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二段階制

「なんかすげえ効き目らしいぞ、あの水晶玉」

「でしょうね」

 ほー良かったねえ。

「で、当然ながら、噂が広まりはじめている」

「でしょうね」

 えっ、そうなの?

「まあ、一時危篤までいった領主が凄い勢いで回復し始めたからな。で、金持ちたちがこぞって譲って欲しいと押し掛けているらしい」

「でしょうね」

 あらー。

「王都が、王都にいるあの『再来ではないか』の仕業だと言い始めて、アトラスの領主がカイルの仕業じゃないかと言い出し始めている」

「え、私にとばっちりですか。勘弁してほしいですね」

 えーなんかオオゴトになってきてる?


「「 おいそこの元凶!? 」」

 はいー? なんでシンクロ?


「お前さすがに加減を覚えようか? あの水晶玉どうすんだよ」

「効果を減らす魔術なんて考えたこともありませんでしたから、私はやり方なんてわかりませんよ? 反対の魔術をかけるにしてもあの魔術に対抗出来る人なんて今のところかけた本人一人だけです」

 えー、でもあの子、お腹一杯になってるからなあ。他の魔術入るかな?

「そんなこともわかるんですか。じゃあその子に効果を抑えるように言ってください。出来るならね?」ジトー。

 えー、聞いてくれるかな? まあまた会った時に聞いてみるよ。

「聞けるんかい!」「は?」


 あれ? 冗談だったの?


「マジか……。どこまで想像の上を行くんだよ。カイル、聞いたことあるか?」

「まさか。そんなことを言う人、頭おかしいでしょう」

 ちょっと? おかしくないから。

「まあ天才とナントカは紙一重っていいますからね」

 ちょっと!? 失礼! それ失礼でしょ!

 もー頑張ったのにー。


「そうだな。うん。お前はあんまり頑張らないほうがいいな。で、もう少し知識を増やした方がいい、やっぱり。じゃないと何でもやり過ぎる」

 まあ、それはそうかもねえ。そしたら力ごり押しとかしなくてすむもんね。

「よし言ったな? カイルも聞いたな? お前ちゃんと今の覚えとけよ?」

 え? なにそれフラグ? なんか前にもあったなこのやりとり……。




 もうすぐシュターフ、そんな場所で。

 カイロスのおっさんが火の鳥イカロスをつれて席をはずしているときに、カイル師匠が話しかけてきた。

「あなたは今の結婚とご主人に不満はないんですか? 契約だけしてすぐに放り出すような人ですよね?」


 うーん、でもシャドウさんつけてくれたしねえ。本当にお疲れの様子だったんだよね、今思うと。だから、むしろ頑張って起き出して契約だけはしましたって感じだったのかな、と思うんだよね。どうも次に会ったときの元気具合からして。

 なんで?

「今のあなたのその結婚の契約は完成はしていますが、ひとつだけ穴があります。もしそれをカイロスが知ったら、きっと全力で攻めてくるでしょう。あなたはそれを知りたいですか?」


 穴?


 え、そうなの? 結婚が無くなるかもしれないってこと?


「あなた次第で覆すことができる逃げ道があります。契約者のあの一族がうっかりそんなものを見逃すはずがないので、意図的に作られたか、もしくはそこまで埋める余裕がなかったかのどちらかでしょう。知りたいですか?」


 うーん、どうしよう? でも知らないで地雷を踏むのが一番怖いかもしれない。

  知っとこうか? ……うん、知っておこう。


「結婚の契約は、最後まで完成すると指輪と魔方陣が双方に刻まれます。その指輪と魔方陣が貴女に刻まれたということは、すなわちあなたはご主人の誓いを受け入れて既婚者になったということです。ですが、あなたの魔方陣を詳しく視ると、多分、ご主人の方に魔方陣はまだ刻まれていないはずです」

 ん? そういえば、光っていたのは私の左手だけ?


「多分そうだと思います。宣誓のときに、『この契約により未来永劫二人は夫婦になる』という文言はありましたか?」

 んんー? ……覚えがないかも。


「ということは、今の状態は、ご主人が永遠の誓いをたてて、あなたが受け入れている結婚状態ではありますが、あなたはご主人に永遠の誓いをたてていない、もしくはご主人がまだ受け入れていない、ということになります。繰り返しますが、一応あなたが結婚を承諾して、多分、指輪の印は双方に刻まれているので、結婚の形としては正式に成り立ってはいるんです。結婚の絆の糸も繋がっているようですしね。ですが、今の状態だと、ご主人の方から離婚はできないけれど、あなたの方からは離婚ができます」


 ええ!? そうなの!?


「魔術師による結婚は二段階あるんです。一段階目は離婚が出来る普通の結婚の契約。双方の左手の薬指に印が刻まれます。そして永遠の誓いをさらにたてると、相手の体のどこかに誓った証拠の魔方陣が刻まれるのです。この誓いは相手が死んで魔方陣が消えるまで、他の人には誓えません。つまり、他の人とは結婚出来なくなります。なので通常は二人同時に誓うものなのです。ただ二段階目の誓いは本人の任意のだめ押しなので、普通は一段階目までで正式な結婚とされます」


 え、じゃあ、あの人しょっぱなに二段階目まで誓っちゃったの? 大胆だな。


「なので、この先あなたが他の人と結婚したくなった時は、まだ二段階目の誓いをたてていないので、破棄できなくはありません。ただその場合でも、その左手の魔方陣は消えませんし、ご主人が他の人に誓いをたてることも、あなたが死ぬまではできません」


 わあ過激。でも。

 うーん、破棄? 全然したくないよ?

 初めて会ったときから今まで。水龍セレンの話に出てきた「だんなさま」、水晶の言っていた多分「だんなさま」の話、シャドウさんの様子、実際に再会したときの様子。私はその全てが嬉しくて、そして愛しいと思っている。

 一目惚れの威力って、すごいね。


「むしろちゃんと結婚出来ていてよかったと思っているから、破棄はないです」

 はっきり言っておこう。わたしは「だんなさま」が好き。


「そうですか。まあ私も初対面でそこまで誓わせたら鬼畜だと思いますからね。あなたの意思を尊重してくれているのだと思いましょう。ただし、これからカイロスが本気を出すと思いますから、今のことは覚えておいてください」


 は? なに? 本気ってなに! むしろ今までは本気じゃなかったの!?

 あのしつこさで?


 なにそれ怖い! とっても怖いー!


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