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銀の髪

 

 空を覆う真っ赤な炎ともうもうと立ち込める水蒸気。

 それをそのまた上空から見下ろして。


『風を集めて。そして吹き飛ばせ!』


 私は上空を流れる気流を掴んで、火龍と水龍が争っている周りの空気を上空へ吹き飛ばした。


 体の中を風が吹きわたる。ああ気持ちいい。上空の気流と自分が一体化して、私の意思が空一杯に広がって。

 視界の端に旦那さまの麗しい銀の姿がチラッと見えたけど、気にしない。

 だってこんなにも気持ちがいいんだもの。

 あら旦那さま、隣に来たの? じゃあ一緒に吹き飛ばしましょう?


 うふふ……。


 火龍と水龍が争っているのを、風で上空へそのまま吹き上げてしまおう。高く、たかーく。


 地面から離れましょうねー。ちょっと重いけど。二頭の龍は争いに夢中で気流に乗ってジリジリ上昇しているのに気づかない。少しずつ吹き上げて上げていくよ? ついでに熱気と水蒸気もね。どっちも上空の気流にのせて、拡散してしまおう。ニンリルがよいしょよいしょと持ち上げて手伝ってくれている。物理でか。まあ、風よりは効率いいのかな。しぶしぶ地龍も加勢し始めた。二龍を持ち上げる二龍。オロオロ見守る緑龍。絵面はあまりよろしくない。


 そして地上には爽やかな風を。熱いのを冷まそう。はいひんやり~。


 はあ~やれやれ。あとは上空で勝手にやってくれ。


 私の意識が体の居たホールに戻った。

 体の周りを回っていた風が止む。

 目の前には銀の旦那さま。あれ? 銀? 本体?

 そしておっさんと師匠が目を剥いて、顎を床まで落としていた。


 旦那さまが言った。


「おかえり、セシル」


 ん? セシル? なぜ本名?

 は て ?


 そして旦那さまが私をギューギュー抱き締めてから耳元で聞く。


「大丈夫?」

 え? 大丈夫よ? ほら、ピンピンしてるでしょ?

 それより何よりあの五頭目の龍なに? 風龍? おもしろい子だったね? まだそこにいるけど。


『ありがとう。これからヨロシクね! うふふ』


 ん? 妖精さん? ヨロシク? え? なんかちょっと嫌な予感がするよ?


『ほおら、これ! 私たち繋がったからね! もう切れないから~うふふ~』


 あっ! 糸が繋がっている! 何故だ! いつのまに? ああっ! そういや契約って言ってた! え? あれ? あれで!?


 繋がっている糸を見つけて大騒ぎする私。びっくりだよ! なんで私?


『も~、やっとよー! やっとウンって言わせたわ! やった! やったわ!』

 って、妖精さんが小躍りしている。なにごと!?


 一人正気らしい旦那さまが、ため息をつきながら言った。

「とりあえず、みんなで落ち着こうか。風龍、セシルはまだ思い出していないんだから、強行するのは困るんだよ。カイロス、どこか落ち着ける部屋を用意して欲しい。丈夫で広めの。多分これからちょっとした騒動がおこるぞ」


 あれ、おっさん、聞こえてるー? 顎しまってね? えっと、師匠もね?



 結局おっさんも師匠も反応が鈍いので、旦那さまが私を抱き抱えて引きずるようにしてホールを出る。そして直接使用人さんに大きめの応接室を用意して、おっさんと師匠もそこに移動させるように指示していた。

 え、大丈夫なの? 二人とも? どうしたの? 引きずられながら、私もなんでこんなことになってるの!?



