プロローグ2
それはさておき、パパの作品の話でも聞いてほしい。
まず、どんな作品もアニメになるのは名誉的な事だ。最近はアニメ映画も一般人に浸透している時代だ。天才的な才能を持つ宮崎駿に続く、細田守、新海誠など世界に通用するアニメクリエイターが高く評価されている。
もちろん、アニメといえば子供向けだと思われるが、現代ではファミリー層や大人なども大勢の人が見ている。アニメ映画が興行収入ランキングの1位になるのも当たり前になってきた。そう、実写映画よりも評価される時代なのだ。
そして、私のパパの作品もアニメ化されたのだ。作品タイトルは『メイドちゃん、御乱心でパンチラ見えちゃうでござる。ムフフのフ』である。
タイトルで分かるように、美少女メイドが興奮状態になると、ドタバタ暴れまくって、パンチラが見えまくるという痛々しい作品だ。それを主人公の少年が見て鼻血をドバーと出すパターンの繰り返しだ。
全部で12話が放映されたがパターンはほぼ一緒である。私も見たけどパンチラシーンが異常に多すぎて、吐き気と嫌悪感が体中をはいずり回っただけだった。
とても、お茶の間でゴールデンタイムに流れたら、家族の空気が凍るのが分かる。ネットは荒れるし、テレビ局やスポンサーへの抗議電話は止まらないはずだ。私の大好きなジブリ作品とは対極の位置におかれる作品だ。
パパはそんな気持ち悪い作品を作るだけあって、当然だが顔もカッコよくはない。分厚い眼鏡で腫れぼったい一重の目がオタク丸出しである。そして、体は細くてヒョロガリと呼ばれる体系である。見た目通りに運動神経も死んでおり、家族で行ったボーリングでは、私を下回るスコア45という悲しい結果を出していた。
私は悲しい事にパパの遺伝子を全て引き継いでしまって、容姿も勉強も運動もダメな人生にウンザリしていた。もはや、努力でどうにでもなるレベルではない。私だって、ユキちゃんようにドラマの主人公のポジションの人生を送りたいのだ。
もし、パパがイケメンで高学歴の遺伝子なら、ママの美人の遺伝子がプラスされて、自分も頭が良くて美人の人生を送れていたのではないかと常に考えていた。私は才色兼備で文武両道の学生生活を送りたいのだ。
私は頭の中で妄想をする。すると、妄想の中のクラスメイト達が声をかけてきた。
例えば、テストの結果が発表された時。
「時空院さん、すごーい。またテストで学年1位なの? いつもトップだよね。どんな勉強法をしているの?」
「いや、全然していないよ。授業中に聞いていれば楽勝だよ。それに勉強って楽しいよ」
例えば、運動会のクラス対抗リレーの時。
「時空院さん、すごーい。クラス対抗リレーでごぼう抜きしたでしょ? どんなトレーニングをしているの?」
「いや、全然していないよ。まあ、走るのが好きなだけだよ。スポーツはなんでも好きだけどね」
例えば、同級生に恋愛相談された時。
「時空院さん、すごーい。また、男子から告白されたんでしょ? 本当に美人だし、何か努力しているの?」
「いや、全然していないよ。そうだね、ありのままの自分を見せればいいと思うよ。背伸びしないのが一番だよ」
こんな感じで余裕をかませる人生を送りたいのである。
まるで、私が嫌いラノベの主人公のようだ。どうせ人生は遺伝子や家庭環境で、ほぼ決まってしまうものだ。みんなはそれを知っているのだ。それでも大人は子供にそれを隠したがるのだ。
本当に大人はバカである。報われない努力はしない方がいいと教えるのが大人の役目でしょ? だから、私は努力しても無駄な人間側だから、死ぬまで努力はしないつもりだ。
ああ、もし過去に行けたら、ママにもっと良い男と結婚するようにアドバイスをしてあげたい。そう、売れないラノベ作家と結婚をしても、現実の生活は苦しいだけだよと伝えてあげたい。だいたい、ママならもっと良い男を結婚出来るのにもったいないよ。
出来るなら、過去に行ってパパとママの出会いを潰してやりたい。中学生活の最後の夏はこんな事ばかり考えていた。
そして、この夏はその願いが奇跡的に叶ってしまうのだ。それはパパとママが付き合い始めた20年前にタイムスリップをしてしまうからである。そこでの体験が私自身を変えてくれたのである。
これはそんなひと夏の成長物語である。