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遊びとは

「まあ、カイルが王都に入ったら、その場で偉そうな肩書きが贈られてそのまま魔術師団入りになるだろうからな。逃げられない距離に入った途端にガチガチに固められてパクっとやられるぞきっと。今回は教会を使ってきたかーそうかー」

 事情を聞いてカイロスさんが言った。


「王族は魔術師を、潰すか使い倒すかするものだと思っていますからね。誰かに使われるなど、まっぴらごめんですよ。絶対に近寄りたくありませんね」

 なるほど。


 はい。気が変わる前にとカイロスさんが気合いを入れた結果、あっという間に私たちは旅の道程をてくてくしております。もちろん会話も3人だけのチャンネルを通してお送りしております。

 素晴らしい手際でしたよ、ええ。あの山のようにあったカイルさんの魔道具たちも、一瞬でおっさんの手によって全部シュターフに送られたようです。

 私が自分の出発の準備をもたもたしている間に全てが終わっておりました。すげえ。



「しかしその貴族、思いきったな。娘の魔力がどれだけかは知らんが」

 カイロスさんが言い出した。あれだね? 本物かもしれない『再来』


「バレたらまず命はないでしょうねえ。どんなに頑張っても追放でしょうか」

「バレればな。バレなければ王が喜んで王子の誰かと結婚でもさせるだろうから、賭けだな」

「まあ貴族ですからねえ、それが最善でしょうねえ。国民の人気を取り込み、かつ魔力という武器も手に入れる。王は大喜びでしょうね」

 えーでも結婚「させる」とか、可哀想だよね、その令嬢。

「ええ? 王族になれるんだぜ? 贅沢もわがままも思いのまま。女の夢じゃねえの?」

 ええ……上下関係とかめんどくさくない? 権力に惹かれてくる人もうざい。


 あ、そういう意味では今回の人が『再来』になってくれたら私、自由? 大手を振ってのんびりライフ! どこかで「だんなさま」と地味にひっそり暮らすのよ~。


「んなわけねーだろ! 相変わらずオツムがめでたいな! その偽物が王子と結婚してみろ。どうせお前そのうちまたやらかすんだから、その瞬間 お 前 が 『偽物』になって、王と国に追われるんだぞ。今度は教会すっ飛ばして直接消しに来るぞ。国に『再来』は二人もいらねえんだよ」


 ええー!? なにそれ怖い! 権力怖い! 真実がねじ曲がってるよ!

 それは嫌だ。絶対に嫌だ。だけど今までだって、やらかしたつもりなんて全然無かったのにこんなことになってるんだよ? どうしよう?


「まあ、まだ疑っている段階だし、時間はまだあるだろ。どうせ今は何もできないしな」


 え、そのうち何か出来るようになるんですかね?

 私はまったく何も思い浮かびませんけどね。ということは、考えても無駄か。

 なんかそろそろ命の危機……?

 どうしてそうなる!? 泣いていい?


「まあどうにかなりますよ。もしもどうにもならなかったら、私が見えなくして差し上げます。でもまあ、大丈夫でしょう。あの魔力と能天気な暴走具合から見て、王も敵にするよりは利用しようとする気がしますよ。消すには惜しい人間になれば消されません。あなたなら、きっとすぐになれますよ」


 それ、誉めてるのか貶してるのかよくわかりません。でも、利用されるのも嫌なんですが。


「確かにむしろそっちかなあ。まあどのみち窮屈になることにゃ変わんねえけどな。王室には近づかないにかぎる。どうせ件の令嬢も、シエルくらい能力があったらその年まで話題にならない訳がない。(いにしえ)のセシルと同じようなことになるはずなんだよ。だから大したことはない。むしろシエルお前、今までなんで話題にならなかったんだ?」


 さあ? っていうかそのセシルと同じ事ってのが気になるんですが。


「ああ。例えばだな、かつて、幼児だったセシルは海の水で粘土遊びをして大騒ぎになった。本人にとってはちょっとした遊びだったから悪気もなかった」


 ああー……。目の前の材料で遊んじゃったのか。


「突然、港にばかでっかい水で出来た龍だの鳥だの魚だのが出現して踊り狂って、人々がパニックになっている中で幼児のセシルだけが笑い転げていたらしい」


 うわあ……。


「まるで誰かさんのようですね? その無邪気さとか」

 あれー? 私は幼児じゃないから。


「そんな逸話は数知れずだ。本人にとってはちょっとした事だから、振り回される周りは相当大変だったろうよ」

 おーい、妙にしみじみしないでくれる?


「まるで誰かさんのようですね」

 カイルさん? 繰り返さなくていいから。


 二人してこっち見なくていいから!


「まあ、あなたのご主人の一族が、上手くあなたを隠したんでしょうね。幸い巨大な魔力には慣れているでしょうしね」

「くっそう、そんな前からかよ。確かに最初シャドウとかふざけた名前で"末裔"が張り付いてたな」

「へえ? あなたは会ったんですね?」

「まあ、そいつは影だったけどな。完全に実体化してたぜ? オレも初めて見た」

「実体化ですか! それは私も見てみたかったですね」


 えー?「だんなさま」はそんな感じじゃなかったけどなー? 一族とかなにそれ。「だんなさま」だって「ようやく会えた」って言ってたのに。

 まあでも言わなくてもいいか。どうせ突っ込まれて聞かれてもわからないし。何か言ってまた二人で納得されて、私だけ置いてけぼりとか嫌だしね。え? この前の事? 根に持ってないよー?


 しかし3人旅も賑やかでいいねえ。




 そんなこんなで仲良く旅を続けていたある日、火の鳥イカロスが飛び込んできた。


『大変! 大変よ! シュターフ領主、危篤! キトクー!』


 瞬時にカイロスさんとカイルさんの顔色が変わった。


 なになに!? なにごと?


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