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神父の依頼

 アトラスという街には一番長く滞在しているかもしれない。

 街に愛着らしきものを感じ始めてそう気がついた頃。


 カイロスのおっさんがカイルさんのお店に珍しく姿を現していた。

 そういえば最近おっさん見てなかったな。


「よお、店員さんべっぴんさんだね! オレと結婚しない?」

「いらっしゃいませーしませんよー」

「お前すっかりこの店に馴染んだな……」

 そうねー気がつけばねー。仕事でもないと最近はちょっと暇をもて余しぎみなので、すっかりこの店のバイトとして居着いてます。のんびりするのもいいけれど、一人ぼっちじゃつまらないの。


「こいつ、助手として使えんの?」

「そうですね、まあまあです」

 まあまあか。しょぼん。

「いやいや、こいつが助手って認めているだけでもすごいから。今まで弟子入り希望なんて山ほどあったのに、みーんな断っていたんだぞ?」

 へー、カイルさんさすがだね。私もクビにならないように頑張ろう。


「で、どうしたんです? 『再来』と一緒に中央広場にいたのをそろそろ言い逃れ出来なくなってきましたか?」

 奥の店に閉じ籠ったとたんに言い出すカイルさん。

 え? おっさん責められてたの?

「そっちはなんとか誤魔化した。前に会ったことがあったから懐かしくて声かけただけだって。まあ最初は疑われたけどな、毎日言ってりゃ本当になるんだよ」

 カイロスさんはカイロスさんだった。つよい。


「それよりカイル、そろそろ神父が帰って来るんじゃねえか? そしたら一緒にシュターフ行こうぜ。お前、あっちにもこっちにも魔道具売ってただろ。領主の館やら仕事場やらから山ほどお前が作った呪いのオモチャが出てきたぞ」

「作って売ったのは私ですが、それはお客のご要望にお答えしただけですよ。私が仕掛けたわけではありません」

「そりゃーそうだろうけどよ、領主が呆れてたぞ。まああの領主も同じくらい政敵に送ってそうだけどな」

「もちろん、かの方にも沢山お売りしましたねえ。何に使っているのかまでは存じませんが」


 いやだよー、そんな話は私のいないところでやってくれ。


「そろそろ片方が落ちるぞ。お前のお得意さまが何人か減るな」

「それは貴方が味方した方の、敵がということですね」

「もちろん」

「なるほど……ではあの方たちですね。残念ですね、支払いの良い方たちだったのに」


 うわーん怖いよー。


「さすがに領主が問題視している。これからは何かしらの制約がかかると思ったほうがいいぞ」

「うーん、それは残念です」

「で、お前の商売もどうせ縮小しないといけなそうだし、この際一緒にシュターフに行って、あっちで一旗挙げようぜ?」

「とかなんとか言って、シュターフに行ったら行ったであなたに良いように使い回される気しかしないんですが?」


 ありうる。大いにありうるよ! 絶対そうなるに決まってる。私には見える。見えるぞー。


「えー? ソンナコトナイヨー? ほら、助手のシエルも行くことだし、師匠もおいで?」

「……」

 誰もおっさんには勝てない。私はこの時そう確信したのだった。


 しかもこのおっさん、付き合う相手が町長、市長、領主とグレードアップしているよ。末恐ろしいですね。




「あなたがカイルのお弟子さんですか、なるほど可愛らしいお嬢さんだ。きっと沢山魔力をお持ちなんでしょう、うらやましいですねえ」

 なーんてニコニコしている壮年の紳士はこのアトラスの教会の神父様。

 え、こわ。教会こわい。逃げていい?

 まあ、逃げられるはずも無いんですが……。


 さすがアトラスの教会にいるだけあって、魔力とかさらっと認めていらっしゃる? と思ったら。

「私も少々魔力がありましてね。お陰で『アトラの虹』が見れました。なるほど凄いですねえ、過去の遺物というものは」


 なるほど。魔力を持った神父さまだったのか。


 ここは教会の中の神父さまのお部屋です。お仕事するところね。

 清貧という言葉を体現するような、とってもすっきりしたストイックなお部屋です。

 ここでカイルさんが代理を務めていたのを労ってくださっているんですが、何で私まで……しかもいつ弟子に昇格したんだよって話ですよ。否定しないんですか? 師匠(仮)。


「実は少々王都で困ったことが起きてねえ。それで帰るのが遅くなったのだよ。私も協力を要請されて頑張ったんだがねえ、これがなかなか……。でね、カイル、君だったらなんとかなるかもしれない。だから」

「お断りします」

 しーん。


「……まだ要件を言っていないよ?」

「要件が何であろうとも王都には行きませんよ。祖母の遺言ですから」

 出た! 伝家の宝刀。おっさんは「じいちゃんの遺言」だったな。そのうち私も使っちゃおうかな、記憶ないけど。


「相変わらずだねえ。でもねえ、これは極秘なんだけど、大変な問題なんだよ。王都の魔術師団でも対応できなくてねえ」

「そんなこと私には関係ありません」


 カイルさん……神父さまに向かって強気だなあ……。まあ、部下ってわけでもないのか。だけど神父さまも強かった。まだまだ食い下がる。


「でも、『セシルの再来』には興味あるだろう?」


「「 は? 」」


 思わず声が出た。いやいや、私は壁です。え、でもなに?

 流石にカイルさんも反応する。そうだよね。今ここにいるもんね。危険? 逃げる用意する?


「王都でどうも本物らしいという人が見つかってね」


「「 はあっ!? 」」


 いや私は壁に……無理!

 王都に? え、ホンモノ、って、え?


「彼女の魔力が大きすぎて、誰も、魔術師団でさえも彼女の魔力が計れないんだよ。しかも彼女はかたくなに魔術を見せようとはしなくてねえ。貴族の令嬢で、お父上がしっかりガードしているせいでなかなか無茶なこともできない。ただ、黒髪、黒目、年、条件は合っている。そこで、カイル、君なら。ね?」


 あ、カイルさんすっごい渋い顔をしているよ? でも凄いね、カイルさんの能力が認められているんだね! 魔術師団でもダメだったんだって。


「申し訳ありませんが、私はつい先日、シュターフ領主からの招待をお受けしてしまっていますので、王都には行けませんね。残念ですが他の方に依頼してください」


 あれ? 初耳なんですけど? あ、こっちに目配せ? 黙ってろってこと?

 なるほど。


 いま決めたな? シュターフ行き。


 そこまでしてでも王都には行きたくないのか。

 きっとおっさんが大喜びするな。



「おお! やっと決めたか! よし行こう! すぐ行こう!」

 ほらやっぱりねー。


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