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予告通りに最終回(一応)

少々長め

 


「それでは、送還の儀を執り行います。帰られる方も、残られる方も、双方共に陣の縁から離れて下さい!」



 先程も説明をしてくれていた術士と思われる人が掛けてきた言葉に従い、俺と花怜さんは一歩後ろに後退する。


 その姿は互いに想いの内を打ち明けたからか今までとは異なり、俺の右腕はさも当然の事と言う様に、彼女に抱き抱えられる形で拘束(?)されてしまっている。


 ……先程から何度か、極力やんわりとだが、彼女の持つ立派な『オモチ』が俺の腕に当たっている、と言う事を伝えてはいるのだが、その度に周囲へと見せ付ける様にしてわざと挟み込む様にして腕に抱き付いてくるので、直近では注意する事は既に諦めつつあったりする。


 当然、衆目の在る状態にてそんな事をしていれば激しく目立つ事になる。


 現に、深谷を始めとした花怜さんに対して粉を掛けていた男子連中は、口々に呪詛を吐きながら血涙を流して悔しがっている。深谷なんて、散々訳の分からない事を喚き散らした挙げ句、魔方陣によって自動生成されていた一方通行の障壁に対して、自身が得ていた[スキル]等を使って斬りかかる迄に錯乱した様子を見せていた。


 それとは逆に、大多数の女子達は、陣の内側外側関係無く、それまでは固唾を飲んで見守っていたにも関わらず、いざ事が済んだら黄色い悲鳴を挙げ始め、挙げ句花怜さんに群がってアレコレと聞き出そうとする始末だ。


 もっとも、一部の女子……と言うよりも加田屋なのだが、花怜の取った行動が不満だったらしく、自らも無言のままに『自分はまだ怒っています』アピールをしながらも、彼女と同じ様に俺の左腕を確保した上でそちらも同じ様に、押し当てたり挟み込まれたりしている。


 そして、そんな俺と二人との様子をまたしても血涙を流しながら眺めている男子諸君を、俺達は陣の外側から(・・・・)苦笑しながら眺めていたのだ。




 ……そう、ここまで言えば分かる通りに、俺はこちらの世界に残ると言う選択をした。




 元より、向こうの世界に未練の類いはあまり無い。


 確かに、こちらの世界の方が色々と不便だし、何をするでもなく何処に行くでもないにも関わらず、こちらの世界の方が様々な命の危機と隣り合わせの状態になり易い。

 それに、お世辞にも各方面に対しての利便性が高く、過ごしやすい環境に在るとも言い難い。


 それは、当然理解している。

 現に、こうしてこちらに残る選択を宣言した際に、深谷の野郎からもその点を嘲笑と共に愚かな選択だと指摘された。

 ……まぁ、あの野郎はそれに続けて再度花怜さんの事を口説いていたから、最初から俺を扱き下ろしたかった、と言うのが正直な心情なのだろうけど。


 しかし、残りの寿命が少ない俺としては、元よりどちらに居たとしても命の危険が多いのには代わり無い。むしろ、向こうの世界では否応無く付けられる監視によってもたらされるストレスから解放される上に、ある意味危険が分かりやすいこちらに居た方が、より良い余生を過ごせると言うモノだろう。

 それに、こちらの世界であれば、俺の事を『俺だから』と言う理由で守ってくれる様な人々が沢山居てくれるのだから、安全性で言えばやはりこちらの方が高いと言える。


 利便性に関しても、幸いにも俺は各種生産系の[スキル]と、それを補助してくれる【職業】を得ている。

 なので、既にこの世界に在る似ているモノを代用として利用したり、似たモノが無ければ自分で作って使うなり、周囲へと広めるなりすれば良い。そうすれば、自ずと利便性も上昇して行く事になる。



 食の好みの問題は、既に解決した実例を作ってある。


 衛生面も、過去の依頼により、まだ薄くではあるが一般にも浸透しつつある。


 各種便利アイテムも、アイデアの段階のモノも含めれば、それなり以上の数を作るだけは作ってある。比較的造りの簡単なモノであれば、この世界でも量産に近い事すら出来るだろう。



 ここまで各種条件を整えてあれば、俺としては向こうに戻るよりも不満無く、充足した余生を過ごせるだろう。


 まぁ、とは言えそれはあくまでも『最悪』を知っている俺の話。

 そんな特殊な経験の無い花怜さんや加田屋をこちらの世界に残らせる事に躊躇を覚えなかったと言えば嘘にはなるが、二人曰く



『後でお風呂作ってくれればそれで良い』



 との話だったので、多分どうにかなるだろう。やはり人間は慣れる生き物。彼女達も、頑丈になったって事なのだろう。

 まぁ、とは言え、俺も風呂には入りたいので作る事に否やは無いのだけれどもね?