 とりあえず正気に戻ったおっさんが、騒動の後の対応について各所に連絡を入れた後、最後に応接室に入ってきた。


 おっさん、師匠、旦那さま、私、そしてニンリル。この風龍、嬉しそうに妖精の姿でニマニマしている。そんなにうれしいか? 契約が。


『嬉しいわよう。長い間待ってたんだから!』

 ふうん? よくわからんが、光栄です。


「……みんななんかズルいですね。私だけですか、龍が直接何を話しているのかわからないのは。私だけなんですね? チャンネルのお世話になっているのは」ジトー。


 って、師匠、いつもの調子に戻ってきてよかったよー。ちょっと心配したんですよ。


「さて、上空の喧嘩が終わる前に、改めて紹介しよう。妻のセシルだ」


 って、旦那さま? なに改まってるの?


 おっさんが手で顔を覆って途方にくれている。

 師匠が何やら紅潮した顔でこっちを見ている。


 ん? シエルは終わり?


「残念ながらシエルは終わりだ。本当はもう少し楽しませてあげたかったんだけどね。君の髪を見てごらん」


 ん? 髪?


 ああっ! なにこれ!


 銀色になってる!


 魔術を使っていないのに、なんで黒に戻ってないの?

 なんかのバグ? いつ戻るんだ? 気合いいれないとダメとか?


「残念だろうけど、きっともう戻らないよ。どうも覚醒するか龍が二頭つくかのどちらかで、銀に固定されるみたいなんだ。私もそうだったから。そして君はどちらもしてしまった」


 へ? どういう原理? 覚醒? ん?


 二頭……。

 チラと横を見るとふよふよ浮いている妖精姿のニンリルが、嬉しそうにこっちを見ている。


『もうずーっと契約してくれないから、このチャンスを逃しちゃダメだって思ったの! 泣いて嫌がられてたのよ? 酷いわよね。でも今のあなたなら大丈夫そう。ほおら、平気だったでしょう?』

 そう言ってニンリルはクルリと一回転した。


 ちょっと何言ってるか……あー、でもだいたい見えてきたぞ?


 この前戻った記憶からみて、昔はこれ、2龍になるのを嫌がったんだな? 水龍だけでも大騒ぎされてがんじがらめだった昔。そこに風龍も? いや、勘弁と思ったんだろう。でも風龍は他の人には行かなかったのか。


『どうせ仲良くするなら、一番しっくり来る人がいいじゃない』

 って。龍の感覚でなにかこだわりがあるんだろう。


「そういえば、確かに前からやたら風吹かせてたよな……この前の部屋の破壊も」

 おっさんがボソッとつぶやいた。

 破壊……あいたたた。その節はすみませんでした。

 そういやそうだね。ナチュラルに風吹かせてたよ。


「で、お前、シエルじゃなかったのか」


 あ、すみません、シエルは偽名でした。えー、そんな目で見ないでよ。だって旦那さまが最初にシエルって名乗れって言ったんだもん。記憶無かったからシエルもセシルもどっちも馴染みがなかったし、どっちでもいーかなーって……。


 それよりね? なんかさっきから、師匠からの熱い視線を感じていてね?

 これ、目を合わせたら質問攻撃されそうだから合わせちゃいけないやつ。と思ってジリジリと旦那さまを盾にして視線から逃げていた時。



『風龍~! いつの間に絆を結んどるんじゃあ~~! ワシに断りも入れんと何を勝手に~!』

 と、少しヨレヨレになった水龍セレンが白蛇姿で部屋に飛び込んできた。


『そんなの私の勝手でしょー? もう繋がっちゃったもんねー! もうセシルはあなただけのものじゃあないのよ~』

『セシル~なんでこいつもなの~酷くないかのぅ? 風龍! セシルはワシだけでいいんだからお前は契約を切れ! 』

『いーやーよー! 絶対切らないからね!』

 ギャーギャーギャー!


 なんか喧嘩してる……?

 白蛇と妖精の喧嘩……ちっちゃいくせしてドッタンバッタン大騒ぎなんですけど。まさか広めの部屋って、このためだった?


 ……ねえ、もしかしてこれ、これからずっとこんな調子になるの?

 と旦那さまを見やると。


 たっぷり同情を含んだ目で見返されたのだった。


 まじか。まじかー……。


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