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非日常嫌いな俺は罪らしい。  作者: 月見里 望
第1章
6/7

6: もう1つのパターン

ほんと遅れましたごめんなさい!

 

 ――お前は、何者だ?



 俺は、何なんだろう。



 ――お前は、何者だ?



 強いて言えば、抜け殻。



 ――お前は、何モノだ?



 中身の抜け落ちた、空っぽな存在。



 ――お前は、ナニモノだ?



 天才、の形をした『ニセモノ』。



 ――お前は、『ナニモノ』だ?



 俺は――







「何でこんな事もできないのかしら?」



 …あぁ、いや、『ニセモノ』じゃない部分が俺にもあったな。





 ――馬鹿で『ホンモノ』の天才の幼馴染の、『ホンモノ』の幼馴染だ。



 暗闇に光が差した、気がした――









「――なんて上手くいくとでも思ったのか?」



 光は、どす黒い紅に染まる。



「何度でも言おう、アイツはホンモノだがお前はニセモノだ」



 それはどこかで見たような紅だった。

 熱く身を焦がすような、湧き上がる負の感情。



「――全く、醜い」











 ▽▲











「――何だよ、これ」



 いつの間にか足元に浮かんでいた魔方陣は、明らかに俺達2人の行動を阻害していた。

 自らが動けないのと隣で千智が動けなくなっている状況から、そう判断できる。



「――質問など、自らを何も知らない忌み子には意味を成さない、か」



 俺達の知らないヤヒムは、俺達の知っているヤヒムの笑顔を浮かべながら淡々と話す。

 何が起きているのか、頭では理解しつつも心がそれを否定する、そんなハズがない、そうでないと言ってくれ、と。

 しかし、天才の理性はそんな情動を可能性という鎖で縛った。



「どこまでが、嘘だったんだ?」



 信じていた者に裏切られるなんて俺達の居た世界(あっち)ではありきたりのことに、俺の心は大きく揺さぶられていた。



()()()()()、本当さ」



 そう、それしか有り得ない。

 曲がりなりにも自他ともに認める天才である俺たちの目を余裕で欺ける程には、実に本当たる本当だった。


 詐欺師が用いる常套手段として、「隠したい事実のためだけに嘘をつき、それ以外は全て事実を話す」というものがある。

 そうすることで相手に一切の疑惑の念を抱かせないという状況を最初から作り出すことが出来るからだ。

 1度芽生えた種の成長が留まることを知らないように、その疑いの感情の増幅は止まらず、また完全に消し去ることもできない。


 しかし、この世界において(異世界、現世界に関わらず)完全、完璧、絶対、必然、なんてものは有り得ない。

 それは理の向こう側、確率の存在しない世界での話であって、もちろんそんな世界そのものも有り得ない。


 ――が、もし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を使える者が居るとすれば?



「断片的な真実は、自らが創り出した『虚偽の事実』ですら真実に見せるのだよ...ましてやそれを扱う者が絶対とくれば、この嘘が通らないという道理は無い。それに、今のこの状況にしたって私は全てを話すつもりはない。当然だろう?そこから私に関することが割れて今後不利益を被ったらどうする?従って、述べるのは君が勘づいたであろう事実だけ、という訳だよ」



