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黒の魔術師

 お家は居抜きで買い取りました。

 だって時間がないんだもの。ゆっくり好みに改装なんてやっている時間がありません。でもダイニングセットとベッドとお風呂くらいは新しくしたいよね。

 隙間時間で買い物してやる。


 時間が無い理由は、王のお願いですよ。

「黒の魔術師を探してほしい」


 誰だそれって話ですが。

 昨日見た魔術のバリバリかかっていた怪しげな屋敷の持ち主です。

 持ち主が消えたから、好きにしていいよ、あげる、って、気軽に言われたあの建物です。今思うと、この魔術があってどうにも出来ないから処分したかったのかしらん?


 魔術のかけ方が嫌らしいよね。特に攻撃魔術も入れているところが。

 でも、王家にとって重要な人だったらしいです。


 って、え? こんな人頼っていて大丈夫なの?


 だけどそこは王家、魔術が全く見えません。

 見えないと、そんな魔術をかける人だとは思わないのか?

 どうやら代々の王が懇意にしていたらしい。

 そしてどうやら内緒の人。王家の懐刀?

 だけど消えた。


 懇意?

 魔術師と?


 なんだか聞けば聞くほど突っ込みどころが出てくるんですが。

 そしてその魔術師が、『月の王』が現れたとたんに姿を消すというのも怪しいんですが。なぜ消えた?

 そしてなんで魔術師団にも内緒なの?


 もうー、そんな話をこっちに持って来ないでよー。

 他に頼れる人がいないとか知らないよ。

 旦那さまの眉間のシワは消えないし。そしてふいっとどこかに行っちゃうし。

 影! 自由だな! あ、自由なのは本人か。


 とっとと探して終わりにしたい。受けなきゃいい話ではあるけれど、ついついその魔術師が気になってしまって、とりあえず探すことに同意したのだ。


 だって、王が全面的に頼る魔術師って、なに。なのに消えるって、なぜ。



 私は件の屋敷の前に来てみた。

 師匠の作った髪飾り装備で。うーん、表玄関の前だとそれでも目立つな。怪しげな空き家を眺める女。うん、裏に回ろう。

 そして人気がない場所を陣取って。

 とりあえずはこの魔術からわかることは読み取っておきたいよね。


 屋敷にかけられた魔術をスキャンしていく。こういうときは旦那さまのあの見ただけで解析済みな目が羨ましいな。


 魔術の内容はこの前と変わらず。誰も入れない。なにも見せない。なにも……漏らさない。入った者には……攻撃を。ってほんと物騒だな。どうやら吹っ飛ばされる系の攻撃みたいだね。


 この魔術をかけた人を探る……男……黒いフードを被った……顔が……見えない。でもなんか黒いオーラがにじみ出ている……? 今は生きて…………生きてはいるか……でも…………なんだろう、遠い……。

 なんだろう、遠いよ。どこか……東の方。


 うーん、どうやら目眩ましと隠匿の魔術がかけられているのかな。あのブローチのルビーにかけられていたのと似たような魔術を感じるから。その魔術が邪魔をして奥の映像が霞む。


 ふーん。旦那さまが私も覚醒したって言っていた気がするけど、あんまり変わった感じがしないよ。あの旦那さまに比べたら、まだまだだな私……。なんか悔しいぞ。



「いや十分でしょう。よくそこまで視えましたね。私も視てみましたが、防御と攻撃魔術がぼんやり見えただけです。あんなに厳重で強力な魔術は見たことがありません。相変わらず能天気ですね、あなたは」


 で、家に着いて早々に妙に聞きなれたお小言を聞かされてます。

 ええ、うちの応接間ですよ?

 お久しぶりです、カイル師匠。


「そろそろ師匠という呼称が嫌味に感じるんですが、いつまで呼ぶ気ですか。普通にカイルで結構です。世が世ならあなたは王妃なんですよ。私は臣下です」


 いやでも違う世ですからね。まあ、あだ名だと思えばいいのでは? 私の魔術の先生にはかわりはないですしね?


