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非日常嫌いな俺は罪らしい。  作者: 月見里 望
第1章
1/7

1: 始まりはいつだって

よろしくお願いしますー

 


 ――例えば、




 キミが自らの人生に辟易していたとする。そんなときひょんなことからキミは非日常へ――






 なんていうなんとも都合のいい展開を期待するだろうか。しないわけがない。

 そして事実そこで面白おかしく過ごすのだ、大方ハーレムでも形成して。






 非常に唐突だが、俺こと 朝霞 要(あさか かなめ)はアニメやラノベ業界における俺TUEEEEEや先の読めるお約束展開、テンプレ、またはそれらの枠から離脱しようとして増えすぎた逆転成り上がり最強ものなどがあまり好きではない。

 他人とは異なる考え持ってる俺かっけぇ…そういう痛いやつに見られてもしょうがないとは思う、思うのだがそれにつけてもこれはちょっと無理っていうレベルである。

 いや待てよ、よく考えたら異世界転生ものや異世界召喚もの、異能力もの…全部「異」って字がついてるじゃないか、やっぱり痛いやつとは一緒にしないでほしい。


 昨今の業界での異世界・異能力ものの増殖ぶりはもはやゴキブリのそれと等しい。その上人気を博しているのだ、きっとそういう系を書きたい作者さんたちは必死でかぶらないネタを考案していることだろう。

 そう、既に先駆者たちが存在しているのだ。他者が思いつきもしなかったような発想力と機転で素晴らしい作品を書き上げていっている。

 その方々には若干オタの入った俺にとってははっきり言って畏敬の念しかない。日々作品を読んでいて思うのだ、「嗚呼、素敵なものをありがとう」と。


 で、だ。話を元に戻すとそんなパイオニアたちを前にした上でそれでもそのジャンルを書こうとする訳だ、当然かぶらないものを模索するが事実としてある程度一定なテンプレが存在してしまっている。俺はそれが嫌なのだ。




 ――いや、理解はできる。




 起きるはずのない奇跡をそういった場で読者に想起させ、世界観に自らを没入させ、興奮を与える。

 実に素晴らしいことだ、それこそがまさに理想であり現状求められていることである。


 変化のない惰性で過ごす日常には、リア充陽キャパリピであっても非リア陰キャオタクであってもどんな人間でも「ヒト」という生命体である以上は億劫に感じる瞬間が存在していて、みんなしてなにか違ったこと――変化、すなわち非日常を求める。それがたまたまラノベ業界などにおいて異世界・異能という形で現れただけなのだ。

 実際俺自身も異能使ってみたいし、異世界に行ってみたいとは思う。あとハーレムになってみたい。

 そう考えると、否定の立場にある俺もまた「ヒト」なのだ。

















 ――なんてことを、逆さまの俺は考えている。










▽▲










 ――始まりはいつだって最悪だ。



 頬を風が切っていく感覚は、通常とても心地いいものだ。自転車で坂道を下る、あの感覚。

 だが、身をもって感じている今の「それ」はその範疇を大きく逸脱していた。



「ビルの屋上から落ちるなんてこと日常で起きるのな…はは、笑うしかないわ…どーしてこんなに一気に普通じゃねぇことが起きんだよっ!?」



 地面が迫る。そして俺はかろうじて体勢を立て直し、覚悟して堅く目を瞑ると、








 ――何事もなく2本の足で着地した。







 一気に脱力して膝から崩れ落ち震えたまま、



「やっぱ力の発現は間違いじゃなかったわけね…いや普通死んでるなこれ、走馬灯見えたもん。なんで今俺普通にしゃべれてるのかが絶賛意味不明中だっつの…」



 常人では到底成すことのできない生還、その事実は自身を安堵させるのに充分だった。

 そう、この開幕意味不明な展開が現状俺が非日常嫌いな理由の1つだ。

 そもそも何故こんな事態に陥ったのか、説明するためにはやはりテンプレ通り長い長い回想をする事になる――――









▽▲










「そ、そんなバカな…」



 メニューを見て俺は愕然とする。そりゃそうだ、他と一線を画すレベルのお気に入りのドーナツが販売中止になっているのだから。

 驚き、戸惑い、悲しみの順番で感情の波が心の岸辺に押し寄せ、最後に残していったのは「怒り」だった。

 というのも、最近自分でドーナツを作るのに熱中しておりこの店のドーナツを参考にしていたのだが、正直超えるのは時間の問題だろうと思っていたのだ。その矢先の販売中止。もう少しでこの店のより美味いのが出来たのに...瞬間、左手に持つスマホに()()()()力が入る―――

