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アトラの虹

 さて、ツヤツヤのハニーブラウンの髪と、青い瞳を手に入れた私は、久しぶりに晴れやなか気分で街に繰り出した。

 ああ……自由って素晴らしい!


 うっかり髪留めが外れても、私がかけた魔術の茶色の髪がこんにちはなので、私はどこからどう見ても自分の茶髪と黒い目が嫌だから魔道具で綺麗になろうとしている街の小娘ですよ。しかも隠密の結界も健在です。


 完璧です!

 いやあ、我ながら良い完成度ですね!


 私の喜びようと、カイロスさんの連れということで、カイルさんが観光案内してくれるそうです。

 教会のお仕事は大丈夫なのかしら?



「この街は前の王朝の、アトラという国の名だった時の首都になるんですよ。だから街の名前がアトラスなんです。そのためこの街にはこっそりとアトラ時代の魔術が残っています」

「それが昨日お前が見せてくれたあのキラキラした浮いてるボールだな、きっと」


 ええ、こんな危険な会話、もちろんカイルさんともチャンネル開通させて話してます。

 カイロスさんがカイルさんにオススメしちゃったっていうのもあるけど。


「なるほど、あなたにはそう見えるんですね。あなたの見立て通り、その魔術でこの地に発生している魔力を、街全体に広げています。元々は時の王である『月の王』がかけた魔術で、それを代々の聖魔術師である私の一族が保守のために定期的に補強の魔術をかけて維持しています」


 へえー、「月の王」の時代はアトラという名前の国だったんだ。今はトゥールカだよね? で、聖魔術師は世襲とな。


「代々子供たちの中で、一番魔力の強い者が後を継ぎます。一族の魔力を出来るだけ弱らせないために。大抵の魔術師の家系はアトラの時代から同じように継承するんですよ。カイロスの家も一緒です」

「まあ、オレは一人っ子だからな、競争はねえよ?」

「ただ、一番強い魔力を持った王がいなくなってしまってからは、どんなに努力しても少しずつ弱ってきている一族がほとんどなんですよね」


 なるほど。で、奥さんの魔力が重要になるんだね。一族の魔力を維持しようとしているのか。カイロスさんが必死なのはそのせいなのか。


「聖魔術師ってえのは、昔の神官なんだよ。王様を支える側近の宗教担当。だから結婚式も執り行うんだ」

「まあ、今はやりませんけどね?」

「でも、出来るんだろ? じゃ」


「今は教会があるもんね! そっちでヤレバいいよねえ~!」


 ダメよ~ダメダメ! それ以上この会話を続けたら、きっとまたおっさんが面倒くさいことを言い出すよ!

 ハイ終わり~。


 きっとその時代のものなんて、他には何にも残っていないんだろうな。魔術師の一族なんて初めて聞いたよ。きっとひっそりと生き延びているんだろう。王朝が変わるということは、きっとそういう事なんだろうね。


 私は街のど真ん中の上空に泰然と浮かぶ、クリスタルボールの真下に来た。ちょっとした広場になっている。その真ん中に立って見上げてみた。結構大きいよ? 一体どれだけの魔力が詰め込まれているんだろうねえ?


「おや? 魔力が込められているのを感じますか? でしたら、ぜひあなたの魔力も入れてみませんか? もう何百年も維持はしているのですが少しずつ弱って来ているのです。私の魔力だけでは十分ではないのかもしれません。かといって他に出来る人もなかなかいなくて」


 と、カイルさんが寂しそうに言った。

 へえ……この綺麗なボールが無くなっちゃうのは嫌だねえ。地下からのエネルギーに包まれて、キラキラ幸せな光景なのに。


 私なんかで良ければ、ちょっとお手伝いできる?

 どうせまた二人にはどうのこうの後から言われそうではあるけれど。でも、私はこの過去の遺物は出来るだけ残っていて欲しいと思ったから。アトラの記憶として。


 ボールの真下で目を瞑る。

 真上のボールを感じてから、その中心に私の魔力を流し入れてみる。おお……スルスル入るよ? まるで歓迎されているかのように吸い込まれていく。へえー、どこまで入るのかな……スルスル……スルスル……なんかもう、もどかしくない? もっとドバドバいっちゃってもいいよね?


