第3話 親友はユキちゃんだけ
私は放課後の掃除をするために机を運ぶ。
そこにユキちゃんが声をかけてきた。
「トキコ、さっきはゴメンね。怒っているぅ?」
「ユキちゃんのせいで、凄く恥をかいたよ。またクラスでのランクが下がったよ」
「まあ、まあ、落ち着いてよ。それより、理想の彼氏のイラストを見せてよ。今度はどんなパターンか気になるからさ」
「ふん、嫌だね。どうせバカにするから見せない」
すると、ユキちゃんが健康的な白い歯を見せながら笑顔を作った。
「アハハ、分かった、分かったよ。今日は部活もないし、久々に一緒に帰ろうよ。公園近くの駄菓子屋で奢るよ。200円までだけどね。どうだい?」
えっ、駄菓子を200円分だって? うまい棒を10本買っても、もう100円分の駄菓子を買えるって事だよね。こりゃ楽しい放課後になりそうだ。
私はハイテンションの大阪弁で返事をする。
「それならええですわ、ユキの姐さん」
「そうでしゃろう、トキコの姐さん」
「しかし、ユキちゃんも悪い女ですわ」
「いえいえ、お互い極道の妻は大変ですわ」
私達は顔を合わせて笑う。ああ、ユキちゃんとの会話のノリがピッタリである。お互いに同じお笑い芸人が好きで、笑いのポイントがまったく同じなのだ。幼稚園の頃からの友達であるが、放課後に一緒に帰るのは久しぶりである。
私もよく覚えてはいないが、しばらく一緒に帰っていないはずだ。なぜなら、ユキちゃんは中学校に入ってからはソフトボール部で、夜遅くまで練習を頑張っているからだ。
一方、私は美術部で帰宅する時間が早い。その結果、ユキちゃんはソフトボール部の友達と帰ることが多くなり、私も美術部の友達と帰ることが多くなっていた。
だけど、本当の悩みの相談事を出来るのは親友であるユキちゃんだけである。まあ、ユキちゃんがどう思っているか分からないけど……。親同士が同級生の関係であり、その子供である私達も同級生であった。そのせいか、気が付いたら友達だった。
だから、幼少期からお互いの家に泊まりにいってよく遊んでいた。小学校時代もユキちゃんがソフトボールクラブに入るまでは、夕方まで毎日遊んでいた。しかし、中学校になるとクラスが別になったりして、2人で一緒にいる時間が確実に減っていた。
3年では同じクラスになって、また遊ぶ時間が増えて嬉しかった。でも、やっぱり年齢を重ねるにつれて、会う時間が減っていっているのが分かる。そして、来年は別々の高校へ行くことになる。本当は一緒の高校に行きたいけど、どう頑張っても、私ではユキちゃんの学力に追い付けるはずがない。
だから、他の高校で適当に過ごしていくだけだ。それに私のような捻くれた性格では、ユキちゃん以上の親友は出来ない事も分かっていた。だから、今が人生のピークなのかもしれない。
私は残り少ない中学生活の中で、ユキちゃんと楽しい思い出を作っておこうと心に決めた。それがあれば、つまらない高校生活も耐えられる気がしたからだ。