仲間になりたそうにこっちを見ている
「どうしてもダメなの~? でもさあ、やっぱり世慣れてて旅慣れてもいるオレがいるとイロイロべんりだろぉ~? ここだってオレのオススメの宿! 居心地満点! 安全安心! ご飯もうまい! なあぁ~?」
今日泊まる宿の食堂で、私とシャドウさんに必死に訴えているのは、あの、私に一服盛ったおっさんである。
どうしてこうなった。
何故だかこのおっさん、あの後部屋にやって来て、用心棒に雇わないかと言い出した。
いやあ~こんな無防備なお嬢さんと目立つ"末裔"じゃあ旅も大変でしょ? とかどの口が言うんだ。
もう一度言う。こいつは! 私に! 一服盛ったのである!
なんでそんな提案を受けると思っているのかね?
と、いうことで当然お断りしたのだが、何故だかこいつはしつこいシツコイ。
あれから2週間、「気楽な二人旅」をしているはずが、毎日こんな調子でまとわりついてくるのだ。
推定40代、腰の大振りの剣を軽々振り回しそうな筋肉だらけのガタイ、ボサボサの白髪混じりの髪と髭が怪しいと言ったら即座に綺麗に整えて来た柔軟性? そして2週間こちらの旅に自腹で着いてくる行動力と経済力。
ちなみに付きまとってひたすら説得してくるので、仕事らしいことはしていないのだこの人。
なんでこんなそこそこ余裕のありそうな人が「雇って」とか言って来るのかね。オススメのこの宿、結構良いランクっぽいよ? なんか下心ありそうで怖いよね!?
と思ってひたすらこのうるさいのに耐えて首を横に振っているわけだけど、シャドウさんは喋らないから相手するのは私だし、さすがに朝から晩まで「いいだろぉ~?」とか言われ続けると、うんざりしてくるというもの。
シャドウさーん、なんとかしてーと頼ろうとしてもシャドウさんは一貫して微笑みを浮かべた保護者ポジションから降りてこないのだ。
追い払ってよー。もー。
「だから、私はお金ありませんしね。あなた怪しいじゃあないですか。平気で一服盛るような信用できない人と一緒には行動できないって言ってますよね?」もう何度目だこの台詞。
「だーかーらー、それはすまんかったって言ってるだろー? ちょっと具合が悪くなってもらって、それを介抱して恩を売ろうって思っただけだってー。なんかないとお話もできないでしょーがー」
「それにしては強力なお薬でしたよね? あれ」
「えー大丈夫だよー意識無くなったらそれ以上飲めないんだからさー。死ぬような量はどうせ飲めないの! だから死なないの!」
「いや意識無くすだけでも十分犯罪でしょうが! なに言ってんのおっさん!」
「おっさんじゃなくて、カイロスさんでしょー。カ・イ・ロ・ス。名前で呼んでよー。ね? 腕は確かだよ!負け知らずだよ! 盗賊もお任せ!」
だれかー助けてー。
「だいたいオレが止めなきゃあんたたち、この町素通りしようとしてたじゃないか! ここは朝出ないと夜までに隣の町まで着けないの知らなかっただろ。あのまま進んでいたら今頃野宿するはめになってたぜ? はい盗賊さんこんにちはー。あ、こんばんはーか。そしてあんたたちは誘拐されて別々に売り飛ばされてたかもよ?」
う、まあそうかもね。とは思うけど。
「だからっておっさんがいたら、おっさんに誘拐されてもおかしくないよね?」
「えーオレ、雇用主には誠実よ? じゃないと用心棒稼業なんて出来ねぇよ。そこは信用してもいいぜー」
その信用がないんだろーがー。
「あ、じゃあこの膝治してくれたら一生恩に着る。一生何でもお願い聞いちゃう! 用心棒もしてやるよ! タダで! 裏切ったら両膝壊れる呪いをかけてもいいからさー、何とかならない? "末裔"さんよーう。さすがにこの2週間歩き詰めで古傷が痛むんだよう。つれーわ」
この2週間の堂々巡りから、初めて話題がそれてターゲットがシャドウさんになった。はーやれやれ。
「おれ、一応魔力持ちだから! 便利だよ! そんなオレが一生の忠誠を捧げるのよ! お得だよ!?」
え、魔力持ち、って、なに!?
びっくり顔の私に気付いてまたおっさんの顔がこっちを向く。わざとらしくヒソヒソするおっさん。
「内緒にしてたんだけどさー。さすがに膝が限界なんだよ。もう虎の子の秘密も話すから、そろそろ話を決めようや」
いや、それ決めるのあんたじゃないから。
「おれ、先祖にお偉いさんがいて、先祖返りっていうの?
魔力で火がおこせるの。そよ風吹かせる位ならたまーに居るかもしんねえけどさ、火を出せるのって珍しいから、普段は隠してるんだよ。ばれたら王都に呼ばれちゃうかもしれないだろ? 」
え、なんで王都?
「ええ、それも知らないのかよ。強い魔力持っているやつはみんな王都に呼ばれて、魔術師団に入らされて、たかーいお給料と引き換えに監視されるっての、みんな知ってるだろー。やだよオレそんな窮屈な生活ー。だから内緒にしてね」
へー。まりょくねー。そんなんあるのねー。……ちょっと見てみたかったりして。
「だからさー、そんな国民の憧れ魔術師団にも入れちゃうかもしれないオレが一生忠誠を尽くすからさー、この膝何とかならない?」
目をキラキラさせてシャドウさんを見てる。
魔力なるものを見てみたい私もつい期待の目でシャドウさんを見つめた。
するとそんな私を一瞥して、シャドウさんはちょっと考えたあと、立ち上がった。手振りで着いてくるように言う。
「ありがとうございます! ご主人!」
気の早いおっさん、もといカイロスさんが早くも
「着いていきます! 恩に着るぜ!」
と叫んでいた。
え、そんなこと出来るの? シャドウさん? え?