表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/119

火龍

 そこは地下にある大きなドームのような空洞だった。

 真っ暗な巨大空間の真ん中に横たわる、おき火のような龍。大きい。

 そして熱いよー。


 おっさんの叔父様の館から、馬車で半日の山の中。隠し通路を延々と歩いたその先に、龍が眠っていた。意外と近かった。というより、人の方が龍の近くに移動したのか。


「あまり近寄ると危険です。今は魔術で拘束していますが、暴れるとやっかいです。ここは暑いですし、少し見たら帰りましょう」

 とは言うけれど。ここで帰れるわけがない!


「私は龍を元気にしに来たのです。何もしないで帰れましょうか。でも出来るだけ早く元気にするには集中して魔術をかける必要があります。しばらく一人にはしていただけませんか?」

「それは出来ません。龍は危険です。その水晶玉を置いて帰るのはどうでしょう? その水晶玉の効果は聞いていますよ。十分でしょう」

「まあ、いいえ。この水晶玉は私が命令するまでは眠ったままなのです。でも、龍に魔術をかけてみないと、どのような命令をすれば良いのかわかりませんわ。なにしろ龍を癒すなど初めてのことですから」

 すらすらと口から飛び出すデマカセに我ながら呆れるけど、頑張れわたし!

 とにかく居残るんだ!


 しばしのにらみ合いの後。

「では私の目の前で癒していただきましょう。お一人にするわけにはいかないのですよ」

 うーむ、しょうがない。

「では少し離れていてくださいね」


 そう言って私は彼から十分離れて出来るだけ龍に近づいた。暑い。

 自分の周りだけミストを纏わせて出来るだけ涼しくしよう。

 一応持ってきた水晶玉を胸元に掲げて祈っているポーズをする。


 そして語りかけた。後ろに余計な人間がいるので、おかしな事が言えないのがもどかしい。


「火龍……眠っているの? 癒しの魔術をかけてもいいかしら?」


 返事はない。火龍はピクリとも動かなかった。

 これは持久戦だな。人間不信だったらどうしよう? 魔術で拘束とか言っていたからなあ。っていうか、それ、出来るのか?


「龍は眠っている! 自由に魔術をかけてかまわない。私が許可する! 早くしてくれ!」

 後ろが煩いぞ。お前が許可って、龍に失礼だろう。どう考えても龍の方が格上だというのに。なんでこの圧倒的な存在感に畏れを抱かないんだろう? 龍はお前の手下じゃあない。


 その時、火龍が燃え上がった。あっつう。でも我慢だ。ミストを濃くしておこう。この部屋の端に地下水が滲み出しているのがわかる。水気がたくさんあって助かった。なんとか堪え忍ぶ。


「あつい! 私は外へ避難する! シエルどの! あなたも倒れる前に出てきなさい! 中で倒れていても私は助けられませんよ!」

 そして返事も待たずに小カールは逃げ出したのだった。わあ好都合!


 ドアが閉まる音とともに火龍がおき火に戻っていった。助かった。これでしばらく居られそうです。

 すかさずドアを封印だ!


 私以外は開けられないよ

「カチリ」


 すると火龍が目を開けた。

『ほう……? 自らここに閉じ籠るとはおもしろい。水の。何をしに来たのだ。そなたには熱かろう。水龍を呼べばよい』


 いいの?

「セレン」

『ほいほい~冷やしてやろうかの~~そーれ!』

 ぱっしゃん! 

 って、これ、前領主の熱を下げていたやつだね! うわあ涼しい~セレンありがとう~すごいわー!

『じゃろじゃろ~』

 うねうね小躍りする水龍。相変わらずちょっとかわいいじゃないか。


『で、火龍。おぬしなぜ弱っておるのかの? 火のが探しておるよ』

『それが、やっかいな魔術を仕込まれてしまったのだ。お陰で思うように魔力を吸収できないようになってしまった』


 やっかいな魔術?

『そう。針のような、トゲのような……とにかく邪魔で思うように体が動かないのだ』

 トゲ……? まさかアレじゃあないよね……? まさかね?


