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王宮にて、再び

 それにしても身分というものは凄いんですね。


 そうとしか言いようのないこの状況に驚くばかり。

 覚えてます? 前回は丸無視だったんですよ?

 たしかあの火の王のおっさんも、忠誠を誓わされたと言ってませんでしたかね、ついこの前。大勢の臣下の前で。てっきり今回もそうだとばっかり。


 なぜ私は、王様と王妃様と一緒に、優雅にお茶をしているのでしょうかね?

 これは、あれか? 下手に跪かせると国民の反感を買うということなのか? 友好的な態度を示すよってこと? 政治の心得が無いと、どうしていいかわからないぞ。こんな事態は想定していなかった。


 まあ会話の内容は根掘り葉掘り、世間話に織り混ぜてイロイロ聞かれていますがね。なるほどおっさんの言う通り、意図が読めないと政治的にド素人な私にはお手上げです。お陰でどこに地雷があるのかわかりません。しくしくしく。


 いやあ、端から見る人になりたかったね。絢爛豪華な場所で絢爛豪華な衣装の金髪二人に銀髪一人。さぞかし眼福なことでしょうに。

 ああ荷が重い……。どんなに頑張っても根が庶民なのはどうしようもないのです。


「それでは突然セシルと言われて、驚かれたことでしょう?」

 優雅にカップを置きながら王妃様がおっしゃいます。なんで突然セシルとして現れたの? ということかしら?


「実は名前は最初に主人から聞いておりましたので知ってはいたのです。ただ記憶の方がなかったものですから……。ですが最近少し昔を思い出しましたので、やっと実感も出てまいりました」

 にっこり。私は本物、記憶もあるよ! 少し、というところが少々怪しいが、でもここで嘘をつくといつかボロが出そうだしね。


「龍についても驚かれたことでしょう。じっさい、龍がつく、というのどのような感じなのでしょうね?」

 基本的には王妃様が尋問役なのかしら。壮年の威厳たっぷりの王様は、基本無口で女の会話を楽しむ風です。あれ、じゃあ王妃様もそれなりのお年? うそ、なにか魔法でも使っているのかしらん?


「私にとっては、龍の方が、なにやらいろいろ言いながら周りに常にいる感じでしょうか。今回も気がついた時には風龍と繋がったあとで。すっかり風龍のしたいようにされてしまいました。基本的に龍はこちらの事情などお構い無しですから、龍に振り回されることの方が多いのです。今回もあれよあれよといううちに、勝手に喧嘩を始めてしまって。私たちももうどうしようもなく見守ることしかできなかったのです」

 そう、私が操るのではないのよ~。悪気も無かったのよ~。伝われー!


「まあ、では今も龍はいるのですか?」

「呼べば姿を現すでしょう。ですが龍は気まぐれですので、呼んで暴れられては困りますのでなかなか気軽には呼べません」

 お願い呼べって言わないでね! この困った顔で察してください。うっかり呼ばされてお怪我なんてさせてしまったらと思うと血の気が引きます。


 細心の注意をしながらの会話は慣れないので本当に疲れる。私からは基本話しかけないので、ひたすら聞かれることに答えているだけですが。


 そんな一見和やかなお茶会が終わり、やっと退出になりました。

 はあやれやれ。これでお仕事完了できたかな? 報告したことになるんだよね?

 そしてボロは出ていないよね? ないよね!?


 ヨレヨレとあてがわれた控え室に入る。はあー、お疲れ、私。

 時間は夕方。長い一日だった。もう日が暮れかけて暗くなってきている。でも知っているんだー、ここには電気がある! 使用人さんに頼まなくても、自分で明かりをつけられるのだ。なんて楽チンなんでしょう~。

 スタンドがあったので、早速明かりをつける。パッと電球が柔らかな光で周りを照らす。うん、火で明かりをとるよりは、火事の心配もなくて安全よねえ。こんな華麗な白亜の王宮が火事にでもなったら気の遠くなるような損失ですよ。芸術品は受け継がれるべき。


 一仕事終えたとぐったりとしながら迎えを待っていたら、今度は来客があった。


 ええー……もう勘弁して。私はもう帰るのよ。慣れない猫を被るのも疲れるんだから……。

 しかし。王族の訪問は断れない。しくしくしく。


 なんと見覚えのあるキンキラ金髪の第三王子がやってきた。

「お久しぶりです。『再来』さま、いえ、伝説のセシルさま。ご機嫌麗しく」

 きっちりと優雅な礼とともに。

 おおう、なんでよりによってこの人なんだ……。因縁ありすぎてドキドキするよ。


「まあ、王子様、その節は……」

 いろいろとありがとうございました? ご迷惑をおかけしました? 魔術師団入り断ってすみません? なんて言えばいいのかわからないぞ。


「実はセシル様には、今夜、王宮の方にお泊まりいただきたいと両親が申しておりまして。私がご案内するように申し付けられました。貴賓室にご案内いたします」

 にっこり。

 って、ええ? なぜ? もう帰らせて……。

 ナディア家の王都の別邸に行く予定にしていたのに、急遽王宮にお泊まりですか。

 もともと小心者の庶民、断り方がわかりません。あ、王命だと断れないか。誰かたすけてー……。


「私の魔術師団に入団していただけなかったのは今でも残念ですが、貴女の魔力はお聞きしております。今度一緒にお仕事をさせていただけたらと思っていますよ」

 キラキラキラ~。って、やっぱりその話題、出るんだね……。


 これ、断ってもいいのかな? ウンと言ったらまずいよね? 頷いたが最後、これ幸いと何かやらされてはたまらない。それ、受け止めようによっては龍を使わせてくれと言っているともとれそうじゃない? 疑心暗鬼過ぎ?


