表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/119

忠誠心とは

 書いても書いても終わらないお礼状のヒトコトとサイン。

 書きすぎて「ありがとう」と「シエル」がすぐにゲシュタルト崩壊するから、ますます捗らないよ!


 なにしろ毎日届くのよ。どれだけなんだ『月の王』人気! 

 見舞品にはもれなく「心配しています! あなたは『月の王』の宝! 私がお力に!」という主旨のメッセージがついている。


「みなさんがあなたにヨロシクって言ってるよ。そしてお礼状にサインをするのは私……なんか理不尽。手が痛い」

 と恨みがましい視線を送るも、我関せずで私の応接間のソファで寛ぐだんなさま。世の奥様方、旦那さまにムカつく瞬間って、こういう時ですか?


 でも公式にこのシュターフ領主館に滞在しているのは私であって、『月の王』(影)は公表されてないからな。端からは私が『月の王』への窓口に見えるんだよね。

 まだ書かなきゃダメ? もう文字書けないくらいに寝込んでいる設定じゃあだめかな? 見舞いに来る人たちを追い返すのもどうやら大変らしいよ? 面会謝絶にしませんか?


 ばっさり切り捨てて断っていた領主がいない間に、何とかアプローチしようとしてくる人が多いらしいです。

 居なくなって知るおっさんの有り難み。これからはもう少し優しくしてあげよう。


 と、旦那さまが、見舞いの花が置いてあるお部屋から、お花を一抱え持って来て近くに飾ってくれました。ニッコリ。この人に緑龍がついているからか、届くお花が全然枯れないんだよね。お陰で館中が綺麗なお花の洪水になってます。

 まあ、ちょっと和んだよ。ちょっとね。ありがとう。


 だんなさま、どうやら通常は無口なんだねえ。シャドウさんと旅していた時とあんまり変わらないのが意外だ。よっぽど浮かれたり興奮したりするとあのノリになるんだね。なるほど。まあ表情を読むのはシャドウさん時代から慣れているから困らないけど。

 ん、今? 今はソファでお茶を飲みながら、見えない尻尾をゆったりフリフリさせているよ? ご機嫌だね。


 はあ、続き書くか……。



 そんな日々を送っていたら、やっとカイロスのおっさんが王都から帰ってきた。


 妙に元気だぞ? 他人のドロドロ思惑に毒されなかったのか? 

「ああ? そんなの聞こえなくても元からだいたいわかるだろ。むしろ細かい思惑や計画まで詳細にわかるから、余計な憶測をしなくていい分楽になったな! ついでに他の隠しておきたいことなんかもわかるから、いやーいい収穫だった!」


 って、ホクホクの笑顔だ。つよいな。


「それに今回火龍がついたのが明確になったからな。誰ももう逆らう気はなくなったみたいだな。まあ、オレが睨んだら領地が丸ごと黒こげになるぞって暗に言っといたしな! へっへっへ」


 って……つよいな。

 もうそれしか言葉が出ないよ。メンタル(はがね)か。


 領主の執務室で。前まではうず高く積まれていた書類たちも、秘書アルドさんと、どうやら前領主カルキア様のお陰で随分な量を処理できるようになってきたみたいだ。前ほど酷い状況ではない模様。よかったね。


「しかし今回は思ったよりお帰りが遅くて少々心配しました」

 とアルドさんが言った。


「ああ、なんか王からイロイロ試されたっつーか、疑いを晴らさせられたっつーか、な。なにしろ火龍だけじゃなくて『月の王』も味方についたことになるから、向こうから見たらこっちに龍が三体見えるんだろうな。ほんとは四体だがな!」


 って、こっちみない。今その話題はいらないでしょ。ん? そうでもないか?


「んで、よってたかって忠誠心を見せろといわれてもなあー」

 はあ大変だねえ。


「で、どうやって忠誠心を示したんですか」

「あー? どうしようもねえよな。とりあえずは王国のお歴々の前で王に忠誠を誓わされて、あとは愛想よくご機嫌とりだよ。三の姫と結婚しろって言われたが、オレだって選択権があるだろ! 必死で断ってきた! 魔力の無い女と結婚なんてごめんだ!」


 ええー!? 政略結婚だ! 姫の降嫁だ! 高貴な人だ! 断れるのそんな話?


「シエル、お前が言うな。世が世ならお前王妃なんだぞ! しかも目の前にこんな特大な魔力持ちがいて、なんで魔力のない女を嫁にしないといけねえんだよ。しかも王のスパイじゃねえか! そりゃもう必死で断ってって、お前、突然現れるんじゃねえよ」


「目の前の特大の魔力持ち」を聞き付けたのか、お部屋にいたはずの旦那さま(影)が突然私の横に出現した。無言で睨んでいる。いや、別にプロポーズされたわけでも、ましてや名指しされたわけでもないですよ。そんな気は薄々していたけど、がっつり監視しているな? 離れていても。過保護すぎでは?


「そういやカイルはどこ行った?」


 そう、ここにはおっさんと、秘書アルドさんと私と、そして今旦那さまが加わったが、師匠はいない。


 なんかねー最近していた魔法の研究が煮詰まっているらしくて、研究室にしている部屋から全然出てこないよ。急がないと時間がないとかブツブツ言って怪しい人になってます。


「そうか。おいオマエ、暇なんだったら協力してやれば?」

 おっさんが旦那さまを見る。


「うーん、でもこれは彼の課題だからねえ……」

 あら、旦那さまは難しいお顔ですね。


「まあとりあえずは、あのトゲの問題もあるしな。国にはできるだけおとなしーくしておくに限る。シエル、頼むぞ? ほんっとーに頼むぞ?」


 って、おっさん、私最近大人しくしているよ? 派手なことしてないよね?

 むしろ派手に騒がしているのはおっさんだよね!?


 大丈夫大丈夫! 最近私は落ち着いたのよ~! まかせて!



 そんな話をしていたら。

 なんかバタバタと使用人さんが駆け込んできた。


「カイロス様! 今! 三の姫がご到着されました!」


 はいい? なに? 追いかけてきた感じ?

 なになに? ロマンスの香り!? わくわく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このお話はBKブックスさんから書籍化されました!

「放置された花嫁は、ただ平穏に旅がしたい 」

放置された花嫁は、ただ平穏に旅がしたい 表紙
紙の書籍は一巻のみですが、電子書籍として最後の三巻まで出ています!(完結)
読み放題にも入っているので、ぜひお気軽にお読みください!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