石たち
「さて、いいですか? わたしは今、追われています。はい復唱」
はい、私は追われています。え、でも王都に本物らしい人がって……。
「それはあくまでもその疑いであって、あなたが何かやらかしたら、即訂正されると思いませんか?」
ハイ、ソウデスネ……。
「余計なことはやりません。もちろん何も言いません。はい復唱」
はい、何もしません、言いません……。
「では、これから回復の魔力を込めるための石を買いに行きますが、あなたが見たいと言うから連れて行くのです。本当はあなたはそんな魔術師でございとバレるような所には近付くのは危険だということを心してくださいね」
はい、わかりました師匠。
なんか全然信用されていないのは何故かしら?
でもそんなお店、見てみたいじゃない? そしてあわよくば買いたいよね!
髪色よーし、髪飾りよーし、隠密の結界よーし。
仕上げに帽子もかぶって、服も出来るだけ地味にしました。
さあ! お買い物だ!
師匠のジト目になんて負けるもんか!
しかし最初の頃に比べたら、随分大きな街を渡り歩くようになったなあ。
今いるこの街も、大きなお店がいっぱいだ。
おかげで美味しそうなお店やお洒落なお店がたくさん。人も多いから活気があって楽しいね!
「あんまりキョロキョロしないんですよ。よそ者感を出してどうするんですか。買い食いなら後で大人しくしていればさせてあげますから、今は前を向いていてください」
う、ワカリマシタ師匠。目だけキョロキョロにしときます!
その店は大通りから一本脇に入ったところにあった。宝石店だ。
「裸石を」と師匠が言ったら奥の部屋に案内された。
なるほど。しっかしさすが宝石、お値段がなかなか……。
チャンネルを通して師匠が解説してくれる。
「普通は黒曜石を使うのですが、別にほかの宝石でも石であったら使えます。ただ魔術の効果と値段は関係ないので、手軽な石を使うことが多いですね」
ほうほう、なるほど。
師匠がもっと大きいものを、と伝えている間に、私はそっと目を閉じてみた。
目を閉じると、それぞれここにある石のパワーを感じることができる。
結構みんな個性があるね。主張の強いのからビクビクしている子まで。
魔術を込めるなら、強くて懐が深そうな子がいいんじゃないかなー。
あんまり個性が強くなくて……私との相性も大事かもしれない。
だれかー、わたしの魔力を吸ってみない?
『えー』
『いやー怖そう』
『オレなら何でもやってやるぜ!』
『めんどくさい』
『いいけど変なのはいやー』
『どうでもいい』
ほんとイロイロだな。みんなかわいい~。
そんな中。
妙に静かにこちらに寄り添ってくる子がいた。
静かにこっちを見ている……そして気持ちもこっちに向いている子。
あなたはだあれ?
その子の前で目を開けると、拳大の水晶玉だった。
こんにちは?
『こんにちは』
あなたは私の魔力を吸収してくれる?
『いいわよ?』
たくさん入れていい?
『あなたならいいわよ? 王の大切な人だから』
あら、王ってだあれ?
『王は王よ。私たち、地のものたちの王。今は地に抱かれている。あなたからは王の気配がする。大切にされているのがわかる。だから私たちはあなたに協力する。わたしも』
ふと「だんなさま」の顔が浮かんだけど、彼?
じゃあ、私のところに来る? そしてお使いに行ってくれるかしら?
『いいわよ。地の王の大切な、水の王になら役に立ってあげる。あなたを水の龍が認めている。龍は間違えない』
セレンか。なるほど。交渉成立。
「これくださいな」
あれ、師匠が苦い顔?
「水晶は魔力の容量は大きいですが難しいんですよ」
難しいってなんだろう?
「思ったような効果が出なかったり、魔力が入れ辛かったり。それなのに値段は高い。初心者向きではありませんよ?」
ふうん、なるほどー。あ、支払いはキャッシュで! さっき多目に下ろしておいてよかったー。ダイヤとかルビーとか買うかもと思った私よくやった。
「私は教えましたからね?」
はい、聞きました! でも交渉成立しちゃったしねー。買うよね。
他にも『やってあげてもいいわよー』という、もっと手軽なお値段の小さい子たちも幾つか購入して、私はホクホクしながら帰路についた。
師匠が変な目で見ているけど、なんでかな?
あ! 師匠! おやつが買いたいです!
さて宿に帰ったら男部屋に集合です。
カイロスのおっさんはなにやら忙しそうにしていたから出掛けているのかと思ったら、しっかりお部屋で待ち構えていましたよ。
「なんか面白いモノが見れそうなのに、出掛けるわけねーだろ?」
とのことです。なんだ私は珍獣か?
最初に師匠の買った石に回復の魔術を込めてみました。魔術を込めてから言い聞かすよりは効果が強いらしいです。でも後から変更がきかなくなる。ほうほう。
「いいでしょう。加減も出来るようになりましたね」
おおやったー。
では、私の水晶にも。
「ええ、それにも回復の魔術を入れるのか? なんかもったいなくないか? 領主には今作ったやつで十分効きそうだぞ?」
そうかな? でもさっき入れたの、ちょっとだったよ?
「でもこの大きさの水晶に彼女の魔力が入ったら、後々面倒なことになるかもしれません。たぶん争奪戦になりますよ」
「あ、たしかに。オレ欲しいわ! 金なら出す! 何でも出来そう! なんに使おう!」
なるほど! それは怖い。今わかった。魔力の切り売りは危険だ。やめよう。何に使われるのやら。
では回復の魔術を込めましょう。
そこ、えーって言わない。
回復の魔術を入れるね?
『いいわよ?』
よし。では。開始~。
お、スルスル入るね。これは、あれだ、アトラスの守護魔術に入れていたときみたいだ。相手も歓迎している感じ。ん? そろそろさっき作った石を越えて……どんどん入るよ?
まだいいの?
『大丈夫』
んじゃあ悪いけど、めいっぱい入れるよー?
はいどんどん~。
そして水晶はおなかいっぱいになった。
「……これは、この回復だけでも争奪戦になりますね……」
「なんかコレ、すげえな。異様なパワーになってるぞ」
「死人以外はあっという間に元気になりそうですよ」
「死人も生き返るんじゃねえか?」
いやさすがにそれは無理だから。
まあ、効果の強そうなのが出来たのはよかったよね?
「強すぎだろ」
「カイロス、これの警備は気を付けるように言ってください。盗まれたら下手すると争いが起きて人が死にますよ」
「わかった。また面倒なものが出来たなーいや助かるけど」
えー、褒めてよー頑張ったのに……。おかしいなあ。