 つまり、俺たちは語られた真実のみに虚構の優しいヤヒムを見た...と。



「しかし...よく立ち続けているね、カナメ」


「オイオイオイ...自分が優勢になった途端煽りかよ?一体一でやれる自信もねぇからこの行動阻害魔法陣も解けないってか?」



 もしこいつが馬鹿だとしたら、こんな低レベルの見え透いた申し訳程度の煽り返しに青筋立てて乗ってくるだろう。

 だが、こいつが切れ者であることはここまでの流れから既に自明の理だ。

 運否天賦、全くもっての賭けだとしても、その引っかかるかもしれないという欠片ほどの可能性に縋る他無いことは、自らの頭の中で判断済みだった。


 しかしヤヒムは、予想とは裏腹の行動を取る。



「――行動阻害、か......フフッ、キミはやっぱり世界の常識外にいるようだ」



 ...何を言ってるんだコイツは?と思っていたのもつかの間、背後でドサッという音が聞こえる。

 背中を冷や汗が伝うっていう何とも適切な状況描写が、今の俺の心情を実に分かりやすく表す。

 やれやれといった様子のヤヒムは、顎で俺の後ろを指す――もう分かってるとは思うが見てみろ、首くらいは動くだろう?とでも言わんばかりに。


 ゆっくり、そう、本当にゆっくりと、悠久にも感じられる時間をかけて振り返る、とそこには、



 ――地面に倒れ伏す千智がいた。



「行動の阻害、本当にカナメの言う通りそうだとしたら、そこに倒れて気を失っているチサトは一体何なんだろうね?はたまた――」



 ヤヒムの笑みが凍結し、柔和な表情が瓦解する。



「――()()()()()()()()()行動阻害にしか感じないキミは、一体何なんだろうね?」



 まただ、またあの殺気だ。

 相対するもの全てを殺さんとする圧倒的強者特有の殺気。


 超トップレベルのアスリートは、その殺気から相手の動きを止めてしまう。


 ――迂闊に動けば、やられる。


 こうして生まれる逡巡と硬直が更に相まってその者の生殺与奪を強者に与えることになる。


 それは、俺らに全く縁のなかったこの世界での命のやり取りにおいても全く同じなのだ。



「魔法陣を解きなさい、精神剥離でも気絶しない彼は私自らが落とす」


「し、しかし、それでは万が一が起きた場合、逃げられ――」


「――この私が、負けると?」



 諸刃の直刀を抜き放つヤヒムに、それではマズいと食い下がった重装兵の長と思しき者は、ノールックであの殺気を当てられて地面にへ垂れこむ。



「い、いえ...何でも...御座いません...」



 瞬間、体の自由が戻る。

 しかし、俺に与えられた選択肢は『戦う』のみだった。



「済まない、待たせてしまったね」


「タイマン張れねぇビビり君がそれ解いちまって良かったのかよ?油断は禁物だぜ?」


「私は完璧主義者でね、塵芥とはいえ将来的には国の主戦力たる存在になるであろうキミのどこに私が油断する要素があるというのかな?」



 ――こいつ、言動も動きも荒がまるで無い...


 裏を返せば超次元レベルの用心深さ、とでも言うべきだろうか?




「大丈夫だ――」



 ――来るっ!!



「――次の瞬きで開いた瞼の先は、牢獄だ」











 ▽▲











 ――暗い。


 一言で今いる場所を表すとすればその一言に尽きる。

 主立った光源のひとつも見つからない、完全に闇に閉ざされたココは一体どこなんだ?

 おもむろに体を動かそうとするとジャラジャラという音と走る衝撃、どうやら拘束されているようだ。


 と、そこまで頭を回転させて考えて初めて、



「成程――」



 どうしてここに自分が居るのかについての記憶が戻る。

 確かに瞼を開いて次に見たのは牢屋の地面だったわけだ。

 まさにヤヒムの言った通りであり、そして――



「――()()()()()()()()()()()()、と」



 俺という人間が、この世界に来てからどのような(ストーリー)を辿ってきたかを思い返せば、王道から大きくかけ離れた異世界転移モノであることがよく分かるだろう。

 では、『じゃあこれは一体何なんだ?普通異世界転移っていったら勇者が魔王倒す物語のハズだろっ...!』なんてほざき散らしてる主人公、どこかで見たことはないだろうか?