 はーいドバドバーどんどん入れちゃえ~! いぇーい! どーん!


 そんなことをしていたら、程なくクリスタルボールから『おなかいっぱい』な感じを感じたので、やめた。


 目を開けて見上げると、それはそれは沢山のキラキラを撒き散らしながらグルングルン回るクリスタルボールがいた。おお、なんかとっても元気になったね!


 嬉しくなって振り返ると。


 ガックリとうなだれているカイルさんと、カイルさんを慰めるように肩をぽんぽんしながら笑いをこらえているおっさんがいた。


 ねえ? 褒めてくれてもいいのよ? 私頑張ったよ?


 と、私を見て、すぐにおっさんがやって来て、こっそり言った。

「髪留め落ちたぞ。後で着けろ。お前、魔力を大量に使うと髪の毛が暴れるのな? で、髪が元の黒に戻ってるからな。今は黒髪のままでいて、人目が無くなったら髪留めつけろ。でないと偽装がバレるぞ。」


 おおっとー了解。風が吹くレベルで魔力を使ってしまったのか。集中していると気づかないんだよね……。ヤバい、白昼堂々だよ。髪が銀までいかなくて良かった。黒のままで。でも結界は解けたのか。


「一回店に戻ろう。カイルも落ち込んでるしな?」


 ふと見るとカイルさんがしょんぼりして明らかに元気が無かった。あらー?



「……300年、一族全ての魔力を注いできたんですよ? それで足りなかったのに、一瞬ですか。バケモノですか、あなたは……」

 奥の店に戻って椅子に座ると、カイルさんは机に突っ伏してブツブツ言っている。


 ええ? でも私はちょっと足りなかった分を埋めただけでしょ? 今までカイルさんたちが入れていた分が大半なんだろうから、そんなに落ち込むことはないんじゃない? 私なんてちょっとよ、たぶん。


「……カイロスが、何も知らないから他人事といった意味がわかりました。なるほど、こういう事なんですね?」

「そうそう、そういうこと。わかったろ? もうオレは驚き慣れたからな? で、見るとやっぱり嫁にほしくなるだろ?」

「なるほど。シエルさん、もしフリーになることがあったら私もお相手の候補に入れてくださいね」


 落ち込みながら何血迷っているんだ……。

 だから入れないって。

 ねえ、私も一人の人間なのよ? 気持ちってものがね? あるのよ。魔力を持った人形ではないの。

 私は今のところ「だんなさま」が一番好きなのよ。そして多分これからも。わかって?


「まあ、さすがというところだな。オレも伝説の「アトラの虹」をこの目で見れるとは思わなかったぜ。綺麗だったな」


 虹?


「『月の王』がいた時代は、王が常に魔力を補充されていたので、あの広場にはつねに魔力の虹がかかっていたという伝説があるんです。魔術師なら見える魔力の虹。ただ王が死んでからは虹は見れなくなったので、今生きている人間で見たことがある人はいなかったんですよ」


「「今までは」」


 え? そうなの? いいなあ私も見たかったな、その虹……。虹ってことは七色なのよね? どこだったんだろう。あのボールのまわり?


「カイル、お前、こいつ殴ってもいいぞ。あ、そういえばこいつの旦那の『だれもさわれない』魔術があるんだった。じゃああっかんべーでもしとけ。ストレスを溜めるのはよくないからな」


 え、ひどい……。


「……どうせ数年は虹は消えませんよ、あの勢いなら。いつでも見に行ってください。ただし騒ぎが落ち着いたらね。そして、たまにはまたここに来て魔力を補充してくださいよ。私も楽できて万々歳です」

 カイルさん、言っていることとそのジト目、合っていない気がするよ……?

 喜ばれているのか迷惑がられているのか自信がなくなってきたよー……。


「あの虹、すぐに話題になりますよ、魔術師の間で。黒髪の『再来』がやったって。誰も見ていなかったとは思えませんからね。良かったですね、早々と髪飾りが落ちて。何しろ凄い勢いでしたからね? 魔力の風が。なるほど『セシルの再来』が騒がれる意味がわかりました。あなた、その様子だと、きっと井戸の他にもいろいろやってますね?」


 えー? ナンノコトカナー? ワカラナイナー?


 おっさん、こっち見ない!

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