第4話 ユキちゃん、大人にならないで
私達は学校を出て駄菓子屋に向かった。
馴染みの駄菓子屋に入ると、6畳くらいの狭い店に駄菓子がビッシリと並んでいた。スナック菓子、チョコ菓子、怪しい色のゼリーやガム、小さいカップラーメンなど、小学校時代から買っていた商品ばっかりだ。
透明ケースの冷蔵庫の中にはラムネや紙パックの飲み物もおいてある。他にも胡散臭いクジがおいてあり、店の前には昭和のガチャガチャが設置してある。この絶妙なバランスが心を引き寄せてやまないのだ。
高級ホテルでもなく、古びた旅館でもなく、お婆ちゃんの家にいるような安心感があるのだ。私の住んでいる千葉県の田舎には、未だにこのような駄菓子屋が無数存在しているのだ。
それにしても、幼稚園くらいから何も変わっておらず、時が止まったような錯覚に陥る。ここは永遠のオアシスのように感じた。しかも、200円も奢ってもらえるのだ。
私はユキちゃんに聞く。
「本当に何でも買っていいの?」
「いいよ、200円までね。100円はジュースを買ってさぁ、もう100円分は駄菓子を買って公園で話さない?」
「うん、良い提案だね。じゃあ、パックのいちごオレと、うまい棒10本を買うコースにするよ。これがトキコ流の贅沢フルコースだよ」
「アハハ、安いフルコースだね」
私は冷蔵庫から紙パックのいちごオレを出して、味が異なるうまい棒を10本選んで会計をした。その一方、ユキちゃんはカフェオレとチョコのスナック菓子を選んでいた。
いつのまにか、ちょっと大人っぽいチョイスになっている。あれだけ、キャベツ太郎をプッシュしていたユキちゃんは、もういなくなってしまったのだろうか? 私の知らない内に大人に成長しているのかもしれない。
そういえば、また背が高くなっているような気がするし、部活で鍛えられて足はカモシカのようにキレイだ。ユキちゃんは制服姿でもスタイルの良さが隠せないのだ。それに顔もいいし、男子はほっとかないよねえ。
もしかすると、彼氏とか出来たのかな? 後でこっそり聞いてみようかな? でも、それを聞いたら、今の人間関係が崩れそうで怖い。だって、私より彼氏を優先している事を知ったら、嫉妬で悲しくなりそうだ。
よし、聞くのをやめよう。今を楽しむことが重要だ。とりあえず、私達は買った商品を抱えて駄菓子屋を出たのである。
駄菓子屋の前にある公園まで歩くと、大きい広場が広がっており、3人の小学生がサッカーをやっていた。他にも小さな広場がいくつもあり、ブランコなどの遊具もある広場や、噴水がある広場もある。私達は大きい広場のベンチの腰を下した。
そして、2人は紙パックのジュースと駄菓子を肴にしょぼい女子会を開催した。
「ユキちゃん、200円くれ」
「はいよ、約束だからね」
何気なく、ユキちゃんの財布を見ると、バイカラーのオシャレな長財布に変わっていた。確かクラスメイトのオシャレ女子が持っていたのと一緒だ。前まではイオンで買った財布だったはずなのに……。ちなみに、私は十字架の入った中二病全開の黒色の財布だ。
ユキちゃん、センスも大人になっているのか……。なんか置いて行かれた気がして、寂しい気持ちになった。だけど、顔には出さずに涼しい顔で、200円を受け取って財布にしまった。
しかし、心の中ではユキちゃんが別人になっていく恐怖感が心の隅にあった。いつまでも、子供でいられないのかもしれない。