 なにしろ私と旦那さま、この現王家との関係が定かではありません。うっかりへりくだってもいけないし、かといって怒りを買いたい訳じゃない。こんな駆け引き素人の個人にやらせちゃダメだよー。おっさんからの指令「上手く誤魔化せ」は私には高等技術なんですよ。もう笑顔で困った顔の一択で乗り切るよ! 必殺「答えない」。でもいいのかなこれで……。


 案内されたお部屋はこれまた絢爛豪華な、これでもかと贅をつくしたお部屋でした。うわあ、さすが貴賓室。現王家の財力と権威をこれでもかと見せつけるお部屋だ。私なんかが泊まってもいいのかしらん? でも王子も出ていっちゃったよ?


 どうやらここで夜を明かすしかないようなので、開き直って探検するか。誰もいなければちょっと自由にしてもいいよね?

 もう二度とないかもしれないからね。こんな豪華なお部屋を堪能するのなんてね! おっ、ここにもスタンド発見。つけちゃえ。うん、明るいね! 他にも見回して……なにこれ扇風機? 夏じゃないのに、なんでだ? スイッチを入れると、うん、涼しい。でも今は暑くないのにね。スイッチオフ。


 ん? そしてあれは、まさかのテレビ?

 まさかの!?

 それは部屋の片隅に掛けられた小さな四角いパネル。真っ黒。縁つき。

 王宮すげえ。


 ちょっといそいそ近づいちゃうよ。これ、つくのかな? スイッチ……ん? これか? 押してみて……つかないか。んん? でもこれリモコン? 赤いボタンは電源かな? ぽち……うん、つかないな。他のもポチポチしてみるけれど、まあつかないね。

 考えてみれば、ここにテレビ局とかあるわけないか。

 でもじゃあこれなんだろう? テレビに見せかけたマジックミラーとか!? え、でもそれ、テレビに見せかける必要あるの?


 王宮わからないな。理解不能だ。

 でもなんか落ち着くね。妙に馴染むぞ? はっはっは。


 ひとしきり寛いだあと、次の部屋を覗くと……寝室だ。またバカでっかいベッドがどーん。こんなところに寝てもいいのかな。ちょっと腰がひけるよ。カバーだけでどれだけの職人の手が入っているんだろうという細工ものだよ。天蓋も高いなー。あんなところまで金箔を張らなくてもいいんじゃないかな?

 いやあおっさんの領主館で随分慣れたと思ったんだけどな。これはまたひときわ贅沢ですなあ。


 こんなのに囲まれた生活……王族すごいな、いろいろ感覚がズレそうだねえ。

 でも経済を回すという意味では大切だとも聞いたことがあるし、まあ適材適所ということか。


 そう考えると、私、しみじみ貴賓扱いなんだね。

 本当に前回との扱いの違いにびっくりだわ。すごいな『月の王』の影響力。


 なんて、感心していたら。そこに私の侍女のエレナさんがやってきました。エレナさんはセシルに名前を変えた後もそのまま侍女さんをしてくれてます。セシルと名を変えてもなんだかすごく喜んでくれたので嬉しかったです。特に過去のセシルがね。


「セシルさま、このあと国王ご夫妻と大臣様たちとの晩餐だそうですから、うんとおめかししましょうね!」


 ああ……! そうだよねーそうだよね! このまま寝たら帰れるわけじゃあもちろんないよね! そういやさっき第三王子が言ってたね。ちょっとお部屋に気をとられてうっかりしてたわ。無意識に忘れようとしてたな私。

 はい……おめかし頑張ります。


 そして私は大勢のお歴々の視線を一身に浴びて、ひたすらにこやかにお役目をはたした……よね? 大丈夫だよね? 内心ビクビクだったんですけど!

 でもまあ大臣の方々の感想は、総じて得体の知れない珍獣扱いだったのできっと大丈夫……きっと。なるほど、感情が読めるのはこういう時には便利だ。


 お部屋に戻ったときにはもう、私はお部屋の豪華さなんてどうでもいいくらいに疲れ果てていたのでした。なに食べたかなんて全然覚えてないよ。

 慣れないことをするのはほんと辛いわ……。あんな中で普通に楽しめてる人たちすごいな。


 もう帰りたい。


 心からそう思ったのに。

 どうして次の日も待ち構えている人たちがいるんでしょうね?


 うん。ちょっとそんな気はしてたけどね! しくしくしくしく。


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