 だから、今回も頼りました。

「黒の魔術師」って、なに?


 でも結果は、全くの不明。不明過ぎてワクワクした師匠が飛んできてしまいました。もう早速屋敷も見てきたとは。


「有名どころの魔術師はだいたい名が知られているんです。そしてそのほとんどが魔術師団に所属しています。なのに、その魔術師団にも知らされていない魔術師とは、何者なんでしょう」


 まるで知らなかったのは一生の不覚とでも言いたそうな師匠です。

「せっかく王都に来ましたので、一応王立図書館にも行ってみますが、まあきっと無いでしょうね。でも一応調べてみます。あと古い知人にもあたってみましょう」


 はい。よろしくお願いします。

 あんなに王都と王宮を毛嫌いしていた師匠がいそいそやって来るんだから、どれだけの衝撃だったのかがうかがい知れますね。


 師匠は「仮にも王なのだから、もっと大きな家に住めばいいのに」とかブツブツいいながらナディア家の別宅に帰っていきました。まあ歩いてすぐなんですけどね。

 こんどチャンネルを通した声が届くかどうか、試してみようかな。


 でもこの家、一時的に買っただけだからねえ。あれ? だよね?

 あ、でも喧嘩したときの家出用に維持するのもありかも……?

 それを言ったら、旦那さまに内緒のお家かお部屋もあった方が……あら、こっそり何か買っとく?


 なんてブツブツ言いながら廊下を歩いていたら、旦那さま(影)にぶつかりました。

 うん、この人に内緒とか、どうやるんだって話でした。ははっ……。

「家出するなら、私も一緒に行くよ?」

 にっこり。って。尻尾フリフリフリ……って。

 それじゃあ家出にならないでしょー! 


「カイルが来てたの?」

 ほらこれだ。

 お客があったら飛んでくるのやめてください。


「ただいま」

 はいはいお帰りー。影だけどね。



 さて。

「はい、これ」

 と言って渡されたのは、真っ黒いローブ。に、金の飾り紐?

 これ、魔術師が着るやつ?


「そう。王に会って来た。今の王と私が堂々と会うのは誤解を呼ぶから避けたいと伝えたら、必要ならそれを被って来いと。『黒の魔術師』が使っていたものと同じローブで、王宮どこでも検閲も尋問も無しで通れると言っていた」


 なにそれ、危険すぎじゃないの? そんなもの作って悪用されたらどうするんだ。セキュリティどうなってるんだ。え、バカなのか王室は? しかも複数作るとか!

 とびっくりしたら。


「最初はその魔術師がかけた魔術かかけてあって、他の人は着れないようになっていたからね。解除して、私たちだけ着れるように魔術をかけ直しておいたから。君にはちょっと男物で大きいかもしれないけれど、セシルのままドレスで行くよりはいいよね。君を変な目で見る奴もいなくなるし! で、どっちがいい? どっち使う?」

 って、何をワクワクしているんでしょうね。


 しれっと解除したとか言っているけど、きっと強力に魔術がかかっていたんじゃあないかな、うん。師匠の口ぶりからして、魔術師団とはレベルが違う魔術師みたいですよ。魔術師団にはどうこう出来ないからそういうシステムが成り立っていたってことなんだよね?


 ねえ、これ、王家が作ってその魔術師にお任せしていたってこと?

 その「黒の魔術師」、どれだけ王家に信用されていたんだよ。そしてどれだけ魔力を持っていたんだ。


「どうもあの王家、あんまり魔術と魔術師に詳しくないみたいだね。まあ、魔力がなければそんなものなのかな」

 って、ローブを見ながら笑ってますけど旦那さま。


 あなたもその「黒の魔術師」、ヤバそうな人だって気づいているよね?

 そう言うと、旦那さまはただ、にっこり笑った。


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