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そうだ、家を買おう

 

 そこで「国王」が語ったのは、「落っこちて来た人たち」の歴史だった。

 そう。この国の王族は、「進んだ世界」の人たちだった。


 旦那さまが、ああ、だから魔力が無いのか、と呟いた。


 最初に「落っこちてきた」のは、国王の祖先だった。少なくとも記録がある最初ということだけど。

 その祖先は魔力が支配する世界で、魔力がゼロだった。誰しもが多少の差はあれど魔力を持つ世界で魔力が全く無いというのは、当時非常に生きづらい状況だった。魔力の多いほど尊敬され、権力を握る価値観の世界。だからこそ『月の王』がもてはやされた世界。だからこそ、否応なく王になった旦那さま。そしてセシルが翻弄された。そんな時代。


 彼は思った。魔力が無くても成り上がってみせる!

 ちょうど『月の王』が姿を現さなくなって、代理の王がたったころ。


 そして彼には政治の才能があったのだろう。着々と実力で出世を果たしていった魔力ゼロの祖先は、時間をかけて同じ境遇の仲間を集め、そして最後には王になった。

 今でも純血主義で、「進んだ世界」の人間とだけ婚姻を結び続ける一族。この世界には存在しない金髪を維持する。そのための結婚。

 弱者だったからこその団結。魔力のない代わりに権力で身を守る。そんな感じに思えた。これも一つの生き方か。


 この国の人間として、生きていくことにした人たちもいただろう。だけど、それを拒否して元の世界に帰ることを夢見る人たちもいるのだ。ここに。


 運命に翻弄される人たち。それでも団結して生きていく。


「事情はわかった。私はなにも言うことはない。ただ、私の妻は帰らない、それだけだ。では私は帰る。君も一緒に帰るかい?」


 あら、それはいいわね。報告も終わっているし。

 私も帰るー。あなたのお家に。

 そう言っていそいそと立ち上がったのに。


「ちょっと待ってくれないか。相談したいことがあるのだ」

 と、現王さまに言われてしまうと躊躇してしまうのは根が庶民だからでしょうか。

 あ、旦那さまの眉間にまたシワが……。


「私はかつて王ではあったが今は王ではないし、あなたの王位を欲しいわけでもない。ただ、臣下として仕える気もない。わたしはひっそり過ごすから、放っておいてもらおう」

 静かに言う『月の王』(影)。わたし? 私も同意見です。別に王妃になりたいわけじゃない。旦那さまとのんびりひっそり暮らせればいいよ。


 だけど王は言うのだ。

 助けて欲しいと。力を貸して欲しいと。

 でも旦那さまは渋い顔だ。


 今の王に恨みはない。私は過去の人間だから、今の政治に関わる気はないのだと旦那さまは言うけれど。


 この国のために。


 そう言われると弱いらしい。

 昔王さまをやっていた(さが)なのかしらね?


 結局、王宮に戻って詳しく話を聞くことになったのだった。

 旦那さまの眉間のシワはどんどん深くなるんですが……。




 そして私たち夫婦は王都にある、ひときわ大きく豪奢なお屋敷の前に佇んでいた。


 これ?

「そうだねえ」

 魔術がかかっているよ?

「そうだねえ……。めんどくさいな」


 旦那さまがすごーくやる気がないです。目が据わっているよ。

 まあ、ね。こんな屋敷をくれるって言ってもねえ……。


「ねえ、この魔術、解除する? なんの魔術なの? 赤いよ……」

「うーん、どうするかな……」


 ねえ、だからなんの魔術なの。しょうがないから自分で解読するか。

 えーと……。


 うーん、プライバシー保護? かつ警備……報復?

 うわ、物騒だな。余所者が関わろうとすると攻撃がくるみたいだよ。

 もう誰もいなくても、だからか空き巣の被害もなさそうなんだねえ。「黒の魔術師」とその使用人以外、入れなくなっている。


 ってことは、私たち、入れないじゃないか。


 ……入らなくていいか!

 いらないよ、こんな維持が大変そうな家。近くの宿屋に行こう。いらないいらない。


 ナディア家の別邸にお世話になる予定だったけれど、どうやらシュターフ領とは関係ない件に首を突っ込む事態が想定されるので、おっさんの家を巻き込むのも心苦しくなりました。


 別に食べて寝れればいいよ。あ、でも豪華な衣装だの装飾だの、昔とは事情が違っているか……。


 そんなことを考えていたら、旦那さまがにっこり嬉しそうに言い出した。


「そうだ、家を買おう」

 え? 突然? 王都に?


 そしてあれよあれよという間にナディア家の別邸の近くに、本当に家? 屋敷? を即金で買い取ってしまった旦那さま。

 ええ……この人、やることは王さまのままなんだな。すごいな、金にものを言わせて行動早いなー……。根が庶民の私にはちょっと追い付けない早さでした。

 見て、うんいいんじゃない? じゃあもらうよ、って、お菓子じゃないんだよ!


「え? でも君が気に入ったなら、いいんじゃないの? ちょうど売りに出ていてよかったねえ」

 と、とんでもない額をポーンと払ってけろっとしているんですが。

 ええ、気に入りましたとも。こぢんまりしていて、なおかつ可愛らしいオウチデスネ。

 アトラスにいたくらいの私だったら、どんな金持ちだよ! と突っ込みそうなお屋敷ですが、ええ、シュターフ領主館とか王宮とか見てしまった後にはなぜかホッとする規模のオウチです。一般的にはお屋敷ですが。だってここ、貴族の別邸街だからね。これでも一番小さいくらいのサイズなのよ。


 これ、使用人さん雇わないと……。

 ちょっと遠い目になってしまったが。


 まあおっさんには

「はあ? ウチ使えばいいじゃねーか。なに遠慮してんだよ!」

 と、後からイカロス経由で少々文句は言われたけどねー。


 一応『月の王』がお家を買うといろんな人が来そうなので、見かけを変えて買いました。嫌だよ観光名所みたいになるの。

 でも家の中までは変装はしたくないもの。

 さてどうしよう? いくら小さめとはいえこの家私が一人でお掃除? いやムリでしょ。

 そう思っていたら。


 シュターフ領主館から、使用人さんが何人か来てくれました。

 え、いいの? こんな魔術師に慣れた精鋭部隊の人たち。

 と思ったけれど。顔見知りばかりで正直助かる。


『希望者募ったら定員オーバーしたんだよ。だから選んで行かせるわ。引っ越し祝いだ受けとれ』


 とのことでした。

 やだおっさん、かっこいい!

 使用人さん、お借りします。

 これは今度お礼をしなければ!


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