 と、文字通り粉々になって霧散した。そう、粉になったのだ、確かな破砕音とともに。


 再び訪れた驚愕の事実に、俺ではない「ヒト」が驚きの表情で顔を歪める―――テーブルを挟んで向かいに座る女子、夜久 千智(やく ちさと)だ。



「そ、そんなバカな…」


「な、なにヌルッと人の言葉リフレインしてんの?リアクションにもっと個性出していけよ、大丈夫だきっと磨けば光る人材になるさ!」


「驚き過ぎてつい言ってしまっただけよ…あとあなたも驚きの余りよく分からないこと口走ってるのは自覚ないのかしら?」


「いや悪いが自覚しまくってるし、そーでもしないと精神をまともに保てなかったもんでな、そこは大目に見てくれよ」


「はぁ…ちょっとお手洗いに」



 そう言って彼女は席を立つ。一旦思考を整理するというのだろう、極めて妥当な判断だ。さて俺はどうしようか。


 瞼を閉じて自分の握力を思い出して、確か53キログラムくらいだったか。運動神経筋力もろもろ悪くはなかったとは思うが、にしてもこれはぶっ飛んでいる。

 なにせほんとに少し力を入れただけなのだ。あぁダメだ頭がおかしくなりそうだ、そうだ千智のことでも考えて心を鎮めよう、思い返せ女神のルックスを…


 俺がこう言う言葉を吐くのも、全て千智がめっちゃ可愛いことに基づいている。容姿端麗でさらに才色兼備、しかも俺と幼なじみで家が隣というスーパーぶっ壊れヒロイン最強のステータスを持つ。

 欠点は定期的に俺の家に来て絶望的に下手な料理を作り俺の口にねじ込んでいくところだ。その上感想を言えとか言うのである。鬼だ。

 これが非日常嫌い第2の理由だ。理想と現実のギャップとそういう存在が身近にいても実際は「うっはー神主人公枠キター!!」なんてことにはならない。

 可愛いことは認めるが恋愛対象内には現状入っていない、そういう事だ。クソくらえである。


 そうこうしているうちに千智が戻ってきた。ある程度落ち着いたようだ。席に着き深く深呼吸して、



「じゃあ、帰るわ」


「おい待てくそやろう行かせると思うか、一緒に地獄に堕ちようそしたらお前のゴミ料理からみんな救われぶふっ!!」



 言い切る前に一発顔面にいいのが入った。痛い。すごく痛い。でもなんか気持ちいい。あぁそっち方面に目覚めそう。



「痛てぇ…ゴミ料理は言いすぎだが、普通これ見たあと帰るって言えるか?まともな神経の人間はそんなこと言いません」


「何も見なかった事にして帰るわ。あと絶縁ね、今後一切関わってこないでくれると嬉しいのだけれど」


「よしお前が腐ってることはよく分かったからなんか奢るんでそれで勘弁してくださいホント」


「嫌よ。料理を作る予定が今出来たの、だから帰るわ」


「その料理を食うの絶対俺だよね?尚更帰すわけないよね?あと絶縁とか言ってて自分のクソまずい料理は俺に食わすとか千智って名前通り頭いいのか逆にスーパーバカなのかはっきりしてくんないダークマター製造機」


「す、少しうるさいわね。だから料理練習して上手くなりたいって言ってるのよ。それに作るのが好きなの、あなたの個人的な都合なんてどうでもいいわ」


「その下手さで料理好きとかナチュラルサイコパスですか?本来なら被検体たくさん作ってジェノサイドしてるとこを俺が一身に受けてやってんだからこれくらい付き合えよDMS(ダークマター製造機)」


