反乱
反乱? の、軍!?
一見平和な日々に戻ったと思ったら、すぐこれですか!?
休ませて!?
相変わらず書類がうず高く積まれている、領主の執務室。
コトがコトなので、師匠と私、そして前領主のカルキア様と、そして現領主秘書のイケメン青年アルドさんが集められた。あら、秘書さんが出来たのね。きっと厳しい信用調査を潜り抜けたツワモノなのだろう。味方が増えてよかったね、おっさん。
「叔父の言い分は、火龍の承認を受けていないものは領主と認めない。詐称している。ということだ」
承認、受けたよね?
「だが、それを公にする前だったし、証拠がない。王に承認されたと報告を出したばかりだから、どこからか漏れて、叔父が焦ったな」
ええ……なんでそんなに領主になりたがる? この書類の山が好きなのか? ……え? なんでみんなジト目?
「あなた……。この国一番の富豪で、高位貴族で、王に実質、唯一敵対できるであろう龍という武器を持つシュターフ領主ですよ? 王が気を使う数少ない相手です。そんな立場に惹かれる人間は多いんですよ」
へー、おっさん偉いんだねえ。大変そうだ。なんでそんな立場の後継がのんびり辺境を旅していたんだか。
「それは! 膝の呪いが消せなかったからだろ! 呪いを消せなくて後継の立場も危うかったんだぞ。お前とお前の旦那が居なかったらヤバかったんだよ。ああくそ、叔父の野郎、改めてムカつくな!」メラッ。
ああ! こんな紙が多いところで火を出さないでー。危ないよ!
「とにかく、反乱は早く平定しないといけないね。火龍を出せると一番いいんだが」
前領主のカルキア様が言った。
「あの様子だと、まだ動けるか微妙だな。だが火龍が直接宣言しない限りはなにかとイチャモンつけてきそうだしな。……しっかしこの短期間でよく一族をまとめあげたな。どれだけ前から根回ししてたんだ? 脅迫か? 弱味か? 金か? くそう、時間の差か? やっぱりあの叔父貴今度こそ潰す!」
うーん、未来のおっさんの姿が見えたのは気のせいかな? 同族嫌悪という言葉が頭に浮かんだよ?
「でも、武力でこの館を落とすのは難しいはずですが。ここにいる面子だけで大きな軍隊に匹敵するでしょう。前火の王カルキアさま、聖魔術師さま、『再来』さま、そして地の王である『月の王』も承認したということは味方ですから。正直僕、ここに居るのがおそれ多くて怖いです」
秘書アルドさんが台詞とは裏腹に冷静に語る。
なるほど、そういう風に言うとなんか最強軍団みたいに聞こえるね。
「だけどたとえば世論を味方につけるとか、もっと穏便な方法はなかったのかな?」
「それも、以前に『セシルの再来』キャンペーンで『再来』さまを聖女として広めましたから、領主に『再来』がついている限りは難しいかと」
「それを考えると、シエルを娶れなかったのは痛恨の極みでしょうねえ」
師匠、ヒトゴトみたいに言わないでくれる? 私は必死だったのよ? ただ見ていただけのくせにー。
「あの叔父……本当に余計な事ばかりしやがって……」メラッ。
だからー! 火は出さないで! 思い出し出火よくない。
「全部燃やすか! どこか人気の無いところに誘導して」
カルキアさま!? そんな物騒なお人柄だったの!?
「そうするか。それが一番はええな!」
ちょっと!? この一族、物騒!
「でも勝つか負けるかの勝負だしな。あっちは命がけだ、たぶん。最後のチャンスに賭けているんだろ。のんびりしていると足元をすくわれるぞ」
ひいぃ……。
「実際こっちに向かってんだろ? その反乱軍。この館のある街中まで来られるとまずいな。市民が巻き添えになる。とりあえずの先発隊は送ったが、追加でもういっそほとんど送るか」
え? この街軍隊あったの!?
「有るでしょう。むしろ無いと何故思っていたんですか。まあ名前は自警団ですが。豊富な資金で強いと有名ですよ。でもそんなに送っていいんですか、カイロス。ここの防衛はどうするんです」
「こっちに来たらオレらで迎え撃つしかねえだろ。どうせ街で戦闘なんて出来ねえしな」
オレらって、このメンバーですね? なるほど?
「とりあえず、館の者はみんな避難させろ。そして街の人間も女、子供は避難するように伝えろ。男たちはもし戦闘になったら、どうせ火が出るだろうから消火活動な? 最悪打ち壊せ」
「伝えてきます」
秘書アルドさんが部屋を飛び出した。
わかっちゃいるけど、私は女子供には入らないんだよね?
……うん、知ってた。大丈夫知ってるから。みんなそんな目で見ないで! 言いたかっただけだから!
でも次の日。
なんとあの小カールが使者としてやってきた。
「私たち一族が、この館を包囲しました。私たちは無血開城を求めます。このまま降伏して領主の座を私の父、カール・ナディアに譲るのならば命はとらず、追放だけで済ませましょう」
反乱軍はおとりだったのかな。そして精鋭で屋敷を囲んだと。
小カール、あなた、良い駒なのね。このままここで殺されてもおかしくないのに。それを承知で送り出したのか、大カール。
「断ったらどうなる?」
おっさんはポーカーフェイスで悠々としている。役者だなー。
「断ったら、ここを囲んでいる私たち火の一族が一斉に総攻撃をかけます。残念ながらこの場にある全てが焼けるでしょう。そこの『セシルの再来』の力をもってしても、館全体が燃え上がってしまったら消火はできないでしょうね。一人一人は弱くても、力を合わせれば大きな魔術を出すことができます。カルキア様とカイロスは焼けなくても、他の火の一族でない方々は我々の火に対抗はできますまい」
小カールも、勝算があると思うのか自信満々だ。
おっさんが言った。
「シエル、こいつに防御魔術をかけろ。何があっても死なないように。最後まで生き残って証言してもらうからな。あ、効果は一日でいいぞ。なんなら、半日でも」
はい? なにを考えているのかな? まあいいや。棟梁の言うことを聞きましょう。
お手てをヒラヒラさせながら。
全てを弾いて傷つけないよ。
「カチリ」
「よし。じゃあ、そこの間抜けなドラ息子、ようく見とけよ? オレの戦いを」
そしておっさんは一人でバルコニーに出ると、大声で叫んだ。
「交渉は決裂した! オレは領主の座は渡さない! 火龍の承認は得ている! 火龍はオレとともにある!」
せっかくだから、風で半径一キロまで拡声させときました~。
一拍おいて。
シュターフ領主館が一気に燃え上がった。