 なんて事を考えていると、いよいよ準備が整ったらしく、いつぞや見た覚えの在る様な光を魔方陣が放ち始める。


 その段に至っても、未だに悪鬼の様な形相にて深谷の野郎が脱出しようと抵抗を続けているが、そもそも帰還を望んだのは自分だろうし、何よりもいの一番に陣へと踏み入った癖に、今更意地汚く足掻く様は見苦しさしか感じられない。


 競う様にして俺の両腕を取っている二人にしてもそれは同じ様な感覚であったらしく、両隣からは



「…………うん、最後までカッコ悪い処しか見せて来なかったね。正直、向こうに居た時から気持ち悪いと思ってたんだよねぇ……」


「……はっ、ざまぁ。僕らに散々絡んできて迷惑かけてくれた上に、僕とこいつを殺しかけたんだから、コレくらいの罰は当然だろうに。むしろ、軽すぎるんじゃないのか?もっと絶望すれば良いのに……!」



 との、ちょっと内容が黒すぎる言葉か聞こえて来るのだが、その表情は晴れ晴れとしたモノであり、瞳も爛々と輝いている処を見ると、やはりあの連中には多大に不満とストレスを溜め込まさせられていたのだろう事が窺えた。


 深谷は深谷で、相も変わらず呪詛を吐き出しながら境界に張られた結界(の様なモノ)を叩いていたが、より一層強い光が魔方陣の中を満たした次の瞬間には、まるで最初からそこには誰も居なかったかの様に、綺麗サッパリ誰の姿も残されてはいなかった。


 それを見送ってから、他のこちらに残る事を選択した連中は三々五々に部屋から出て、それぞれ思い思いの方へと連れ立ったり一人でだったりで進んで行く。


 そして、部屋に残っているのが俺達だけになってから、改めて二人へと向き直り、深く深く頭を下げる。



「……まず、最初に、二人に謝らせて欲しい。

 あの時は、あんな風に責め立てて済まなかった。本当に、心の底から悪かったと思っている。

 それと、こんな俺と一緒に、こちらの世界に残ってくれてありがとう。もう、そんなに長くは一緒に居られないと思うけど、それでも最後まで一緒に居てくれると嬉しいです」


「……私からも、謝らせて。誤解させる様な事をして、ごめんなさい。

 でも、私の気持ちとしては、さっき言った通りだよ。だから、人目の在るここでは言わなくても、分かってくれるよね?

 それに、本当に貴方の事が嫌になってたら、さっさと深谷とかの誘いに乗って、向こうに戻ってるからね?

 ほら、加田屋君はどうなの?」


「……うん、まぁ、その……。正直、あの時のアレには未だに納得しかねているけど、こうして謝ってくれてるからもう良いよ。それに、僕も少し言い過ぎたと思う。ごめん。

 でも、こうして僕もこちらの世界に、しかも女の子として残る事になったんだから、ちゃんと幸せにしてくれないと怒るよ?その時は、今回みたいに許して上げられるか分からないからね?」


「…………ははっ、じゃあ、そうやって怒られる位には、頑張って長生きしないとな……」



 そんな俺へと、花怜さんは最早愛しさを隠そうともせず、加田屋は半ば呆れた様な表情と声色をしながら、それぞれの言葉で俺の事を赦してくれた。


 思わず目尻に滲んで来る涙を拭いながら頭を上げる俺は、そう言えば、と思い出して腰のポーチから小瓶を取り出す。



「……そう言えば、結局コレってなんなんだ?ララさん達からは、こちらに残るのなら必要になるモノだ、としか聞いてなかったんだけど……?」


「……えっ?それ、まだ飲んで無かったの!?

