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火属性の魔術師たち

 次の日は、とりあえず例のトゲの解読の邪魔になる要素は無くなったはずなので、朝御飯のあとに早速もう一度解読をしに行くことになりました。


 昨晩送った二人も気になるし、解読さえしてしまえばとりあえずここに残る必要はないだろうというのが二人の一致した見解。早く終わらそう。いつ例の叔父さんが気づくかわからないからね!

 温泉は残念だけど、まあ堪能したよ。師匠にもエネルギーの湧くお風呂は気に入ってもらえた模様です。


 と、いうことで、とっとと取り掛かりましょう。

 二度目だからね、もろもろ慣れて早いです。そして、今回はすんなりいったようで、解読自体もそれほど時間がかからないで終わりました。

 やっぱり内容的には師匠の読みどおりに、比較的単純な部分がほとんどだったようで、さすが師匠ですね。


「ですが、一ヶ所だけ、新しい魔術を発見しました。それが、あなたの言うエネルギーの流れに作用する、つまり止めて弾く部分ですね。これは私の記憶にはないもので……」


 と。師匠が語っていると、突然イカロスの光球が飛び込んできた。わあびっくり。

『早く帰ってきて! 特にそこの小娘! あんたが送ったあの二人が暴れてる!』


 ええー!? まあちょっとそんな気はしたけど。ちょっとね。

『あんたをご指名なのよ! 会わせろって! 魔術を撒き散らして大暴れで大変なのよ! なんとかしなさいよ!』


 ええー、私のせいなのー? ちょっと理不尽……。送れって言われたから送ったのにー。


 まあ、でも洗脳状態にあるからなあ、『セシル』に会うために必死に暴れているんだろう。うーん。もうなんでセシルなんだよー。『月の王』崇拝だったら師匠に押し付けるのにー。


「急いで帰りますか。馬車を用意しますから、あなたも早く来てください」

 はーい。しょうがない。どうにか出来るものかはわからないけど、行かねば。温泉さようなら。


 後ろ髪を引かれつつも最大スピードで帰りましたよ。ええ。

 イカロスも何だかんだ行ったり来たりしながら刻々と状況を伝えてくる。


『屋敷の別棟にいたけど、火を出して暴れるから訓練場に隔離したわ!』

「訓練場というのは耐火仕様で領主がトレーニングするところですね」

 師匠が解説してくれる。


『カイロスがなだめるために対面に行ったわ!』

『カイロスに攻撃するから、カイロスが応戦してる!』

『カイロスと兄妹が互角に戦っているせいで室内の温度がとんでもなく高くなっちゃって、他の誰も入れないの!』

『訓練場の壁が熱で弱くなってる! 早くして!』

『訓練場が壊れ始めたの! まだ着かないの!?』


 なんかどんどん大変な事態になってるよ!?

 そんな状態の中でなんで三人が生きてるの!?

 火属性の魔術師って不死身なの!?

 怖いよ! 


 なんとか領主館に着いた時には、使用人さんたちが何人か青い顔をして待ち構えていた。みんな必死な顔をしている。


「こっちです!」

 師匠が走り、私も全力で走る。結構敷地の端にあるらしくて随分走りました! ゼェハァ苦しいー。


 なんか進行方向から熱を感じるよー怖いよー! これ行っても大丈夫なものなの?


 その時進行方向からドカーン! という音が聞こえてきた。

 うわあ、何かが壊れたよ。何が壊れたかは考えたくない。とにかく大規模なもの。


 ゴオオォォオオーーー!


 いーやーー熱そう! 

 と思ったら熱風きた! 熱い熱い熱い!


 とっさに周辺を探したね。もうこれは本能ですよ。熱から逃れたい本能。

 よし! さすが貴族のお屋敷! あっちの方に大きめの池発見! すてき!


 ちょうど見えてきた火だるまの何かに向かって、池の水を全投入してやる!

 熱いんだよあんたたち! いい加減にしなさい! 周りの迷惑、考えろ!


 ザッバアアアァア!!

