探してみよう
「……なんでお前そんなことわかるんだよ」
じとーん、って……。そんなこと言われても、ねえ? 見えるもんはしょうがないでしょー。冬に吐く息は白いねえくらいの感覚なんだもの。
「アトラスで見せたクリスタルボールとキラキラあったでしょ? 魔力の出ている土地にはあのキラキラがあるのよ。ってか、キラキラが魔力? よくわからないけど。でもここでは見えたことがないよ。それだけ」
あら二人とも黙っちゃった。
うーん、探してもいいけど、瞳だけならまだしも髪まで色が変わりそうな案件なのよねえ。今からお部屋に籠る? うん、怪しいね。後で寝る前にこっそりやってみるか。エネルギーの流れが変わっているとしたら……それは……嫌な記憶がよみがえってくるんですよ。薮蛇感半端無いです。本当は関わらない方がきっと平和だと思う。私は平穏に暮らしたい。
「シエルさん、何を今さら関わりたくなさそうな顔をしているんですか。前にも言いましたが、カイロスが領主を追われるような事になれば私もあなたもただでは済みませんからね? わかっているとは思いますが。特にあなたは既にカイロスの懐刀ですから、まず見逃してはもらえませんよ」
しくしくしくしく。やっぱ駄目ですか。
いやね? カイロスさんと関わりたくないわけじゃあなくてね? 私は平穏無事な、平々凡々とした暮らしがしたいだけなんですよ。ちょっと嬉しい、ちょっと困った、ちょっとびっくり、そんな毎日をね?
「はあ……やっぱり来るんじゃなかった。あの時旅にでも出ればよかったですねえ」
師匠が遠い目をしてるけど。ねえ、聞いて?
「えーでもオレ絶対3人一緒にシュターフ入りするって決めてたぜ? シエルにもオレにもお前は必要だったからな! いやー助かってるよ相棒! 一緒に頑張ろうぜ!」
なんでこのおっさんも、やれ暗殺だの追われるだのっていう言葉が平気で出てきちゃう生活してるのかな。出会ったときはたしか、さすらいの用心棒とか言ってたよねえ……。
火龍だよ。普通の人は一生かかわらないやつだよ。ちょっと見てはみたいけど、でもそれはあくまで遠巻きにだから。動物園的なアレだから。
「まあヒントはあったわけだから、ちょっと調べてみるわ、ありがとよ、シエル。ほんとお前と出会えてよかったわ。結婚して?」
「無理です」
「火龍持ってる侯爵のオレでもダメか?」
「ダメです」
「なんでだよー! オレ、すっげえ優良物件じゃねえか! 何が不満なんだ!」
「愛がないから! カケラもないくせに何言ってんの」
「カイロス、残念ながら、1龍の侯爵は2龍の王に勝ててませんよ」
「2龍になればいいのか!?」
「愛が! ないから! みんな聞け!」
誰かー! 聞く耳2つ持ってきてー!
なんか精神的に妙に疲れたけれど、なんとか寝室に帰ってきたよ。ゼエゼエ。
もう本当に結婚していて良かったわ。形って大事なんだね。
結婚していなかったら、とっくの昔にに祭壇の前に引きずり出されて頷かされていたに違いない。怖いわー。おっさんに比べたら、返事をするまで待ってくれた「だんなさま」がとっても優しく思えてくるよ。あれも随分強引だったのに。
「だんなさま」はいつ起きるのかしらねえ。
まあ、それでもなんだかんだ恩のあるカイロスさんの力にはなりますよ。出来ることしか出来ないけどさ。
結界。誰にも見えないよ。
「カチリ」
何も入れないよ。
「カチリ」
では、意識を上昇させます。高く。
寝室の自分から、細い糸で繋がりながら、するすると上がって行く。体の周りを風が吹き始めた。
うーん、シュターフって、本当に大きな街なんだね。
少し遠くにアトラスのクリスタルボールがキラッとした。あそこは綺麗にエネルギーが吹き上がっている。で、ここは……。
うーん、せいぜいモヤだねえ。ふんわり余韻的なエネルギーしか無いよ。
このまま地下まで意識を広げると、地下のエネルギーの流れはどうなっているか見えるかな?
その時、何かが頭をペチッと叩いた。ん? あ、「だんなさま」の映像? が目の前に無言で浮いていた。なに? え? 下に降りろ? あ、はい。
何の防御魔術だ今の。まあ何かしらのストッパーなんだろう。こういうのはちゃんと言うことを聞いておいた方がいい。
私は寝室へ戻ってきた。
ここからならいいかな?
では改めて。
こんどは意識を下へ。地下を流れるエネルギーを探る。こうしているとまた温泉に入りたいねえ。あの時は温泉の湯に乗っていたエネルギーを追っていて地下のエネルギーを見つけたんだったっけ?
今回はもう少しぐいぐい下に行かないと見えないな……。うーん、ない。ん? これ、もしかして、この下を流れていないのでは?
もう少し広く探すか。意識を地面に沿って広げていく。水の中のようにはなかなか上手くはいかないね。水だったら楽なんだけどな。
うーん、見えない……。どうしようかな。地面の中はなかなかにアウェイだった。
……水持ってくるか。地下水ごしにエネルギーを探そう。そうしよう。
小さな器に水を汲んで、小机の上に置く。
その水に触りながら、水の気配を半径を広げながら探っていく。水が水を呼ぶような形で地下の水が共鳴しあって、凄い勢いで私の意識が水に乗って走る。うん、全然楽だ。さてどこだー?
よし見つけた。太い本流。
見つけてしまえばこっちのもの。昔はここを走っていたのに、なんで今はズレているのかな?
川の流れと一緒だと思うと、流れが変わるのは上流でなにかがあったからだよね。遡って行くと何かわかるかな?
んー?
んんーー?
今、何か見たくないものを見ちゃった気がしたけど、気のせいかしら? あ、もしかして有るんじゃないかなー? なんて思っているから見えちゃったんだね! 気のせい気のせい。
やだわー最近疲れることなんて、あ、さっきちょっとあったけど、基本そんなに無いのにねー。
……。
…………。
ちょっと! なんで!
見たくなかった! しかも。
こんなに大きいなんてどういうことなの!
この都市シュターフからそれほど離れていない所に、それはそれは大きな黒々とした「トゲ」が埋まっていた。エネルギーの本流に。それはそれは深々と。ぐっさりと。
エネルギーの流れがそれに邪魔されて明らかに流れが変わっている。
本流がだよ?
昔抜いてポイしちゃって、その後散々な目にあったあのトゲなんかよりずーっとずっと大きいトゲ。
しくしくしくしくしく。
あんたにだけは会いたくなかった……。
どうすんだあの大きさ!