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謁見

「早速オレが断れない話がきたぞ」


 うわあ、すごく嫌な予感がする顔だと思ったら。

 あ、今晩のだんまり会談のお茶受けには、今流行りの新作スイーツをご用意しました! すっかり馴染みになった、あの護衛さんにお願いしたよ。ずっと居候も申し訳ないので、たまには御馳走させてください。まあ本当にちょっとだけどさ。


「お前、ちゃんとオレの客なんだし、居てもらわないと俺が困るんだからいいんだよ。余計な気をまわすな。いっそここに住んでもいいんだぞ? 一生な。もちろんあの旦那は抜きで」


 おっさん……なぜこの期におよんでまだその姿勢なの……。水龍効果?

 まあありがたいけど。出ていけと言われても、どこか宿に逗留するしかない身の上ですよ。最近は忘れがちだけど。この家も今はそんなに嫌じゃなくなったしね。


「で、なんです、カイロスが断れないなんて。どこの偉い人なんですか」

「王だ」


 王様!


「この前オレが大立ち回りしたからな……。しかも『月の王』まで降臨ときたら、直接来て説明しろとさ。そしてその時にいたもう一人の話題の女も連れてこいと」


 うっ……指名されてしまった。

 でも私、今回は何にもしてないよね? 暴れたのはおっさんだけよ? なのにとうとう王に謁見?

 なんか行き着くところまで行き着いた感があるわ……。久しぶりに言っていいかな。どうしてこうなった。


「あなたは『月の王』に永遠の愛を誓ったじゃあないですか。大勢の前で。カイロスの大暴れも元をたどればあなたのあの宣誓ですよ。まあ逮捕されないように行動には気を付けてくださいね。あちらにしてみれば、今まで目の上のたん瘤とは言え伝説にすぎなかったものに、実在の配偶者が出現した形ですから」


 好きな人に愛を誓っただけなのに……王様、私は捨て置いてくれないかな。


「まあ、出来るだけ穏便に済ませられるように頑張るしかねえな。早いとこ行動しないと痛くもない腹を探られるから、出来るだけ早く出るぞ」


 うへえ、準備しないと……。私の記憶史上一番気乗りしない旅の準備だわ。しくしくしく。自分の首が危機でなければ一番楽しみに出来たのにー。



「では一番素敵なドレスを荷物に入れましょう。どーんと胸を張って謁見してくださいね!」

 何故か目を輝かせているのは、最近この館で私の侍女さんを務めてくれているエレナさんです。


 記憶をちょっと取り戻したらね、周りの人の思考が流れ込んで来るようになっちゃったんですよ。そういえば昔はそれを防ぐ手立てを知らなかったな。まあそういうものなのかと、誰にも言わなかったしね。言ったらますます気味悪がられると思っていたし。


 だけど今は、以前にシャドウさん、もとい旦那さまに教わった、自分と他の人とを分ける魔術を強化してかけ直しました。これで元通り。でもその時に、ちらっと流れ込んできたエレナさんの思考が、全然私を怖がるどころか、心底面白がっているのがわかったから。

 だから、専属の侍女さんになってもらいました。ちょっとお友だちみたいにお話できて楽しいです。ふふっ。


「王都なので、シエルさまには立派な貴族の令嬢に見えるように、しっかり私も付いていきますからね! 王宮は初めてですか? 楽しみですね!」

 うん、楽しそうで何よりです。



 馬車で三日と聞いていたけれど。

 本当に三日経ったら王都でした。当たり前か。ちょっと緊張で混乱しているわ。


 カイロスのおっさんの、家紋入りの絢爛豪華な馬車だったので、それはそれはお尻に快適な旅でした。貴族然としたおっさんと、令嬢然とした私。なんか見慣れないわー。


「令嬢じゃなくて夫人だろ。夫婦に見えたりしてな」

 おう、そんな誤解もありそうなきらびやかさですね、二人とも。

「ドレス着るとお前も貴族っぽいな。お前、結構所作はちゃんとしてるのな。アクセサリーが無いと謁見の時に困るだろうから、家からいくつか持ってきたぞ。好きなの使え」

 あー、ありがとう。さすがに謁見でアクセサリー無しはまずいよね。


 所作はね……。むかーし昔に叩き込まれているのよ。ナディア家育ちですよ、私。言わないけど。姫って呼ばれていたんだから。


「お前、なんか最近ジタバタしなくなって、妙に肝が座ったな。ちょっと雰囲気変わったぞ。何があった?」

 エー、ナンニモ~? 不測の事態に慣れたんじゃナイカナー。


 王都では宿に泊まるのかと思いきや、王都のお家がありました。さすが貴族。へー、王都の別邸ってこんな感じなのね。立派だ。初めて来た。いつもだったら買い食いツアーに繰り出したいところだけど、さすがに今はそんな気にはなれません。


 王都についたとたんに、早速謁見の段取りが組まれました。早いなー。王様も忙しいだろうに。どれだけ重要視されているんだろう。怖いわ。




 そしてあっという間に当日。

 荘厳華麗、絢爛豪華、キンキラギンギラ。それはそれは美しくも威圧的な王宮なるところに、これまたキンキラしたドレスと宝石で着飾って足を踏み入れている私がいましたとさ。

 出世したなあ、私。おかしいな、北の辺境でのんびり旅していたはずなのに。


 長い長い廊下をおっさんとしずしず歩いて行く。広い! 広いよ。どんなに歩いても終わらないよ! そして着いた先でまた長く長く待たされる。


 あんまり長く待たされるから、だんだん緊張も薄れてきて、おーこれが王宮、なんてキョロキョロしていたら。


 んん?


 思わず近づいて見てみる。


 あら、電気スタンド! ガラス製の凝ったデザインの花の傘の中には、光る電球が一つ。

 王宮すごい! 電気が通っているなんて。


「なんだ、これ、魔力を感じねえぞ? どうやって光ってるんだ?」

 あらやだー、おっさん田舎者ー。これは電気ですよ。電気で光ってんの。スイッチで着けたり消したり出来るのよ? ほらここ。ポチってするとね、ほら消えるでしょ。さすが王宮、技術が最先端だね!


 そんなことを話ながら電気を着けたり消したりしていたら、とうとう呼ばれました!


 わあ! 緊張する! 突然緊張が戻ってきた!


「まあ、お前は出来るだけ黙っていろよ? 絶対にやらかすなよ!? 頼むぞ? さすがにここでは洒落にならないからな?」


 もちろんですとも! 殿中でござる! 後は任せた! おっさん頼み!



 玉座に座っている王様はそれはそれは金髪も麗しく、威厳もありすぎるくらいにあって、心から縮み上がったのは言うまでもない。心なしか睨まれている? 気のせい? でも怖いから目は合わせないよ。そんな失礼なことは出来ません!


 私は最上級の礼をした後は、報告するおっさんの横でひたすら黙って無になってました。お口はチャック!


 口を利くときは最小限で!


 と、思っていたら、なーんにも言わないで終わりました。完全無視。何となく睨まれて、終わり? ま、まあ、良かったのかな?

 私が貴族じゃないからお言葉がないとか、そんなのかな? うん、そんなんなんだろう。まあいいや。口は災いのもとだから。ひたすら大人しくしているに限るわ。

 

 あー緊張した。早く帰りたい。

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