「なんで略称化しているのかについては触れないであげる。あぁもういい、付き合うわ。確かにここは私の分が悪いわね、悔しいけど。ウザイけど。キモいけど」


「ねぇ何の悪口三連符?絶対必要無いよね?余分だよね?」



 こんなやり取りを終えた後、なんやかんやでこの事態の究明に千智は付き合ってくれることになった。

 要するにこれがなんなのかの解明と発動条件が分かればいい...いやよくはないのだがひとまずはなんとかなるだろう。


 当てもなく何かいい方法はないかと思案しながら茜色の街を歩く。

 この街は適度に豊かな自然と若者向けの場所、都会並みに発達した場所を兼ね備えた俺的永住したいランキングぶっちぎり第一位の街だ。河川敷やなんかもあったりする。

 将来は嫁に養ってもらいながら専業主夫として家族仲良く過ごそう。そして子供と河川敷で楽しく遊ぶのだ。あぁなんて理想的な将来設計、素晴らしき結婚生活よ。


 と、ビルとビルの狭間に500円硬貨が落ちているのを発見した。結構落としたらきついレベルの小銭だ。俺は狭間に入り拾い上げて、



「猫の鳴き声がする」



 不意に千智がつぶやく。

 周囲を見渡しても鳴き声の主はいない。

 こんな時よくあるパターン、



「上か?」



 小さなビルの屋上、そこに猫はいた。



「おいマジか、普通に降りられなくなってんのかよ。はぁー、待っとけ今いくから」


「行ってらっしゃい」



 千智に見送られ、ビルの階段を駆け上がる。どうやらエレベーターは止まっているようだ。

 まぁ分かっていたことだが、階段でサクッと行ける高さではなくもれなく太ももと肺が破壊される。

 息を荒くして転がりでるように目的の屋上にたどり着くと、



「はぁ...はぁ...オイてめぇ、ここまで来てやったんだ、助けた暁には死ぬほどその肉球モフらせてもらうぞ...」



 俺は猫を助けるために柵際に寄って...なんてことは絶対にしない。フラグは全力で回避していくのが俺のスタンスなんでな、悪いがいつも持ち歩いている鮭とばを使わせてもらう。

 ...何故こっちに来ない?本来ならば俺が食べるはずの至高の鮭とばだ、猫には贅沢すぎるぞまったく。

 だがそれでも俺は絶対に近寄らない。理由は...もう分かるだろ?非日常が起きないように俺は――――



「ふむ、独り言が聞こえてしまったか。ここまで来るとは思わなかったぞ」



 ――は?



「思考が追いつかんか、無理もない、本来ならここで起きる筈のない運命の邂逅よ。有り得んものはそのまま有り得んものであったようにせねばならぬ。...ふむ、発現はしておる様なら死ぬことはあるまい」



  「猫」であるはずのそれは、そう()()()()()、屋上から飛び降りた―――刹那、俺の世界は反転していた。

 俺が斜陽に染まる空で一瞬の浮遊感を感じている間に見た()()()()()()は、





 ――霞む夕焼けに昏く嗤っていた。



















 ――――どうやら、()を助けようとして()()()()()落ちた、と。



 千智が言うにはそういう事らしい。そうだったような気がする。

 判然としない記憶を辿るのが煩わしくなり立ち上がって屋上を見上げると――犬はどこかに行ってしまったようだ。

 滑ってビルから落下とか信じられないようなことがまさか実際に俺自身の身に起きるとはね…一体俺はどこで運命の選択ってやつを間違えたんだ?





「――で、これからどうするつもりなのかしら」




 これから先自分がどうなってしまうのか思案する俺に、訝しげに千智が問いかける、俺のつま先を思いっきり踏みつけながら。



「その前にまずなんでお前が俺の足を思いっきり踏んでいるのかについて聞いてもいいか?」


「そうね、まったく意味はないわ。不意に踏みつけたくなっただけよ」


「なるほど、お前がサイコなのを今しがた改めてしっかりと理解した。疑問点が解消された感謝の気持ちに俺の拳をあげようと思うんだがどうだろう」


「ノーサンキューよ、今のあなたはひょっとすると人外のイカれた殺傷能力を持ち合わせているから相手をするとなると私に勝ち目はないわね」


「間違いなく少しディスが入っている気がするが、少なくとも現状を良く思ってない俺にとってはこの力の活用法が見つかってむしろプラスになったよありがとう」



 相変わらずの会話を繰り広げた後、現状の打開案を練る俺と千智。

 もはや俺らはこの力の正体が何なのか予想すら立てられなくなっていた――というのも、当初はシンプルに筋力を倍増させたり、何かしら対象となるものを破砕したりする力であると俺らは見積もっていたのだ。その矢先のこの生還である、さすがに少しだけ厨二の混入した俺であってもこの力に対する予想を立てることができない。

