化かし合い2
ひたすら龍にしか興味が無いと言い続ける、そんな日々のある夜。
「火龍か……。火龍がこちらについていると思わせられれば、お前と結婚したがるようになるのか? いい加減早くしないとカイロスが邪魔しにくるぞ」
「もしかしたら。でもダメでも説得しますよ」
「なるほど……。宝石ではダメで龍がお好みか。さすが『再来』と言われるだけあって変わっている。これで水龍もいればもっと良かったんだが」
「まあ水龍つきが見つかって、それが女だったらその時は離婚すればいいだけです。それまではこちらの味方でいてもらいましょう。その為にはいくらでもチヤホヤしてやりますよ。カイロスを追い落とすには魔力はあった方がいい。特にあの兄妹が逃げた今は」
うーん、似た者親子だねえ。
「しかたがない、では火龍で興味を引け。ちょっと見せるくらいで懐柔できるなら良いだろう。だがなにも情報は渡すな。そして龍がこちらについている話にでもしておけ」
いたよ! 火龍! 見せられるんだ! びっくりだよ!
「ここだけの話なんですがね?」
そういって勿体ぶって耳打ちしてきたのは翌日のこと。ついでに息を吹き掛けられて、ぞわわ~としたのは仕方ないよね? ほんとこの人好きになれないわー。
「実は、火龍は父のところにいるんですよ。だからカイロスが領主なのはおかしいんです。本当は父が領主になるべきなんです。そしていずれ私が継ぎます。ですが、今は火龍が弱っていて、表沙汰にできないんですよ。貴女にだけは教えて差し上げますが、内緒にしてくださいね」
ウインクはいらん。
「まあ! 火龍をご存知なんですか? ええ、もちろん内緒にします。スゴイワー!」
よし、このまま押すぞ~。
「火龍が弱っているんでしたら、私、癒せないでしょうか。癒しの水晶玉も持っていますのよ? 癒しの魔術もかけられればいいんですが。でも龍のそばに行かないことにはそれもかないませんわね……」
連れてけ! 龍のところに! さあ!
「でも、火龍には、我が家の家族しか会えないことになっているのですよ。困りましたね……ああ! そうだ! 私と結婚してください。そうしたら、あなたは自由に火龍にお会いになることが出来る。ぜひそうしましょう。明日にでも!」
ああ! そうきたかー! 何、顔を輝かせて、さも良いこと思い付いた! みたいに言っているんだよ。そんなプロポーズあってたまるか。龍見たさに結婚する人間がどこにいるんだ。ありえん。
「それは……ちょっと出来ませんわ」
「では婚約だけでも」
「いいえ」
それは無理な相談だー。なにしろあのおっさんの親族だよ。おんなじ臭いがプンプンするよ。間違っても言質をとられてはいけない!
「そうですか……それでは火龍には会わせられないのです。残念ですね。あなたも強情だな。少し考える時間をあげましょう。それではまた明日」
時間がどんなにあってもイエスは言わないんだよ。でも火龍もお預けかあ。困ったな。
持久戦か。
なんか私、どんどん策士になってきてない? 誰の影響だよ。まったく。
のんびりお気楽に旅をしていたんじゃなかったのか。おかしいなあ。
夜。もやは毎日恒例の親子会議。そして私の傍聴。
「早くしろ。どうして落とせないんだ。うんと言わないなら力ずくでもいいだろう!」
「彼女には触れられない魔術がかかっているんですよ。一度肩を抱こうとして一メートル以上吹っ飛ばされました。自分では解くことができないそうです。今説得中ですよ」
「生ぬるい。催眠はかけられないのか」
「試したけどダメでした。弾かれます」
「毒は」
「察知されて残されます。五回試して全部残されました」
あの紫のモヤ、やっぱりわざとだったか! しれっと毒盛るとか! さすがあのおっさんの親族だよ!
「いつカイロスが文句を言って取り返しにくるかわからんから早くしろ。しかし下手にあの女の不興をかって帰ると言われてもやっかいだしな」
「どうでしょう父上、もう火龍を見せるのは。そしてカイロスより私たちの方が本来の領主であると思わせるのです。そうしたら私との結婚にも前向きになるかもしれません」
「……賭けだな」
「時間があまりありませんからね。残念ながら今の一族の長はカイロスです。表だって反抗するのは得策ではない。特に火龍が今だにこちらに着く気がないうちは。魔力の流れをこちらに変えたのに、火龍は元気にならない。火龍がこの地で元気になるのを指を咥えて待っている現状では、他にカイロスに勝つチャンスがないのです」
「勝算は」
「勝つんですよ。無理矢理にでも。それに、もし本人が言っているように『再来』が火龍を癒して元気にしてくれたなら、その時は『再来』もカイロスともども追放すればよい。どちらであってもこちらに損はありません。火龍が元気になった暁には、父上、あなたの出番ですよ。火龍に魔力を提供しているのが我が家だと認めさせて、味方にするのです」
うへえ、さすがおっさんの以下略。
なるほど、この人たちは、魔力の流れを変える術は持っていたけれど、そのエネルギーが地上に吹き出す仕組みは把握していないんだね。たぶん、地上に吹き出す魔力だかエネルギーだかを火龍は必要としているのかもしれない。それとも他の理由が?
とりあえずは会って話してみないことには何もわからないな。
まあ、これは向こうが折れて、火龍の所まで連れていってくれるのを待つべきか。小カール頑張れ。
せっかくなので日々提供されるお菓子や御馳走を食べつつ、待つことしばし。
ケッコン? なにそれ美味しいの? へえ、美味しいんだ。でもしませーん。宝石? いらなーい。ドレス? いらなーい。権力? いらなーい。興味があるのは龍くらいねえ? え? 水晶玉? 私が持ってないと作動しないよ?
ひたすら言い続けて、折れたのは結局向こうでした。まあ焦った方が負けるよね。よし。
「今回は本当に特別なんですよ? あなたが素晴らしい癒しの魔術の使い手だということで、特別に許可を出してもらいました。本来龍は、従っている人間にしか姿を見せないものなのです。ですから、父から龍に姿を見せるように言いました。龍や魔獣と、我が一族は話が出来るのですよ」えっへん。
ああ、そういえばそう言ってたな、おっさんが。じゃあ私が話せるのは内緒にしないとね~。でも、姿は誰でも見れるだろう。こちらが無知だと思って好き勝手言ってるな?
「まあ! それはありがとうございます! 龍をこの目で見れるなんて楽しみですわ~龍なんてハジメテ~」
やっとここまで来たか。
あとは場所さえわかれば何とかなる……といいんだけど。