脅し?
「いいですか、ここでおさらいをしておきましょう」
はい先生いや師匠……。
「今、王国は非魔術師と魔術師の間で密かな対立の構図があると言いましたね? そして非魔術師のトップが国王で、魔術師のトップが、『月の王』のいない今、唯一龍を従えているこの国最大領のシュターフ領主でした。しかし現在、数の上では圧倒的に多数である非魔術師側が強く、そちらのトップが王になっています。シュターフが潰されていないのは、はい何だったでしょうか?」
はい……魔術師の持つ力を恐れているからです。下手に手を出して返り討ちにあうよりは、共存することに向こうが決めたからです。
「そうです。だから、何か攻撃できる口実を与えたら、こちらの勢力を削ぐように行動してくるでしょう。向こうはこちらを怒らせないで、でもできれば潰したい。そこで質問です。あなたは魔術師ですか?」
はい、そのようです……。
「つまり、あなたはこちら側の人間なんですよ。自覚してくださいね?」
はい……。
「では今回の、王国側の偽『再来』と、あなた。どちらが勝たなければいけないかはお分かりですね?」
はい……ガンバリマス。どうすればいいのかはわからないけど。
「まあ、これであなたが偽物に認定でもされたら、それこそカイロスの家と親族は反逆罪に問われて、カイロスは下手すると死罪かもしれませんし、私とあなたも無事ではすまされません。特にあなたは、まずカイロスと同じ運命になるでしょうね」
ひいぃーー。
なんでこんなことに!
私が何をしたというんだ!
なんで! こんなことに!
いやだーやめてーみんな仲良くどうしてできないのー!
もう……だんなさま、迎えに来てくれないかな……。どこかに私を連れ去って。
「そんなことをしたらカイロスの命が」
ああーーそうだったーどのみち後始末してからだー! できるのか!? やらないと!
しくしくしくしく。
「正直今回の事態、見逃すことも出来たはずなんですよ。でも、それをすると、いつかあなたがもっと派手にやらかして、その上水龍を目撃でもされたら、あなたが一人で偽物もしくは危険人物として追われることになる可能性は高いのです。カイロスはそれを防ぎたいのでしょう。領主を継いだ今のカイロスなら、後ろ楯になってあなたを『再来』と認めさせることができる。カイロスも頑張るのですから、あなたも頑張ってください。出すぎた杭は打たれない。そこまでいけばよろしいのです」
そんなものにはなりたくないけど、でも。私も自分で将来ぜったいにやらかさないという自信は全然無いので、ありがたい事なんですよね。
ガンバリマス……はあ……。平穏に……生きたかった……よ。
「まあ、いつもの調子でやらかせば、多分大丈夫じゃないですか? あなたに魔術で勝てる人なんて、おそらくいないんですから。見せつければいいだけですよ。ただ気を付けるのは戦術ですね。心理戦とか罠とか」
ええ……酷い言われよう……。しかもそんな高度な戦い方なんて知りませんがな。
「とりあえず、水晶玉はこちらの『再来』が作ったもので、こちらの『再来』が扱わないと作動しないと発表してありますから、向こうの検証の時間分はしばらくあるはずです。それまでに覚悟を決めましょうね?」
覚悟……。泣いていい?
それから少したって。
落ち着けばいいのに、やっぱり拗れてくるのは、なぜ?
あちらの『再来』が、水晶玉を持って人々を癒し始めたという話が流れて来たのはそれから結構すぐのことだった。こわいわ……政治って。こわいわ……権力って!
報告しに来てくれたカイロスのおっさんと師匠で急遽対策会議ですよ。迷惑。
「さて、どうするかな。後ろに随分腕のいい癒しの魔術師がいるな? 国の魔術師団にそんなのいたか? オレ王都からも長い間離れていたからなー。このシュターフ掌握するのもまだ終わってないし……まだ下手に動けないんだよな」
なるほど? 彼女にパフォーマンスをさせて、こっそり別の魔術師が癒しているっていうこと? 水晶は眠ったまま持ち歩かれているのか。
何か私以外の人が持ったら抵抗するような魔術をかけとけばよかったかな?
「へえ? まあ、それも他の魔術師が抑えるかもしれないが、嫌がらせとしてはいいかもな?」ニヤリ。
うわ、昔のおっさんこんにちは。
「やっとくか! シエル、今やっとこう。な?」
うわー悪い人がいるよ。やるけどね?
水晶玉と繋げた糸をたどって、水晶のところにいく。相変わらずのキラッキラしたお部屋かと思ったら、なんか男臭い部屋だった。
チャンネル全開しておこう。
「今のところお前が『再来』として認められつつある。このまま毎日外で癒し続けろ。そうしたら愛しの王子ときっと結婚出来るだろう。もう少しの頑張りだぞ。しくじるなよ」
黒ローブの男が偽『再来』のお嬢さんに囁いていた。
偽『再来』さんは、青い顔をしながらも決意あふれる顔をしている。って。
えええ!? ちょっと!?
お嬢さん!? こんな奴、信じちゃだめでしょー!? いっくら好きでも、やって良いことと悪いことがあるよね? 恋に目が眩んでるよ? ダメだよそんなことしちゃあ! わかるでしょ? もうちょっと考えようよ!
そしてそこで、ニヤニヤしているローブ男! うら若き乙女の気持ちをもてあそんで犯罪に手を染めさせるとか、なに考えてるの。
わたし、そういう人は嫌いなのよ。とってもね。こいつ汚いわ。人の恋心をなんだと思ってるんだ。そういうの、ホント嫌い。
ねえ、ちょっと脅していい?
「え、お前なにする気だ? まあ、やってみるか? 面白そうだな!」
言ったな? おっさん。連帯責任だぞ?
私は水晶のあるその部屋で、いきなり姿を表した。わざと風を全身に纏い、あんまり顔を晒さないように黒髪と、ついでに服をバッサバッサ暴れさせながら宙に浮く私。はっはっは、怖かろう! なるほどシャドウさんて、こうやって現れていたんだね! 今わかった!
吹き荒れる風で注目を集めて、そして宣言。
「よくも! 私の水晶玉を勝手に持ち出したな! 私のかわいい子を利用するなんて許せない! 水晶!」
キーン!
あ、ちゃんとお返事してくれた! いい声だね!
「今後私以外が触ったら、全力で抵抗しなさい! 私利私欲で私から奪い、利用するのは許さない! 私の怒りをこの水晶を通して感じるがいい!」
「カチリ」
ぶわーっとさらに風を吹かせてついでにミストを振り撒いて。ついでに自称『再来』と黒ローブを上から一瞥。
そして退場ー。
「おお! 派手だなー!」
っておっさん大喜びだよ。
ふん。びっくりすればいいんだ!