 シュウウゥゥゥーーー……。


 もうもうとした水蒸気が晴れるころ、呆然とした三人の姿がありましたとさ。

 ふん。ざまあみろ。あー熱かった。


 びしょ濡れの三人の前に仁王立ちする。

「で? 先に手を出したのはどっち?」

 もちろん答えはわかっている。


「っ! お前なんかに答えるもんか! 俺たちはセシルに会いに来たんだ! セシルに会わせろ! 俺はセシルの弟子だぞ!」

 びしょ濡れの衝撃からの立ち直りが早いな。


「あんたを弟子にはしてないわよ。私は弟子にするなんて言ってないでしょ? 連れて行ってくれって言うから連れてきた、ただそれだけ。そして私がセシルだ。『お前』じゃない!」

 ビシッと指を立てて言う。ここはハッキリとしておかないとね。でも。

 ポカーン。まあそうだろう。うん。わかる。


「……お前がセシルなわけないだろう!」

 うーん、そうなるか。どうせ力一杯理想化していたんだろうね。あの祭壇の像、綺麗で儚げだったもんねえ。現実は厳しいのよ? そしてイヴちゃんは、青くなってるよ。気付いてるな。昨日のセシルが私だって。


「お前には残念だが、こいつが今『セシルの再来』と呼ばれているやつだよ。本物のセシルはとっくの昔に死んでる。こいつが今、一番セシルに近いだろう」


 お、おっさんも立ち直ったね。応戦お疲れ様でしたー。

「お疲れじゃねーよ。お前、この水、池か? 生臭いぞ。また全部持ってきたんじゃあねえだろうな!?」

 さあ? 力一杯運んだけど、全部かはちょっとワカラナイナー。


「こいつらお前に会わせろってそれしか言わねえんだよ。ちょっと話してやってくれ。風呂入ってからな!」

 そう言って二人を連れて行こうとする。でも、抵抗しそうだね。目が反抗的ー。うーん館の使用人さんたちの安全は確保したいところ。


「魔術が使えないよ」

「「 カチリ 」」




 さて、その後。

 さっぱりとした身なりになって目の前に座らされた、特に兄の方が、非常に反抗的に睨んできますよ。私と会いたかったんじゃないのか? だから来たんだぞ、わたし。


「魔術の封印解けよ!」

 しないよ? また暴れるんでしょう?

「ズルいだろ!」

 どこが? 私には必要な処置だと思いますがね?


 話し合う気はないんでしょうかね。きみ。


 まあほとんど洗脳状態で、何も情報を与えられずに生きてきたのだ。もしかしたら、これでもまだ落ち着いている方なのかもしれない。

 しょうがないから妙に大人しいイヴちゃんに話そうか。でも睨みつつでもお前も聞けよ、アダム。


 今は洗脳状態でどこまで伝わるのかはわからないけれど。でもとりあえず私からは伝えたい事はあるのよ。だから来た。

 せっかくだからここで言っておくよ。今はまだわからなくても、いつか理解してくれることを祈りながら。


 あなた達を最初に見たときに思ったこと。

 よく聞いて、そして覚えておいて欲しい。


 あのね、あなたたち二人には強い魔力がある。今、魔術に慣れたこの館のみんなが驚いているくらいに。


 それは、(よこしま)な意図のある人を惹き付けてしまう。この先一生、利用しようと勝手に寄ってくるだろう。いいか、カイロスがあなたたちを勉強させてくれるらしいから、彼に甘えてしっかり勉強しなさい。言葉を学び、社会を知り、物事の原理原則を学ぶ。そうしたら視野が広がって、新しい世界が見えるようになるから。


 賢くなって相手の意図を見抜き、自分で考えて、そして正しい判断が出来るようにならなければ、あなたたちはいつか邪な考えの人たちの、便利な道具として使い潰されてしまうだろう。


 自立出来るように勉強しなさい。誰にも頼らないで生きられるように。


 いいか、今はとにかく学べ。将来自分の生き方を、たくさんの道から選べるように。


 セシルの二の舞になってはいけない。

 それだけは覚えていて。

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