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[余談] とある魔術師の話

他人目線のお話です。読まなくても本編には影響はないけれど、読むとちょっとお得。な、はず。

 私はアンティークショップを代々経営しているものです。


 と、いうのは表向きで、本当は代々、前王朝時代から、聖魔術師を受け継いでいる魔術師です。

 私は何人もいる兄弟の中でも幼少からその魔術師としての才能を示し、家族の期待を背負って聖魔術師を継ぎました。

 私にかかれば大抵の魔術は読み解けますし、どんな種類の魔術も大体かけることができます。浅く広く。少々浅いのがたまに傷かもしれませんが、それでも普通の魔術師よりはレベルは上ですよ? なにしろ聖魔術師、つまり前王朝時代においては尊敬を集めた最高レベルの魔術師ですから。


 まあ、今の時代はそんな尊敬なんて集めるどころか隠れていないといけない時代。私はおとなしくアンティークショップのオーナーとして、そして定期的にこの旧首都アトラスにかかっている「月の王」の守護魔術に魔力を送り込む聖魔術師として残っている仕事をするだけです。


 ですが、それだけでは面白くない。せっかく使える様々な魔術。どうせだからこれで商売をしようと魔道具をこっそり作って販売をしはじめました。

 そうしたらこれが大当たり。繁盛しすぎる位に繁盛して。あんまり儲かると目をつけられそうだったので、この街のお偉方に近づいてはせっせと魔道具を特別価格でご奉仕して、おかげさまで私の商売は公然の秘密になりました。もちろん、危険なものは何も売らないという約束はしましたがね。


 そんな順調なある日、古くからの悪友がふらりとやって来まして。

 やつに似合わない可愛らしい女の子を連れているなとよく見たら、婚姻の糸が見えました。あれ? 悪友結婚したのか? と一瞬思いましたが、どうやらその糸は全然違う方向に繋がっているようです。なんだこいつ、人妻と旅とか、倫理的にいいのか!? と驚きました。


 しかもそいつ、その人妻を別れさせられないかと聞いてきます。女の子は嫌そうなのに、カイロスのこの執着、ただ事ではないですね。はっきり言って初めて見ました。

 なので、その子をよくよく視てみることにしたら。

 たしかに彼の言うように何かしらの魔術が幾重にもかけられていました。まあよく見るようなやつです。だけど普通の魔術師がかけようとしたら、下手すると準備に何ヵ月もかかるんじゃ? というものも含まれていそうです。でも沢山すぎて詳しくは視ませんけど。ただ、かけた人間の怖いほどの執着は感じましたね。


 だけどその彼女には、一つだけ、驚くものがありました。私も長年見なかった魔方陣です。彼女の左手の甲にありました。私でさえ、知識では知っているけれど結んだことの無かった婚姻の契約の証しです。彼女の年齢からして私ではない誰かが結んだことになりますね。誰だ? 一体。


 私は詳しく調べることにしました。

 魔方陣を詳しく読んでいく。そこに描いてあった、契約を結んだ人物の名は……。


 驚きすぎて一瞬息が止まりました。


 なるほど、カイロスが執着するわけです! 

 こんなことがあるなんて!


 今世間を騒がしている「セシルの再来」は彼女なのでしょう。

 だからこんな婚姻を結んでいる。あの一族が今回はカイロスより先に見つけ出し、そして契約してしまったのだ。


 ただ、彼女が妙に無邪気なのが気になるなと思っていたら、カイロスが言うには彼女は記憶喪失だと。

 なるほど。自分が何者かわからないのですね?

 そして誰と結婚したのかも知らないのか。


 まあ、いくら「再来」と騒がれようとも、私と同じ程度の魔術師だったら、世界のどこかには他にもいるでしょう。探すのは大変ですが、頑張れば何とかなるかもしれない。今回は残念でしたが、カイロスにはそう後で慰めておきましょう。さすがに、かのセシルと同等となると無理でしょうけれど。



 と、思っていたら。

 なんですかあの魔力の量は!

 激しすぎて魔力による風をまとっていましたよ。そんなの言い伝えでしか聞いたことがありません!

 私の作った髪飾りどころか自分で張った結界をも吹き飛ばして、私の一生分を超えるのではという量の魔力を一気に守護魔術に注ぎ込む。

 そんな光景、にわかには信じられませんでしたよ!

 わたしのプライドはずたずたです。

 正直ちょっと泣きそうでした。


 しかも彼女が魔力を注ぐのをやめたのは、魔力が無くなったからではなかったのです。なぜなら、言い伝えでしか聞いたことがなかった、かの「月の王」が生きていた時代にしか見られなかったという「アトラの虹」が現れたのですから!

 彼女の魔力が切れたのではなく、守護魔術の容量の方が一杯になったからだという証明ですよ。


 しかも彼女はケロっとしているのです。流石にあとから腰が抜けたみたいですが、当然ですね。私だったら寝込んでます。死にかけたかもしれない。


 見かけは元気そうでしたが、さすがに休んだ方がいい。それに「アトラの虹」が現れたとなると、教会も黙ってはいないでしょう。彼女の黒髪も見られていることですし、ここは大人しくしてもらわないと大変なことになりそうです。


 なのに。


 なにやってんだあの小娘! なにをのこのこ広場に舞い戻って買い食いなんてしてやがるんだ! 翌日教会で報告書を見たときは、卒倒しそうになりましたよ! 危機感ないのかあいつ!

 早急に調べるべき人間リストに自分から立候補してどうするんだ……。

 馬鹿なのか? アホなのか? 無邪気の域を超えているだろう……。


 呆れを通り越して怒りが湧いたがしょうがない。なにしろ「アトラの虹」を出現させた人物なのだ。

「月の王」にしか出来なかったことをやってのけるような人物を、教会に渡すわけにもいかないだろう。魔術師として、いや聖魔術師としても。


 しょうがない。

 あまりリスクはとりたくなかったんだけどな。

 しぶしぶ私は口を開いた。


「彼女は私の知り合いで……」



 今に見とけあの小娘!

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