 その最悪な現状に拍車をかけるのが、発動条件がいまだに判明していないということである。一体ここからどうしろっていうんだ…


 そこで、俺らは邪魔になるものが何もない広い場所に行くことにした。

 この街でサクッと行けるようなそんな場所といえば…そう、夏における青春大量生産場である河川敷である。

 そこにさえ行けばこの力、そして発動条件がはっきりするはずだ。この目で確かめてやろう。


 …という考えが浮かんだのが日も暮れるころ。その時間になっていたことを千智の空腹アラームによって知った俺らは、一旦家に帰ってから現地集合ということにした。


 家に帰り、シャワーを浴びながら色々な思考を錯綜させる。



「――俺は、これからどうすればいいんだ...?この能力を上手く隠して、いや、そもそもそんなことが本当に可能なのか?もしバレてしまったら...?そうなったら最早ヒーローか?いやいや流石にダルいな...」



 俺の能力に対して俺自身が全くの無知であるという事実は、俺を悩ませるには充分過ぎていた。

 この力を持ってしてこの世界で生きることは酷く難しい。いや、不可能ではないのかもしれないが、少なくとも俺の現状のままなら無理だろう、そのくらいこの状況は切迫しているという事だ。





 ――そもそも、なぜ俺でなきゃいけなかったのか?





 正直役に立つとは思えないが、大量のラノベや小説を読むことで仕入れてきた知識の書庫が俺の頭の奥に眠っている。

 これらの中には、主人公が選ばれたもしくは元より特別な存在だったという話も数多く存在する。それらを俺の能力の発現の根底に置くとすれば、俺は一体なんだったというのだろう。

 あ、一応言っておくと俺はありきたりな平凡学生でもなければ落ちこぼれ学生でもクズニートでもそれなりスペック持ちニートでもそのどれでもない。物語の脇役に居がちなオールラウンドハイスペック学生である。運動、勉強、音楽、機知、顔(これについては普通と言っておく)、身長、どれをとってもまぁまぁハイスペックな人間だ、性格は置いといて。





 ――つまり、選ばれる要素がない。





 可能性としては、これから誰かの脇役として異世界に呼ばれるってところか?それはなんか腹立つ。



「だぁー、考えても考えてもまとまらねぇ。てか展開が早すぎだし基本的に鬼畜すぎだろ...俺に時間をくれよ...」



 大きなため息をついてシャワーを止める。くっしゃくしゃになった髪をバスタオルで拭きながら洗面所の鏡の中の自分を見つめて、



「ふっ、なんつー顔してんだよ。ひでぇなホント...まぁ、まずはやってみねーと何も分かんねぇよなぁ、悩むようなタイミングじゃねえってことか」



 そう言って俺は左右反対のもう1人の俺に渾身の変顔を決め込んで、服を着て自分の部屋へと向かう。まだ集合までは時間があるので一眠りしようと思ったからだ。

 扉の前にたどり着くと深く深呼吸して扉を開ける。いつもと変わらない俺の部屋。どうやら変わったのは俺だけらしい。


 安心しつつもちょっとだけ悲しい気持ちになり苦笑する。そうして俺はベッドに腰掛けた後、
















 ――瞼を閉じて草原(ベッドだった場所)に寝転んだ。















 草原を駆け抜けるそよ風が鼻腔をくすぐり、短い丈の草によるベッドが緑の香りと共に俺を優しく包み込む。

 もう眠りの世界にいざなわれたようだ。きっとよっぽど疲れていたんだろう、俺も働きすぎだなぁハッハッハッハッハ...





「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!???」





 もしこの状況における俺の感情を端的に表現する素晴らしい言葉があるとしたらそれは間違いなく、「ウザい」である。

 このどう見てもそうとしか思えない展開を俺は驚くほど速やかに理解し、キレていた。

 テンプレから大きく外れた異世界転移(それ)は全くもってあからさまではなくヌルっと生じてしまったわけだ、俺の予想(多少の期待もありはしたが)をぶち壊したこの異世界の神を俺はいずれ殺さねばなるまい。


 ただ、一つだけ間違いがないのは、
















 ――全く、始まりはいつだって最悪だってことだ。








ぼちぼちテキトーにやってきます

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