茶番2
「シエル~これどう思う?」
師匠との勉強の最中になにを乱入してきたんだこのおっさんは。
「え? 青い布。綺麗な色だね?」
「ちげーよ! ほら」
「ん? 青い服。女物? たっかそうー。なになに誰かにプレゼント?」
「そう! お前に!」
は? なんで?
「いやー、あちらさんの『再来』もさ? しばらく休んでいたと思ったら、また活動再開したじゃねえか。もうオレ考えたんだけどさ、お前も活動しよう! 慈善活動! これ着て派手に癒しまくってついでに他の魔術もパーっと使おう! で、これ、『海の女神』のイメージからとって、青い服! これお前の制服ね? 誰にでもわかるように派手に演出は大事だよな~」
って、朝からなにを言い出したんだ?
「そうですねえ、このまま指を咥えてあちらの人気が上がるのを見ているのも良くないですからね。しょうがない、授業はしばらくお休みにしましょうか」
え、また私抜きで私の話が決まっていくよ?
「なに言ってんのカイルさん、お前も一緒に来るんだよ。オレ、今信用できる味方がまだ少ないんだから、シエルの護衛と監視よろしくな?」
あ、師匠、すっごく嫌そうな顔……。監視って、ひどくない?
「この人には、ご主人のかけた守護魔術が山ほどあるじゃあないですか。護衛なんて無くても大丈夫ですよ」
「まあそうなんだけど、ついでにオレの護衛もよろしくしたいんだよ。オレもまだ暗殺の危機が無いわけではないからな」
「あなたもそう簡単に死ぬような人ではないでしょう。気にくわない人間を2、3人焼いて火の鳥でも派手に侍らせておけばいいんです」
「なんだよそんな物騒なことするわけないじゃーん。でも火の鳥と聖魔術師と『セシルの再来』侍らせたらオレ無敵じゃねえ?」
……こうやって権力者って派手になっていくのね。でも暗殺かあ、大変だね。
「とりあえず実務は前領主のおやじどのにしばらく丸投げして、オレとシエルの周知キャンペーンすることにしたからな! 喜べシエル、また旅に出れるぞ! とりあえず今日はこれ着て近所の病院を慰問だ!」
えー……。それは私のしたい旅の真逆じゃないのさ。喜べない……。
まあ何を言おうがこのおっさんに勝てたためしは無く。今や権力まで握りしめたおっさんは本当に誰も止められない。
それにあのいけすかないあっちの魔術師の鼻をあかせるかと思うと、ええ、ちょっとやってもいいかな……ともね?
かくして青いドレスの私と豪奢な貴族ちっくな衣装のおっさんもといシュターフ領主と燃えさかる火の鳥、黒ローブの魔術師になった師匠と、そして護衛たちという大変派手な団体様ご一行は、急遽地元の病院やら孤児院やらを練り歩くことになったのでした。
「どうだい? 何か困ったことはないか? なんでも言ってくれ。できるだけの事をすると約束するぞ。今日は『セシルの再来』も同行しているからな、彼女もシュターフのために力になってくれるだろう」
「世の中にこんなに不幸な方がたくさんいるなんて。私に出来ることは何でしょう? 少しでもみなさんがお元気になられますように」
そしてバラ蒔く回復魔術ー。そーれ!
もちろん両手を左右にひろげて、ミストを撒いて風で拡散。ミストにも回復魔術を含ませているのはサービスです。
同時に師匠に教わった「高揚させる魔術」も振り撒きますよ。そーれー。
ついでに魔術にはもれなく全部、キラキラの具現化もしてみました。ほーらきれい~。
「「おお~~!」」
「「ありがたいありがたい」」
「「奇跡だ……!」」
演出大事。茶番にはね!
「ったく、またこんな複雑な技を軽々と……」
って、師匠、聞こえてますよ? いいじゃない、そんな大変でもないから。出来ることはやればいいのよ。
目的は注目を集めて話題になること。そして人気をとること!
