずる権利が在る?

 救った相手を侮辱する、ソレは獣人なら、絶対にしちゃダメな最低の行為!そして、番が貶されたのならば、その謗りは番が晴らすのが獣人のルール!

 あいつら、何様のつもりか吾は知らない。でも、一方的に自分達のルールを押し付けるつもりなら、吾も同じ様に獣人のルールを押し付ける。それが、平等と言うモノ!」



 視線を向けずとも腸が煮えくり返っているらしい二人の様子に、加田屋と共に苦笑を浮かべながら『とある場所』の様子を確認する。

 すると、案の定過ぎる光景が広がっており、加田屋共々黒い笑みを浮かべながら朝食を口にする。


 堅焼きの黒パンを噛み砕き、半ばイカれている俺の舌で判別出来る限りでは、野菜と薫製肉の入った塩で味付けされているとしか分からないスープを飲み下す。


 向かいで食べている加田屋の様子から、お世辞にも俺達の世代の味覚からすれば『美味しい』と表現出来る様な味付けでは無いらしい事が察せられる。

 ……これは、[スキル]の使い方を覚えたら、比較的速やかにこちらの方面にも手を入れる必要が在るみたいだね……。


 しかし、俺達からすれば微妙であったとしても、こちらの世界ではかなりのご馳走であるらしい事は、俺達へと給仕をしてくれている使用人の人達の視線や態度、それと同じく現地民であり隣で同じメニューを食べているララさんの雰囲気から容易に察する事が出来た。


 なので、微妙な表情にてどうにか食べ終えた加田屋や桐谷さんに視線で促し、俺達と同じ物を比較的嬉しそうな様子(尻尾と耳をパタパタさせていたが、俺を抱えている時よりは振り方が緩やか)で食べていたララさんが食べ終えると同時に、ある程度食器を纏める等の後片付けをしてから席を立ち、給仕をしてくれていた人達に一言



「ありがとう、美味しかったです」



 と声を掛けて席を離れる。


 それを見た加田屋は、やはり俺の意図を理解していたのか、俺と同じ様に後片付けをし、給仕の人に一言掛けてから席を立つ。


 しかし、それを不思議そうに見ていた桐谷さんには俺達の意図は伝わっていなかったのか、一応食器の類いを整えてはいたものの、特に声を掛ける様な事はせずにそのまま席を立ち、先に歩き出していた俺達へと向けて歩いて来る。

 ララさんは、恐らくは普段の通り、特に何もすることはせず、綺麗に食べ上げてからそのまま席を立っていた。


 そして、合流して食堂を出ようとしている俺の耳元へと囁き掛けて来る。



「……あの、滝川君?さっきの目配せって、一体どう言う……?」


「……まぁ、気が付かなかったのなら仕方無い、か。

 でも、割りとこの手の地道な仕込みは有用だから覚えておいた方が良いよ?」


「……え?何を……?」


「まぁ、ああ言う事だよ、滝川さん」



 話に入って来た加田屋の指差しにより、食堂の『とある場所』と俺達がいた場所を見比べる桐谷さん。



 方や、料理にケチをつけ、横柄な態度で『もっとマシなモノを持ってこい!』と要求し、特に片付けや労いをする事もせずに騒ぎ続ける深谷達。


 方や、文句も言わずに完食し、丁寧な態度で『美味しかったです』と労いの言葉を口にし、更にはある程度の後片付けまでやってから、仕事の邪魔にならない様に速やかに席を離れた俺達。


 そんな二つの席へと注がれる使用人達の視線と、昨日に比べれば少なくなっているが、それでも確かにいる兵士達と騎士達からから向けられている視線の温度差が、そこには確かに在った。



 プロとして、命じられた仕事は確実にこなす使用人達だが、そこには確実に感情が在り、その基本には必ず人格が在る。

 ならば、その人格を否定し感情を逆撫でする相手と、仕事として任せつつも労い感謝を伝えて来る相手、そのどちらが心地好く接し、またより良い成果を出して上げたいと思う相手だろうか?

 その答えが、今ここに在る。


 壁際にて待機し、未だに騒ぎ続ける深谷達へと極寒の視線を向け続ける使用人達と、無表情を保ちつつも、それでも視線や雰囲気が柔らかく温かなモノへと変わり、こちらが軽く手を振ると会釈して返してくれる程度には友好的に接する事を決めてくれた使用人達。

 そのどちらが、どう言う決断を下したのかは、言うまでも無いだろう。



 それを手振りと視線にて二人へと示すと、まるで考えてもいなかった、とでも言いたげな視線が返されて来る。

 唯一俺と同じ様な考えに至っていた加田屋も、苦笑いを浮かべながら頭を掻いている。



「……滝川君。もしかして、嫌な顔一つせずに完食したり、深谷君達からの罵声に反応しなかったのも、これの為だったの?」


「……ん。確かに、あそこで反応したら、使用人からの心象、悪くなってたと思う。敢えて取り合わないで流していた様に見えたハズ。多分だけど、その方が好印象にはなってると思う……!」


「まぁ、否定はしないよ?確かに、深谷達からの罵声を無視していたのは、あそこで反応しても回りからの心象としては、あいつらと同レベルのバカが増えた、になりかねなかっただろうから、敢えて無視して流せる度量が在る、と思って貰えた方が良いでしょう?それに、食事だって出されたモノを酷評されたり、わざと手を着けないで残されたら不愉快になるモノでしょう?

 まぁ、もっとも?実際問題として、深谷達に絡まれてやる時間が勿体無かったし、料理自体もそこまで美味しくなかった訳じゃないよね?ただ単に、慣れ親しんだ味付けじゃなかった、ってだけで」


「……滝川君?僕はある程度は君と情報を共有出来ていると思っていたから、ある程度は何を言いたいのかは理解出来る。アレでしょう?『人の食べ物を食べられるだけで恵まれてる』って言いたかったんだよね?

 でも、これだけは一般常識として言わせて貰うよ?人は、ソレを、美味しくなかった、って言うんだよ?知ってたかい?」


「……そう?俺は、別に嫌いな味付けじゃなかったと思うんだけど?」


「…………時折、僕は滝川君が僕と同じ文明社会で生きていなかったんじゃないのか、と疑いたくなるよ……」



 加田屋からの、実はかなり核心に近い処を掠めている突っ込みに内心でドキドキしながらも、敢えて表情や言動に出す事はせず、そのまま[スキル]の使い方を教えてくれるとの予定になっている場所へと移動を開始するのであった。

 ……冗談でも、部隊に居た時の経験を元に話すのは止めておいた方が良かったかねぇ……?

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