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継承

 翌日の朝、私は困惑していた。


 あ、ベッドは極上でしたよ? これに慣れたら旅にもう出られないかもというくらいには、素敵な寝心地でした。


 でも。

 この、おっさんもといカイロスさんの、今日の継承の儀式に出ろと言われていていたんですが。

 用意された服が、どこからどう見ても、ウェディングドレス……。


 師匠、止めたって言っていたよね? 確かに言っていたよね!?

 わたし! 既婚者! こんなの着ちゃだめ!

 ミリも誤解されてはいけない!

 絶対につけこまれる! おっさんはそういう人!


 絶対にあわよくばと思ってそう。しないから!


 私と結婚したいなら、「だんなさま」の十分の一でもいいからデレた目線を送ってこい。カケラもないくせに!


 私はカイルさんに泣きついた。

 泣きつくのもこんなお屋敷だと大変なのよ。まずは使用人の人を捕まえて、伝言を頼み、面会を取り付けて……

 まどろっこしいわ!


『カイル師匠ー! 助けてええぇ~!』

 チャンネル全開で叫んでやりました。ええ。一刻を争うんでね!


 とっても嫌な顔をした師匠が程なくして来てくれました。わーい。


「なんですかさっきの有無を言わせない大音響は! びっくりしてお茶をこぼすかと思いましたよ! こっちからは閉じていたのにチャンネルとやらをこじ開けてくるのはやめてください!」


 だって見てくださいよ! これ!


「ああ……。カイロスも諦めが悪いですねえ。まあ服くらい着てやればいいんじゃないんですか? 誓わなければいいんですから」


 んなわきゃないだろう! 何しろ相手はアレなんだから!

 絶対に断れない状況を作って来るに決まってる! 絶対にこれは着れません。スキを見せてはいけないの!

 何かほかの服を用意させてください!

 ギャンギャン。


 私の剣幕に押されて師匠が渋々他の服を持って来るように言ってくれました。だって私が言っても多分聞かないようになってると思ったんだもーん。え?どっちが師匠かって? もちろんカイルさん。ん?


 はあ……朝から疲れる……。

 その後普通に、豪華なお洋服が届いたので、とりあえずそれを着ましたよ。もう、色がついてりゃ何でもいいわ。


 侍女さんが来てくれて、髪も結ってくれました。あ、この館に来てからは、元の黒髪に戻してます。隠す必要がなくなったので。むしろ出せとのここの主のご命令ですし。

「黒髪にドレスの青が綺麗ですねえ」とかなんとか言いながら、なにやら複雑な編み込みをしてくれました。嬉しい。

 なんとか準備が間に合ってよかった……。



 儀式は館の中の大きな礼拝堂らしき所でやるようです。人が沢山います。みんな正装で緊張の面持ちだ。

 あれ? でも十字架はないのね?

「ここは今の国の宗教とは関係なくて、むしろ前王国の様式なんです。でも儀式自体はこの国の様式でやるんですよ」

 さすが師匠、何でも知っているね。

 私は前の方に座らせられてはいるけれど、ついついキョロキョロしてしまう。


 そして儀式が始まった。現領主の待つ正面に向かう正装のカイロスさんは、不精ひげを生やして旅をするおっさんとは別人のように立派に見えた。ほお~馬子にも衣装だね~。

 あれ、おっさんに睨まれた。チャンネル開いてた? てへ。閉じとくか。


 儀式は進む。国王からの継承の承諾書が読み上げられて、領主が継承の意思を宣言……


 ん?


 紫?


 の、モヤ? 煙?


 むらさき? って……見たよ。おっさんとの初対面の時に!


 毒! ……か薬。少なくとも体に悪そうなやつ。


 周りを見ると、みんなぼやっとしている? んん?

 とりあえず、師匠? と問いかけるけど、返事がない。

 師匠? ……カイル師匠っ!