 ララさんだとか、セレティさんとかから聞かされなかったの!?」


「……いや、流石に毒の類いを渡されたとは思っていなかったけど、この見た目のモノをなんの説明も無く飲んでおけ、と言うのはちょっと……」


「いや、それ、本当に滝川に必要なモノだから。何時飲んでもあんまり違いは無いみたいだけど、早めに飲んでおいた方が良いよ?てか、てっきりもう飲んだ上であの態度だったのかと……。

 まぁ、良いか。強制的にでも、今飲ませれば。

 ほら、今後も僕達と一緒に生きて行きたいのなら、キチンと飲んでしまおうか。身体が気になると言うのならなおのこと、ね?と言う訳で、さぁ、グイッと!一気に!!」


「…………え?いや、でも、え……?」


「ほら、なんでそこで躊躇する!?味の方は…………うん、製作者(セレティさん)曰く『考えない方が良いと思うけどねぇ?』とか言ってたから負の方向性で保証はされてるけど、ここは無言で飲み干すのが漢ってもんでしょうが!?」


「じゃあお前、例のトラップに引っ掛かる前だったら、コレ特に躊躇う事無くイッキ飲み出来たんだろうな!?」


「………………ほら、良いから早く飲む!!」


「誤魔化しやがったなこの野郎!?!?」


「えぇい、クソ!拉致が明かない!仕方無い。この手段はあまり使いたく無かったんだけど、こうなっては使う他に無い!

 と言う訳で、『例の手段』に出るから桐谷さんも協力宜しく!」



 一方的に言うだけ言い立ててから、花怜さんの返事を聞くこともせずに俺の手にしていた小瓶を奪い取る加田屋。


 咄嗟の出来事に反応できずに唖然としていた俺の目の前で、一息で小瓶の中身の半分ほどを煽る加田屋。


 中身を口に含んだ瞬間に顔色を青ざめさせ、反射的に吐き出そうとしたのか口許を手で押さえているが、どうにか吐き出す事はせずに済んだらしく、プルプルと震えつつ涙目になりながら、もう半分ほど残された小瓶を花怜さんへと渡していた。



「……おいおい、それでいったい何をするつもり……って、むぐっ!?」



 彼女(?)の行動を問い質すついでに背中でも擦ってやろうか、と思って歩み寄ると、いきなり両手で俺の顔を固定し、そのまま勢い良くぶつかる様なキスをされてしまう。


 頭の何処かで『そんな勢いで来たら歯同士がぶつかって痛いんじゃ……?』だとかの見当違いな事を考えていたりもしたが、その他の部分は突然すぎる程に突然な事態に思考が停止し、脳裏が漂白された状態になってしまっていた。


 なので、弛んでいた顎の力が抜けるのと同時に、こちらの唇を割り裂く存在にて口腔内を蹂躙された上に、矢鱈とエグ味と苦味と臭みが強い謎の液体を流し込まれてしまった場合、条件反射的に飲み下してしまったとしてもそれはある意味仕方の無い事だった、と思って貰いたい。


 腹の中へと下って行く異物感に反射的に吐き出しそうになるモノの、依然として加田屋によって口が塞がれているので吐き出す事も出来ず、むしろお前そんなテクニック何処で習得した!?と突っ込みを入れたくなる程の彼女(?)の舌捌きにより、あっという間に腹部の異物感を忘れ去ってしまう。


 暫しそうして口内を蹂躙されていると、唐突に俺の口を塞いでいた加田屋が後方へと不自然に離れて行き、それと入れ替わる様にして花怜さんの顔が迫って来た。


 香水とは異なるのだろう、甘く軽やかな彼女の香りに包まれると同時に口付けを受け、舌先にてつつかれるがままに受け入れると、先程と同じ様な形容し難い何かを口の中へと流し込まれ、絡み付いて来る舌の動きにて促されるままに飲み込んでしまう。


