第5話 理想の彼氏が欲しい
200円の替わりにユキちゃんが、イラストの要求をしてきた。
「トキコ、次はこっちの約束を守ってよ。今日の授業中に描いていたイラストを見せてよ。ほら、理想の彼氏のイラストだよ」
「まあ、いいよ。奢ってもらった約束だから見せるよ。ちょっと待ってね」
私はバッグから数学ノートを取り出す。そして、ユキちゃんに見せる前にイラストの内容を確認した。そこには少女漫画のような、スーツを着た長身の美少年が描かれていた。
髪型はサラサラで、切れ長の目はパッチリ二重だ。イラストの横には美少年のプロフィールが書き込んであった。プロフィールはこんな感じだ。
名前は宮野裕貴。年齢は20歳であり、身長180センチの細マッチョである。職業は弁護士で年収は1000万円。愛車はフェラーリを乗りこなす。芸能人と間違われるくらいのイケメンで性格はオラオラ系である。以上が私の理想の彼氏である。
よし、現実にいそうな彼氏の設定になっているな。3か月前、ユキちゃんに芸能人のアイドルのイラストを描いて彼氏にしたいと言ったら、鼻で笑われたな。
一般人がアイドルと結婚できる確率はうんぬんと長話を聞かされたものだ。でも、今回は納得してもらえそうだ。そうだよ、ちゃんとした普通の一般人だし、東京では普通に歩いていそうだ。
私はユキちゃんに数学ノートを渡した。
「ほら、このページのイラストだよ。今回の彼氏は設定が弁護士だし、前回のアイドルと違って現実的でしょ? これなら、結婚できる可能性もゼロじゃないよ」
すると、ユキちゃんがマジマジとノート見た。そして、一瞬の沈黙の後に噴き出した。
「ぷっ……ぷぷ……。ぶっは、ダメだ、アハハハハハ……。アハハ、ゴホッ? ごほっ、ごほ……。ふう、喉に唾が入っちゃった。いやー、ごめん、本当にごめん、ウフフ」
「えっ、ガチで笑う所なんかないでしょ? かなり妥協して、超現実的な彼氏を考えたんだけど? だって弁護士なんて腐る程いるでしょ?」
「アハハ、現実的ねえ……。でも、前回のアイドルよりは可能性あるかな? まあ、ツッコミ所が満載だけどね。それにしても、トキコらしいね。ウフフ……」
うむむ、そんな笑う事かな? 私は社会に出た事ないけど、年収1000万円なんてゴロゴロいるはずだよ。芸能人やミュージシャンみたいに、何十億も稼いでいる人は少しだけどさ。
そうだよ、一般の男性の平均年収が600万とかテレビでやっていたし、ちょっと優秀なら1000万円なんて楽勝なはずだよ。それだけあれば共働きしなくていいしね。
それにしても、私はユキちゃんが何故笑っているのか理解できなかった。