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だんまり会談(誰も声は出していない)

 

「ところで先程おっしゃっていた、覚醒したばかりで心配という話なんですが」


 うん、師匠、相変わらずブレないね。なんだろう、この脇目もふらずに突進する感じ。


「覚醒すると何か心配事が発生するのですか? 私が教えてもらった知識の中に、覚醒に関する事は何もありませんでした。覚醒というのは、よくあることなのでしょうか? それとも、」


 あ、研究熱心なんだ。さすが私の師匠。


「ああ、覚醒は、もともとあまり起こらないものだからね。特に現代は覚醒できる程の魔力を持つ者も少なくなって、切っ掛けもないから、まず無いだろう。今回はいろいろな条件が重なって、珍しい現象が起きた感じだね」


 そしてさすが旦那様、物知りなんだね。


「いろいろな条件とは? なんでしょう? 珍しいとはどのくらい?」

 そして師匠、前のめりで質問攻めだ。すごい熱心でびっくりだよ。


「うーん……。まあ、君も聖魔術師の称号を持っているしね。他はみんな龍がついている、か。じゃあ、ここだけの話ね。他言はあまりしない方がいいと思う」


 旦那様が語り始めた。


「覚醒は、本人の魔力が限界まで引き伸ばされたときに、一定条件で覚醒することがある。ただね、死んでしまう危険もあるから、むやみに広まると危ないんだよ。昔は覚醒させようとして親が子供を追い込んで、死なせてしまった事例もあってね。だから、一般には広まらない方がよいということになった」


 嫌な記憶でもあるのか、旦那さまの眉間にシワがよる。


「でもここに居る人たちは、知っておいた方がいいかもしれないね。誰かが魔力を限界まで放出していたとき、普通は放っておくと魔力を使い果たして終わる。だが希に命を削ってまで魔力に変換して放出しようとする人間もいてね。その場合、最後まで放っておくと、死んでしまう」


 そしておっさんを見た。

「今回の君のように」


「ええ? バレてた? やだなーだって火龍があんな状態じゃあ、しょうがねえだろ。火龍が出せなければ、どうせオレはどさくさに紛れて叔父貴に今頃は殺されてただろうし」


 ええー!? そんな決心する前に、相談くらいしてくれよ。なに勝手に死のうとしているんだ。ちらっと見たら、師匠もきっと同じことを思っている、そんな顔をしていた。


「まあ賭けには勝ったんだからいいじゃねえか。どうせオレが死んだら龍は叔父貴につく可能性があるんだ。今のところ次に魔力が強いのは叔父貴だからな」


「それはどうかな?」


「「 えっ? 」」


「あっ」


 旦那さまが黙った。三人の視線が突き刺さって先を促しているのに、頑なに困った顔のまま黙っているよ。ちょっと、誘い受けやめて? うっかり言っちゃったなら、責任とろう?

 諦めたのか渋々口をひらく旦那さま。


「……あの叔父どのは火龍の怒りをかっているだろう。もし次に魔力が強いとしても、火龍が嫌がって彼を殺すだろう。他の人間を王にするために」


 わあ物騒な話だったー。たしかに龍から見たら、人間なんて簡単に殺せそうだよね。プチっと。おお怖い。


「誰を王にするのかは、龍に選択権があるのですね……」

 師匠、感心するのはそこ?


「選択権どころか全てを龍が決めるんだよ。誰につくのか、つかないのか。離れるのかつき続けるのか。私たちなぞ龍の便利な道具にすぎない。2体もついていると二倍働かされるんだよ。そして2龍の喧嘩の仲裁も私だ」


 そしてため息をつく旦那さま。あら、苦労しているのね……。


「さすが王ですね。頂点にいる者の苦労でしょうか。それで、今回カイロスが死なないで覚醒した理由はなんでしょう?」


 師匠……相変わらずなのはいいけど、ぐいぐい行き過ぎでは!? もうちょっと私は情緒が欲しいよ?