 チャンネルこじ開ける勢いで叫んでみた。

「……あれ?」

 よし気がついた。

 師匠とチャンネル通しておいてよかった。


 毒が入ってきています。紫のモヤが見える。そして周りがみんなぼんやりしてます。

「……ああ、毒? 見えるのですか? んんー、なるほど、判断力を奪う系統のやつですね」

 正面の二人だけはモヤが被っていないので気づいていないです。これ、飛ばした方がいいですか?

「ああ、そうだな、なんか嫌な予感が」


「異議あり!」

 やっぱりー。

「火龍のいない継承の儀は認められない!」


 なんか言い出したぞ。モヤ飛ばそう。

 目を瞑って魔力を拡散させる。

 どけ。どけー。

 でもなんかこもってる。だめだ、効率が悪い。


「火龍は領主の証し。火龍がいなければ領主とは認めない!」

「そうだそうだ!」


 わかった。風だ。

 風! 絡めとれ! そして巻き上げろ! そして、出口へ……出口どこだ? ない。


 しょうがない。入り口開けよう。

 風!

 バアン!

 閉じていた入り口が弾けるように開いた。


 モヤを掃き出せ! 空気を入れ替えろ!

 びゅう~! 


 しーん。


 あれ? 目を開けると、そこにはジト目のおっさんと、無言で私を見つめる沢山の目が……あれー?


「大人しくしていろとあれほどいったのに、どうしてお前は……」

 えー? あれー?


「……火龍はこの10年は眠ったままだ。原因はわからない。だがこのカイロスを後継に指名したのは他でもない火龍であり、それは諸君も知るところである。今は火龍の代わりに聖獣火の鳥がカイロスの傍らにいる。この決定に異議のあるものは前へ出よ!」


 しーん。

 あら? さっき声高に叫んでいた人たちは?


「貴女の様子と扉バアンに恐れをなして、出ていきましたよ」

 ん? なんで私に恐れをなすの?


「異議がなければこれからはこのカイロスがシュターフ領主及び侯爵の称号を受け継ぐ。これからはみな、このカイロスを支えてやってくれ」

 全員が恭順の意をあらわす。はい承認~。


 はーよかったよかった。




「……なわけねえだろう! あれほど大人しくしてくれと言ったのに、お前、なんであんな派手に暴風吹かせて、しかも扉まで派手にこじ開けてんだよ! お前自身が竜巻の親玉みたいになってたぞ! 黒髪が風で荒れ狂っているのをあの場の全員が見ていたからな? もう今ごろは『セシルの再来』の話で持ちきりだぞきっと!」


 なんで終わったとたんにいつものおっさんに戻って怒っているんですかね。さっきの紳士カムバック。

 ああー、せっかく綺麗に編み込んでくれたのに、風で台無し……。

 じゃなくて。

 だって、紫の煙がね?


「あ? なんじゃそりゃ」

「あの場で元、現領主以外の人間たちに、何らかの魔術か薬が撒かれたんですよ。私も最初は影響を受けてしまいました。シエルが気づいて呼んでくれたので気がつきましたが。私が視たところ、あれは判断力を無くさせる類いのものですね。観衆をその状態にして、大声で陽動してあの場をぶち壊そうとしたんでしょう。シエルが風を使って掃き出したので、影響は出なかったようですが」


「まじか……細かい嫌がらせしやがるな……時間を稼いで何をしようとしていたんだ?」

 あのね? あそこ、換気口つけた方がいいと思う。魔力で散らすにも出口がなくてね? 仕方なく入り口を開けたんだよー?


「だからって、あんなに派手にやるこたあないんだよ。そっと開けて静かに出すってことを覚えろよ。お前、いいかげんに加減を覚えろ!」


 はい……すみません、かげんかげん煩いなあ。

 急いでいたんだよー。頑張ったのに。

 なんか最近怒られてばかりな気がする。ちょっと納得がいかない……。



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