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魔法陣

 爽やかな朝。美味しい朝食。目の前には優雅にお茶を飲むデレた笑顔の旦那様。ああ、こんな贅沢な朝は素敵ね? こんな毎日を過ごしていたら、貴族的な生活も良いのかもしれないと思ってしまうひととき。特にご飯がね! 食生活とお金って、切っても切れない気がするよ。こんな贅沢に慣れてしまっていいのかしら。

 ありがとう、おっさん、お世話になってます。

 だからため息つかないで?


「朝っぱらからなんだよこの空気……。ピンクか」

 まあまあまあ、カイロスさんも一緒に朝食をいただきましょう。


 その時、部屋のドアが開いて、ゴミが……ん? ボロボロの布が……んん?

 あら、やつれ果ててボサボサ頭にヨレヨレのローブ姿の師匠が入ってきましたよ?


 そういえば、久しぶりに会うな。ずっと引きこもっていたよね。


「やっと……完成しました……! 新たな魔法陣です。新しい魔術です! 私はやりました……!」


 そしてぱったりと倒れたのだった。

 師匠ー!?



 そんな師匠も午後にはやや回復したらしく、緊急だんまり会談が開催されました。


「前にシエルに見せてもらった増幅の魔術を、魔法陣で再現することに成功しました。これでシエルに増幅してもらわなくても私だけで様々な魔術がパワーアップ出来るはずです。これで例のトゲ状の魔術を抜くときにも、お手伝いが出来ると思いますよ」


 師匠のおめめがキラキラしている。師匠の魔術は種類は多いけれど、規模という意味では少々心もとなかったよね、そういえば。それが全ての魔術をパワーアップとなると、凄いことが出来そうだ。


「まあ、魔法陣からは出られないので、場所の移動に少々難があるのですが、それはまたおいおい対策を考えます。何か良いアイデアがあったら教えてください」


「それは……覚醒の危険はないのか? 今度見せてもらえるかな?」


 あら、旦那さま、眉間にシワが……。


「王にお見せできるとは光栄です! いつでも仰ってください! 覚醒については魔力の調整は出来るので、無理をしなければ大丈夫だと思います」


 うーん。無理すると危険ということかいな。


「カイル、それ、オレでも使えるのか? その魔法陣に入ればいいんだよな?」

 おっさんがやる気になっている。覚醒したのにまだ強化するつもりかな。


「カイロスでも大丈夫のはずです。今度時間のある時に試してみましょう。今は実験室に一つ描いてあるだけですが、少々時間がかかってもよいなら他のところにも描くことはできますよ?」


 それ、危険じゃあないのかな? 他の魔力のある人が勝手に入って暴走したら覚醒しそこねて事件になったりしないの? と思ったら、ほら旦那さまも難しい顔をしているよ?


「ちょっと見せてもらって、あまり危険そうだったら、なにかしらの制約を提案させてもらうかもしれない。私は、人が魔力のせいで死ぬところはもう見たくないんだよ。いいかな?」


「わかりました。王がそう仰るなら」


 師匠が承諾してくれて良かった。相変わらずの『月の王』崇拝万歳。

 しかし師匠、新しい魔法陣を作ってしまうとか、普通は出来ないんじゃあないの? 旦那さまも驚いているみたいだし、凄い人なんだねえ。


「さてカイルの魔術も完成したらしいし、こっちの準備も進んでるぞ。あのトゲの魔術を抜いた場合の予想が大体そろってきた。主に気候の変動とそれによる農作物の収穫の変動だな。そしてそれによる税収の増減。それをもとに各地での備蓄と対策をこれから指示していく。農作物の収穫の前にやると影響が大きそうだから、主な収穫が終わった時期を選んだほうがいいとは思ってる。と、すると少し先になるかもしれないが、それまでに備蓄と対策が終われば収穫からあまり間をおかずに実行にうつせるんじゃねえかな。すんなりいくといいんだが」


