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化かし合い

「まあなんだ、約束通り、膝を一応治してくれたしな、一緒に着いていってやるよ。え? いらない? またまたー、オレ便利よ? 使えるよ? それがタダ働きよ? お得だろーが。まあたまには生活費を稼がせてもらわないとオマンマ食い上げだから、たまにはバイトさせてね!で、」


 床にどっかりと座ったおっさん、もといカイロスさんは、一通り部屋で跳んだり跳ねたりして騒いだあと、私を椅子に、シャドウさんをベッドに座らせた後また勝手に話を始めた。


 ちなみに椅子は一つしかなかったので、カイロスさんが「女性をベッドに座らせちゃーダメでしょーがイロイロと!」

 とか言ってこの配置になりました。


「腹を割って話そうや。一緒にいるんだから変な秘密は無しにしよーぜ」

 って、どの口が言ってるんでしょうか。絶対この人信用できないよ。


 何しろしつこいようですが!

 この人、初対面の私に一服盛ったんだからね! そして2週間、魔力持ちとか言うのを隠していたからね。


 この先も何か出てくるよ絶対…そんな気がしてならないよ。

 だいたいさっきも何で呪いなんか膝にあったんだって聞いても誤魔化していたくせに!


 まあ、「裏切ったら両膝破壊」の呪いはとても良い保険になったよね。本気でこの人嫌がっていたからね。

 とりあえずは私達の不利になりそうなことは物理的に出来なくなりました。めでたい。


「で、最初に聞くけど、あんたたちの関係って、なんなの?」

 へ? 見た通りですが。


「え? 旅のおとも」


「いやいやだから、普通男女が一緒に旅をするってえと親子ーとか夫婦ーとか主人と部下ーとかあるでしょ。最初は"末裔"さんが主人でシエルがお供かと思ったんだけどさー、違うよね?」


 ぎくーん。鋭いなおっさん。演技下手か私。


「だってよー、お前さん、全然従う気がねーじゃねーか。自由すぎだろ。ホイホイ買い物行ったりするし。むしろ"末裔"さんがお前に振り回されてる感あるじゃねーか」

 あれー?


「さっきオレの膝を治したんだって、お前さんが興味を示したから"末裔"さんが動いたんだよな? お前さんがオレの魔力に興味が無かったら、今でも"末裔"さんはなーんもしないでニコニコ食堂に座っていたと思うぜ」

 あー、それは確かにそうかもねー。


 この2週間でわかったのは、シャドウさんは基本何もしないで見守る保護者ポジションなのよ。

 私が「こうしたい」と言うと、そうしてくれる。でも、あーしろこーしろは全く言わない。


 良く言えば自由。悪くいえば放置。ええ、有り体に言えば放置です。


「それにお前さん自覚してるかどうかしらねぇけど、"末裔"さんのことシャドウさんって呼んでるだろ。どっから来たんだその名前。シャドウって、影じゃねーか。……え、まさか本当に、"影"なのか? は? え!? じゃあ 誰の"影"だよそいつ!? あ! だからしゃべんないのか! ええ……」


 おっさんが珍しく驚愕の表情になった。


 おっとーバレてたー。まあ2週間ベッタリくっつかれてたもんね。どこかでボロが出たな。一応隠していたつもりだったんだけど。


「さあ~? 名前は気づいたら呼んでたから~。何しろ記憶がとんと無くて~。影ってナニカナ~? シラナイナ~?」


「マタマタ~。名前だけ知っていて正体知らないとかナイデショ~。常識も知らなかったりするからまあ記憶喪失はちっとはわかるけどさ~名前だけ? そりゃないわ~。その名前、ダレカラ聞いたノカナ~? 本体ダレナノカナ~?」