 そう、ここまでがもう1つのテンプレ、王道へのアンチテーゼ――逆転成り上がりモノである。


 弱小な主人公がとても酷な貶めに遭い、そこから努力を積んだりスーパーラッキーが起きて他を蹂躙せしめん圧倒的な力を手に入れるという、これもまた実に多く蔓延り過ぎたパターンだ。


 一方で俺が今現在歩いているであろう道は、それともまた微妙に異なる。

 すなわち逆転成り上がりモノのその軌道上に俺という異分子――そのレールから外れることを望み、またそれを可能にできる特異な存在が乗ってしまったことで――



 ――バツンッ



「――鎖を切って逃げるっていうよく分からん展開がお膳立てされちまったって訳だ」



 音を立てて鎖が落ちる。

 本来なら、主人公は何も出来ずにこの場に繋がれ復讐の念を燃やすのだろうが、何せこちらは初手力増幅系ねじれ思考主人公だ、そんな分かりきったつまらん道誰が歩くかっていう話だ。



「で、だ。千智と強制的に離されたこのイベントにおいて再会を達成目標として動くのが最善だと俺は読む。となるとまず最初に考えるのは同じ獄中にいるっていうのがセオリーとみて...」



 ギギギィと鉄格子をこじ開け俺は外に出た。

 暗闇に閉ざされたこの牢獄はほぼ光源を設置しておらず、手触りの感触でなんとなく全てを把握せねばならない。

 どれだけ時間かかるんだよ...と先が思いやられて落胆とともに大きなため息をつくがそれも一瞬の杞憂で、なんと俺のいた牢屋しか無いことがわかった。

 暗闇に目が慣れてくると、うっすらと光の指す方が見え始めてきた。

 どうやら上でもなく下でもなくただの廊下からの光なようで、何はともあれ俺はそっちへ歩を進めることにした。


 廊下を抜けるとそこは広間であった。

 壁面には火の灯る松明が少々かかっており、めちゃくちゃ気になるのが広間に描かれた魔法陣である。



「...どうも俺はつくづく魔法陣に好かれてるみたいだな」



 まぁどう考えてもよ?これ何かの儀式用もしくは召喚用魔法陣だよな?わかってて踏むかこれ?絶対めんどくさいじゃん...


 そうして俺は魔法陣に足を踏み入れた。

 だって、だってさ...



「何で広間いっぱいの超特大魔法陣なんだよ!?絶対踏ませに来てんだろうがこれ!どんな不可避トラップだバカ!」



 考えるまでもなく、トラップであった。

 広間中が軋み大きく揺れる。

 橙に輝く魔法陣は天井にまで至る術式を空中に展開し、何かを召喚...もとい何かの精製を始めた。

 そうして出現した巨大な守護岩兵――俗にいうゴーレムが「待った?」みたいな感じで登場した。


 いや、実際そんな感じではないよ?


 本当はもっとこう、おいでなすった感がえげつない感じで登場してるだろうけど、俺からすればアレだ、仲良しの友達グループで盛り上がってる時にそんなに仲良くない空気読めないやつが急に「お、なになに?オモロそうじゃん」って混ざってきて場が氷河時代(アイスエイジ)したのかってくらい一気に冷めるようなあんな感じだ。


 凄く強そうな雰囲気を醸し出したゴーレムは、その体中に術式が張り巡らされており、おそらく対魔導術式であると考察できる。

 一般の方々からすれば、確かに元々物理面において難攻不落な上さらに魔法防御面においてもカッチカチになってしまっていては、対抗のしようもない強さとおいでなすった感を感じただろう。

 しかし...



「いやホント申し訳ないんだけどさ、ヤヒム戦の後だとどうも弱く見えんだよなぁ...」



 周囲を見渡したが他にこれといった道や魔法陣はなく、どうやらこいつを倒す以外できることはないようだ。


 そうこうしているうちにゴーレムは大きく振りかぶり拳を握りしめる。

 やれやれと首をふりため息をついてから俺も拳を弓のように打ち出す様をイメージし脇と肘を絞る。

 空手道における最も基本的な引き手の動作であるが、基礎こそが全てというのがどの武術にも言えることであるという知識は持っていた。


 俺が戦いのスイッチを入れたことで一気に張りつめた空気が場を支配する。



「逃げてぇとこだがそうもいかない、か。仕方ねぇ...」



 大きく深呼吸をして一言。



「――やるか」



 戦いの口火は、俺の【縮地】――言ってしまえば力を用いた驚異的な速度の移動技で、切って落とされた。


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