保護者が増えました?
「あ、おい、大丈夫か?」
ん? ……なんか腰が抜けたみたい。あれー? 力が入らないよ?
慌ててカイロスさんが椅子に座らせてくれたけど、あれれ?
「良かったです。あなたも人間だったんですね。あれだけ物凄い量の魔力を放出してピンピンしていたら、あなたは本当に化け物なんだと思っていたところです」
カイルさんのジト目は治りませんか。そうですか。
あー、なるほどね。エネルギー切れということか。
なるほど。また私は調子に乗ってやり過ぎたのか……。
「「また?」」
あっ、いやなんでもないです……。
「とりあえず明日の朝、教会に行ったら、今日の影響を見てみます。神父はまだ数日は帰らない予定ですからどのみち私は仕事です。場合によってはカイロスと私、両方が『再来』と一緒にいたという噂が出てもおかしくはありませんから」
ああ、カイルさんまで巻き込んでる? 申し訳ない……。
「それでオレも考えたんだけどよ。カイル、お前、オレらと一緒にシュターフ行かねえか? ちょうどこの街の守護魔術もしばらくはメンテナンス要らなくなったみてえだしよ?」
「うーん……」
「あれ、そこ迷うとこ? オレとしては良い提案だと思ったんだけどな?」
まあカイルさんにはお店があるしねえ。難しいかもねえ。
居づらくなったらうちにおいでと言えるようなお家が私にはないからなあ。あら、私根なし草……。ちょっと考えないようにしていたことを自覚してしまった。うーん、「だんなさま」そろそろ起きないかなあ。
私は立てるようになったら、今日は宿に戻って休むことになりました。まあ、お前はしばらく出てくるな的な?
でも、その虹とやらは見たくない? 見たいよね?
今日はおっさんとも一緒じゃない方が良いだろうということなので、私は宿に帰る道をこっそり寄り道して、一人でさっきの中央広場? にやってきましたよ。
茶髪よーし、髪留めよーし、隠密の結界よーし。
服は変わっていないけど、出来るだけ地味ーにしている上に隠密の結界があるから、遠目に見る分にはきっと大丈夫。私はモブ。背景に雑に描かれる人。
クリスタルボールは相変わらず元気にグルングルン回っていて、キラキラの光を撒き散らしていた。あんな勢いで回り続けて魔力を消費しないのかしらと思ったけれど、ちょっと探っても全く変わりなかった。燃費が良いんだね
「月の王」すごいな。
さっきより人が多い気がする。何人かの人が見ている方向は……ボール?
あの見上げている人たち、もしかしてみんな魔術師なの? 何人もいるよ!? さすが旧首都、エネルギーの涌き出る街。好んでやってくるという話を実感する。
でも虹……? どこ?
んー? 見れば見るほどキラキラばかり。
あ! 他の人にはこのキラキラが見えないのか。そういえば。
え、じゃあどうしよう。
どうしたら……
やる気無く見てみる。キラキラしてる。
片目で見てみる。キラキラしてる。
目を閉じて見てみる。なおさらキラキラしてる。
ダメだよー見えちゃうものを見ないって、どうするんだ。
ずっと立っていると怪しまれそうなので、見えたお店でおやつを買って、空いていたベンチに座った。
私は小腹を我慢できずに満たしている街の小娘です。ふふっ。完璧。
もぐもくもぐ……。
口に意識がいっているからぼんやりしていてもいいよね。
これは、裏技使えばいいのかな。
秘技、人の目を通して見る!
はい、ちょっとすみません~表面だけ感じさせてね~何見てるの~?
ぼんやり見上げている数人の意識を感じとる。
すると、ほとんどの人から同じ光景が見えた。
虹が三重にかかっていた。3つ!?
何もない空中に、鮮やかな虹が3つ折り重なるようにかかって、そして少し揺らめいていた。
あら綺麗~~。
なるほど、虹だわ。
ほへーなんだか癒される……。
私は人の意識を通して見た虹と、自分の目でみたクリスタルボールのキラキラと、そして美味しいおやつを堪能した後、おとなしく宿に帰って寝たのでした。
翌日。
私はちょっと思うところがあってカイルさんのお店に行ったんだけど。
待っていたのは目の座ったカイルさんでした。
あれ?
「そこの私は無害ですよーという顔をしている超危険なお嬢さん、昨日は何処に行っていたんですか?」
って、あれ? なんで?
顔を見たとたんに奥の店に連行された私はくどくどとお説教をくらったんですが?
まっすぐ宿に帰るって言ってましたよね?
約束しましたよね?
でもさ、でもさ? 虹、私だけ見ていないの不公平じゃない?
そしてカイルさんはため息をついた後、説明してくれたのでした。
曰く、中央広場の異変にいち早く気づいた教会の人たちが、素早く何があったのかを調査して、そして昨日一日、広場に来た人間を全員記録していたのだと。そして今日も記録しているらしい。
えっ? 記録?
「あなたの隠密の結界は、見ようと思えば見えるんですよ。意識しなければ気づかないというもので、人がいるな、どんな人だろう、と思ったら見えちゃうんですよ。自覚してますよね? なので教会がリストアップした、広場に居た人リストにばっちり入っていたんですよ! 何やってるんですか。そしてこの街の人間ではないので身元不明の人間として重要人物リストにも入っていたんですよ」
がーん。まじか。私のあの小芝居の意味どこいった。
「もともとこの街は旧首都、そして魔術師の集まりやすい土地ということで、教会の監視が厳しいんです。身元不明の人間で、しかも異変のあった時に黒髪をなびかせて棒立ちしていた不審者もとい『再来』らしき人と同じ年頃の女ときたら、調査が入るのは当たり前でしょう。あのまま放っておいたらあなた、今宿からここに来る間に捕まっていましたよ」
ひぃーー。教会怖い! 執念深いの反対!
今更ながら青くなる私を冷たい目で見たカイルさんは、そして付け足した。
「朝教会で私が気づいて良かったですね? しょうがないので、広場でのんきに買い食いしていた女は、私の遠い街にいる友人の妹で、観光に来ている遠い街のシエルさんだと説明しておきました。不本意ながら私がこの街での身元保証人です。お願いだから大人しくしておいてください」
はいー! すみませんでした! お世話になりました! ありがとうございます!
「ついでに『再来』らしき人がやらかした時も私と一緒にいて、『再来』を見たはずなんだけど、相変わらず買い食いしていたのでそっちは見ていなかったみたいだとも言っておきました。いいですか? あなたはあの時私と一緒にいて、おやつを買い食いしていた。だから私がびっくりしていたのも他の人がいたのも気づかなかった。そして、その時に食べた味が忘れられなくて、また一人で引き返してもう一度食べに行った。 い い で す ね ?」
はい……完璧です……ありがとうございます……私は食い意地のはった呑気でまぬけな人間です……その通りです、はい。
「さて、ではシエルさん、せっかく遠いところから私を訪ねて来てくれたのに、呼んでくれたお礼に今日はお手伝いで店番をしてくださるという話、ありがたくお願いしようと思うんですよ? 私の店の売り上げに貢献してくださるとは良い心がけです。いやあ、助かります。あなたが店のお手伝いをしてくれていたら、教会の連中も私の知り合いだと納得してくれますし、あなたも嬉しいですよねえ? となるとお店からもう今日は出ないですよね!?」
はい……よろこんでー。