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一族

「で? ついうっかりでこの惨状か?」

 あ、はい、すみません……つい……。

 パタパタ……。


「カーテンとか窓ガラスも見あたんねえぞ? 部屋の中が全部見事にふっとんでんな?」

 はい、すみません、どうやら全部飛んでいったみたいです……。


 パッタパッタパッタ。


「テメエ、なにシエルの横で嬉しげに立ってるんだよ。元はと言えばオマエが説明してなかったのが原因だろうがよ、ええ? アトラ王さんよ? 姫さん守ったからってチャラにはなんねーんだぞ?」


 おっさんが腹立たしげに旦那さまを睨んだ。

 おっさん! 珍しく気持ちが一致したね! さっきから旦那さまの見えない尻尾がフリフリパタパタしていて煩いのよ。この人全然反省してないよ! 見てよあの無邪気な笑顔!


「シエルが妬いたのがそんなに嬉しいか。ウゼェ。にやけるんじゃねえよ。その結果がこれだ。もう少し早めに止めてくれないとそのうちオレが破産するぞ。なに不安になってるんだよ。シエルは誓ったんだからそれでいいだろ。こいつに気持ちがなかったらオレがとっくにもらってるんだよ! くそう。この前はカイルが実験室を爆破しやがったし、お陰でウチはあちこちで万年新築みたいになってんだぞ。いくら石造りで丈夫に造ってあるからって、自由にやりすぎだお前ら」


 あらー、師匠もやってたのか。そういえばお庭も全面焦げたばっかりだった。すみません。おっさん、弁償の交渉はこの人とお願いしますね。


「はあ、もうしょうがねえな。カイルやお前の魔術がすげえって宣伝する材料にしてやる。これでますますトゥールカ王もこっちに手出ししにくくなるだろうよ。へっへ、無敵だぜ」


 ちょっと視線が虚ろですが。

 うん、タダでは起きないね、さすがおっさん。って、これ宣伝されるとちょーっと恥ずかしいんだけど? 細かな事情は伏せてよ!? お願いよ!?


「まあ三の姫もこっそり誘惑するつもりがバレバレで居心地悪くなったみたいだしな、帰ってくれてよかったわ。シエルがよっぽど怖かったんだろうな? しっかしあの姫までもがオレよりもコイツなのかよ! くっそう悔しいな。なんだよ。王ってそんなに良いものか? で、そこのにやけてるオマエ、ちゃんとシエルに事情を説明したんだろうな?」


 はい? いいえ~? 私、冷静にはなったけど、事情とやらは知りませんよ?

 なんでしょうね、その事情とやらは? それはそれは重大なナニかが有るんでしょうねえ、もちろん。ねえぇえ? エヴ?

 フリフリしていた幻の尻尾がシュンと下を向いたけれど、それくらいではもちろん許せないよね?



 で、結局。


 ん? 読めない?

「そう。オレ、覚醒してからは人の気持ちっつうの? 考えていることが結構細かくわかったりするようになったんだけどよ、どうもあのトゥールカ王と王族だけは全然読めねえんだよ。で、あの三の姫も同じでな。それをこのアトラ王さまに相談してみたんだよ。で、コイツがあの姫に近づいて調べていたと」


「でも私も読めなかったねえ。こんなに何も見えないのは初めてだね。触れたらわかるかと思ったが、やはり何も見えなかった。そして普通は魔力が無いといっても全く無いということはないんだが、あんなに綺麗さっぱり無いのも初めてだね。全く魔力が無いと何も読めないということなのかねえ」


 って、なにうんうん納得しているんでしょうかね? それならそれで言ってくれればいいものを、ねえ? なにをコソコソ……実は綺麗なお姫様に言い寄られて嬉しかったんじゃあないんですかね? ええ? 幻の耳と尻尾をシュンとさせても私の怒りは冷めませんよ? すり寄ってきてもダメだから。つーん。さわらないでくれる?


「おい……すっかり尻に敷かれてるじゃねえかよ……。こええな。結婚って」

 おっさん論点ズレてるよ? ほっといて。


 でもそう言えば私も、あの第三王子の思考は全く見えなかったわね。魔術でシャットアウトしていたからかと思ってたけど、もしかして違うのかな? 王族だけ特別? あの金髪が特殊な能力を発揮してるとか?


「シエルもか。なんだあいつら? どうなってるんだ?」


 さあねぇ~。向こうも向こうで何か特殊なんだよきっと。最新技術で何かあるのかもしれないよ?


「お前……相変わらず危機感ねえな。向こうの動きが読めねえとこっちが危ないって考えないのかよ?」


 まぁーそうなったらそうなった時よ。全力で抵抗する。それ以外にないよねー。そして最悪逃げる。私の方針は変わらないよ?


「お前……背負うものが少ないっていいな? オマエもオマエだ。何をうんうんシエルに同調してやがる。元は王の一族だろう。その高貴な一族どうすんだよ。トゥールカ王が真っ先に潰しにくるだろ」


 一族? そういえばいるの?

「ん? 一族はもういないよ。私だけ残ってしまった。だから今の私が背負うのは妻くらいだね」

「は? 親戚誰もいないってことはねえだろ。見かけ若けぇのに」


「探せばいるかもしれないね。うっすら血が繋がっている人間が。でも誰だかは探さないとわからないだろうし、今幸せに暮らしているのなら今さらそんなことを知ってもね。面倒なだけだろう。……必要ないな」

 静かに、でも確信を持って言うその様子から私は彼の孤独を感じてしまった。


 そうか……。あの広い部屋で一人で眠っていたのは、本当にひとりぼっちだったからなんだね。ずっと? ……ずっとか。

 なんか突然、きっと眠っていたのであろう彼の過ごしてきた長い長い時間を感じてしまった。その間に、親族はみんないなくなってしまったのだろう。……うん、そうか。

 じゃあこれからは、私と一緒にいようね……。

 目があってお互いニッコリする。


 よし、トゥールカの王が潰しに来るんだったら、一緒に逃げよう。そしてひっそり暮らせばいいよ。ひっそり隠れる技は磨いておいたよ! いろいろ知ってるよ! まかせて!

 うんうんうん。


「けっ、なに仲良く結託してやがるんだよ。そんなこと言ってどうせシエルはまたやらかすぞ? 龍だっているしな? ひっそりなんて出来るわけねーだろ」


 えー、そんなのやってみなきゃわからない……かもしれない……じゃないか……。


「オマエもな? シエルにちょーっと嫉妬させて気持ちを確認しようとしただけで、この騒ぎなんだぞ? この部屋を見てみろ? この先ぜったいにコイツを怒らせない自信はあるのか?」


 ん? あれ? 旦那さま? ちょっとなに眉間にシワ寄せているのかな? なんで自信を持って答えられないのかな? ん? んんー?


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