「カイル、覚えておくといいぞ。こいつは一回怒らせると吹っ切るんだよ。いやーあちらさんに啖呵きって宣戦布告したときは爽快だったな!」
いやそんな気はなかったんですが……。
でもどうせやるなら徹底的にやればいいよね! ふん。もうヤケだ。
そして私は朝から晩まで連日魔術を振り撒いてまわったのでした。もうほぼルーティンワークだ。
そうして私たち慈善兼広報部隊が都市シュターフの周りにも遠征し始めて、シュターフ領主と『セシルの再来』の話もずいぶん広まってきたころ。
護衛の一人が原因不明の病気になった。
原因不明ということで私と領主は隔離対象だ。うつるとまずい。それはわかるけど。
一番近い病院に搬送される。でもこれ、癒しているはずのところから病気ってまずくないですか?
なんとかできないかなー? 隔離されて暇なので、ちょっと意識を飛ばしてその護衛さんのところに行ってみた。病気って何色の煙なんだろう? と思ったのは内緒。
で、行ってみたら。
まあ、そんな気はちょっとしたよねー。はい二人とチャンネル開けますよー。どこに居ようが繋げるよ。ホント便利だなこのチャンネル。
見えますかー? はい、呪いですよ? 黒い煙が彼の頭からわき出てますよー。
はあやれやれ。
「『再来』は俺を治してくれないのか!? 他のやつらは治したのに! 俺を見殺しにするのか! 助けてくれえ! なんで治してくれないんだ!」
と喚いている。こんなこと言う人ではないから、呪いに言わされてるな?
「これは……コイツもうすぐ呪いに殺されるな。下手すると他の奴らも同じようになるかもな。そしてそれを宣伝する手はずだろう。身内を救えなかったイメージダウン作戦か。やることがセコいなー」
いやおっさん、殺されるな、じゃなくてね?
「えーだってシエルさん、どうにかしてくれるでしょ?」
「でもこの呪い、随分高度に編み上げられていますよ? これを解呪するのは時間がかかりそうです。下手すると何日もかかりますよ、これ。呪殺と解呪どちらが早いか……」
え? 時間がない? じゃあ変な演出考えている場合じゃないね。
「うおおおぉぉー! 苦しい!」
うん、急ごうか。
「オイ! シエル! アブナイカラ!」
「なにイッテルノ! 身内を見捨てるナンテ、ソンナコト、デキナイ!」
とかなんとか適当に言いながら護衛さんの所に走ります。
遠隔だと誰にも見えないからね! ええいまどろっこしい。
邪魔な人は見えない盾でどかしますよっと。はいどいてー。
到着ー。
「ダイジョウブ!? タイヘン!」
と言って駆け寄って手を握りました。
では、この手から直接魔術を入れていきまーす。
先生に教わった解呪の魔術を一気に入れます! はいどんどん~。わーほんとに複雑になってるわー。めんどくさ。片っ端から魔術を使ってほぐしていく。
師匠の言ったとおり、時間がかかるように複雑にされた呪いはちょっとほどくのに時間がかかったけれど、その間は体力回復の魔術と苦痛軽減の魔術も混ぜて入れていきます。はいぐいぐい~。
……うん、よしほぐれた。じゃあ消します。
魔力の指で、摘まんで消す。
パシュ。
なんか、ほぐれてしまえば大したことなかったわね、これ。
「あ……。急に楽になりました! ありがとうございます! すみません! 暴言を吐いて……なんか言わなくちゃいけない気持ちになってしまって……」
「いいのですよ。苦しい時は仕方がないのですから。お元気になられてよかった」
そう言ってニッコリする。
うん、その暴言、呪いに言わされていただけだから。本当に気にしないでくれるといいな。
これからはこんな細かい嫌がらせが続くんだろうか? はあ……めんどくさい……。
とりあえず、おっさんと相談して、護衛さんたち全員に呪い返しの魔術をかけました。
「今日の病気騒ぎは『再来』によると、呪いによるものだった。またあるかもしれないから、これから『再来』に呪い返しの魔術をかけてもらう!」
「呪いはぜーんぶ、跳ね返す!」
「「カチリ」」
もちろんキラキラの演出付き。
売れる恩は全て売っていくスタイル!
もうどうとでもなーれー。