『ああ……あれじゃな? たしかに最近妙に大きくなっておるなと思っていたんじゃが。お主、自分で抜けないのかの?』

『ちょっと大きくなりすぎた。小さいうちに放っておかずに弾いておけばよかったんだが、気がついた時には大きくなりすぎていてな。今はもう弾くだけの力が出ないのだ』


 …………。


『今、火のが抜こうとしておるよ。代替わりは知っておるか?』

『ほう? ここは何も聞こえないのだ。ではあの小僧が今の火の王か。たしかカイロスといったか』


 あのおっさんを小僧呼ばわり……。龍ってすごいな。そういやあの「だんなさま」も小僧呼ばわりされていたもんな。


「カイロスが、大きな魔術のトゲを抜こうとはしているんだけど、抜いたときの影響が大きすぎてすぐに出来るかわからないの。それになにしろ大きすぎて私たちでも抜けるかわからない。でも、あれを抜かないと、あなたは元気になれないの?」


『あの針が魔力の吸収を阻害している。そしてここには魔力がほとんど流れてこない。地下には流れているようだが、上がってこないのだ。だから魔力がなくて動けん』


 じゃあ魔力があればいい?

『出来るのか?』

「少しなら。きっと」


 ならばと私はエネルギーの本流を探した。地下水も。


『水はまかせろ~持ってくればいいのじゃな~』

 セレン! 心強い!


 エネルギーの本流を見つけた。そんなに遠くはない。本流の近くを流れる水脈も探す。……おっ、そこそこの太さのもの発見ー。押そう! よいしょ。

 スルン。あれ、いとも簡単に……あ、セレンか。水龍すごいな、自由自在か。

 では、エネルギーの流れと水脈を接触させて、その流れの一部をさっき見つけたここに染みだしている地下水まで持ってくる。セレンがそれなりの太い道を作ってくれた。この部屋まで誘導したあと、持ってきたエネルギーに言い聞かせる。


 ここで拡散してね。


 とたんに、地下水が滲み出している暗闇の方でキラキラとした光が瞬き始めた。おおきれい~。いつ見てもいい光景だねえ。

『ほう……? なかなか……』

『まあ、お前さんにはちと少ないじゃろうが、これが今は精一杯だの。あんまり大きく動かすと、こんどは魔術を抜いたあとに障るじゃろうて。これでしばらく我慢をしておくれ。あの人間たちには気づかれないように力を貯めておくのじゃぞ』

『言われなくても。いつかあの人間たちを焼いてやる。我の意に逆らって操ろうなど許せんわ』

 うわあ、叔父さん親子の運命が決まった。こわー。


「これで少しは元気になれる?」

『そうだな。ありがとう。時間はかかるかもしれないが、動けるようになるかもしれん』


 その時、私が持っていた水晶玉が、突然光った。なんだなんだ?


 その光のなかに、もう一匹の龍が浮かび上がる。そして口を開いた。

『火龍、隙をつかれるとは情けない』

『あいかわらずじゃのう地龍、あんまり責めるもんじゃなかろうて。それよりどうした、しばらく見なんだが、お前の小僧は元気になったのかの?』


 地龍!?

 はじめまして!?


『まだ本調子ではないが随分元気になってきた。お陰でこっちに来る余裕もできたぞ。しかし気がついたらこんなことになっているとは驚いた。しょうがないから我も力を貸してやる。できるだけ魔力が届きやすいように特別に道を作ってやろう。土と水の二つの道でお前に魔力を送る。龍を操ろうとする人間どもには報復を』

『『 報復を 』』


 あれ? ちょっと? これ、私が居ていい場面なの? なんか台詞が怖いんだけど? 私は空気。私は壁。人間じゃないない。


『水の。そなたには感謝を。水龍と地龍を連れてきてくれてありがとう。私はこれで力をためられる』

 あ、よかった。どういたしましてー。


「じゃあ、この水晶玉、置いて行ったほうがいい? そうしたら地龍がまた来れる?」

 と聞いてみたら。

『地龍はもうここを知ったからいつでも来れるだろう。だが、その玉は針の刺さった傷を癒すのに有効のようだ。置いていってくれると嬉しい』


「なるほど。じゃあ置いていくね。水晶玉、この龍を癒してくれる?」

 キーン!

 よし、いいお返事! じゃあお願いね。


「このことはカイロスに報告するよ? 彼もあなたを心配しているから」

『よろしく伝えてくれ』


 わかった!


 嬉しくなって、意気揚々と部屋を出たら。


「なんだ死んだかと思ったよ! なかなか出てこないから。生きていてよかった。危うく父上に叱責されるところだったぞ」

 と、小カールどのに言われました。


 しかし随分遠くまで避難していたんだね、きみ。助けに来る気もなかったとはいっそ清々しいぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このお話はBKブックスさんから書籍化されました!

「放置された花嫁は、ただ平穏に旅がしたい 」

放置された花嫁は、ただ平穏に旅がしたい 表紙
紙の書籍は一巻のみですが、電子書籍として最後の三巻まで出ています!(完結)
読み放題にも入っているので、ぜひお気軽にお読みください!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