解析
その後私たちは、ようやく落ち着いた師匠から、早速例のトゲの魔術の構造や内容を教えてもらった。前に単純と師匠は言っていたはずだけれど、それでもいくつかの部位に別れて、そしてそれぞれ強力に補強されているようだった。
せっかく集まったので、その場でだいたいの役割担当も決める。
私が抜く人。旦那さまはその補助。そこ、見張りって言わない。
カイル師匠は魔法陣を使って状況を俯瞰して実況と連絡。
おっさんが各所に実務的な指示を出す人。そして責任者。
え、これ、もう旦那さまが抜けばいいんじゃないの?
と本気で押し付けようと思ったんだけれど。
「私は地龍と連携して地面の動きを見ていないといけないからね。フォローはするから、思いっきりやっていいよ」
と、するっと逃げられました。
「こいつに思いっきりとか言っちゃって、知らねーぞ? 何が起こっても。今までシエルが思いっきりやって騒動にならなかった事なんかねーんだぞ?」
とおっさんがビクついているんですが。あら不本意。そんなこと……あれ?
「ああ、知っているよ? まあしようがないよね。彼女だからね。でも今回はそこまでやらないと事態が好転しなさそうだから。大丈夫、やり過ぎるようなら私が止めるよ」
「は? 知ってる? オマエ、寝てたんじゃねえのかよ」
「ん? 寝ていてもちゃんと監視……コホン、知る術はあるものだよ。私が彼女を見失う訳がないじゃあないか」
ニッコリ。
って、だんなさま? 今一瞬ちょっと怖い表現がありましたが?
ちょーっとそんな気はしていたけれど、やっぱりですか? あれだけ数えきれない防御魔術をかけたのに、一体何が不安だったんですかね!?
「おまえ……けっこう危ねえ奴だったんだな……」
うん、おっさんのその感覚が正しいと思う。
「シエル、いいのかコイツで。本当に」
ああ、うん。まあ、いいんです。ちょっと嬉しかった私もどうかしているとは思います。はい。
うん。そんな呆れた顔もわかるけど。
「なんでも出来る奴になつかれるのも大変だな……」
同情の目やめて。あっ師匠までちょっとひいてるよ!? 師匠帰ってきて?
そして旦那さま、全く反省の色もなく優雅にお茶を飲んでいるね?
あなたが引かれているのよ? まーったく悪いと思ってないね?
まあ……うん。なんか知ってた。
なんだろう、違和感ない。知ってた。こういう人だって。なんでだろう、もしかしてセシル時代にも似たようなことがあったのかしらん。
もしや私、誓うの早まった……? ん?
「まあ、彼女のことは私が全力でフォローするから大丈夫だよ。でも今回は影響が大きそうだから、出来るだけ事前に対策を考えないとね」
しれっと話題を戻しましたね?
フォローねえ。じゃあ、ちょっと一緒にあのトゲを見てみてくれる?
と、いうことで、私のお部屋に戻ってから、一緒に遠見で現場を見に行くことになりました。
あれ? 旦那さまがいそいそと手を繋ぎにきたんですが。
え? チャンネル繋げているんだから接触いらなくない? いや見えない尻尾と耳を垂れさせてもさ? いらないよね?
…………。
はい。根負けしたのは私の方でした……。まあ、実害ないしね。旦那さまも嬉しそうだから、まあいいか……。
二人で一緒に意識を飛ばす。私が進んで、すぐ横を旦那さまがぴったり並走してくる。
ほう? 楽だね。両手? が自由だ。
山のように巨大なトゲが見えてきた。
黒々としたそれは、相変わらずぶっすりとエネルギーの本流に突き刺さっている。
「あれか」と、旦那さま。
二人で地中に刺さっているトゲの上に来て、チャンネルを通して視界を共有する。旦那さまの視界を通してトゲを見たら、それはトゲではなくて文字と色がゴチャゴチャと詰まった魔術の固まりに見えた。
へえ、見え方って人によるんだね。
魔術をズームして細かく見ていくと、なるほど師匠の言っていた通りの魔術と構造が見える。旦那さま視点便利だね。ダイレクトに解析された魔術が見えるんだ。へえ。
「ある程度ほどいておけそうだね。あそこら辺とか。刺さっている場所は動かさずに、抜けない程度に解除しておいた方がいざ抜くときに楽そうだ。出来る?」
うん、やってみるよ。
「じゃあ私は魔術の周りの土を抜くときに抜けやすいように魔術を仕込んでおくよ」
と言ってさくさく何やら地面に魔術をかけ始めた。地属性の人にはあの地面は扱いやすいのかもしれない。私が水を加工するみたいな感じなのかな? 私に地面は完全にアウェイだったけれど。
そして私も、トゲの魔術を減量すべく、一部解呪にとりかかったのだった。
まあ、あまりに巨大なのでね? もちろん一日では終わらないんですよ。
なので、私はその後しばらくの間、解呪してもウッカリ全体には影響がなさそうな部分を探しては魔術を解いていったのでした。下手に傾いだり潰れたりしないように、場所を選んで抜いていく。ツンツンして全体がグラついたら触らない。
なんだっけ? こういう遊びなかったかな……ジェ……ジェンG……んん?
なにしろ山のように大きいのよ。これ、普通に山ひとつ持ち上げる方がもしかして楽なんじゃ?
とボヤいていたら。
「山だったら、地龍に頼めばすぐだったのにねえ」
と他人事のように旦那さまが言っていた。え、地龍すごいな。
もちろん、他人事のように言っている旦那さまも、ただ見ていたわけではないですよ?
トゲの魔術の抜けそうな場所を積極的に探してくれてます。私よりはるかに魔術を知っているよね、この人。そしてギリギリ崩壊しない手前を狙ってアドバイスがくる。そして旦那さまの言う通りに解呪していく実行部隊の私。あれ? デジャヴ……?
そんな日々をしばらく続けていたら、師匠が、教わったらしい遠見の魔法陣でトゲの魔術を見に行ったあとに、
「ずいぶん軽くなったみたいですね、あの魔術。遠隔操作でよくやりますね。私は行くだけで相当な魔力を喰われるんですが」
と褒めて? くれました。
そしてその後、
「もう少し魔力を使わない魔法陣はつくれませんかねえ」
と、旦那さまに詰めよっていた。うん、師匠いつものモードですね。
詰め寄られた旦那さまは、
「うーん、あれはジルが考えたものだから、改良の余地はあるかもしれないね。だけど、私にはちょっとわからないかな。私は魔法陣は使わないから」
と、ちょっと逃げ腰になっていた。
新たな課題を見つけて、師匠の目が生き生きしている。
うん、幸せそうでよかったよかった。関わらないぞ。
次回、抜きます