 おお、ちゃくちゃくと進んでいたんだね。


 気候の変動とか、さらっと言うけど大変なことだよね? 人の生活にダイレクトに影響があるやつだよ。できるだけ穏やかに変化させないと沢山の人が苦しんでしまう。



「で、シエルが昔抜いたという北方の温泉地でのトゲですが、どうやって抜いたんです?」


 え? ああ、スポッと。こう、ガシッと掴んで引っ張ったんだけど……。で、ポイって。

 うん、いやわかるけど……そんな目で見られても……ねえ。


「……もう少しこう、具体的なやり方なりポイントなりないんですか?」

 師匠、頭を抱えないでー。


 だって、トゲを抜くときのポイントってなんだ? 掴んで抜く以外になにが? 当時力ずく以外の魔術の使い方なんて知らなかったんだよ。

 あ、でもあの時でも結構頑張ったから、今回のあのバカでっかいトゲが抜ける自信はありません。

 旦那さまやる?


 とは聞いてみたけれど。どうやら旦那さまは別の事を考えているみたいですね。静かな笑顔が君がやるんだよと言っている。そういうところ、シャドウさんを思い出すわー……。


 私たちはカイロスのおっさんから変化の予想と度合いを聞いて、対策を打ち合わせることにした。魔術で緩和できるところは、さすがに魔術を使う方がいいと私も思います。出来るだけ少しずつの変化がいいよね。


 で、結局は抜くのは私ですか? ええ? 私ですか? 頑張れと。

 まあ、実績があるからと言われてしまえばそうなんだけど……。出来るのかなー……。


「あとでシエルと、あと王にもトゲを解析した私のデータをお伝えします。まだしばらく時間はありますので、効率のよい抜きかたを探る時間もあるはずです。事前に抜きやすくできたらなおいいですね」


 って、さらっと言ってくださいますが。

 とにかくでっかいんだよ! ハリケーンって、たしかあんな感じだっけ? どこまで頑張ったら全体を掴めるんでしょうね? それとも細分化できるのかな……。


 と、旦那さまが、

「まあせっかく私が今ここにいるからね。あとで二人で相談して、ちょっと下調べもしよう。カイルに魔術の内容を聞いたら、一緒にやろうね」ニッコリ。


 うん、がんばるー。


「けっ、ちょろいなお前……」

 いいじゃんよー、動機とやる気は大切でしょう。今回は私のやらかした後始末というわけじゃあないんですから。あれ? そうよね?


「はい、助かります。シュターフのためにありがとうございます。よろしくお願いします」

 まあ今までおっさんにはお世話になっていますから。ベストを尽くします。人助けにもなるしね。あ、龍助け?



 その後私たちは師匠の描いたという魔法陣を見せてもらった。


 部屋いっぱいに描かれた円形の複雑な文様は、迫力満点だった。なんとなく部屋の床全体と描かれた線がうす青く光っている。なんか魔力というか……パワーを感じるよ。


 私には何が何やらさっぱりな文字と図形だったけれど、旦那さまはしばらく魔法陣を眺めたあと、一部を書き換える相談を師匠と始めた。


 なんだか旦那さまも熱心に議論しているよ? この文様がわかるってすごい知識なんじゃあないの?


「君の祖先のジルは魔法陣が得意でね……いくつか秘術にした魔法陣もあるんだよ。今度その一部を教えてあげよう。君は遠見には興味あるかい?」

「遠見! それも魔法陣の形式に出来るのですか!」


 うわあ、師匠のおめめがすっごくキラキラしているよ。これは……止まらなさそう。


 私とおっさんは、ぼーっとその様子を眺めていることしか出来なかった。よかった仲間がいて。しばらくは静かに見守っていたんだけれど、二人はどんどん白熱するばかりだ。


「……オレたち、いてもしょうがねえから、あっちでお茶でもしてるか。お菓子も出すぞ?」


 はいはい行きます! 行きますよ~。

 私たちはそっと魔法陣の部屋を抜け出したのだった。


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