「ですがまたいつ王が目の前からいなくなってしまうかと思うと、気が気ではないんですよ。世の中に私の知らないことがこんなに有るなんて! むしろ何故あなたたちは気にならないんですか!」


 師匠……。


「シエル、残念ながらこいつ、昔からこうだからな? 最近は自分の知らないことにぶち当たらなかったから大人しかっただけだ。諦めろー」


 おおう、そうなんだー。わかった。諦める。旦那さまはモロに困った顔をしているけどね。熱い視線に焦げそうだね、頑張れ。


「……覚醒は、限界を越えて魔力を放出したときに起こる、いわば体の防御反応なんだよ。体の構造や仕組みを一部組み替えて最適化させるんだ。だが、自分ではなかなか出来ない。普通は限界を越えられないからね。今回は限界まで放出しているところに彼女の強い魔力が加わったから、その魔力につられて限界を越えてしまった」


 ザアッと音をたてて血の気がひいた。えっ!? 私のせい!? 私、おっさんに無理させちゃってたの!? 殺すところだった? ごめん! とってもごめん! 知らないって怖い。


「いや、むしろ気持ちよかったぞ? すんげえ力の魔力で吸い上げられてんの! それにもともと全部魔力にして火龍に送るつもりだったんだ。むしろ加勢してくれて助かったんだから謝らなくていい」


「まあ様子を見て私が加勢するつもりだったから、どのみち君は死ねなかったよ。ただ、彼女の魔力につられて放出するペースが君の今までの限界を越えたのは確かだ。それで覚醒した。ここにいる人間はみんな魔力が強いから、もし誰かが同じような限界状態になったときに、同じように手助けすると覚醒させられるかもしれない。だが、同時に下手をすると死なせてしまう可能性もある。それは覚えておくといいだろうね」


「じゃああの加勢は偶然じゃなくて計画通りだったのか? なんだ、だったらもっと早くからやってくれてもよかったんだぜ~?」


「それでは君の一族に示しがつかないだろう。君の覚悟を見せるのは大事だろう? ただ火龍の魔力不足が今回は酷かったから、覚醒していない君が一人だけでは厳しかったとも思う。承認の場にいた者として、手助けは当然のことだ。君は私たちの仲間になったのだから」


「そうか……。ありがとう。助かったよ」


 仲間……龍つきという仲間か。おっさん、あのとき旦那さまを排除しなくてよかったねえ。 

 ん? 私「たち」? え、私も仲間に入っている? そりゃそうか。


「シエル、お前、そろそろイロイロ自覚しような?」

 あ、はい……。


「ただ、覚醒すると、体の構造が変わるせいか感覚が変わる。君も自覚があるだろう?」


「ん? ああ、そうだな。いろいろ便利になったぜえ? 今まで金と労力をかけて集めていた情報が向こうからやってくるんだ、いやあ快適でしょうがねえよ! いいな! 覚醒って!」


 なんか目を輝かせておりますが? 旦那さまは何を心配していたのかな?

 そして旦那さまがびっくりしている顔はきっと初めて見たよ。


「それならいいんだが……。中には情報量に対応出来なくて心身を病む人もいるんだよ。うん、君は強くてよかったね……」


 師匠に熱い視線を送られて、腑に落ちない顔をしている旦那さまが説明してくれた。


「覚醒すると感覚が鋭くなって、今まで聞こえなかった音や人の感情やその他の細かな世界の動きや内容を敏感に察知するようになるんだ。知りたくなかった事を覚醒したために知ってしまったり、常に情報が頭の中に流れ込んで来るために主に神経が疲れてしまって、病んでしまう人がよく居るんだが……今回は杞憂だったみたいだね」


 なるほど。おっさんメンタル強いな!

 そして、ちょっと身に覚えがあるのが怖いぞ?


「悩んでいるようなら情報を制限する(すべ)を教えようかと思ったんだが、君にはいらなそうだね」


「え? いや一応教えてくれ! 知っておいて損はないからな。たしかにメンドクサイ時もアルカラ!」


 うわあ、全然そんなこと思ってなさそうなんだけど……。

 あ、私も一応教えてほしいです! 王宮ではちょっとウンザリしたばかりよ!


「君にはもう教えてあるだろう。強化も自分でやっているようじゃないか。君の場合は自分で技を磨かないとこの先で苦労するから、この火の王をみならって開き直れるといいね。あと強化の練習を頑張りなさい」


 えー? やり方って、あれのことか。もっと強力なのないんですかね?

 というか、この先って……何があるの?


 なにしれっと予告じみたことを言ってるのかな?

 もうなにも無くていいんだけど! やめて!?


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