 狸と狐の化かし合いだよー。怖いよーえーん。


 しょうがない。

「実は……最初の宿で目が覚めたときに覚えていたのは……誰かの声でシャドウと一緒に旅に出なさいシエルーっていう台詞だけで……本当に何にも知らないのよー」


 しんみりと迫真の演技。これでどうだ。


「……で、顔は覚えてない、と……?」

 うんうんうんうんうん。


「だんなさま」とのくだりはわからない事だらけで何処に地雷があるかわからないから、迂闊に話せないよね。後から後悔するくらいなら今、お口にチャックだ。


 実際この2週間、あんな綺麗な銀髪をお目にかかることはなかった。みんな普通に茶とかグレーとか黒とかだった。

 もしかしたら本物の"末裔"本体とかあり得る。


 そうじゃなくても寝ていて無防備だからそっとしておいてあげたい。


 見えないしっぽをブンブン振って嬉しそうだった「だんなさま」は、大事にしたいと思ったのだ。



「はあ~、しっかしこの"末裔"が影だったとはなー。全然わかんなかったわ。喋んない貴族とか普通にいるからな。後ろによっぽど力のある魔術師が居るぜえ、コレ。で、その影の向こうの本体に心当たりは無いんだな?」


 おっさんが珍しく渋い顔になっている。


「え、本体って居るものなの? 必ず?」


「はあ? 普通そうだろーよ。そんなことも知らねえで連れ歩いてたのかよ。あっぶねえなあ。お前さんを監視しているかもしれないんだぜ。ていうか、普通それが目的だろうがよ。すっげえ力のある魔術師だったら見えるだけじゃなくて聞こえてもいるぞ。この会話も丸聞こえ。てか確実に聞こえてるだろ。じゃなきゃオレの膝治さねえよ。聞こえてなきゃ事情がみえねえんだから。お前さんをこわーい輩が狙っているカモヨ~?」


 なるほど。え、監視? 今見てるの?

 目が合うとシャドウさんはニッコリと笑った。

 と、一瞬頭に映像が。


 台座の上で、こんこんと眠る「だんなさま」。

 寝てるじゃーん。すやすやだよー。全然起きそうにないよー。


 ていうか、とうとう触れなくても映像が来るようになりましたね。なんかお互いどんどん慣れてきた感じがするね。便利だからいいけど。

 最初はハグだったのに、最近はお手て繋ぐだけで動画が来ていたもんね。


 それに後ろに居るとしたらそれは「だんなさま」だ。怖くはない。むしろ身近に感じられるから安心?


 嬉しそうに見えない尻尾振って「守る」と誓ってくれたあの人を疑わないよ。


「まあ……でもシャドウさん、すごくいい人だし、困ることは何もないしむしろ助かっているし、いいんじゃないかなー。それにシャドウさん居なきゃ私、文無しだしっ。ひとりぼっちよりはずっと心強いよ」


「え、お前さん結構いい加減なんだな……。まあ膝治してくれたんだからオレも約束は守るけどよ。影の後ろに誰が居ても、そんな理由で逃げたりはしねぇよ。ま、逃げたら膝がぶっ壊れるかもしんねぇしな! ほんとこえーわ。試す気にもならねえ」


 おいおい。

「呪いが無かったら逃げる予定だったんですかね。で、あなたは一体、どこの誰なんですか? 今まで何していたのかしら?」

 一応こっちからも聞いてみよう。


「え? オレ? オレはずーっと用心棒稼業のさすらいのカイロスさんだよー。稼ぎながら流浪の旅さあ~あっちに行ったりこっちに行ったり! ついでに言うと、影だと知ってもやっぱりそこの"末裔"さまにゃ興味があるんだよ。このしつっこい呪いをあっさり解くってなにもんだよ。ぜひお近づきになりたい! 是非とも仲良くなりたい!そしてやり方教えてくれ! あ!あと何が出来るんだ? それも教えてほしーな~?」


 こりゃ何聞いてもダメそうだなー。何も教える気がないなー。本当に食えないおっさんだ。


 そしてシャドウさんはというと、カイロスさんに熱い目で見つめられて、それはそれは嫌そうな顔になっている。


 しかし結果的に三人旅になった。え? もうなってた?

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