 その際に感じたエグ味や苦味に自然と顔をしかめていると、それを察知した様により、まるで口直しだ、と言わんばかりの勢いにて一層彼女の舌が激しく絡み付いて来る。

 ……こうして表現すると変態じみているので嫌なのだが、何故か彼女の口付けは甘く感じてしまうので、本当に口直しになってしまっているのは内緒の話だ。



 そうして、二人によって、恐らくは例の小瓶の中身だと思われるモノを飲み下されてしまった俺は、荒ぶる息を整える為に、視線によって二人に問い掛ける。


 すると、二人の方も息を整えつつ、何処か何かを成し遂げた様なドヤ顔をしながら説明を始めた。



「……ふぅ、へっへっへっ!どうだこの野郎!みたか!これで、ファーストキスもまだだとか言わせないからな!それに、これでお前は否応無く僕らと同じ時間を生きる事になったんだ!今までみたいに、何処か達観した様子ではもういられないぞざまぁみろ!!」


「……!?」


「…………ふぅ、どうして、響君の唾液って甘いんだろうね?あんまり長く味わってると、下腹部がキュンキュンしちゃうから大変なんだよ?

 ちなみに、さっき飲ませたアレはセレティさんの実家に伝わる秘薬でね?なんでも、飲んだ人の寿命をエルフ並みに伸ばすだけじゃなく、老化までも遅らせてくれる優れ物なんだって。

 元々、長命のエルフが他の短命の種族と恋仲になった場合を想定して作られた薬で、材料も貴重だからアレ一本しか作れなかったみたいだけど、殆ど余命が残っていなかった響君なら人並みに伸びる程度に収まるだろうし、僅かに口にしただけの私達なら若々しい見た目が長続きする程度の効果に収まるんじゃないかな?」


「……っ、はっ、はっ……。そ、それ…………他の皆は……了承、しての事……なのか……?」


「当然。そもそも、今回の作戦を言い出したのは姫様だけど、元々あの薬はセレティさんが作ってたヤツだからね?適当なタイミングで飲ませるつもりだった、とか言ってたけど、以前倒れた時に何かしら感付いていたんじゃないの?僕が気付く位なんだから、多分何処かで予想はしていたんじゃないの?

 まぁ、確実に滝川を逃さないように、とか企んでた可能性までは否定しないけどさ」


「……………お、おぉう……。

 知りたく無かった事実を知った気分……」


「まぁ、そう落ち込まないで?一番の問題も解決したし、そろそろ例の魔王も討伐出来る目処も立ったんでしょう?

 だったら、もうこちらの世界を楽しみ尽くすしか無いよね!

 それに、他の皆も私達の報告を待ってくれているハズだから、そろそろ行こうよ!ほら、早く早く!!」


「そうそう!当事者以外は我慢する代わりに、僕達には早急な報告が義務付けられているんだから、早く行くよ!

 僕達もこの世界に根付かせたんだから、その責任は確り取って貰うからね!友人としてじゃなくて、一人の女の子として、さ!」



 そう言って、無邪気な子供のように俺の手を引き部屋の出口へと向かって行く花怜さん。


 それに同調する様に、彼女とは反対の手を取って同じ様に引っ張り出す加田屋。


 そんな二人の久しぶりの笑顔を目の当たりにし、何故か泣きたい気分になりながらも、最後に残された矜持として見せる事はせずに我慢し、引かれるがまま導かれるがままに前へと踏み出し、何故か眩しく光輝いている様に見える出口へと向かって行くのであった。

と言う訳で、コレにて閉幕となります


とは言え、まだ回収していないフラグだとか、想定していたこの後の展開だとかもまだ在るので続ける事は可能なのですが、取り敢えずはここまでとさせて頂きますm(_ _)m


一応、この後に関しては『第二部』として書くのか、もしかは『アフターストーリー』的な番外編として書くかは決めていませんがその内書く予定です

ご安心(?)を


長くなりましたが、半分くらいタグ詐欺・粗筋詐欺に近かったであろう今作品に今の今までお付き合い頂きありがとうございましたm(_ _)m

読んで下さった方々に多大なる感謝を(^^)


まだ未定ではありますが、コレがアップされるのと同時に新作を始める予定となっております

現時点での想定では以前と同じく戦闘メインの作品になる予定ですので、そちらも合わせてお楽しみ頂ければ幸いですm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れ様でした。 [一言] 滝川君、両手で二人の背中をトーンとそうトーンとしようよ。 加田屋と桐谷は、多分君と相性悪いよ。 最後なのにララさん達の影が薄い(>_<)
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